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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生23巻7号

1959年07月発行

雑誌目次

特集 乳肉衛生

「乳肉衛生」によせて

著者: 恩田博

ページ範囲:P.409 - P.409

 公衆衛生部門の中で乳肉衛生の占める分野は大きい。これは国民生活の向上に伴ない増大するものであるが,特に最近わが国においてこの比重が増大して来たことは注目すべきことである。
 乳肉衛生とは動物が人類に完全に奉仕することを援助することである。畜力利用や動物間相互の疾病の場合を除いても,人類の生活,即ち衣食住には動物に依存するものが多い。衣類としては羊毛及び皮革類があり,薬品,食品としては,乳,肉,卵及び内臓等があり,住には建物こそないが日常の生活必需品として靴,鞄等の革類を始め肥料,油脂等があり,何れも人類の生活に最も手近で且つ重宝なるものとして利用されている。反面好ましくない点としては心ない人々による家畜の飼育が人類の生活に迷惑を与えることもある。

搾乳衛生

著者: 伊藤元彦

ページ範囲:P.410 - P.414

 乳幼児が母親の乳房から直接乳を飲むように我々が清潔で健康な乳牛の乳房から直接牛乳を飲むことができたら,最も清潔で美味しく,最も安全である訳であるが,実際はそうはゆかない,牛乳は搾られてから各家庭に配達されるまでに,相当長い時間と取扱い上複雑な過程を必要とする。この間に非常に沢山の人手をかり,又非常に沢山の機械,器具類に接触する以上,細菌によつて汚染される機会が非常に多い訳である。
 この細菌中には病原菌と,非病原菌による汚染があり,いわば四六時中細菌の挑戦を受けている訳である。そこで,これらの細菌の汚染を防止して,牛乳の安全性を確保するために,搾乳衛生の重要性が叫ばれているのである。

東京都の乳質改善対策の1例

著者: 北浦弥太郎

ページ範囲:P.417 - P.421

 わが国における牛乳事情は,欧米に比べるとすでにその起源において大きな開きがある。古来米麦を中心とした食生活の伝統と,四ツ足禁制の仏教的タブーにはばまれてきたため,牛乳や食肉が漸く食膳に供されるようになつてから未だ半世紀余りしか経つていない。その生いたちもまた当初は薬餌的要求に応えての生産であつて,欧米のように古くから消費者自らが牛を飼つて,自らこれを食したのとは甚だその趣を異にしている。したがつて,その歴史も極めて浅いわが国の牛乳界は,生産,処理,販売および消費にわたつて,いずれも牛乳そのものの本質的認識に乏しいため,ともすると乳質を悪化させる結果となつている。
 牛乳は今さらいうまでもなく,すべての必要栄養素を完備した最も優れた食品であるが,それだけに細菌類にとつてもまた最良の培養基となつて盛んに増殖する。低温度(少くとも10℃以下)に保持することが,細菌増殖を防ぐ唯一の手段であるが,未だ充分この知識すらない取扱者がいる。

乳,肉,魚介食品による食中毒

著者: 嶋田幸治

ページ範囲:P.422 - P.428

I.まえがき
 近年わが国の食品衛生に関する一般の認識は向上し,衛生行政の機構も一段と整備されているにもかかわらず食中毒は依然各地に発生し,時には多数の患者や死亡者を出している現況である。これら食中毒の原因食品は多種多様であるが,中でも動物性食品が最も多く容疑者に挙げられていることは周知の通りである。すなわち,これらの供給源たる動物には自然に毒物を保有するものあり,またあるものは生前からサルモネラ属,ブドウ球菌その他いわゆる人の中毒原因菌などとに関係の深いものあり,これらは不完全な処理の下では容易に食品に移行することが考えられる。その上食品製造の過程においてもこれに関与する人,器具,機械または環境などにより有害細菌に汚染しやすく,さらに,これらの食品がいずれも細菌類の好適培地としての条件に恵まれていることなどを思い合わせるとむしろ当然といえる。筆者は日常,食品衛生法に基き,市販動物性食品の衛生検査に従事しているのでその成績も加え,主に厚生省の統計から乳,肉,魚介並びにそれらの加工品を介して全国的に発生した食中毒の状況や,これに関連した事項を中心に述べて見たい。

人畜共通伝染病

著者: 松井武夫

ページ範囲:P.429 - P.435

I.まえがき
 人畜共通伝染病(Zoonoses)という言葉はその語源はギリシヤ語のAnthoropo-Zoonoses(diseases transmitted from animals toman)及びZoo-anthoroponoses(diseasestransmitted from man to animals)にあるといわれている。近年とみに関係者の間で通用せられるようになつた言葉である。そしてこのことは公衆衛生上重要であることは,WHO,FAO共同主催による専門家委員会が1950,1958年の2回に亘つて開催せられ,討議せられていることでも判る。
 人畜共通伝染病というと,単に動物から人に感染する疾患だけにとられ勝であるが,その逆に人から動物にくるもの,人,動物,共に同一病原に感染はするもののその連鎖関係が不明なものまたはその自然感染が直接にはないものなども含まれる。前述の2回の専門家委員会においては,第1回には「diseases which are naturally transmitted between vertebrate animals andman」と定義付けられ,第2回にはこれを少し修正して「Those diseases and infectionswhich are……」となつている。

W. H. O. 西太平洋地域獸医公衆衛生ゼミナール

著者: 神林三男

ページ範囲:P.436 - P.438

 W. H. O. はWorld Health Organization(世界保健機関)の略で,スイス国ジュネーブにその本部を置き,その各地域及び事務局は,ヨーロツパ地域(コペンハーゲン),アフリカ地域(ブラザービル),東南アジア地域(ニユーデリー),西太平洋地域(マニラ),南北アメリカ地域(ワシントン)となつていることは,既に,御存知のことと思う。
 この中,日本の属する西太平洋地域は,オーストラリヤ,ニユージーランド,台湾,韓国,フイリツピン,ベトナム,カンボジア,ラオス,マラヤの外に,ボルネオ,サラツク,フイージー諸島もこの地域に属し,全部で15加盟国から成り立つている。

綜説

英国における大気汚染問題(その2)

著者: 坂部弘之

ページ範囲:P.439 - P.451

VII.煤煙防止対策のための技術的問題
1.工場からの煤煙について
 この問題についてBeaver Committeeは次の如く指摘している。"……いかなる工場の煙突といえども,それが若し,適切な燃焼装置を備え且つ正しく操作されるならば,普通には薄い煙(Light haze of Smoke)以上のものを放出する必要はない……"。
 "補修,維持管理,不断の監視,最善をつくすように火夫を督励することは,燃料の経済的使用のためと同様に煤煙防止のために極めて重要である……。ボイラーの過重負担は煤煙発生の言いわけにはならない。石炭に原因の帰せられる場合もあるが,石炭の品質自身が過剰の煤煙の原因であることは滅多にないのである。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・3

環境衛生(2)—上下水・汚物処理

著者: 三浦運一

ページ範囲:P.453 - P.456

 講義時間は上水と下水及び汚物処理各7時間,合計14時間で,講義にはプリントを用いる(1頁約1,000字詰,15頁)。これには講義の要目と重要事項の要点,必要な数字,数式,化学式,統計図表,その他筆記が面倒な事柄は書いてあるが,精しい説明は書いてない。従つて講義を聞かなければプリントだけでは判らない。この程度のプリントを用いると学生の出席も悪くなく,教える方も楽で時間の割合に講義が進み,学生も筆記の労が少なく,聞きながら講義をよく理解する。
 講義には出来るだけ実例を多くあげて話す様にしている。

原著

眼底所見を主とする高血圧集団検診方式の研究—(第3報)集団検診における各種検査法の検討(その2)

著者: 新井宏朋

ページ範囲:P.457 - P.459

I.緒論
 著者は先に高血圧(血管硬化)集団検診に於いてスクリーニングテストとしてひろく使用されている血圧測定,尿蛋白検査が眼底に異常所見のある者をいかに発見しうるか検討した1)2)。本報では主として最近各所で使用されている心電計による検査について,心電図異常者と眼底異常者の関係を検討する。

高血圧の統計学的観察(第2報)—中学生の血圧について(その1)

著者: 古川三雄

ページ範囲:P.460 - P.463

I.はしがき
 近藤1)および中沢2)は青少年における高血圧の発生は遺伝素質と密接な関係があると述べており丘3)も家系における遺伝の濃さが若年性高血圧の発生頻度に関係があるといつているが,果して,若年者の高血圧は,遺伝的要素のみによつて決定づけられるであろうか。身体的要素ならびに生活環境はどの程度影響するであろうか。
 わたくしは,このたび,高血圧者の発生頻度の比較的高いと思われる東北の一農山村において,中学生207名(うち男96名,女111名)の血圧を測定し,身長,体重,比体重および1分間の脈搏数との関係を追及したので報告する。なお,遺伝と生活環境が血圧に及ぼす影響については,第3報において報告する予定である。

文献

米国における災害統計,他

著者: 西川

ページ範囲:P.435 - P.435

 わが国の不慮の事故による死亡率が10大死因に数えられるようになつたのは,つい最近のことであるが,米国では既にこの死因の克服に公衆衛生の主力を向ける態勢になつている。米国では1958年に,1日以上の休業を要するか又は医療を受けた傷害が4700万人に及んでいる。このうち男子が2700万人で,女子が2000万人の割合になつている。労働能力を一時的にでも喪失した傷害は59%あり,医療を受けた傷害者は81%あつた。労働できず,しかも医療を受けたものが40%もあつた。この中には一日以上就業できないほどの傷害を受けた労働者が16%をしめている。災害の約10%は自動車によるもので,17%が作業中の事故によるもの,41%が家庭における災害であつた。性年齢別階級別で最も高い災害率を示したのは男子の15〜24歳で,1000人当り482人であつた。女子で最高率を示したのは65歳以上の年齢層で,1000人当り319人である。平均して1日に116万人が災害かまたはその影響によつて活動能力を失つていることになつた。これらの人達の中で312,000人が就床を余儀なくされており,労働損失延日数は1億600万日,学校の延欠席日数は1300万日になつている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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