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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生23巻8号

1959年08月発行

雑誌目次

綜説

Windscale第1号炉の事故について—特にその環境汚染について

著者: 宮永一郎

ページ範囲:P.465 - P.470

I.まえがき
 Windscaleの原子炉の事故について,「公衆衛生」の立場から書くようにという編集者からの依頼であつたが,筆者は公衆衛生学については全くの素人であるので,事故の資料を提供して,読者の参考にしたい。ただその場合,紙面の都合もあり,事故の原因や従業員に対して取られた放射線防護の手段とか,健康管理のための措置などよりも,主として,一般大衆に関係した環境汚染について述べる方がより適当であると考えたので,独断で副題をみられるように選んだ。
 一般に大きな原子力施設では,その規模に応じて,構内の相当広い範囲までの環境汚染を常時管理している。日本原子力研究所でも,野外管理という部門が保健物理部放射線管理室内にあつて,絶えず環境のbackgroundの測定を行なつている。

日本における放射性降下物の現状

著者: 大田正次

ページ範囲:P.471 - P.477

I.まえがき
 1954年3月にビキニで強力な水爆の実験が行なわれ付近を航行中の福竜丸が放射性降下物により被災したが,5月にはビキニから遠く離れた日本の各地で放射能雨が見出されている。当時京都では雨水1リツトル中に8万カウントの放射能が見出されたと新聞に出たため,京都行の旅行を止めた方がよいかどうかという問合せがあつたりした程であつた。雨水の中に天然の放射能が含まれていることは前からわかつていたが人工的な放射能が含まれるなどということは夢想だにされなかつたのであつた。そこえ1リツトル当り数万カウントというようなちやんと測定にかかる程度の人工放射能が現われたのであるからやはり一大事であつたわけである。当時日本学術会議の放射能影響調査特別委員会は今後の事態をも考え日本の各地で人工放射能の常時観測を行なうことを勧告し,以来測定の方法にはいろいろ改良が加えられたが今日まで放射能の常時測定が引き続いて行なわれて来た。
 一方原水爆の実験の経過を見ると1954年3月のビキニに於ける水爆実験を契機としてアメリカは毎年ネバタまたはビキニ付近で実験を行なうようになり,その規模も年々増大した。またソ連は1955年秋にシベリヤ地区で水爆の実験を開始して以来加速的に実験回数を増加させた。更にイギリスも1957年以降クリスマス島で水爆の実験を開始した。このように実験の場所が増え,実験の回数もますにつれて放射性降下物の量や性質も段々変わつてきた。

成人病対策における目標とそのエネルギー面に関する考察

著者: 佐藤徳郎

ページ範囲:P.478 - P.484

 一つの事業を志す場合には何によらず自己のエネルギーを計算しておかなければ有効な仕事ができない。またその方法や目標がはつきりしていないと効率が悪くなる。しかし日夜多忙な日時を送つている場合にはそれを省みる余裕すらなく自己の姿を見失い易い。
 私共が保健所に働く人々に接する機会に恵れ,彼等の注文を聞き,訴えを聞く度に思うことは保健所の現段階においてその機能が充分発揮できているとは受けとり難い場合の多いことである。保健所活動の中心である医師達の日常業務を予防接種,母子相談,結核集団検診,成人病相談等に大きく区分し,それに投入する労働力を計算し,それが有効に利用されているか否かを検討するとき,如何に保健所の仕事が過重りであ,ある場合には有効性が疑問視されなければならぬのに気がつく。例えば結核の場合には保健所の人員が充足しても住民の約10〜20%しかカバーできないという計算がでている1)。その受診率を向上させるためには他の業務の犠牲が生ずる。現在の結核検診の受診率を支えているのは小中学校の児童,生徒でその結核予防に対する有効性は疑問視されている場合が多い。

第76回疫学研究会より

不顕性感染の疫学的意義について—ウイルス感染症

著者: 川喜田愛郎 ,   染谷四郎 ,   平山雄 ,   甲野礼作 ,   草野信男 ,   下条寛人 ,   野辺地慶三 ,   内田三千太郎 ,   宮入正人 ,   松本稔 ,   牛場大蔵 ,   高部益男

ページ範囲:P.485 - P.506

 座長 私この問題について実は前から関心をもつておりますけれども,近頃特にそれについて勉強しているわけでもございませんし,あまり適任ではないかとも存じますが,さいわいに甲野博士はじめ,その方面に造詣の深い方々のお話があるように承つておりますので,座長をつとめさせていただきたいと思います。
 実は今日どういう内容のお話があるのか具体的には存じませんので,お話し合いの進め方に迷つたのですが,昨日野辺地先生にある席でお目にかかつた際,その御意嚮をうかがいましたところ,出たとこ勝負でやれというようなお話でございましたので,格別何も準備もして参りませんでした。どういうことになるかわかりませんが,不出来の点はお許し願いたいと思います。それでは……。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・4

医学生に対する疫学及び疾病予防の教育

著者: 金光正次

ページ範囲:P.507 - P.509

 どの学問でも同じ様にいえる事と思うが,医学生に疫学を講義するに当つて私は常にこの学問が医学の中に占める位置と,その役割の意義を理解させる事に努めている。これを特に強調する理由は,現在の医学界には疫学が依然として疾病の発生消長を現象論的に研究する学問にすぎないという古い思想が未だに残つており,これを拭い去るには学生の時に新しい疫学の概念を植えつける事が最も有効と考えるからである。私は冒頭から疫学をMedical ecologyと定義して教えている。従つて講義は生態学総論から始むべきであるが,時間の関係もあるのでその中特に生態学的な物の見方と考え方を理解させる事を重点にして話す。これにはOdum:生態学の基礎(朝倉書店),八木,野村:生態学概説(養賢堂),沼田:生態学方法論(古今書院)等が参考になる。ただしこれらの本の内容は殆んどが動植物を対象にしたものであるから,それを医学の問題におき代えて説明しないと学生は退屈する。こうすると疫学で重視される集団現象は群生態学の現象となり,また個人の医学的現象は現在では疫学よりもむしろ社会医学の面で取扱われているが,これは個生態学の問題にまとめられる。従つて疫学の3大要因即ち病因,宿主,環境はそのまま生態学的要因となり所謂疫学現象は各要因で構成された生態系の動的平衡状態即ち生態遷移と理解させる。

原著

蓄電池工場の発生鉛塵の粒径に関する調査研究

著者: 近藤東郎 ,   祝成之助 ,   酒向睦 ,   田中大八郎

ページ範囲:P.511 - P.514

 工業中毒に関する吾が教室の研究は既に20年を越えんとしている。研究の全般を通じて多くの基礎研究が行われたが,調査研究は主として後半の10年に為された。これらの業績を綜合して今日吾々はすぐれた診断基準を持つており,相当の確信のもとに種々の中毒症を集団検診し,予防治療しうる。
 工業中毒の1つとして,鉛中毒が種々の作業で発生する。原島等は先に吾が国の蓄電池工場が印刷工場に比して,本症の発生頻度の高いことを明かにした1)。さらに原島等は長期に亘る調査研究から,職業性鉛中毒の発生推移が病因,生体因子より環境特に社会環境に大きく影響されることを認めた2)。これは疾患の発生要因を病因,生体,環境の3因子に区分する疫学的考察を職業病に於いて一歩進めたものと云える。

K鉱業所における赤痢の実態とその対策について

著者: 刈屋裕 ,   山形達雄

ページ範囲:P.515 - P.518

I.緒言
 わが国の赤痢はあらゆる防疫対策を尻り目に次次と新たな患者の散発と集団発生を繰返し未だ制圧出来ない厄介な伝染病である。われわれの鉱業所に於ても昭和28年夏に赤痢の集団発生が起り患者61名保菌者31名を出した苦い経験がある。しかしこの発生が契機となり赤痢に対する関心が高まり従来実施していた公報活動,衛生施設の増強及び社宅の環境衛生の改善等が一層促進せられ,その結果昭和30年には早くも蠅と蚊のいない地区となり,厚生大臣より表彰を受けるに至つた。しかしこのように環境衛生は著しく良くなつたにも拘らず毎年実施している家族を含めた全員検便の結果はその都度多かれ少なかれ保菌者が検出されていて未だその跡を絶たない状況である。このように保菌者の検出されるのは新感染の起つている証拠であり,その原因を追求するためにわれわれはまず診療所を訪れる下痢を主訴とする患者につぎ赤痢菌の検索を行なうと共に,陽性者にはその感染経路を調査し,それに基いて当所に於ける防疫対策を如何にすべきかについて若干の考察を試みたので茲に報告し皆様の御批判と御指導を仰ぎ度いと思う。

肺吸虫症流行地における学校集団検診成績について

著者: 下野修 ,   波多野精美 ,   森文弥 ,   赤松松鶴 ,   山本好孝 ,   新野幸夫

ページ範囲:P.519 - P.521

I.緒言
 肺吸虫症流行地における同症の疫学的調査については,従来より数多くの報告がなされている。そのうちには横川1)2),三宅3),尾池4),百瀬5)山口6)などの報告および,職場集団検診時肺吸虫症の検診を併せ行つた北本7)の報告がある。しかしながら,学校集団検診にさいして,肺吸虫症の検診を系統的に併せ行つた報告はまれである。著者等は昭和32年4月および5月の両月に,肺吸虫症流行地と考えられる愛媛県南宇和郡御荘町附近の小,中,高等学校の学童生徒について,従来の集団検診と平行して,肺吸虫症の精密検査を併せ行い興味ある成績を得た。

琉球宮古島における寄生線虫類の調査

著者: 田中寛 ,   熊田信夫 ,   福嶺紀仁 ,   川満彦一 ,   徳嶺久光 ,   伊集朝成

ページ範囲:P.523 - P.527

I.はしがき
 寄生虫疾患は農村の各地で重要な問題であるが,特に温暖な九州以南の諸島では他の地区と比較にならぬ程広く浸淫し,住民の健康に大きな影響を与えている。奄美大島に於ける田中,佐藤ら福島,佐々らの調査,沖繩本島南部に於ける佐藤ら,佐々らの調査によつて,これらの地域は鈎虫や糸状虫フイラリアが著るしく高度に浸淫していることが知られただけでなく,他の地区では殆どみられない糞線虫が多数の者に寄生していることが知られている。
 本報は沖繩本島の南西の離島宮古島に於ける糞便よりの寄生線虫類の検査成績と糸状虫の調査成績であるが,特に鈎虫,糞線虫に対し検出能率のよい試験管濾紙培養法を併用して精密に検査を行つた。又糸状虫に対しては夜間採血によりミクロフイラリアの保有状況を調査した。本研究では調査結果より地域差,年令分布を検討したが,実際に本地区の駆虫対策,予防対策を行うに当り.幾多の指標を提供する資料を得た。特に鈎虫,糸状虫の高度の浸淫に対しては他地域で行われている普通の対策以外に強力な別途の方法の必要性を感ずる。

文献

産院におけるタイプ80のブドウ球菌に因る流行/官庁勤務者における疾病による労働不能の頻度

著者: 西川

ページ範囲:P.470 - P.470

 わが国の出生率は戦後のbabyboomを過ぎると急激に減少の一途をたどつたが,少なく産んで大きく育てようという国民一般の風潮を反映して,産院・病院・診療所等の施設内で分娩するものが増えている。全出生を100.0とすると,昭和22年には2.4%が施設内分娩であつたが,10年後の昭和31年には22.7%と約10倍に増加している。出産そのものについては施設内分娩を奨励するが,もし新生児疾患の流行が起れば,自宅におけるよりも施設の方が大事に至ることが多いはずである。ここに紹介するのはグラスゴーの王立産院におけるブドウ球菌による流行例である。
 元来,産院においてブドウ球菌による流行が起つた例は相当報告されている。しかし,この報告は,1955年にオーストラリアで第1例があり,英・米では1957年にはじめて発見されたフアージタイプ80のブドウ球菌に因る流行で,流行発生前5ヵ月間もフアージによる型分類を続けていて,流行が突然ぼつ発したもので,流行のまん延状況を退院後の母子にまで手を延ばして調べ上げ,そして病院の一時閉鎖によつて流行を一挙に終そくせしめたという点で特筆すべきものである。タイプ80のブドウ球菌による流行は1957年11月19日に1人の新生児の下顎部膿瘍から分離されたが,その後の8週間に14例が感染し,その中9例は重症におちいり,その5例が死亡した。罹患率は8%であつたが致命率は35.7%ということになる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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