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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生24巻3号

1960年03月発行

雑誌目次

綜説

市民の保健に及ぼす大気汚染の影響について

著者: 野瀬善勝

ページ範囲:P.129 - P.136

I.緒言
 最近8ヵ年間(1950〜1957)に於ける宇部全市の平均降下煤塵量は48トン/km2/月であつて,我国では最大量である。又成分的に見れば,不溶解性物質が断然多く(59%),その大半が灰分(80%),であることが主な特性である。他面,地域差が甚しいことも亦特性の一つである。
 その主な原因は a)市内主要事業場で灰分が多く(40%),発熱量が3,000〜5,000Calに過ぎない品質の悪い石炭が毎月7〜8万トン微粉炭燃焼法で発電に利用されていること。b)工場の位置が年間の主な風向に対して適当でないこと。c)発電所の集塵装置(コットレル,サイクロン)が完備していないものが少なくないことに起因している。

大気汚染の人体に及ぼす影響とその研究方法

著者: 鈴木武夫

ページ範囲:P.137 - P.144

I.はしがき
 大気汚染の問題が都市衛生の発展として,我国で一般に広く公衆衛生の部門に取上げられてから数年を経過し,各地方自治団体において調査,研究が進められる傾向が現われ,国における大気汚染対策の必要性が世論として強く主張される様になつてきた。この時にあたり,公衆衛生的対策樹立の必要性を認めつつ,その大気汚染予防方法の実践を効果的に遂行するのをさまたげている一つの理由として,大気汚染の公衆への影響,特に健康──人体への影響についての知識が不充分な事があげられている。又大気汚染対策の遷延のための理由づけの方便として影響,殊に人体の影響の成績不足が利用されている.公害という言葉が英法におけるPublic Nuisanceの事をさすとすれば,この様に健康への害の有無によつて対策の必要性の程度が決定されるという事は遺憾なことであるけれども,現実にはNuisanceという概念が未だ存在していない我国では大気汚染の人体に及ぼす影響,殊に疾病の有無は行政的対策の推進の程度を決定しているといつてよい。
 1273年にすでにLondonでの石炭使用の禁止の法律を通過せしめた英国では1661年にJohnEvelyn1)によつて最初の大気汚染の害を述べた"Fumifugium or the Smoake of LondonDissipated"が発表されたという。

報告

日本の大気汚染の現状

ページ範囲:P.145 - P.151

 日本の大気汚染の研究,調査そして行政は最近数年間の内に急激な発展をとげたといつて良い。
 その内容については勿論満足すべきものでないにしても,戦前,大阪市を中心として庄司博士が研究,調査を行ない,その他の都市で散発的研究,調査が行なわれていた当時にくらべれば,第二次大戦後,殆んど無から始められた大気汚染の分野の研究の進歩はこれを認めなければならないであろう。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・11

医科大学における社会保障に関する教育

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.152 - P.155

I.衛生学公衆衛生学教程において社会保障に関する教育の目標について
 社会保障に関する認識は今日では常識に属しており,普通教育の課程においてもすでにかなりおこなわれていると解せられるから,医科大学においてこれに関する教育は,それにふさわしい目標と内容をもつ必要があることはいうまでもない。しかし実際におこなわれている教育内容にはかなりちがいがあるようにみうけられ,また最近医学生のこの方面に関する関心がかなりたかまつていることをおもえば,ここで一考する価値があると考えられる。
 まずこの課題に関する教育の必要性が,健康保険あるいは医療扶助制度の拡大により,医師の職業的実践の大部分がそれらの制度のもとでおこなわれるため,医学生にこれらの制度に関する知識を備えさせるという立場から,問題にされているとすれば,その教育内容はおそらく現行の健康保険法,生活保護法,その他の医療扶助制度に関する紹介を目標にせられるだろう。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・12

衛生統計

著者: 丸山博

ページ範囲:P.156 - P.161

はしがき
 大阪大学衛生学講座を担当して日浅く,未熟な試行実験の段階にある私には,充分な資料をととのえて,本学における衛生学・公衆衛生学教育の中での衛生統計教育の進め方を報告できないが,これまで20年近く,大学以外で私が独自の考えによる衛生統計教育をしてきた経験を医学生に対して活用してみたいとの希望もあり,読者諸兄の批判を仰ぐことは,問題を発展させる上に有意義なことと考えたので,斯学の教育経験の深い先輩諸教授がおられるにもかかわらず,御教示を頂くためにもあえて執筆をおひきうけしたわけである。

「医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育」についてのアンケート

柳沢教授の「学校保健」を読んで

著者: 横堀栄 ,   北博正

ページ範囲:P.162 - P.163

 学校保健について柳沢教授の周到,細心な教育計画を読んで,これ以上つけ加える事項はありません。
 学校保健は公衆衛生の基礎であり,学校時代の教育が国民の衛生思想の向上に役立つことはいうまでもありません。そして学校保健法が昭和33年制定され,学校保健の重要な点はすべてこの法に記載されています。この法律はいかにも文部省のお役人のつくりそうな理想案でおかしい点が多いようです。柳沢教授も3,000万人の高,中小学校の保健を担当する文部省に医師が3名しかいないことをあげています。学校保健法では,各学校に学校医,歯科医,薬剤師をおくことになつていますが,必要な予算も出さず保健所の医師も不足というのに文部省はどういう気持なのでしようか。若い医師が希望をもつて学校保健に挺身できる配置が必要と思われます。医学をおさめて学校保健に教師として50年間をささげた竹村一先生のような方ばかりは望めないことでしよう。

原著

備後灘海域における屎尿の海洋投棄と海潮流の調査について

著者: 三浦大助

ページ範囲:P.165 - P.172

I.はじめに
 近年本邦都市の屎尿処理問題はその窮状甚しく,農村還元の減少によつて所謂余剰屎尿が増加したために,沿岸都市においては海洋投棄処分に依存するところが多くなつた。このような海洋投棄という屎尿の処分方法も,広い海のことであるから,少量であるうちは何ら問題はないが,その量が次第に増加してくると,殊に生き物のような海潮流を相手とするものであるので,各海域で風致美観上,衛生上,また漁業上の多くの問題も惹起されるようになり,補償問題になつたこともその例2,3に止まらない。それでも相当離れた外海に投棄するのならまだしも,湾内とか内海のようなところでの投棄処分は何かと問題をおこしやすく,投棄量も多く,被害問題の最も大きかつた東京湾と相模湾,および大阪湾の場合については,既に調査が行なわれ,その経緯や対策についても日本公衆衛生雑誌第5巻第7号や国民衛生第26巻第4号の中に詳しく紹介されている。そのほか伊勢湾や玄海灘の各海域においてもまたそれぞれ名古屋市立大学の六鹿教授や九州大学の木宮氏によつて影響調査が行なわれ報告されている。
 その後瀬戸内海沿岸都市においても海洋投棄が次第に増加の傾向にあり,この海域が国立公園としてだけではなく,特に広島湾から備後灘にかけては,食用貝藻類の養殖場として名高い海域であるだけに,今のうちに早急に検討しておく必要に迫られてきた。

寄生虫卵検査のためのKY塗抹液について

著者: 湯田和郎 ,   青木大輔

ページ範囲:P.173 - P.175

 寄生虫卵の検査に際しては,最近,集卵法特に浮遊法が重要視されるようになつてきたが,蛔虫卵の検出には,やはり直接塗抹法を行つた方がよい結果が得られている(湯田1957他)。その場合糞便を塗抹・溶解するために,水又はグリセリン水(厚生省1955)やセロファン・グリセリン塗抹法,即ち厚層塗抹法(板橋1958)などが用いられたり,グリセリン寒天液を用いたSM試薬(佐々,三浦1954)などの方法が考案されたりしているが,少人数で集団検便を処理する場合,水のように標本がすぐ乾燥してしまうものでは,標本を沢山つくつておいて,あとで鏡検するというわけにはいかない。このような目的のためには,SM試薬は非常に役立つが,市販のものは高価であり,自作するにも手数がかかり,又,使用に際しては加温溶解しなければならない。私のこのKY塗抹液はこれらの欠点を幾分か除くために作つたもので,ここに報告して御批判を乞いたいと考える。

食中毒集団発生時における情緒的問題

著者: 近喰秀大 ,   大村政男

ページ範囲:P.178 - P.179

 われわれは昭和31年以来,なん回かにわたつて疾病の発生時における情緒的問題をとりあげてきた1)。これらの研究は単に異常な環境下における人間像の探究だけにとどまらないで,疫学と心理学という2つのあい異なつた領域を結びつけようとする試みをも含んでいるのである。この小論稿もその研究の一環をなすものであつて,昭和33年の5月より6月にわたつて,防衛大学校(横須賀市小原台)に集団発生した食中毒事件を取り扱つたものである。
 近喰2)は第4回保安衛生学会大会のシンポジウムにおいて,この食中毒事件の様相について次のようなことを述べた。

文献

自動車排気ガスによる健康障害,他

著者: 鈴木

ページ範囲:P.136 - P.136

 自動車排気ガス中には,窒素(78〜85%),二酸化炭素(5〜15%),水蒸気(5〜15%),一酸化炭素(0.2〜12%),水素(0〜4%),酸素(0〜4%),炭水化物(0.01〜2%),窒素酸化物(0〜0.4%),アルデハイド類(0〜0.03%),鉛化合物(添加量により差がある),亜硫酸ガス(燃料中の硫黄の量により差がある)が含まれる。
 アメリカ諸都市の街路において,空気中のこれらの物質の濃度を測定した成績では,これまでの所,産業現場におけるこれら物質の恕限量には達していないことが多い。しかしその濃度は一酸化炭素を例にとつてみると,最高93.2ppmに達している地区もあり,発癌性を問題にされる炭水化物でも2ppmをこすこともある。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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