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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生24巻4号

1960年04月発行

雑誌目次

綜説

保健福祉地区組織活動—特に社会福祉からみて

著者: 重田信一

ページ範囲:P.181 - P.186

I.保健福祉地区組織活動とは何か
 これは育成協(保健福祉地区組織育成中央協議会の略)が昨年5月に発足されてから推進されている組織活動を指している。この活動は,国民が自主的に自らの健康で豊かな生活を築きあげるための組織活動をいうのであつて,まず1つの地域社会において,住民を主体とし保健と福祉の専門家が協力して,住民の健康と福祉を阻害している問題を発見し,対策をたて,自主的に実践活動を活用するか,あるいは社会資源を動員し,制度の改善を促進して全地域的に住民の生活上の便宜をたかめるか,また両者を併用するかによつて,問題の解決をはかる。
 このような組織活動を促進する前提として,その地域社会に,なんらかの地区組織活動がすでにあり相当活発に活動しているか,またはこれという組織活動がないか,によつて,この地域社会全体を対象とする組織活動の進め方が異つてくる。いずれにしても,まず第1は目標をよく理解することである。この育成協の目標は保健福祉の増進,即ち衛生でいえば治療,予防からさらに健康増進へと進んだ段階にある高次の目標である。健康とは福祉同様理解しにくいが,これを社会の発展との関連でみると,人間の社会的機能の保持発達がはかられている状態をいうので,福祉がよりたかい生活を享受することと表裏をなす。このような高次の目標を設定した動機は,国民皆保険の実施が間近いということも1つの原因である。

大都市における地区衛生組織について—本運動を阻むものの解明と対策への方向づけ

著者: 小林治一郎

ページ範囲:P.187 - P.195

I.はじめに
 いわゆる「蚊とハエのいない生活実践運動」として,本運動が全国的に展開されはじめてから,約5年の歳月が経過し,おびただしい数の人たちが,この運動に参加している。そしてこの運動を支える理論は,一つは生物学,薬学,環境衛生学などの自然科学的なものであり,他の一つは,社会集団を指導する社会科学的なものであるはずだ。前者については,薬剤,昆虫の生態などについて,かなりの業績が出されている。しかし,それにくらべて,後者,とくに都市に適用できる理論の形成ははなはだ遅れている。
 この運動は,はじめ,都市ではある程度進みえても,農村地帯では効果が期待できないであろう,というのが一般の考えであつたようだ。しかしこの予想は,まつたく逆になつた。農村方面では,最近いわゆる「中だるみ論」が唱えられているが,大都市では,本運動が紹介され,一応の広がりはみたが,いぜんとして最初からの「壁」がぬきえない。この運動の方式は,農村地帯で確立し,農村的な地域社会において,自主的な地区組織活動として出発したが,これはそのかぎりでは適切であつた。しかし大都市に関しては,実績が示すように,そのままの運動方式では,大きな展開はのぞみがたいと思われる。

座談会

公衆衛生活動と開業医

著者: 野津謙 ,   橋本道夫 ,   岡田貫一 ,   丸山正 ,   小宮山新一 ,   川口金次郎 ,   田村清 ,   田辺正忠 ,   高橋政子

ページ範囲:P.197 - P.210

開業医と保健所の対立
 編集部 きようは,公衆衛生活動と,診療所との関係をとり上げて,これから両者の間の関係が,ある意味ではできている時でもあり,ある意味では別な発展も考えられるというような時期に当つておりますので,公衆衛生という雑誌を舞台として,この問題をとり上げて徹底的にお話し合い頂きたいと思います。
 野津 最初に歴史的な過程から申上げますと,昭和25年の秋に,われわれ保険医療に携わるものが,健康な社会を作り出すという目標に向つて努力しなければいかんというので,有志が相寄つて研究会を始めたわけなんです。「健康社会建設協会」と称して,そこで,毎月いろいろな検討を始めたわけなんです。ですけれども,1〜2年するうちに保健所の保健婦さんがやはり同様な目標に向つてやつていきたいということで,医者の仲間へ保健婦の仲間が合流し,毎月熱心な研究を始めたのです。

原著

乳児の保健所利用状況について

著者: 永田久紀 ,   岩中徹 ,   米田幸雄

ページ範囲:P.211 - P.214

 地区における公衆衛生のセンターとして保健所のサービスは管内住民のすべてを包括することが望まれる。しかし都市における保健所クリニックを取りあげて見ても現実的にはそのサービスは保健所周辺のものに濃く,保健所より遠ざかるに従つて薄くなつている。殊に乳児の健康相談においては利用率は距離的因子に大きく左右されることが著者等の教室の調査1)によつても明らかに示されている。
 この報告においては前報1)と同様京都市下京保健所について乳児健康相談における保健所利用が距離的因子ばかりでなく季節,乳児の月齢等によつて如何なる影響を受けているかを調査した

九州,北海道等の炭鉱従業員寄生虫相の比較研究(第7報)—九州と北海道の炭鉱における主要寄生虫の地域別,年令別等の疫学相について

著者: 佐々学 ,   林滋生 ,   白坂龍曠 ,   三浦昭子 ,   佐藤孝慈 ,   福井正信 ,   長田泰博 ,   魚谷和彦 ,   矢沢庄三 ,   御厨潔人

ページ範囲:P.215 - P.220

 我々は1956年10月以降,三菱鉱業健康保険組合に所属する炭鉱従業員とその家族について寄生虫相の研究を続けて来たが,今回は1958年10月から同年12月の3ヵ月間に亘つて九州の島地区(崎戸,端島,高島の3事業所)及び北海道大夕張炭鉱の従業員家族について検査を行なつた。そこでこの成績をまとめ,これを前年度行なわれた九州筑豊地区の従業員家族検便の成績(第6報既述)と地域別,年齢別疫学相などの面から比較検討した。

避妊薬の室温保存による効力変化

著者: 山地幸雄 ,   石関忠一 ,   小嶋秩夫 ,   宰田和子

ページ範囲:P.221 - P.224

I.まえがき
 本邦において避妊薬の製造販売が許可されてより約10年経過し,本剤は家族計画の普及及び当該施設の指導により,広く用いられている。本剤は国家検定の対象とされ,製造Lot毎に国立衛生試験所において殺精試験,化学試験及び物理試験が行なわれているが,その保存可能の期間,すなわち室温における殺精子力の安定度については,本邦では功刀1)の報告がみられるに過ぎない。功刀が研究を行なつた当時と現在とでは,市販品の種類及び処方が多少異なつている上,本剤は薬剤に対する専門的知識の乏しい一般人に対し,販売あるいは配布されており,また現在本品に対しては,有効期間の明示が規定されていないので,われわれは今回,製造後室温に保存された避妊薬の効力を,国家検定法の殺精子試験により検した。

地区診断にみる1山村の実態

著者: 田中正好 ,   山口利三郎

ページ範囲:P.225 - P.228

I.はしがき
 最近,公衆衛生の分野でも社会学の調査方法がとり入れられ,地域住民の全般的な健康上の諸問題をとりあつかう傾向が多くなつてきている。古い公衆衛生学が急性伝染病にはじまる個々の疾病を対象としたのに対し,次第にそれが,人間そのもの,生活の場における具体的な人間を対象とする方向に向いつつある現在,それは当然のなりゆきであり,生物学における生態学の目ざましい発展にも呼応するものということが出来る。生の人間は集団をはなれては考えることが出来ないし,その集団の病患は直ちに個人の疾病につながるものである。地域社会における集団構造の分析から,その病患の摘出と更には解決への端緒を発見せんとする一連の方法に対し,地区診断1)なる名称を以てよばれているが,これこそ公衆衛生活動の最も基本的な出発点であると言うことが出来る。このように地域社会が問題となるとき,そこに農山村の保健が大きく浮び上つてくるのを見るのであるが,戦後吾国の大きな変転の中で,果して農山村の住民はどのように生きているであろうか。これをあきらかにし,特に高年齢層の疾病を探る目的で,われわれは最近,特殊な隔離された環境にある1山村の地区診断を実施したので,その成績から山村住民の実態をつたえたいと思う。

高血圧の統計学的観察(第5報)—成人の血圧について(その2)

著者: 古川三雄

ページ範囲:P.229 - P.232

I.はしがき
 第4報1)において,農山村の成人180名(男女各90名,40歳以上の成人で血圧検診をおこなつた者のうちから,平均血圧の標準以下のもの,標準範囲のもの,標準以上のものを無選択的に各30名宛を抽出した)を対象とし,身体的要素および遺伝と血圧との関係を統計学的に考察したのであるが,本報告では,さらに,同一の成人を対象とし,環境条件と血圧との関係を観察したので報告する。

高血圧管理の諸問題(第1報)—特に眼底所見を中心に

著者: 新井宏朋 ,   川上秀一 ,   佐藤泰義 ,   多紀英樹 ,   浦屋経宇 ,   武田正治

ページ範囲:P.233 - P.235

 我々は社会人の眼底病変を中心に高血圧,血管硬化の管理につき各種の考察を加えてきた。今回はこれに最近の成績を加え,更に,いくつかの問題について検討する次第である。

文献

遺伝と健康と放射線と

著者: 芦沢

ページ範囲:P.224 - P.224

 人類はいくつかの遺伝が主役を演ずる先天性の欠陥をもつていると思われている。この遺伝負荷の1/4からすべては,それぞれの世代で自然界におこる突然変異の生起率によつて維持されていると信じられる。電離放射線のレベルが上るにつれて突然変異を起すような条件の頻度は増加するであろう。診療X線の照射に由来する曝射のレベルは現在のところ1人当り約3rと考えられるが,このことは遺伝性負荷を10%ほど増大させている。核兵器の実験にもとづく放射性降下塵の遺伝的影響は多分この1/13位のものである。放射性降下塵の影響をうける人口百分率からいえばわずかだが25億の世界人口からすれば,被害者の絶対数はばかにならない。人類の遺伝と陶汰についての知識はごく限られたものにすぎないので,放射線の遺伝におよぼす影響については,大胆な仮定を設けざるを得ない。従来は人類の遺伝の研究方法は面接による,何らかの遺伝質をもつた者の家系調査が専らであつたが,現在行なわれている人口動態統計を家族関係,健康状態の記録を付して整理保管し,遺伝研究の資料に役立てようという試みがカナダで行なわれている。個人のカードから家族関係をぬき出してゆく操作や難点および経費などをしらべるため予備調査が行なわれたことがのべられている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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