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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生24巻8号

1960年08月発行

雑誌目次

特集 僻地の保健と医療

岩手県葛巻町保健・医療総合調査—僻地をかかえた地域への保健・医療サービスの滲透について

著者: 橋本正己 ,   斎木敏生 ,   相磯富士雄 ,   仲村英一 ,   田所助三

ページ範囲:P.405 - P.415

I.本調査の背景
1.調査の目的
 山間僻地を包含する特殊条件を有する地域での保健および医療サービスがどの程度に滲透しているかを,岩手県葛巻町を対象として明らかにすることが今回の調査のおもな目的である。その内容としては,まず町の衛生状態を全体として把握すること,そしてそれに対して町当局の衛生業務と保健所のサービスがどのようにカバーし合つているか,両者の協力関係はどうかをみつぎに国民健康保険の利用状況から疾病の状況を推測し,医療および予防活動における町病院の役割と機能を相互の関連性において考察することであり,さらに僻地保健所のあり方を町の立場からみることなどがそのおもな事項である。なお,本調査は昭和34年8月に1人・3日,11月に4人・4日というきわめて限られた人員と日数によつて行なわれたものである。

僻地における保健と医療の問題

無医地区の問題点

著者: 北博正 ,   長崎護

ページ範囲:P.416 - P.419

I.無医地区とはいかなるものか
 最近,無医地区についての関心がたかまりつつあるが,さて,無医地区とはいかなるものかということになると,あまり明確な定義は下せないようである。もちろん,無医地区という語が無医村の代わりに使われはじめたということはいえるであろう。というのは,かつての無医村,すなわち同一行政区画内に医師がいない村というのは機械的にえらぶことのできる,はつきりしたものであるが,最近の町村合併で,村なり町なりの行政区画がひろくなり,旧無医村が旧有医村と合併し,新有医村となり,事実上,この意味での無医村は激減してしまつたのであるが,その大字,字なり部落によつては,同一村内,または近接町村の医療施設の恩恵に浴することが不可能乃至きわめて困難であるという地区は依然として存在しているのである。
 このことは,そのような地区の住民にとつてまことに不幸なことであるが,わが国が国民皆保険の建前をとることになつてみると,このような人々に対しても,なんらかの医療給付をしなければならなくなつて,いわゆる無医地区の問題がにわかにクローズアップしてきた。

東北地方のへき地

著者: 島内武文 ,   一条勝夫 ,   前田信雄

ページ範囲:P.420 - P.431

 東北地方について,1)離島裏浜地区,2)農山村地区,3)開拓地区の3つにわけて実地に調査を行なつたので報告する。本調査は厚生科学研究「無医地区の形成過程に関する研究」の一部として行なつたものであり,無医地区の実情の分析を主とし,その対策に関しては他の機会にゆずつた。
 なお本調査に当つては宮城県衛生部,岩手県厚生部,両県国保連合会,女川町(ことに保険課)・葛巻町,九戸村,白石市のご協力を得,またとくに石巻保健所長伊藤裕一氏,磐井病院長酒井清澄氏,宮城県開拓農協連鎌田孝氏等のご援助をいただきましたのでここに厚くお礼いたします。

無医地区の形成過程について

著者: 額田粲 ,   佐々木武史 ,   石崎竜雄 ,   小口洋子 ,   石原栄美子

ページ範囲:P.432 - P.436

I.はじめに
 病因,宿主,環境の3要因の平衡関係から疾病は発生するが,このような疫学的見解は当然無医地区の形成過程についてもあてはまるものと思われる。
 著者らは昭和34年度の厚生科学研究費の援助を受け,京都府下,三重県下の2つの無医地区について実態を調査する機会を与えられたので,この2つの事例にもとづいて,無医地区の形成過程を考察してみたいと思う。

無医地区の性格と対策に関する一考察

著者: 岩佐潔

ページ範囲:P.437 - P.444

I.無医地区の概念とその性格
1.無医地区と僻地の概念
 ある地域の住民の大部分について1つの生活圏を形成しているような区域において,そこの医療需要を満たすための医師が皆無の場合には,その地域は「絶対的無医地区」として定義づけることが出来る。しかし完全に閉鎖された地域というものはないわけで,時間と金と労力をかければ何らかの医療が受けられない地域はない。ただ時間や金や労力が余り沢山要求される場合には現実に医療を受ける可能性は非常に減少する。そこで通常の診療圏の範囲を考えて,そこに診療所がおかれた場合には独立の診療圏が成立すると思われるような地域を「相対的無医地区」として,その上限をかぎる定義づけをする必要が生ずる。
 厚生省の僻地医療対策上の無医地区の要件として「診療所を設置しようとする場所から最寄りの医療機関まで通常の徒歩でおおむね1時間30分以上要する地域である」こととしているのは,まさに「相対的無医地区」の上限の条件づけをしたものとして理解される。ここではさらに「1日3往復以上の定期の公共用の交通機関があつて,当該交通機関を利用すれば所要時間が1時間以内である場合は除くこと」という条件を附している。これら上限の条件の内容が適当であるか否かについては検討の要もあろうが,われわれの研究の出発においては一応この条件に近いものを無医地区として考察を進めている。

へき地医師の実態

著者: 島内武文 ,   一条勝夫 ,   前田信雄

ページ範囲:P.445 - P.447

 医師招へいの困難は,へき地医療の最大の悩みである。この問題点から医師の実状を明らかにするために,昭和34年11月,東北6県の山村16,農村16,漁村7,離島2,鉱山2におけるへき地診療の経験ある医師46名(国保36,農協1,開業2,会社2)について郵送調査を行つた。

教育

医師国家試験を検討する—公衆衛生を中心に

著者: 北博正

ページ範囲:P.448 - P.450

I.はじめに
 医師国家試験について,とくに公衆衛生を中心に,綜説的に書けというのが,本誌編集部の注文である。公衆衛生の試験問題については,各論的に他の筆者が批判されることになつているとのことであるし,また,われわれの同僚に出題されたものを,あれこれアラ探しするのは,批判なくして進歩はないといいながらも,何とも気のすすまぬことでもあるので,いままでに見聞した事柄に自分の意見を織りまぜて書き綴り,責をふさぎたいと考える。

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公衆衛生国家試験問題(29〜34年)

ページ範囲:P.451 - P.452

第21回(29年)
 次の2問中1問を選んで解答せよ。
19問
 予防接種法に規定する定期予防接種の種類と対象について記せ。

アンケート

公衆衛生の国家試験について

著者: 笹田衛 ,   菅野利克 ,   ,   ,   松井熈夫 ,   ,   松島周三 ,   ,   横堀栄 ,   村江通之 ,   額田粲

ページ範囲:P.453 - P.459

 国家試験問題の批判等はおこがましいが人それぞれの立場からみてかくありたいと思うことがそれぞれあるに違いない。私は実地修練生の指定保健所におつて長年実地訓練を担当して来た立場からこの意見の妥当性は別として一応述べて見たい。端的にいつて全試験問題(21回以降)を通じて見る場合に保健所における修練に際して公衆衛生各項目を解説する際に織り込んで話す2,3の事柄を除けばその他はいずれも家の中で寝ころんで本を読んでおつた方がいいような実地訓練とはおよそ縁遠い試験問題がかなり多く出されているような感がする。そこで試験の目的はどこにあるかという根本問題を考えざるを得ない。第一にこの試験は選抜試験ではないはずである。つぎにインターン生活は国家試験のためにあるのかそれとも大学で習つた学を実地に経験するための生活かという問題になつて来るがもちろんこれはいうまでもなく後者であろう。そうであれば問題はそれに則して呈出されるべきであろう。さらにまたこれについて2つにわけて考えられる。すなわち将来治療医師として世間に立つて行く際における常識として知つていなければならない公衆衛生上の問題を主とする試験問題とまた予防医学衛生行政面にタッチする医師として立つ人に対する問題としての場合とがあると思う。

文献

先天性心臓疾患の小児にたいする地区衛生機関の保健事業/食品添加物修正法について

著者: 西川 ,   有賀

ページ範囲:P.447 - P.447

 1939年の肢体不自由児会議から端を発した先天性心臓疾患の小児に対する保健事業は1951年6月から本格的に具体化して,5州において地区衛生機関がこの問題を取り上げて実施することになつた。その5州とはメリーランド,イリノイ,ミネソタ,テキサス,カルフォルニアである。この事業が発足した当初は受検者も極めて少なく,医療を受ける患児の数もしたがつてきわめて少数にすぎなかつたが,その後事の重大性に気づいて急カーブを画いて上昇している。1950年には2,207名がこの疾患によつて医学的管理を受けていたに過ぎないが,1957年には10,168名と増し,1958年には12,164名が循環系の先天性奇型のために保護されている。本報告は1952年より1956年までの5年間に地区衛生機関が取扱つた地区先天性心臓疾患児養護計画に参加したものについて報告した論文である。最も多いのはファロー氏欠損(17.6%)で,動脈管開口(15.7%),心室隔壁欠損(14.5%),肺動脈狭窄(5.7%)の順になつていた。このような奇形をもつて生れた小児の将来はどうであろうか。これは将来の問題であるが,現在行なわれている外科的治療をもつと幼少の頃にさかのぼつて受けうるようにすることが急務とされている。それは生後1ヵ年間に死亡する小児の4分の3が先天性心疾患が原因であるからで,そのことは小児保健全般に対しても大きな意義をもつことになる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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