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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生24巻9号

1960年09月発行

雑誌目次

綜説

世界各国における成人病対策(その1)—米国

著者: 山形操六

ページ範囲:P.461 - P.467

 今回世界保健機構(The World Health Organization)のFellowとして,昭和34年10月より6カ月間にわたり,成人病対策の視察のため欧米各地を歴訪する機会を得た。
 既に諸先輩によつて諸外国の衛生行政は紹介されているが,成人病の観点から思いついたいくつかの問題を披露したいと思う。資料の検討等の点で御指摘を頂ければ幸甚である。

イタリアの公衆衛生—特に学校保健について

著者: 菊野正隆

ページ範囲:P.468 - P.477

 編集の方からイタリアの公衆衛生について書くように依頼されたが,私は教育学部に席を置いておる関係上イタリアでは主として学校関係を見てきたので,ここでは公衆衛生の一部分--というより公衆衛生の中で最も重要な部分と私は考えているが--である学校保健について述べようと思う。唯私の手元にイタリア保健省の本年度の予算の資料があるので,それの概略を本文の末尾に掲げることによつて,イタリアでは公衆衛生のどの方面に重点を置いているかということの参考資料に役立てば幸と思う。
 学校保健は保健管理と保健教育との2つの面をもつていることは既に御存知の通りであるが,イタリアでは保健管理の面は保健省→保健所の線ではつきり組織化,系統化されており,保健教育は文部省→教員養成機関の線に乗つている。そしてこの両者の間をうまく結びつけるものとして養護教諭(Assistente Sanitaria Visitatrice直訳すれば保健訪問婦助手)がいる。

医療の社会化と医師

著者: 関悌四郎

ページ範囲:P.478 - P.484

 わが国に於ける医療の問題つまり健康保険,医療保障,医療制度などの問題は,主として厚生省と日本医師会の間で長年にわたつて交渉が続けられておりますが,その成り行きは多くの第三者的な立場の批評によりますと,問題によつて多少のニュアンスの違いはありますが,医師会の方がかなりしばしば強引な掛引きをもつて事にのぞんでいると看做される場合が多いようであります。
 このような見方は,それぞれ多少の根拠があつてのことでありましようが,それはそれとして,ここで私の考えを申し述べますならば,その不評の根拠とされるところは,多くの場合,医師会側のタクチックに対するものであつて,そのようなタクチックをとらざるを得なかつた理由は充分に考慮されているとは考えないのです。

医学生に対する衛生学公衆衛生学の教育・16

衛生行政

著者: 有薗初夫

ページ範囲:P.485 - P.489

 衛生行政に関してはさきに野瀬教授が詳細な計画及び方法を発表され,われわれを裨益するところ甚大で,これに追加すべき何物をも持ち合せがない。従つて私は私なりに,衛生行政に携わつた経験並びに医学生の衛生教育に従事した経験から感じた若干の事項を述べて責を塞ぎたいと思う。

原著

母と子の幸福を守るための管内母子衛生の問題点

著者: 志村至厚

ページ範囲:P.491 - P.493

I.はじめに
 戦後15年を経た現在,果して女性は真の地位向上が認められたであろうか。又児童憲章に児童は人として尊ばれ社会の一員として重んぜられ且つよい環境の中で育てられなければならないと規定されているが,現状はどうなのか。又保健所管内の母と子の幸福を守り又推進して行く為にはどうしたらよいか。最近4カ年の母子衛生の動向を統計資料を集計し観察してみた。

1955年都道府県別人口の再生産率と自然増加率—最近日本の人口学上の一問題

著者: 水島治夫

ページ範囲:P.494 - P.497

I
1955年の都道府県別及び全日本の人口の自然増加率は第1表のようである。(但し,ここには,出生・死亡・人口とも,日本人の女だけである。)
 第1表を見ると,人口の自然増加率(per 1000)は,最低は京都の7.5,最高は鹿児島の16.0で,いずれも黒字(+)であり,全日本では11.7である。即ち1955年に,各地方とも,表に示したような自然増加率があつたことは事実である。しかし,ここに考えねばならぬことは,ある年度の出生率にしても,死亡率にしても,その年度の人口の年齢構成と密接不可分の関係にあり,その当時の年齢構成があつてこそ,それらの動態率が示されたということである。人口の年齢構成が違うと,各年齢別の出生率・死亡率は不変であつても,全体としての率は違つて来る。ところが,ある年度の人口の年齢構成は,過去百余年間の出生と死亡と移動のからみ合つた所産であるから,その過去の動態の影響が,該年度の動態にも及んでいる。

九州,北海道等の炭鉱従業員寄生虫相の比較研究(第8報)—北海道大夕張地区の寄生虫相の特徴と各寄生虫卵の越冬状況

著者: 佐々学 ,   白坂龍曠 ,   三浦昭子 ,   魚谷和彦 ,   雨宮義文

ページ範囲:P.498 - P.503

 われわれは1956年10月から九州,北海道などに散在する三菱鉱業の諸事業所に属する従業員及びその家族の寄生虫相の調査研究を行い,第7報までに報告したような成果を収めた。今回はとくに寒冷積雪地において孤立した生活を営んでいる大夕張炭鉱を対象に,塗抹・浮游・培養の3法併用による集団検便を行い,その成績と対照した現地の環境調査,冬季における各寄生虫の越冬試験などを行つて興味ある成績をえたのでここに報告する。

赤痢菌保有者の処置について

著者: 高木剛一 ,   中西弘毅

ページ範囲:P.504 - P.506

I.緒言
 消化器伝染病のうちで,赤痢は非文明国の代名詞でもある。日本は本疾患の流行が,跡を絶たない現状であることは,誠に悲しい極みである。赤痢の流行は戦前では夏期に流行して,秋から冬にかけて終熄するとされていた。然るに冬でも最近は流行を見るようになつた。昭和35年2月宮城県柴田郡村田町の赤痢患者の集団発生は保菌者を含めて1063人に達している。原因と思惟されるものに,同町上水道貯水池付近で,赤痢患者の汚物を洗つたものがありとのことである。患者ばかりでなく,保菌者でもこのようなことが想定される。余は昭和30年以来,赤痢患者,同菌保有者について疫学的にその実態を調査し,これが対策について発表してきた(1)(2)(3)
 この度食品取扱者(作業所は1カ所)824名につき検便し,赤痢菌保有者を回をかさねる毎に発見したので,これが原因を追求し,その対策を講じて,いささか知見を得たのでここに報告する。

容器内におけるオゾン濃度と殺菌率の関係について

著者: 加納享一 ,   岩原繁雄 ,   栗栖弘光

ページ範囲:P.507 - P.511

I.緒言
 家庭生活の向上と公衆衛生の発達にともなつて,簡易で使用に便利な電気を利用した衛生消毒法がいろいろ研究されるようになつてきた。その一例として無声放電を利用した各種のオゾン発生器が,食品衛生,環境衛生,防疫等の各方面にかなり広く利用されているが,特に食器類の衛生的保管,理美容器具の消毒などの面で要求される傾向が強くなつている。このようなばあいには完全殺菌を目的としているので,オゾン発生器の性質上容器内に高濃度のオゾンガスを充満させて行う方法によるのが得策である。そのためには,それぞれの目的に応じて適当な大きさの容積とオゾン濃度のもとに合理化された殺菌法の実施が要求されるのである。
 筆者はこのような目的のために,各研究所で行なわれた各容積における経過時間と平衡オゾン濃度の実験結果等1)2)3)にもとづいて,容器内におけるオゾン濃度と殺菌率の関係から,完全殺菌を行うばあいのオゾン濃度と作用時間との関係値(C・T)を求めたのでその概要を述べて関係各位の御参考にしたいと考える。

在宅結核患者実態調査(中間報告)

著者: 太田真

ページ範囲:P.512 - P.516

 日本の結核患者数が逐年減少しつつあることは事実であり,その原因と考えられる事柄もいろいろとあり得る。然しその治療の為には,慢性伝染病である結核症が入院治療を理想とし,保養安静療養を治療法の基幹とすることに間違いはないと思う。化学療法にしても,外科的処置にしても,飽くまで,治療の補助的意味を持つものであることは論を俟たない。
 然し,全国の結核療養所のベッドは逐次空床が増加し,その運営方針の転換が問題にされている。結核患者の減少が空床の増加の原因であることは当然であるが,入院治療を要する患者が現有結核ベッド数に満たないかどうかと云うことになれば話は全然別であると思う。

ニュース

社会医学研究会印象記

著者: 黒子武道

ページ範囲:P.517 - P.519

 第1回社会医学研究会は創立,総会をかねて去る7月29日,30日の両日,東京都千代田区,日本都市センター講堂に於て開催された。酷暑の中であつたが約130名の参会者を得て終始熱心な討論が交され,予期以上の成果を収め,ここに社会医学研究会の正式発足を見るに至つた。
 本会設立への動きを理解するためには,日本に於ける社会医学の起源,歴史的意義,その思想的背景について考察しなければならないが,その詳細については他日にゆずり,主として戦後に於ける会設立の過程について簡単に触れてみよう。戦後,公衆衛生の飛躍的発展にともない国民大衆の医療に対する関心が急速に高まり,医療制度の改善,国民皆保険等医療保障,衛生行政に関する諸問題について,医療関係者は勿論,広く社会科学者等によつても社会保障,経済政策の面から積極的な発言が見られるようになつた。公衆衛生学会に於いても数年来医療保障の分科会,自由集会においてこれらの問題について取扱うようになり,医療及び公衆衛生発展のための経済的,社会的条件の究明を行うことになつた。これらの諸集会は年々盛んとなり,同様の集会が全国各地で持たれるようになつたので同じ関心を持つ全国の研究者を糾合した1つの研究組織を作ろうという機運が起きてきた。一昨年4月,日本医学会総会の折りその具体化が問題となり,社会医学研究会なる仮称のもとに準備会をかねて研究発表会を開催することになり,昨年7月,東京に於ける会合となつたわけである。

文献

ソ連における言語障害矯正,他

著者: 芦沢

ページ範囲:P.489 - P.489

 モスクワの身体障害研究所は全ソ連邦の障害児サービスの公的なセンターである。著者らは最近ここを訪れ,特に言語矯正のスタッフと交見する機会をもつた。ソ連では障害の種類と程度により社会保障省(重症廃疾児の施設内保護),保健省(医療の対象となる障害児),教育省(能力に応じた教育と職業補導)の三省が行政責任を分担し,場合に応じ相互に協力してサービスを行なつている。言語障害児は発見当初は医療の対象となるが,実際の言語矯正訓練は教育省の仕事になつている。そのための養成所を出た専門の教師は一般の教師より2割5分増しの給与を受け,もちろん一般教師にある住宅優先割当も与えられ,尊敬される社会的地位とあいまつてこの職をえらぶことを誇りとすることに与つて力があるのであるアメリカではこの種の教師の不足に悩んでいるが,ソ連では必要なだけの教師は養成しているということである。
 矯正の組織は,アメリカの場合とよくにていて,ロゴペドといわれる学校付きの矯正師がいて医師の指導の下に週2,3回生徒をみまわり,手に余る障害はクリニックに紹介する。各校には医師,歯科医,看護婦,ソーシャルワーカーがいる。児童の初回の検査では,言語の分析,聴力の判定,知能が問題になるときは専門家によるテストがなされ,興味深いことには字を書くテストもなされる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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