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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生25巻1号

1961年01月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生学会を顧みて 公衆衛生学会印象記

—総会シンポジウム・特別講演—都市計画と公衆衛生

著者: 庄司光

ページ範囲:P.3 - P.6

 道路,交通,住宅問題,公害問題などの一連の都市問題の解決は都市計画に期待する所が大きい。その意味で第16回日本公衆衛生学会で都市計画と公衆衛生に関するシンポジウムを企画されたことに敬意を表しつつ拝聽した。シンポジウムは一般口演5題と特別講演3題から構成されており,個々の口演ないし講演は以下紹介するように夫々興味あるものであつたが,全体的な構成には有機的な統一が欠けていたという印象が強かつた。学会のシンポジウムはその年の重要な問題をとりあげ,学会全体の協力で,今後の私達の研究方向,実践に示唆を与えることが使命かと思われる。以下シンポジウムの内容を述べると共に,都市計画と公衆衛生の問題点をあげてシンポジウムの印象記としたい。
 一般口演は大阪府立公衆衛生研究所の梶原三郎所長が座長となられ,先陣は関西医大の東田敏夫教授であつた。同教授の演題は「団地における生活事情と保健施設に関する調査研究」第1〜3報で,この研究は関西医大公衆衛生学教室,大阪府枚方保健所,大阪府衛生部の人々の共同で行われたものである。

—第1分科会—衛生行政・衛生統計・人口問題・衛生教育・医療保障

著者: 福島一郎

ページ範囲:P.13 - P.14

 第1分科会は学会第1日の午前と午後にわたつて第4会場である神戸市医師会館講堂で行われたが,会場は終始ほぼ満員の盛況を呈していた。演題数は誌上発表3題を含めて46題に上り,中心的論題はCommunity healthに関する調査と考察にあつたように思われた。
 まず日大病院管理学教室から病院管理上の関心事となる病院内感染について2題の報告がなされた後,衛生統計部門に入つた。東京女子医大吉岡教授一門の3氏は死亡統計の精細な分析からそれぞれ興味ある知見を報告し,次いで藤枝保健所の村上氏等は米英に比して高い本邦の老衰死亡を死亡届の記載事由の検討によつて解明し,貴重な成績を発表した。

—第2分科会—母子衛生

著者: 船川幡夫

ページ範囲:P.14 - P.16

 第2分科会は,神戸医大小児科の平田教授を分科会長として,新築の第1講堂で行われたが立錐の余地なきまでに満員となり,母子に関する関心の深さが偲ばれた。
演題41題(うち3題は誌上発表)を内容別に大別すると1.発育に関するもの(乳児健診,栄養との関係,精神発達,出生時体重など)10題

—第3分科会—環境衛生・産業衛生・公害問題・屎尿処理

著者: 安倍三史

ページ範囲:P.16 - P.18

1.その全貌
 この会場は聴衆がいつも講堂に充ち溢れ,討論が活溌に展開され,コンデンスされた2日間であつた。内容は質量ともに最もすぐれた分科会の一つであつたと思う。運営もスムースに行われた。それだけに見えないスライド,原稿のぼう読み,時間の無視が気になつた。

—第4分科会—栄養・栄養指導・食品衛生など

著者: 柳沢文徳

ページ範囲:P.18 - P.19

 本分科会の演題数は53題であつて,栄養関係演題7題,食品衛生関係46題というように約90%は食品衛生に関するものである。栄養面での演題も乳児栄養については母子衛生の分科会で発表されておるし,食品衛生面,特に病原性好塩細菌を始めとし,赤痢の食品衛生学的面の研究が第5分科会に含まれていた。演題のまとめ方に多少の問題がある。ともかく,第4分科会は栄養,食品衛生の面からみた食品に関する公衆衛生的な研究内容を集めたものであるが,この数年の栄養と食品衛生の演題数の比重よりみると,常に食品衛生の方が量的には多いことが注目される。
 さて,筆者も他の分科会に出題しており,全部を聞くことが出来なかつたので,よい演題をききもらしているかも知れぬが,きいた範囲で少しく述べておこう。

—第5分科会—疫学・伝染病など

著者: 有賀徹

ページ範囲:P.20 - P.21

 公衆衛生学会が分科会形式をとるようになつたのは第9回総会からであつたが,従来は疫学というのが一つの分科会の名称であつた。しかるに本年度は第5分科会として特に疫学という言葉を用いず「病原微生物伝染病など」という名称を用いた。近年疫学という言葉の概念が大分広範囲に用いられるようになつてきたため従来の伝染病中心とした疫学という意味での疫学分科会を設けるより,今回のごとき名称にした方が混乱を防げるかもしれない。しかしまたこれも多くの欠点が見られるのである。例えば分科会の内容もほぼ従来の疫学関係が多かつたが,なかには明らかに行政的のものもあつたり,また好塩細菌のごとくむしろ食品衛生分科会の方に回した方が妥当と思われるものもあつた。ともかく公衆衛生という広範囲の学会においてはそのプログラムの編成には一番頭を悩まされるのであつてこの分科会形式も再検討する必要があると思う。
 さて本年度の公衆衛生学会の特徴としては何があるかということを考えるとそれは演題内容を検討してみればほぼその趨勢がうかがわれる。すなわち従来の疫学分科会と比較するため前述のごとく好塩細菌および寄生虫を除いて考えて見よう。

—第6分科会—結核

著者: 岡田博

ページ範囲:P.21 - P.23

 演題は43題,そのうち誌上発表が5題あつたから38題が演説されたわけである。演題の傾向からみると一番多かつたのは全国各地の保健所の方々から出題された住民検診や管理検診をどうやつているか,また発見患者の傾向はどうなつてきているか等の問題で11題におよび,次は農村,小企業,業態者などの患者の実態,放置患者や重症患者はどのくらいあるかの問題が6題,それにツベルクリン反応や精製ツの問題が同じく6題,次が学童結核の感染や管理の問題が4題,同じく職場の結核管理や再発防止に関するものが4題という順序で,この学会に於ける現在の結核問題の中心点が自ずからわかる。
 そこで演説された問題からひろつてみると。先ず北海道衛生部の岩永等はX線による学童の性腺被曝量の問題を論じた。これはレ線被曝の年齢的許容量の判然としていない今日,議論はあろうがやはり考慮を要する問題で系統的な基礎研究が望まれる。結核予防会塩沢等は間接写真の病巣発見率が,陰影が骨と重なつた場合に著るしく低下することを述べ評価の高い写真をとることを強調しているが,今日間接撮影の技術は相当進歩したとは言え今一段の努力を要すべき問題である。公衆衛生院重松等は精製ツとOTとの特異度の比較を陰性者にBCGを接種して生ずるコッホ現象をも参照して精製ツの方がOTより特異度が高いことを報告している。この方法は面白い着眼と思うがBCG歴のない集団との比較が望ましい。

—第7分科会—成人衛生・老人衛生

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.23 - P.24

本年度の出題数は59で昨年度(61),一昨年度(70)に比較すると少ないが,分科会のテーマが次第に整理され,安定したような感じをうける。演題は高血圧,心疾患関係のものが全体の約1/2(33題)を占め,ガン関係は15題のみである。その他リウマチ熱3(内誌上発表,欠席各1),糖尿病に関するもの2題等に分れていた。以上は一応の色分けであるが,成人衛生全体についての疫学的報告が3題あつた
 私の印象としては全般的に余り強烈な印象をうけたものがなかつた。これは公衆衛生学会における成人衛生・老人衛生の取扱いがいかにあるべきかという最も基礎的な論議がなく,技術的末梢にとらわれすぎるという点があつたからと思う。要するに臨床部門に入りすぎた意見の交換は大多数の公衛関係者には無縁に近く,ついていけないからである。従つて本学会の成人衛生・老人衛生の今後のあり方に転機がきたとの感じを強くした次第である。

—第8分科会—学校衛生・精神衛生・口腔衛生

著者: 竹村望

ページ範囲:P.25 - P.26

 第8分科会として学校衛生,精神衛生,口腔衛生に関する発表が一括して,第3会場の医師会館で行われた。ここで口演が行われたものは,学校衛生関係11題,精神衛生関係4題,口腔衛生関係4題で,その他誌上発表のものが4題あつた。
 まず学校衛生関係では,田中氏らによる集団駆虫に関する研究(第3報)が報告され,地区回虫卵保有率とは概ね一致すると述べられたことは当然であるが,地域社会の集団駆虫と再感染防止策を同時に行なわない限り,学校回虫卵保有率の低下には自ら限界のあることを実例を以つて示した。安倍氏らは学童の眼科検診および事後処置効果について報告された。さて近時成人病対策として高血圧管理,心疾患管理の面が盛んに取りあげられるようになつたが,より年齢層の低い学生生徒のこの面の実態を知り,健康管理を行うことは望ましいことである。学生生徒の循環器系検診について本年も5題提出されたが,まず大阪府立成人病センターの高階氏らは前回の報告に引続き今回は大阪市教育委員会と協力して,また大学医療機関,保健所などの協力のもとに学校の心疾患管理システムをたて,モデル検診を行い,更に実験校を選んで普及活動をしている実際面を述べ,この方面の管理システムおよび方法について良き示唆を与えられた。

巻頭言

これからの公衆衛生

著者: 戸田正三

ページ範囲:P.1 - P.2

 本誌編集部中野君から私に「これからの公衆衛生について」かけとの御催促だが,これからの公衆衛生については,老生が差出るべきでないかも知れぬが,とりあえず,御指示に従い所感をのべます。
 申すまでもなく,わが国の公衆衛生は,衛生学および公衆衛生HygieneもPublic Healthの形式で,国の文化の推進に伴つて,医学や社会科学と並行に発達したのではない。公衆衛生が叫ばれるようになつたのは敗戦の賜である。それはあたかも,わが国の道徳が忠孝と修身の一点張りで,公衆道徳が疎んじられたのと軌を一にした感がある。

綜説

今日の保健所の問題点—全国保健所長会議を中心に

著者: 山下章

ページ範囲:P.7 - P.11

 去る10月7,8両日に亘つて神戸市において開催された第17回全国保健所長会議に代議員1年生として初めて出席した私が,表題の執筆をすることは僣越至極である。恐らくこれはシンマイだけに変つた印象もあつて,かえつて面白かろうという編集当局の意地悪いねらいであろうと思う。私はそのねらいを忠実に生かすことにする。従つて感違いや思い違いがあることを予めおことわりしておく。
 会議はどの会にも見られる型通りの式があつた後,全国の各ブロックまたは都道府県から提出された議題について,各々その代表者が提案理由を説明し,これに対して参会者から意見を出し合い,議長がこれをまとめ,文章として,後刻厚生省にも提示するという形をとつている。今回の議題は全部で22題であつたが,ここにその一つ一つについて書き綴ることをやめ,過去3年間の出題傾向と合せて考察し,その中から"今日の保健所の問題点"らしきものを引き出してみたいと思う。

医療制度と医師の報酬—英国国民保健事業における医師の報酬をめぐつて

著者: 木村慶

ページ範囲:P.27 - P.31

 いわゆる国民皆保険の実施も近く,これに伴つて医療制度の全面的な再検討は必至の趨勢にある。中でも医師に対する報酬支払制度の問題はその中心課題であるにもかかわらず,影響するところが余りに大きいためか未だ根本的な検討が加えられるには至つていない。
 戦後新しい医療保障制度の体系が整備される過程を遡つてみても,報酬支払制度の改革を当然前提としなければならない問題が次々ととりあげられていながら,かんじんの支払制度には手がつけられていない。例えば昭和23年に発表された米国社会保障制度調査団報告書は,今後の健康保険制度推進のために医療費支払方式の問題が重要であることを指摘している。そして現行診療単位料金支払制度を批判して,それに代るものとして人頭割支払制,俸給制の二つをとりあげそれぞれの難点を述べ,結論としては,条件が整つており特に地方医師からの協力が十分ある地域において人頭割を実際に実験し,実行可能性があれば直ちにこれを実施することを勧告している。このようにかなり具体的な勧告が行なわれたにもかかわらず,その後の医療保障に関する各種審議会・委員会のこの問題のとりあげ方は,現行出来高払制の非は認めながらも当面はやむを得ないという不徹底なものにおわつており,これまでついに1つの実験も行なわれず,部分的修正以外の変革も企てられなかつた。

原著

都市保健所の乳児衛生活動の分析

著者: 二階堂謙司

ページ範囲:P.33 - P.40

 地域社会における保健所活動の推進は,母子衛生活動の分野において,特に,乳児死亡率の急減として輝かしい実績をみせた。この,母子衛生活動を更に効果的に推進するには,伴1)のいうがごとく社会的背景を考慮することも必要ではあろうが,現在の姿を更に充分分析することが,まず必要な筈である。
 今,都市保健所の乳幼児クリニックの多くは,乳幼児とこの母親達の群で賑わつているけれども,一部の母親達だけが保健所を利用しているのではないか否か,保健所を利用しようとしない母親達のこの理由は何であるかについて正しい分析をする必要がある筈であり,これは今後の保健所活動に何等かの示唆を与えるものを期待してこの調査を企図したのである。

埼玉県児玉郡における胃集団検診

著者: 高橋淳 ,   朝倉啓 ,   後藤吉太郎 ,   新井和夫 ,   栗原龍太郎 ,   栗原博司 ,   宮本東生 ,   宇留島庸 ,   橋郁雄 ,   加藤敏忠 ,   西本健 ,   飯塚治子

ページ範囲:P.41 - P.50

Ⅰ.緒言
 本邦における疾患別死亡率をみると,国民病といわれた結核性疾患による死亡率が激減してゆくにつれ,悪性新生物および脳血管損傷による死亡率が上昇して来た。最近では悪性新生物による死亡率は40歳台では第一位を占め,しかもこのうち消化管系統,特に胃癌による死亡率が過半数を占めている。胃癌患者の統計では根治手術の可能なものは60〜70%であり,切除不能の胃癌生存期間は山形2)によると10.9カ月であるという。根治手術後治癒退院するものはMayoclinikでは40%,中山外科3)では33%であり術後5年の生存率は本邦では15.7〜6.0%に過ぎない。術後5年生存率を永久治癒とするなら胃癌の治癒率は極めて低いといわざるを得ない。この胃癌治癒率の上昇には早期に発見し早期に手術する他に現在のところ方法はない。更に胃癌患者の受診率をみると初発症状が出てから適正診療を受ける迄の期間は増田によると6.9カ月であり,Roach4)等は無自覚性胃癌を50%に発見している。Sallvian5)はこの無自覚性胃癌の5カ年生存率は60%以上であるとし,無自覚性胃癌の発見を強調している。従つて胃癌対策の焦点は無自覚性胃癌をも含めた早期胃癌の発見にあり,胃集団検診(胃集検と略す)の強力な推進が叫ばれるのは当然のことである。問題はその方法である。癌反応の適確なものの見当らない現在,レ線検査による方法が最も現実的である。

鉤虫駆除剤Bephenium hydroxynaphthoate(Alcopar)の駆虫効果について

著者: 沢田利貞 ,   佐藤重房 ,   河野恵 ,   長崎宗俊 ,   永田泰之助

ページ範囲:P.51 - P.56

はしがき
 主として鉤虫症に対するBephenium hydroxynaphthoate(Alcopar)の治療実験を行い,その駆虫効果,排虫状況,副作用の発現状況について検討した。また同時に蛔虫,鞭虫に対する排虫効果についても観察した。実験に使用したBephenium hydroxynaphthoate(Alcopar)は田辺製薬会社より提供を受けた。なおこの薬剤を以下B. H(alcopar)と称する。

眼底所見を主とする高血圧集団検診方式の研究(第5報)—集団検診に適した眼底検査方式の研究(その2)

著者: 新井宏朋 ,   川上秀一 ,   浦屋経宇 ,   湊正 ,   水野武昭

ページ範囲:P.57 - P.59

 著者らは既に高血圧,血管硬化の眼底所見のスクリーニング方式として「散瞳した片方の眼だけを検査する方式」と「両眼の異常交叉現象のみ目標としてスクリーニングする方式」が検査速度も早く,検査手技も比較的やさしく集団検診に適している事を報告した1)
 今回は「散瞳した片眼だけを検査する方式」を更にすすめて,検査しなければならない眼底の領域をもつとせまくしうるかについて検討した。

文献

公衆衛生に関連をもつ住宅問題におよぼす人口分散の効果/看護施設の衛生学的規準とその指導

著者: 芦沢

ページ範囲:P.26 - P.26

 1940年頃からヨーロッパ諸国の出生率は意外にも立直りを示し,カナダ,アメリカ合衆国も同じ動向をみせた。カナダにおける人口の都市集中は甚しく,年々の出産の3割近くはオンタリオ州1州でしめている。カナダの人口はこの28年間に7割増加し,1958年1,700万であるが,出生,移入の高率に支えられ,1975年には2,420万になると推定される。しかも現在カナダ人口の1/3はオンタリオ州がもち,さらにオ州人口の1/4はトロント市に集中している。人口の過度の都市集中のへい害を除くため,集中を抑える法的な規制がどうしても必要となる。都市の空地をむやみに宅地にしないような措置がとられねばならない。人口の地方分散によつてはしかし担税力の低い層がより多く残るため,古ビルの取りこわし,区画整理などに要する市の財政を苦しいものにするという矛盾がある。古くから住みついていて,財政上の負担をしてきた一部上流階級の人の中にはあくまでも,自分の邸宅にしがみついて分散をがえんじえない人もでてきて,低所得層のスラムと高所得層の一種のスラムが併存するという現象がトロント市内でも起つている。
 住宅地の改善はしかし大都市低所得者層の消費需要をかえ,たかまつた消費欲求は既婚婦人を職場にかりたて,これまでの北アメリカの生活の典型とはおよそ異常なスタイルが生れようし,それが改性,宗教に対する態度の変容ともなるであろう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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