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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生25巻11号

1961年11月発行

雑誌目次

特集 社会医学

無専門医村における検診成績とその対策(続報)—特に高血圧症を中心として

著者: 笠木茂伸 ,   馬場三男 ,   藤井晃夫 ,   淵沢健之助 ,   大出博 ,   長井剛 ,   多賀谷敬 ,   鎌田利雄 ,   榎戸ふみ

ページ範囲:P.603 - P.606

I.はじめに
 医学の進歩にもかかわらず,脳および心臓血管障害による死亡率は増加の傾向にある。これらの疾病はその原因が不明ではあるが,早期発見による生活指導により,予防あるいはかなりの延命を期待できる疾患であることに注目する必要がある。高血圧症はその剖検例に高率に動脈硬化症の合併を認められており,近年動脈硬化症に対する脂質代謝に関する研究が急速な進歩を示している。われわれは数年来無専門医村検診を行ない2, 3の知見を報告(詳細は公衆衛生第24巻第11号参照)してきたが,今回は,脳心臓血管損傷の原因として大きな役割をもつ高血圧症を対象として,脂質代謝の動態を知る手段として,血清総コレステロールを,また電解質のうち血清カルシウムおよび燐を測定した成績について述べる。

富山県下におけるいわゆるイタイイタイ病ならびにクル病の調査

著者: 河野稔 ,   中山忠雄 ,   笠木茂伸 ,   長井剛 ,   淵沢健之助 ,   藤井晃夫 ,   大出博 ,   多賀谷敬 ,   小松崎尚 ,   五十嵐とし子 ,   新里清子 ,   岩井重寿 ,   倉本安隆

ページ範囲:P.606 - P.608

緒言
 われわれは数年間にわたり富山県下婦中町近郊に発生てしいるいわゆるイタイイタイ病の研究に従事してきたが,この疾患を社会的に重大な疾患としてとり上げたのは偶然われわれの研究所のリウマチ調査班が富山県下のリウマチ調査を行なつた際,重症ロイマチスらしい患者が負婦郡婦中町近郊に多発しているところがあるから是非調査して欲しいとのことで同地区の検診を行なつたところ,実はこれらのものの大部分はロイマチスではなく,全身の各場所の骨格に骨折を認め,かつその骨折が極めて修復機転の弱い性質を有し,生化学的所見,病理所見などにおいても,一見骨軟化症に類似するも詳細に観察すると明らかに骨軟化症とも異なり,在来の成書にもその例をみない奇異な病像を呈する骨疾患疾患であることが判明したが,さらに詳細にその本態を検討するため比較的本症に近いと思われるクル病ならびに晩発性クル病とも称せられる骨軟化症の調査を同じく富山県下氷見市近邸の山間の部落で行なつたところ,その数は意外に多く社会医学的にも種々の角度より検討を要する点が多々あると思われるので,今回はいわゆるイタイイタイ病と骨軟化症の比較検討ならびに学童のクル病集団検診の成績の概要について述べ諸賢のご教示を賜わりたい。

結核在宅療養患者の問題点

著者: 石井芳子

ページ範囲:P.609 - P.612

 結核対策の重点は潜在患者の早期発見,早期治療のための健康診断と発見された患者および家族の管理,適正な医療にあるといわれている。川崎市中原保健所は管内人口約18万5千をもつ都市型の保健所として,昭和34年度より結核予防対策推進地区に指定され,結核住民検診受診率約50%をあげてきたが,昨年度よりとくに潜在患者の多いと思われる老人層,小企業,商店従業者などに対して重点的に住民検診を行なつている。一方発見された患者については,昭和34年4月より所内結核管理委員会を設けて,その管理にあたつてきたが,一律に患者管理が行なわれるために,これだけでは処理しきれないさまざまの問題を持つ患者も多いので,昭和35年より月2回の問題ケース,管理委員会を別個に開いてその問題解決に努力してきた。問題ケース管理委員会は,所長,医師,保健婦,ケースワーカー,担当事務職員で構成され,その問題により,他の関係職員が加わる。このことにより,従来よりも問題解決への糸口もみつかりやすくなり,相当の効果をあげ得たと思われるが,なおこれらの関係職員だけでは解決できず,未解決のままおかれるケースも多くあり,この現状を把握するために,昭和36年5月末日現在,結核登録患者総数3,524名のうち活動性感染性で要入院と思われるのに自宅療養をしていて入院できない患者151名について調査したので発表する。
 第1表は入院患者と在宅患者とを対比したものである。

農村地域における総合保健計画(その2)—兵庫県氷上郡における新しいこころみ

著者: 五木田和次郎

ページ範囲:P.612 - P.614

 結核管理の一元化と結核医療費全額保障を骨子とする兵庫県氷上郡氷上町の新しい保健医療計画の構想,および発足以来2年半の足跡については,本誌第24巻11号,25巻5号で紹介したが,本号では,結核管理,さらに,広く町民の健康管理についての本年度の計画を紹介したい。
 まず,氷上町結核管理の現状を簡単に説明すれば,一般住民集団検診実施率は昭和32年当時70%程度であつたが,対策実施後は年々ほとんど100%に近い成績をあげており,それによつて発見された患者数は,昭和35年度からはすでに減少の傾向をみせている。しかも,全体として病型の軽症化の傾向がうかがえる。

社会要因についての考察—J. N. Morris:—Uses of Epidemiology(1957)の用語の分析

著者: 原島進

ページ範囲:P.615 - P.617

 社会医学研究の重要課題の一つが社会要因と疾病ないしは健康との関連の解明にあるということができよう。
 この社会要因が具体的にどんなものであるかについて考察するために,筆者は前掲の著書にでてくる用語を集めて,それらと疾病ないしは健康との関連についての記述を対応させてみた。また,その社会要因について整理することを試みた。

英国の医療保障制度下の医師

著者: 西尾雅七

ページ範囲:P.618 - P.625

 英国において「国民保健サービス法」(N. H. S. A.)が1946年に制定され,1948年7月5日故ベバン保健相の時代に施行されてより今日までの間に,この「国民保建サービス」(N. H. S.)に関する報告,あるいは論説がわが国においても数多く発表されている。近くは厚生省医務局総務課編「各国の医療保障制度」が刊行され,その中にもN. H. S. に関する詳しい記載があり,また米国の政治学者のH. Ecksteinの「The English Health Service」なる著書も「医療保障」という題名で邦訳されている。わが国の医療制度の全体が前時代的な人間関係を基盤として組み立てられているものであるだけに,はたして急激な進歩をつづけている医療を国民の健康を守る闘いに現在の医療制度の下において活用しうるや否やという点についての疑義がN. H. S. への関心を高めているのではなかろうか。先年来の医師会の医療費をめぐる抗争も病院のストライキも日本の医療制度が近代的な制度へと脱皮してゆく過程において必然的に経験しなければならないものであると筆者は考えているが,それらの抗争がはたして近代的な医療を国民の健康に結びつける合理的な制度を生み出すことに成功するか否かについては,われわれは国民とともに注視している必要があろう。

自治体の衛生行政と地域組織活動

著者: 浜口剛一

ページ範囲:P.625 - P.627

1.市町村自治体の衛生行政の現状
 これまで市町村自治体の衛生行政は「まま子」あつかいにされてきた。市町村は(1)一方では国または府県の指示のままに予防接種・結核住民検診その他の仕事をおしつけられてきたし,他方,環境衛生(2)は全く自治体固有の仕事として,ほうりつぱなしにされ,指導育成はほとんどされていなかつた。このため市町村衛生行政は衛生行政の盲点として残されてきた。最近になつて自治体行政が全般にクローズアップされてくるにつれて,衛生行政の分野でも,地方自治体の比重が漸次高まつてきた。市町村を中心とする共同保健計画構想(3)などもその一つのあらわれであろう。しかし,自治体の行政が画一的であつて,地方の実状にみあつた行政でなかつたのは,ひとり衛生行政だけでなく,自治体行政全般の傾向であつた。ただ衛生行政においてそれが目だつていたにすぎない。これは自治体が「地方自治の本旨に基づく」住民本位の行政を行なつていなかつたことを示しており,住民のニードより上から流されてくる仕事をそのまま実施に移していくことに手をとられていた自主性のなさが自治体行政をこのような低調な状態にしてしまつたといえよう(もちろん,地方財政の貧困のため多くの自治体が財政再建団体となり,独自の事業に対しては自治省からの制約が強かつたのもその一因ではあろうが)。だから自治体の衛生行政を向上させようとるすならば,地域住民のニードを率直にくみとる方策をとらねばならない。

医療における配置買薬の役割—地域社会の大きさと配置買薬(ならびに薬局)の関係

著者: 大谷藤郎 ,   浅野光雄

ページ範囲:P.627 - P.631

I.まえがき
 病院,診療所などが都市に集中しているのはあきらかな事実で,筆者1)2)はこの関係を地域社会の大きさ,すなわち6大都市,20万以上の市,10万〜20万の市,10万未満市町村というわけ方によつて,統計的にすでに明らかにした。この場合,診療機関のまばらな分布状態にある10万未満市町村は,過去の報告2)で述べたように必ずしも住民の疾病量が少ないわけではないから,診療機関の行なう医療の不足はなんらかの形で補なわれていると考えねばならぬ。医師,歯科医師の行なう処置以外に考えられるものとして,買薬(薬局,配置,その他),あんま,はり,きゆう,柔道整復術,電気治療,まじない,きとうなどがあり,そのほかには何もしない放置の状態がある。そして医師,歯科医師の行なう近代医療の恩恵に浴しないところの,いうなれば医療の周辺とも名づけるべきこれらの医療を行なつている部分は,社会医学の見地から究明を必要とし,改善のための施策を必要とする部分である。
 このうち特に配置買薬は,越中富山の薬売りのように前もつて一般家庭に配置してあつた薬を使用し,一定期間後に―主として半年後に―配置期間中使つた分だけの代金を支払い,代わりに新しく薬を配置してもらうというわが国独特の医療システムで,外国でもその例をみない特殊なものである。

公衆衛生監視員制度について

著者: 庄司光 ,   中山信正 ,   高木昌彦

ページ範囲:P.631 - P.633

 著者らは第1報(1)において1960年8月に厚生省に設けられた公衆衛生教育制度調査委員の審議事項のうち,公衆衛生監視員制度について2, 3の要望を述べ,このような行政制度の改革に当たつては監視員の自主組織,労働組合との協力体制が不可欠である理由をのべた。本報においては調査委員,関係団体の二つの問題に対する動きの概要を述べ,若干の検討を加える。

改正労災保険法の問題点—けい肺および外傷性せき髄損傷について

著者: 首藤友彦

ページ範囲:P.633 - P.636

Ⅰ.じん肺および外傷性せき髄損傷の現況
 労働省の資料1)によると,全国の長期傷病者補償をうけているじん肺患者は2,247人,外傷性せき髄損傷患者(以下せき髄損傷と略)は909人となつている。
 このうち,じん肺ことにけい肺については職業病として衆知されているが,せき髄損傷は整形外科領域においては古くからとりあげられているのに反し,一般に公衆衛生の部門においては関心が低いものといえよう。
 せき髄損傷は落磐,高所よりの墜落,下じきなどの外力により,脊髄を損傷し,下半身の麻痺をきたし,褥創,尿路障害など重篤な病状を惹起するもので,労働災害のうち最も悲惨なものの一つであつて,その医療,回復訓練にも特別の取り扱いを必要とするものである。

労働者および家族の健康保障についての若干の考察

著者: 山田信也

ページ範囲:P.636 - P.637

 わが国の社会医学徒の任務は,わが国の社会の発展の段階によつてそれぞれ異なつている。今日の段階においてはどうであるか。それを考える中で,若干の問題にふれてみたい。
1)労働者の一日の生活時間構造から考えてみれば,1日の生活は労働の時間と労働外生活時間(いわゆる生活時間)とにわけることができる。労働者の健康を保障し規制する諸条件は,この二つの時間内の諸々の条件である。これらの基本的な条件が良好な状態に保たれない限り,労働者の健康を疾病からまもることは不可能に近い。

医業経済をめぐる二,三の問題

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.638 - P.642

I.はじめに
 わが国における国民医療,ことに第一線医療は,ほとんど私的医療機関の医療サービスに依存している。
 医療施設調査によると,昭和34年度末現在で,全国に病院6,000,一般診療所57,508,歯科診療所26,681あり,一般診療所の85%は個人立である。

スカンジナビア諸国における成人保健計画

著者: 吉田寿三郎

ページ範囲:P.642 - P.649

 主題は,スカンジナビア諸国の成人保健計画であるが,これらの国々は英国の考え方を多分に受けとつているので,この国の事情にも多少触れて話をすすめる。
 出生・死亡の増減から人口学的発展段階を四つに分けることがなされる。スエーデンは1810年ごろに第3段階の第2移行期にはいり,1870年以降少産少死の第4段階にすでにはいつた。

皆保険後5カ年間の岩手県国保診療の推移とその間題点—受診量の分析

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.649 - P.653

 国民健康保険制度については,戦前から長い伝統を有し,戦後いちはやく皆保険の実現をみた(昭和30年7月)岩手県について,一体皆保険によつてその後被保険者の受診はどの程度促進ないし「恩恵」を得ているのか,この5カ年間にどんな問題が明らかにされるようになつたか,そのような見方からこの小論を起こした。ここで用いた指標は,国民健康保険の事業年報に記載されている「診療費」中の日数のみである。件数よりも日数の方が筆者の分析目的にかなつた指標と考えたからである。

巻頭言

社会医学への期待

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.601 - P.602

1
 本年(1961)7月に社会医学研究会の第2回研究発表会が開かれた。1昨年(1959)同準備会の研究発表会から算えれば3回を重ねたことになり総計50題に近い研究報告が討議に上つた。
 大阪においては,早くより,同地の公衆衛生協会内で,社会保障関係その他社会医学的な問題が議せられ,名古屋,仙台地方にも,有志により,社会医学的研究の促進を計る地方的グループができていたが,昨年の第1回研究発表会より第2回に到る間に,岡山および京都にも,新たに社会医学研究会が設けられ,大学・県市の関係者,臨床医,医師以外の学者・職能者による研究,調査,懇談が進められるようになり,また社会医学研究の重要な手段である歴史的研究については,阪大丸山教授らによつて医学史研究会が発足され,社会医学に対する関心は,わが国でも,急激に広まり,深まりつつある。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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