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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生25巻2号

1961年02月発行

雑誌目次

綜説

愛知県における公衆衛生修学生の夏期実習について

著者: 高島常二 ,   神谷昭典

ページ範囲:P.61 - P.66

 将来保健所に働らこうという医学生のために,公衆衛生修学資金貸与法ができたのは昭和32年でありますが,それ以来愛知県にも延13名の修学生が生まれました。そうしてその中7名はすでに保健所医師として活動しています。周知のように保健所医師の充足--とりわけ第一線で働らく若い医師の充足にはひじような困難があることからみて,公衆衛生修学生出身医師の比重は今後ますます大きくなつてゆくだろうと考えられます。事実,現在全国には200名余を数える修学生があるのです。
 私たちはこれらの修学生諸君が実際の保健所活動に参加するまでに,ひろくは公衆衛生運動のさきゆき--とりわけその中での保健所の位置,又現在の保健所のあからさまな実状について,理論的にも経験的にもあるていどの知見を深めておいてもらいたい,保健所についての過大評価も過小評価もともに持たないでほしいと思つています。

ベンゾール蒸気発生環境の換気方法

著者: 六鹿鶴雄

ページ範囲:P.67 - P.73

 労働省で今回制定された有機溶剤中毒予防規則は省令第25号の不備を補い,有機溶剤を禁止せずに換気その他の技術的対策によつて安全に使用させることを眼目としているのは一つの進歩といえるが,かかる換気方法についての研究並びに技術は未だ充分とはいえず,また理論と実際はしばしばくい違いを生じている。ここにおいて私はベンゾール蒸気発生環境の換気方法を実験をもととして考究し,かかる中毒予防の一助に資したいと思う。
 「ベ」は沸点80℃で低沸点溶剤の部類に属し,比重は0.879,分子量は78.11でその蒸気は空気より2.69倍も重い。かかる重い蒸気は空気と同じかあるいは軽い蒸気と換気方法も自から異なり,一般の換気方法が適用し難いことは容易に想像される。

牛乳中の大腸菌群の熱抵抗性に関する実験的研究—特に加熱環境と大腸菌の加熱致死時間との関係について

著者: 春田三佐夫

ページ範囲:P.75 - P.80

I.緒言
 細菌が加熱あるいは各種消毒剤によつて殺菌される場合,いわゆる単分子反応式の法則に従つて対数的な死滅減少の経過を辿る事実についてはすでにMadsen & Nymann1),Chick & Martin2)らによつて明らかにされている。すなわち,任意の時間における殺菌速度はそのときの生菌数に比例し,生菌数の対数と時間との間に直線的関係が成立するということである。これは細菌死滅の対数法則(law of log arithmic order ofdeath)といわれている。著者3)は牛乳中の大腸菌群の熱抵抗性に関する一連の研究において,牛乳中の大腸菌群が加熱処理によつて死滅して行く際にもこの法則が当てはまることを報告した。さらにこの事から,一定温度で加熱する場合に,一定容積中に大量の大腸菌群が存在するときには死滅に長時間を要すること,換言すれば熱死点が高くなるということ,また逆に菌量が少なければ短時間に死滅すること,換言すれば熱死点が低くなることを報告し,もし原乳中に大量の大腸菌群が存在する場合には,62℃,30分の低温殺菌条件の下ではときに殺菌乳中に大腸菌群が残存する可能性のあることを示唆した。大腸菌群の中でも特にE. Coliに属する菌株は他の菌型に属するものよりも熱抵抗性が大であるので,このような可能性が大であると考えられる。

ポリオ中和抗体の変動とその疫学的意義

著者: 金光正次

ページ範囲:P.81 - P.87

1.公衆衛生におけるウィルス病の重要性
 最近の抗生物質や予防医学の進歩により伝染病が減少したために,公衆衛生の重点も伝染病から成人病,精神衛生,環境改善などに移つたと考える人が少くない。確かに細菌性伝染病は激減したが,大多数のウイルス病には抗性物質や化学療法が効かず,有効なワクチンが完成された疾患も決して多いとはいえない。さらに最近に至り新しいウイルス病が相次いで発見され,その分類に惑う位である。これらの疾患は一般に臨床症状も軽く天然痘の如き惨禍をもたらすものはないが,ウイルス性肝炎や悪性のインフルエンザでは死亡例も少くない、また風疹の罹患は畸型児出生の原因となり,前記の肝炎は肝硬変の有力な誘因とされている。その他悪性腫瘍の中にもウイルスを原因とするものがあり,同じ伝染病でも細菌性疾患とは質的に異る要素を含んでいる。ウイルス病で重要なのは抗原変異の問題で,特にインフルエンザではそれにより何時かつてのスペインかぜのような悪性の流行が発生するかは現在の知識では予想もつかない。さらにウイルスの性状やその生体内における増殖,発病の機序などについても不明な点が少くなく,その研究が進むにつれて予防治療の方法も発展して行かねばならない。従つてウイルス病は生物学や治療医学のみならず,公衆衛生においても今後いよいよ重要な疾患となることは明かである。

農村地帯における重症肺結核患者の実態とその発生原因について

著者: 土屋高夫 ,   川畑利夫 ,   広岡フサエ ,   西田ヒデ ,   白石ツ子 ,   岩出ツキノ ,   森山フサ子 ,   榎田満喜枝 ,   今村米子

ページ範囲:P.88 - P.92

1.はじめに
 最近,重症肺結核に関する研究が各方面で進められているようである。しかし,そのほとんどは,療養所・病院等の入所患者,又は生活保護世帯に関するものであり,それらの正規の軌道にのらない,それ以前の問題である,在宅患者についての研究はあまり見あたらないようである。
 私達,公衆衛生の第一線である保健所に勤務する者,特に,東京都民の1/3の年間個人所得しかない,しかも封建的気風の強い鹿児島県の,農村地帯の保健所に勤務する者にとつては,結核予防という面からも,やりきれない気持のすることが多い。この気持を幾分でもやわらげるつもりと,やりきれなさのありどころを探ぐる意味から,私達は,管内の重症肺結核患者の実態を調べてみた。結果において,何分,平常業務の間に実施したので,突つ込みの足りない点のあることも認めるが,管内の,結核検診率もよく,患者の登録管理もよく行われているので,以下に記述する事実は,結核予防の見地から,管内に存在する問題点であり,また農村地帯における問題点を明示したものと考えている。

学童,生徒の循環器系集団検診及び管理について

著者: 岡田博 ,   栗山康介

ページ範囲:P.93 - P.98

はじめに
 近年循環器疾患による死亡率は,わが国に於ても上位を占め,その早期診断及び予防が重要視され,成人を対象とする循環器疾患の集団検診及び管理についての諸報告1)〜8)がなされてきている。1957年の心疾患による死亡率をみると(第1表),人口10万につきオランダで182.4,アメリカ(白人)で339.7,イギリスで341.6となつているの対し,わが国においては73.1と,これらの欧米諸国より低率である。しかるに年齢階級別の死亡率をみると(第1図),29才以下は男女共わが国は他の国をはるかに上回り,特に5〜9才,10〜14才の小学生,中学生においては高率を示している(第2,3表)。ここでこれらの年齢階級における死亡率の推移を昭和元年よりみると(第2図),全死亡率も心疾患による死亡率も戦後漸減してきている。しかし10〜14才の心疾患による死亡率の下降状態は全死亡率のそれに比較すると,減少の程度がゆるやかである。そこで心疾患の全死亡に対する割合をみると(第4表),5〜9才,10〜14才ともその占める割合は最近大きくなり,昭和33年では5〜9才の男子は3.1%,女子は3.5%,10〜14才の男子は6.5%,女子は11.1%と,いずれも大正及び昭和の初期を上回り,昭和33年では5〜9才では男女とも死因順位第7位,10〜14才では男子第3位,女子第2位に位している。

原著

集団検診用血圧計の目盛とその読み取りの検討

著者: 高橋坦

ページ範囲:P.99 - P.105

1.緒言
 聴診法による血圧測定に際して,血圧計の目盛をどの程度の細かさにすべきかという問題は,聴診法が吾人の視覚と聴覚に頼つてなされるという点に鑑み,自らその限界がある筈である。従来の血圧計においては多く2mmHg刻みであり,この細かい刻みの線を見易すくするために10mmHgあるいは20mmHg毎に長く太い線を用い,且,この線にのみ値の数を記入してある。従つて各目盛の線はすべて同一の感覚として吾人の視覚に訴えられず,10mmHgあるいは20mmHgの太い長い線がとくに強く印象づけられる。この点が集団検診における血圧測定に際しどのような影響をおよぼすかを検討し,従来の血圧計の目盛に代えて5mmHg刻みとし且目盛の線をすべて同じ太さと長さとし各線に同大の数値の記入をした構造の目盛を用いて測定し,両者を比較することによりむしろ後者が従来行われている前者に比べて種々の点ことに集計上勝ることを認めたので,以下に報告する。

数種のbephenium類縁イオンのイヌ鉤虫及びブタ蛔虫に対するin vitroの作用活性について

著者: 森下薫 ,   伏見純一 ,   李玉葉 ,   近藤力王至

ページ範囲:P.106 - P.113

まえがき
 4級ammonium ionの一種である,いわゆるbephenium ion(N-benzyl, N, N-dimethyl, N-2-phenoxyethyl ammonium ion)の塩類が,動物の腸内蠕虫に対して,強い作用を持ち,ヒトの強力な駆虫薬になりうるものであることが,英国のWellcome財団の各研究所のスタッフたちにより報告され(Copp F, C., Standen O. D., et al.(1958)),ついで,このbepheniumの2-hydroxynaphthoic acid(3)塩の製剤がAlcoparという名で,ヒトの鉤虫駆虫剤として,Burroughs Wellcome社より発売されるに到つたことは,近来,よく知られているところである。

寄生虫卵検査法の実際面における検出率の比較検討

著者: 湯田和郎 ,   木村末子

ページ範囲:P.114 - P.117

 一時,農村における寄生虫のまんえんは甚だしいものがあつたが,その後,検便駆虫が繰返されるとともに衛生思想の普及徹底によつて寄生虫予防上,かなりの効果が認められるにいたつた。
 つまり,寄生虫の感染率が低下しているばかりでなく,全体の寄生虫体数も甚だしく減少してきたと考えられる。そのように濃厚感染から軽感染へと移り変るにつれて検査成績を吟味するためには検査法の選択,2種以上の併用といつた点の配慮も必要になつてくることは当然であろう。

蟯虫の感染源に関する研究(1)—便所扉の把手からの蟯虫卵検索成績

著者: 清水重矢 ,   阿久沢実 ,   中林正子

ページ範囲:P.118 - P.119

 蟯虫の感染は接触によつておこなわれるのが普通で,たとえば家族内とか,学校内とか一つの集団内においての相互感染がそれである。一方において個人的には自家再感染が常時くりかえされている。このことは蟯虫の生物学的習性に由来するもので,本虫の疫学上もつとも重要な意義を有するところである。
 わがくににおける蟯虫蔓延の実体については,資料が不完全なためにあきらかではないが,Graham(1941)によつてScotch tape法が考案されてこのかたCellophane tapeによる検査が広くおこなわれるようになり,地区的にはその浸淫の状況が次第にあきらかになつてきた。今日までに報告された多くの成績を綜合してみると大体40-50%を中心として60-80%,ときにはそれ以上の陽性率を示している。このような実状から判断して,蟯虫は広汎かつ濃厚に国民の間に寄生蔓延しているものと想像される。したがつてわれわれの生活環境いたるところに,感染源としての蟯虫卵が散布される可能性を考えると,すぐれた蟯虫駆除薬が出現した今日であつても,その感染防止ということはなかなか困難な問題であり,しかも重要な課題でもある。

文献

放射線学における公衆衛生試験室の役割り/病院の地区機関との連絡

著者: 清水

ページ範囲:P.80 - P.80

 最近の放射線および放射性物質の用途の急速な増加に伴い,環境における放射線汚染の問題について各公衆衛生試験室および上下水道に直接関係する機関に速かに有効適切な対策,特に放射能測定に関する一般計画を樹立する必要に迫られて来ている。このためには新しい設備と試験検査機構の設置,それに必要な特殊技術者の確保,およびこれにより必然的に増大する資金面の調整が先決問題である。
 ここに1例としてのフロリダ大学フエルプス衛生工学研究室(Phelps Sanity Engineering Research Laboratory of the University of Florida)における過去3ヵ年継続実施した一般計画の概要を報告する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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