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綜説
ポリオ中和抗体の変動とその疫学的意義
著者: 金光正次1
所属機関: 1札幌医科大学
ページ範囲:P.81 - P.87
文献購入ページに移動最近の抗生物質や予防医学の進歩により伝染病が減少したために,公衆衛生の重点も伝染病から成人病,精神衛生,環境改善などに移つたと考える人が少くない。確かに細菌性伝染病は激減したが,大多数のウイルス病には抗性物質や化学療法が効かず,有効なワクチンが完成された疾患も決して多いとはいえない。さらに最近に至り新しいウイルス病が相次いで発見され,その分類に惑う位である。これらの疾患は一般に臨床症状も軽く天然痘の如き惨禍をもたらすものはないが,ウイルス性肝炎や悪性のインフルエンザでは死亡例も少くない、また風疹の罹患は畸型児出生の原因となり,前記の肝炎は肝硬変の有力な誘因とされている。その他悪性腫瘍の中にもウイルスを原因とするものがあり,同じ伝染病でも細菌性疾患とは質的に異る要素を含んでいる。ウイルス病で重要なのは抗原変異の問題で,特にインフルエンザではそれにより何時かつてのスペインかぜのような悪性の流行が発生するかは現在の知識では予想もつかない。さらにウイルスの性状やその生体内における増殖,発病の機序などについても不明な点が少くなく,その研究が進むにつれて予防治療の方法も発展して行かねばならない。従つてウイルス病は生物学や治療医学のみならず,公衆衛生においても今後いよいよ重要な疾患となることは明かである。
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