icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生25巻5号

1961年05月発行

雑誌目次

綜説

生活構造の歪みと慢性病—日本人の生活を中心に

著者: 佐藤徳郎

ページ範囲:P.249 - P.256

 アフリカとアメリカの黒人では胃癌,肝癌,肺癌の分布が全く異なつている。これは全く生活様式の相違に基くもので,癌の成因を解く鍵がこの中にひそんでいる。われわれはもつと風俗習慣を正確に知り,生体に及ぼす影響を分析しなければならぬ(グラスゴー癌病院Dr.Peacock)。このような現象は癌だけでなく種々慢性病についても考えなければならぬことと思われる。
 慢性病が自覚され,受診するようになつてからでは治療しても,作業能力の回復の面からはそれほど期待できない。そこに至るまでの中途の過程の異常即ち臓器の慢性疲労の状態を知り得るとすれば(自覚症が少なく,現在では疾病とは認められぬ場合が多い),その後の病状の発展を抑えることが可能となる。特にその原因が明らかにされたものでは,容易であると考えられる。

国民健康保険から見た低所得と結核—氷上町国保と結核

著者: 赤沢淳平 ,   B. ブッシュ ,   五木田和次郎 ,   雀部猛利 ,   柴田粛

ページ範囲:P.257 - P.263

1.はじめに
 今年は国民皆保険達成の年で,国保も量的広がりから質的向上への転換期をむかえ,その手はじめとして,世帯主に対してだけであるが,結核7割給付が実施され,国保結核対策もまた新しい段階にさしかかつたわけである。しかし,全面7割給付という国民的要求をこうした形でしか実施できないのでは,国保は依然「富者の医療保障」にとどまり,貧困層に対する医療保障,ひいては防貧策となり得ない。
 こうした観点にたつて,結核対策を国保の中心課題としてとり上げ,国保による保障を向上させる努力をしている実例がある。それが兵庫県氷上郡氷上町国保である。

衛生行政研究序説(その2)

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.265 - P.275

5.行政学等の方法論に学ぶもの
 学問の水準が高まるためには方法論の検討がきわめて重要であることはいうまでもないが,その第1歩としては,従来の考え方の整理とその系譜づけが重要と考えられる。先に考察したように,衛生行政学は公衆衛生学の一分科であるとともに,一般行政学の一分科として位置づけられるものと考えられるのであるが,このような見地からすると今後の衛生行政研究にとつて,これらの母体となる学問の領域,とくに一般行政学における方法論ないしはその系譜づけを学びとることが,きわめて有益であると考えられる。現代行政学の発展過程および最近の動向については,すでに概観したところであるが,以上のような見地から,まず行政学における方法論とその系譜を概観することとしたい。
 方法論的にみると,アメリカにおける行政学は,例えばGoodnowのComparative Law, 1893にひとつの典型がみられるように,19世紀末から20世紀の初頭にかけて,まず比較制度論にはじまり,行政の現実把握を目的とする行政調査に発展し,さらに1915年以降科学的管理法Scientific Management1)のこの領域への積極的な適用によつてその基礎が固められたものといえる。このようにして現代行政学のひとつの重要な系譜として,いわゆる技術的行政学が確立されたのであるが,まずこの立場を代表する二,三の行政学者の所論についてみよう。

ソビエットの母子衛生

著者: 松尾正雄

ページ範囲:P.276 - P.282

I.まえがき
 ソビエット連邦共和国の事情もいろいろな面でわが国にも紹介されるようになつて来た。
 鉄のカーテンの向う側の話も段々その稀少価値もうすれて来つつあるようである。衛生関係についても1958年に当時の厚生省統計調査部長であつた軽部弥生一氏が衛生全般に亘つて視察して来られ,またその後厚生省からも山形,三浦両技官,森本保険局長に私と最近相ついで訪ソの機会を持つに至つている。何れもWHOやISSA等の公式のプランによるものであつて.それぞれの立場とテーマからその情況が報告されつつある。

公衆衛生最近一年間の進歩

著者: 田波幸男 ,   加倉井駿一

ページ範囲:P.283 - P.286

衛生行政
 公衆衛生は近年急速に進歩したといわれているし,いろいろなデータを見てもたしかに進歩していることはまちがいない。ただ進歩しているのは公衆衛生だけではなく。他の分野の進歩もまたおどろくべきものがあるのだから,それだけでよい気持になつている訳にもいかない。このように進歩はしたといつても,公衆衛生の分野では,何か大きな発見や発明があつて,そのためには旧来の状況が面目を一新したというようなことは少ないようであつて,その進歩は連続的であり,飛躍はない。したがつて進歩が大きいとはいつても,それはある期間をおいて比較してみないことには進歩の程度がはつきりしない。その期間は少なくとも,5年くらいは必要のようであつて,昨年1年間の進歩ということになると中々判断がむずかしいことになるのではなかろうか。
 それに最近に至つてはわが国の公衆衛生は新しいテーマというものは少なくなつた。例えば社会保障の面での年金制度又は児童手当制度の創設というようなものに相当するテーマは今の所あるまい。問題はすでに出つくしてしまつているので,現在はその一つ一つをどのようにして片付けて行くかといつた地固めの段階にあるようように思われる。たとえ新しい問題があつたとしても,現在はすでに実施されている諸施策の充実に意を用うべき時期であるように思われる。このような点も進歩といつたはつきりした面がとらえにくい理由でもあろう。

座談会

公衆衛生院から二十年—衛生技術者の養成・訓練など

著者: 山下章 ,   杉原正造 ,   岡田貫一 ,   林路彰 ,   小池重夫 ,   橋本正己 ,   西川滇八

ページ範囲:P.288 - P.297

 編集部 お伺いいたしますと,公衆衛生院で養成訓練事業が始まつてから20年を越すといいますが,公衆衛生院発足の頃からの回顧と,そこから出てくる問題が,今後の公衆衛生のあり方にどういうふうに反映してくるだろうかという将来の展望まで含めてお話しいただけたらと思います。
 岡田 今日は予定しておりました埼玉の山下,千葉の北原両課長が,共に県議会の関係で出席できません。非常に残念ですが,時間がまいりましたので始めさせていただきます。早いもので,公衆衛生院で日本の公衆衛生に従事する正規の技術者の養成訓練事業を開始し,1年の教育課程を終わつて社会に送り出してから,今年で21年になります。今日お集りの先生は,第1回と第2回の卒業生で,いわば公衆衛生畑の20年選手という卒業後ひきつづき公衆衛生に打ち込んできた人ばかりなんですが,そこでいろいろ編集長のおつしやつたような点について語り合つて,今後の公衆衛生にいく分でも寄与できたら幸せじやないかと思うのです。それで,調べてみますと公衆衛生院が第1回の養成を始めたのは昭和14年でそのときにきた学生が25人いるのです。第2回目が17人なんです。教育機関が1年だつたのは,戦前では2回までで,3回,4回,5回というのは4月から始まつて12月で終わるとか,1月から9月で終わるとか,1年のコースを踏んではいないわけなんです。それでも戦前5回でもつて66人の衛生技術官を出しているわけです。

原著

東北一山村における百日咳の集団発生について

著者: 辻義人 ,   久保井愰 ,   本間安正 ,   牧野礼子 ,   星島啓一郎 ,   佐藤健象 ,   横山定助 ,   長浦小一郎 ,   大串章

ページ範囲:P.298 - P.303

I.疫学的調査
 百日咳の疫学については既に小山1)による報告があるが,尚かなりの問題を残しているといわれる。特に僻村における爆発的流行に関する調査報告は極めて少なく,金子2),辻3),六弥太4)らの報告が最近10年間に散見される程である。しかし百日咳に先天性免疫が存在するか否か,或いは不顕性感染の存在の有無,予防接種の効果判定等々の疫学的特性を知るためには,爆発的流行の事例を観察することは極めて重要なことと云わねばならない。この意味においては辻5)は福島県の一山村における流行性耳下腺炎の疫学的特性について述べているが,今回は同じく福島県において百日咳の爆発的流行を観察したので報告する。
 患者の多発した地区は,福島県河沼郡柳津町西山地区で,福島県会津地方の交通不便な,周囲と殆んど隔絶された山村である。

文献

双生児の寿命と知能

著者: 芦沢

ページ範囲:P.286 - P.286

 ニユーヨーク州居住の60歳以上1,603組の白人双生児の調査から次のような成績がえられた。1)60歳以後の5歳別生存率には,双生児と一般人口との間に何ら差異がない。したがつて年齢学的の諸研究に寿命の点では双生児標本は一般人口母集団の標本とみなしてよいことになる。2)一般に対の双生児同士の寿命の差は,年をとるにしたがい少なくなるが,同じ性でも一卵生の方が二卵性にくらべその差ははるかに少い。3)134組の双生児にWechsler-Bellevue Intelligence Scale I,List I of Stanford-Binet (1916) Vocabulary Testおよび普通のタッピングテストを課し,8年たつてそのうちの36組には再び同一テストを課した,8年たつてみると,例外なくどのテストについても平均スコアは同一人についてみると低下を示した。4)テストの6項目中5項目までは一卵性双生児同士間のスコアの差の方が対の二卵性同士より小であつた。
 一卵性双生児にあらわれている遺伝的な生物学的同一性は老年期にわたつても強く作用し,寿命だけではなく,精神機能にも相当影響をおよぼしていることがわかる。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら