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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生25巻6号

1961年06月発行

雑誌目次

特集 食中毒 綜説

最近の食中毒の動向

著者: 高野武悦

ページ範囲:P.305 - P.308

 昭和34年全国各都道府県から厚生省に報告された食中毒の発生状況は,事件数2,468件,患者数39,899人,死者数318人で,10年前の昭和25年における964件,20,302人,332人に比し,件数において約2.5倍,患者数において約2倍の増をみており,死者数において若干の減を示している。過去10カ年の年次別 食中毒 報告状況は,第1表の如く,昭和30年が,3,277件,患者63,745人,死者554人と,最高の発生をみているが,これは,ドライミルクによる砒素中毒事件等の特殊な事例発生のためと思われるので,この昭和34年の異常発生を除けば,2〜3の例外はあるが,件数,患者数は,年々増加の傾向にあり,死者数については,例年200〜300人を数えているということができよう。
 この件数,患者数増加の原因についての考察は,しばらくおき,昭和34年の発生について,その概略を述べてみることとする。

食中毒の疫学調査

著者: 松田心一

ページ範囲:P.309 - P.317

I.序言
 およそ疾病の発生には,それがどのような疾病であるにしても,その拠つて起る何等かの成因と機序とがなくてはならない。
 疾病の発生流行に関する疫学調査は,この成因と機序とを究明して,それを制御し,また予防することに究極の目的がある。

ボトリヌス中毒の発見をめぐつて

著者: 中村豊

ページ範囲:P.318 - P.326

 食物中毒のうち激しい脳神経症状を呈し,また致命率のたかいことによつて最も怖れられているボトリヌス中毒は,わが国においては最近まで絶無とされていた。また嘗て土壌からのClostridium botulinumすなわち原因菌の芽胞の検出陽性という報告はなく,その土・泥などの中に分布は無いと信ぜられていた。これを証拠だてる事実として,本中毒の原因食として知られているハム,ソーセージあるいは缶詰など,わが国では盛に食用に供せられ,あるいは輸出されているが,これら本邦産の製品を食して本中毒に罹患した例はほとんどない**。すなわち,わが国はボトリヌスに関しては安全地域であるという考えが支配的であつたといえる。
 しかるに著者等は昭和26年5月下旬北海道の日本海沿岸の知られた漁港である岩内町の郊外島野村で起つた飯鮨(いずし)を食しての患者14名,うち死者4名,重症者3名(他の7名は軽症)の中毒事件を道衛生部の依嘱によつて調査研究し,これはボトリヌス中毒であることを確認して発表した1),2)

座談会

好塩菌による食中毒症

著者: 福見秀雄 ,   岡田貫一 ,   柳沢文徳 ,   児玉威 ,   西川滇八

ページ範囲:P.328 - P.339

 編集部 この頃,食品衛生の面で,好塩菌に関することが,いつも話題にのぼりますので,これに関する座談会をお願いして,いろいろとその本態だとか,疫学,中毒発生の予防面,その他をお教えいただければと思つてお集まりいただいた次第です。宜しくお願いいたします。
 岡田 第一線における保健所その他,地方衛生部におきましても好塩菌中毒に関する取り扱いの基本的態度がはつきりとしておりませんので中毒発生のたびに困つているのでございます。今日は先生方に学問上のご意見の相違もご遠慮なく,十分ご意見を承り,できれば予防措置の点にまで触れてお話いただければ幸と存じます。それでは司会はひとつ福見先生にお願いいたします。

原著

病原性好塩細菌P. enteritis Takigawaによる食中毒の発生防止に関する実験的研究

著者: 天明黎子 ,   柳沢文徳 ,   山口三重 ,   田中香麿 ,   広瀬周二

ページ範囲:P.340 - P.346

緒言
 病原性好塩細菌による食中毒が,昭和30年滝川氏1),2)によつて指摘されて以来,本中毒が注目され,とくに昨年来急に原因不明魚介類食中毒のうちのアジによる食中毒との関連について本菌が問題になつた3)。そのためにこの菌による中毒例が各方面より報告されるに至つた。著者等の一人柳沢は原因不明鮮魚(厚生省統計資料では魚介類)食中毒事例の過半は病原性好塩細菌によるものと推定し,その根拠として宮城県の中毒事例を引用してその裏付けとしている4)。魚介類の食中毒が全中毒の50〜60%を占めていることより考えると,本菌による食中毒の解明は勿論のこと,その予防対策については,科学的根拠を有する根本的方法の確立が極めて急を要するものと考えざるを得ぬ。しかるにこの問題の解明に関する研究は何故かきわめて少なく,いまだ多くの未解決問題が残されているのは極めて遺憾であると言わざるを得ぬ。
 食中毒の発生機序より考えて,その予防対策を考えねばならぬが,一般的に原因細菌と食品,それの摂食の経路をみると。

新鮮イカによる食中毒の研究—主として中毒発生原因物質について

著者: 藤原栄一

ページ範囲:P.347 - P.354

昭和30年6月17日から7月上旬頃まで,佐渡観光団に食中毒が集団的に多発して,原因食品としては両津湾沖で水揚げされたイカが挙げられた。同年7月11日新潟県衛生部員によりイカの刺身の試食実験が行われ49名中15名が食中毒を起し,イカが原因であることが確認された。1)
 その後各方面で食中毒発症原因物質についての研究が進められ,イカが水揚後細菌によつて腐敗して有毒アミンが生じ,これが発症の原因になつたと考える研究者2)3)4)5)6)もある。新潟県衛生部員の試食したイカは鮮度のよいイカであつて,水揚後の細菌による腐敗の考えにくいものであつた。またイカ摂取後発症までに平均13.7時間7)を要しているので,アミン類が発症原因ならばこれらの経口摂取から発症までの経緯についても更に一考を要すると思われる。

東京都下大島に発生(昭和34年)せるアジを原因食とする食中毒の調査成績—特に病原性好塩細菌を対象として

著者: 柳沢文徳 ,   田中香磨 ,   天明黎子 ,   広瀬周二 ,   山口三重

ページ範囲:P.355 - P.360

まえがき
 魚介類に原因する食中毒のうち,同一魚種で,一定の地域内に多発している食中毒であるにもかかわらず,原因不明に陥つている事例が極めて多い。この疫学的考察は柳沢1が既に総括しているので,省略するが,昭和34年夏〜秋にかけて,静岡県,千葉県,伊豆七島にわたり,アジの生食による食中毒が多発し,アジによるいわゆる原因不明食中毒が発生した。この中毒の疫学的,病因的調査は,厚生省,東京都において,詳細に検討されたが,病因に関しては,検体が入手出来ぬという結果,不明に陥つた。本中毒発生末期に厚生省食品衛生調査会で,本中毒の病因につき検討されたが,多くの意見があり,統一をみなかつた。この席上柳沢は,病原性好塩細菌がmarine bacteriaに関係が深いことから,その菌との関連を推定して発言し,児玉は神奈川県のアジによる集団中毒事例より,病原性好塩細菌を検出した経験から,この流行性を思わせるアジ中毒も病原性好塩細菌であろうと論じた。また松井は宮崎県日向市に発生せるアジ中毒で,病原性好塩細菌を宮崎県衛研の稲田等2)が分離したことを報告して,病原性好塩細菌との関係につき示唆を与えた。いまここに当時を回顧すると,中毒の探知がおくれ,いずれの場合も検体を入手することができなかつたことに,病因判明ができなかつたのである。

原著

蟯虫の感染源に関する研究(Ⅱ)—硬貨および紙幣からの蟯虫卵の検索について

著者: 清水重矢 ,   二橋功 ,   中林正子

ページ範囲:P.361 - P.363

まえがき
 指頭や爪垢などを対象として寄生虫卵の検索をおこなつた報告のうちから,とくに蟯虫卵に関するおもなものをひろいあげてみると,丸野1)は1,818名の学童の爪垢を検査し,男女平均して2.79%に蟯虫卵保有者を,1.52%に回虫卵保有者を,そして0.64%に鉤虫卵陽性者を証明し,さらにその保有率を年齢別,性別にみたのに,蟯虫卵と回虫卵保有率の最も高いのは両者とも7歳男児で,前者は13.04%,後者は8.19%であつたといつている。森脇2)は病院の外来を訪ずれた4歳から10歳以下の幼小児500名の指頭洗滌液から80名(16.0%)に蟯虫卵をみとめ,篠原3)は某隣保館児童66名の指頭洗滌液(主として爪垢)をしらべ,9名(15.1%)に蟯虫卵を検出し,松田ら4)は学童2,190名の爪垢中から53名(2.42%)に蟯虫卵を,236名の学童の指頭洗拭液から蟯虫卵保有者10名(4.24%)を見いだしている。わたしどもの一人清水5)は510名の小学児童の指頭洗拭液から68名(13.39%)に蟯虫卵を,また,300名の児童の爪垢をしらべて58名(19.33%)に蟯虫卵を証明した。辻ら6)は学童85名の爪垢から蟯虫卵保有者41名(48.2%)を検出し,ことに低学年では62%の陽性率をみたといつている。

文献

1936-1956年間のフィンランドにおける白血病死亡率,他

著者: 芦沢

ページ範囲:P.326 - P.326

 最近小児白血病の増加が各国で心配されている。アメリカ合衆国では已に小児急性伝染病死の1倍半以上ポリオの5倍以上の死亡率を示している。
 これは骨髄穿刺により容易に診断がつけられるようになつたにしても異常の増加である。1951年のWHOの報告によると,アメリカ,スウェーデン,デンマーク,南アフリカが上位群,ずつと下つてスイス,オランダ,イングランドがあり,さらに下にフランス,イタリヤ,フィンランドが位する。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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