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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生25巻8号

1961年08月発行

雑誌目次

綜説

食品腐敗研究隨想

著者: 松村䏋

ページ範囲:P.417 - P.423

 ここに私の掲げた題目は,食品腐敗に関してであるが,そもそも私が本問題に手を染めた動機が,脚気の原因に関する研究で始まつたのである。脚気という病気は周知の通り栄養の部分的欠陥から発生するものと考えられている。しかし私はこの栄養失調によると思われている脚気が,疫学的考慮の上で一種の伝染病であり,しかしその病原体は腸内に寄生増殖し毒性を発揮するものであろうとの強い疑いをもつのである。脚気病の疫学上の諸条件を解明し,その病理解説を満足に解決するには,どうしてもこの根拠より出発せねばならぬと固く信ずるのである。食品衛生学上,脚気問題が重要である限り,その病因に関する事項に触れることは,必ずしも無駄なことではないと思われる。そして,脚気腸内菌叢の研究に関連して私どもの食品腐敗研究が実験遂行せられた次第である。左様なわけで,はなはだ回り路とも見えるが私は最初に先ず脚気問題に触れることにしたい。
 大正の初頭頃と思うが,その当時東大入沢内科で,脚気の栄養学的研究が大規模に行なわれたことがある。昔から脚気は白米食に随伴する特異な疾患であると考えられ,これに米糠を補充することによつてその発病並に症状の経過を軽減することが出来ると伝えられていた。入沢内科においてはこの米糠成分の補給がどの程度脚気治療に有効であるかを突つこんで観察攻究せられたようである。

技術革新と医師及び医療

著者: 暉峻義等

ページ範囲:P.425 - P.432

(1)
 過去40〜50年の間に,日本の医学は科学的医学としての基礎をきずき上げた。特に第2次世界大戦の後においては,物理科学の画期的な進歩や,これに関連する生産技術の画期的な発達によつて,医術もまた驚くべき進歩を見ることになつた。人々はかような科学および技術の進歩と,それに伴つて改善されてゆく生産技術の発達,またこれに密接に関係してわれわれの社会生活にせまつてきた社会経済並びに国民経済の変革や教育制度の改革,人々の人生感,社会感の変化をひつくるめて,これを技術革新の時代と呼んでいる。われわれはかかる意味において,今,現に社会革新の渦巻の中に立つているのである。
 医学や医術の側について考えると,先ず最も著しい現象は,科学的医学が,公衆衛生制度を発達させたことであろう。医学や医術にたずさわる人は勿論,一般の人々もこの新らしく生まれた公衆衛生の思想や制度に対して異常な関心と期待とを持つている。しかし公衆衛生とその制度とは,決して突然にわれわれの社会の中に生み出されたのではない。それは科学的医学と医術との発展の中に生み出され,そしてそれを前提として発展をとげ続けているのである。しかしこの新らしく成育している公衆衛生制度は,これが実際にわれわれの社会に広く行われるについては,ただ科学的医学や医術だけによつているのではない。むしろそれはわれわれの時代に生きている全部の人間の社会感や生活感の変革の結果であるとみるべきであろう。

農村衛生の問題点

著者: 宮本璋

ページ範囲:P.433 - P.440

 農村の諸問題が現在大きな曲り角に来ているということは,新聞紙上等でしばしば指摘されているところであるので今さら事新しくいう必要もないのであるけれども,ことに最近農業基本法が制定されるというような事態になり,農村はここで全く新しく脱皮しなければならない情勢になつて来た。もち論かかる脱皮が日本経済全体の新しい転換期における一つの部分現象と考えれば,これは単に農村だけの問題でないことはいうまでもないのであるが,かかる転換期において農村衛生に心を寄せている者に新しい問題が種々起つて来ているのもまた当然で,私達はここでこれらの立場から改めてこの新しい情勢に対する種々の問題を考えて見たい。
 もち論,農村衛生の諸問題の中には新事態になろうとなるまいと一貫して不変の問題も幾つかある。例えば,如何にすれば農村における文化の指導を今日のような騒々しさや軽薄さから離れてもつと高度な近代性を持たせることが出来るか,ことに農村の生活態度を更に一層科学的にする事が出来るかというような問題は,農村衛生の最も根本的なまた最も重要な問題として,事態が曲り角に来ようと否とにかかわらず.むしろ日々新らたな問題として考慮されねばならない。

日本における衛生行政研究小史(その2)

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.441 - P.453

3.大正時代および昭和初期
 日清,日露の両戦役を経て,資本主義体制を確立したわが国の産業経済は,第1次世界大戦により手薄となつた欧州諸国の海外販路を独占することにより,未曾有の産業勃興の気運をつくり上げたのであるが,このような情勢による労働者の大需要は,多くの農民を工場へとかり立てた。一方このような経済界の好況は物価騰貴を来し,好景気の裏には生活難の声が高くなり,大正7年8月富山県の一漁村に起つて全国に波及した米騒動はこのような世相の産物のひとつであつた。つづいて大正9年3月から始まつた反動恐慌により,工場閉鎖,中小企業の倒産があいつぎ,失業者は急激にふえて階級対立は激化し,労働運動と農民運動とが都市と農村に激しい勢で進展していつた。さらに,大正12年の関東大震災,昭和2年の金融恐慌,昭和4年の世界恐慌と打ちつづく悪条件は,国民の生活を窮迫におとしいれ,社会問題は深刻化の一途を辿つたのである。
 以上のような時代の動きを背景として,明治時代においていちおう近代的体制の基礎を整えたわが国の衛生行政は,大正から昭和に入るに及んで新しい段階へと一歩を進めたのである。すなわち,その第1は資本主義体制の発展に伴う社会問題に対処するための社会政策的立法であり,明治44年の工場法(大正5年施行)1)を先駆として,大正6年の軍事救護法,同11年の健康保険法2)3),昭和4年の救護法,同6年の労働者災害扶助法等が制定されている。

―公衆衛生最近一年間の進歩―衛生統計・人口問題・家族計画

著者: 木村正文

ページ範囲:P.454 - P.456

 標題のような3項目についてまとめて書くことは,かなり困難である。それらは最近それぞれ独自のフィールドをもち,さらにそのなかでも細分化してきているからである。しかし他の分野程に細分化し総合化されてもいない未熟な学問分野であることも否めない。
 まず,衛生統計の分野であるが,衛生統計学はますます数学化しつつある傾向にある。

原著

新鮮イカによる食中毒の研究—続報 昭和32年夏新潟地方に発生したイカ中毒と年間イカ検査成績

著者: 藤原栄一

ページ範囲:P.457 - P.459

イカ中毒発生状況
 昭和32年新潟県内イカ中毒は第1表のごとく7月25日新潟市に初発し,以後9月30日までに報告されたものは6件22名である。ほかに佐渡観光団に起つた集団イカ中毒は次の3件がある。
 その第1は8月7日宮城県白石市県立白石高校生に佐渡両津市の1旅館が午前6時頃朝食にイカの刺身を出し,午後4時頃から93名中55名が腹痛,嘔吐,下痢などの軽い症状を起した。

Ascaridia galliの鶏卵内迷入について

著者: 松崎義周 ,   菅沼洋逵 ,   菊池滋

ページ範囲:P.460 - P.462

I.緒論
 蛔虫の特性の一つである異所迷入については極めて多くの報告がある。胆嚢,輸胆管,鼻腔,耳腔,腹腔,稀に涙管,鼓室,膀胱,子宮,心嚢等ほとんどあらゆる臓器,部位に迷入し、脳内より発見した例すらある。
 斯様に腸管より自然の通路を持つ諸臓器はもち論,通路を持たない各種臓器よりもこれを発見している。

北陸地方の肺吸虫症分布状況の調査—その集団検査法の検討

著者: 横川宗雄 ,   辻守康 ,   大倉俊彦 ,   吉村裕之 ,   佐野基人 ,   ,   莇昭三 ,   石田宗治

ページ範囲:P.463 - P.469

まえがき
 北陸地方の肺吸虫症に関する報告は少なく,古くは黒柳(1892)が石川県で,上原(1894)が富山県砺波に於て,又渡辺(1903)が石川県浦上に於ての各1例宛があり,又近くは1958年に石川県七尾在住の10歳男子が皮膚肺吸虫症の疑いにより東京で腫瘍切開を行なつたことを聞くのみである。
 しかるに最近スクリーニングテストとしての肺吸虫症皮内反応の実用価値が認められ,今迄流行のみられなかつた多くの地方から肺吸虫症患者が多数見出されていることは周知の事実であり,われわれも又北陸地方に隠れたる流行地があるのではないかという考えのもとに以下のごとき方法により前後3回にわたつて調査を行なつた。即ち,皮内反応を用いてまずスクリーニングテストを行ない,本反応疑陽性・陽性者についてはさらに補体結合反応及び虫卵検査を実施した結果は,新たに流行地と思われる地域を見出したのでその結果を報告する。

赤痢菌のペニシリン感受性とその臨床的適用について

著者: 大原徳明 ,   羽賀正夫 ,   嶋貫実 ,   渡辺正男 ,   大串章 ,   長浦小一郎 ,   佐藤健象 ,   兵藤三郎

ページ範囲:P.470 - P.475

緒言
 最近,細菌性赤痢の治療において各種抗生剤に対する薬剤耐性の問題が取りあげられている。実際に,分離された赤痢菌のStreptomycin(SM),Tetracycline(TC),Chloramphenicol(CP)に対する高度の薬剤耐性についての報告も,昭和30年以降続々と報ぜられ1)2)3)4)また,これら抗生物質の多剤耐性菌による集団赤痢も経験されるに至り5),治療上のみならず公衆衛生の面からも重視されるに至つた。われわれも昭和35年福島県において分離された赤痢菌について抗生剤薬剤耐性を検討するとともに,従来Gram(-)の桿菌には感受性なしとして使用されていないPenicillin(Pn),Leucomycin(LM),Erythromycin(EM)等の赤痢菌に対する感受性も検討し,あわせて臨床的実験も試みた結果,興味ある知見を得たので報告する。

文献

都市住民における中毒(事故)の疫学対象の選出と訪問方法/アルコールと青少年

著者: 有賀

ページ範囲:P.453 - P.453

 本研究は都市住民における中毒の発生とその性格を研究するために試みられた。
 最近病院において中毒(事故)に対する関心が高まつてきたが,病院等における資料ではこの問題を評価するのに自ら限界があつた。そこで住民を直接訪問することにより病院の資料並びに地区の中毒情報センターからの資料と併せ考究することによりその性格を知ることが可能であろうと考えられた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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