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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生25巻9号

1961年09月発行

雑誌目次

特集 成人病対策

癌の疫学からみた癌対策

著者: 平山雄

ページ範囲:P.489 - P.494

A 癌の自然史と対策の諸段階
 次に示す第1表はLeavell及びClarkの教科書Preventivl Medicineに掲げられてある表を参考にして作成したものであるが,癌の自然史の諸段階に対応して,対策の諸段階が存在していること,例えば,癌の発生及び分布に影響する諸因子は,病理変化前期に作用するものであるが,それらを取除く努力が,対策面では,第1次予防(つまり原因対策)となり,更にそれを細別すると,健康増進と,特異的予防に分れることが示されてある。自然史の方で,臨床水平線に頭を出す前後の所に焦点を合わせたのが,第2次予防で,具体的には早期発見と即時治療であり,発病後の経過を悪化させぬ努力が第3次予防で,重症化予防と,後遺症の制限,作業復帰の問題などが,これに属している。
 癌対策に関係するものは,このような全体的な姿を充分頭に入れておく必要があり,現在の努力は,自然史の諸段階,対策の諸段階のそれぞれどこと対応しているのかをまづ明瞭にしておくことが肝要と考えられる。

高血圧,心臓病の集団検診

著者: 小町喜男

ページ範囲:P.495 - P.503

1.はじめに
 最近,各地で高血圧,心臓病に対する集団検診が実施されるようになつたが,その検診方法は確立されたものはない。また,疾患の性質上,一,二の検査方法で検査を行い,判定指導することは極めて困難であり,しばしば判定に誤りを生じたり,見落したりする危険がある。また,高血圧,心臓病とはいつても,その疾患内容は単純でなく,さらにこれらに関係をもつ疾患(たとえば糖尿病,腎臓病など)もとりあげて,ともに検査していく必要がある。
 このように,高血圧,心臓病の集団検診は,その方法において多くの問題を抱えているが,これらの点を解明して,比較的多数の人を無理なく,しかも正確に検査するための方法を確定することが,現在第一に必要なことである。

高血圧・心臓病患者の指導方針

著者: 秋山房雄

ページ範囲:P.504 - P.509

はじめに
 ここで患者の指導というのは,病院や診療所で行なわれている薬物による治療についてはつけたりの程度にして,重点をそれ以外の保健指導において考えてみたいと思う。
 一般に,成人病といわれておる疾患にあつては,一度出来上つてしまえばそれをもとに戻すことが不可能であり,せいぜいその進行度をおそくするとか,自覚症状を軽減せしむることが当面の問題となり,それによつて合併症の発生を防止出来ればその目的は達し得たといえよう。ところが現在のところ,その指導方針といわれておるものはおおむね消極的なもので,その根拠となるものは,従来の医学的経験から,悪化や合併症の発生に重大なキッカケになると考えられる諸条件を軽減あるいは排除することにあるが,しかしここに考えられる諸条件なるものが果して重大な意味を有するかどうかについての根本的な資料や批判が現在までのところまだまだ不充分であるので,以下述べる指導方針についても,そこに大きな割引きをして考えねばならぬ点のあることを前以つて述べておかねばならない。

高血圧・心臓病の後療法

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.510 - P.515

A.高血圧の後療法
 本態性高血圧症の経過は,これを個々に検討すれば大体次の四つのいずれかの場合あるいはその組合つた場合が考えられる。
 1.停止性,長期間にわたつてほとんど不変。

循環器集団検診とその限界

著者: 伊藤良雄 ,   石川中 ,   森沢康

ページ範囲:P.516 - P.522

I.はしがき
 成人病,主として循環器疾患は病気の性質上癌と並んで可及的早期に発見し,適切なる処置乃至治療を実施しなければ治癒は勿論のこと,活動力の保持生命の延長はおぼつかない。慾をいえばその前段階において発見してこそ始めて完全な成人病対策といえよう。かようなねらいをもつて各所で集団検診が行われている。正常と異常とはその両極端においては一見して差は明らかであるが,境堺域にはどちらに入れるべきか判断に迷うものがあるのは当然である。集団検診においても必然的にかかる困難な問題に直面しなければならない。また循環器疾患は種々の検査所見を綜合して始めて診断が下されることが多く,且つ検査法の中には時間を要するものもある。これ等のことは集団的に物事を処置する上に大いに問題となる点である。従つて現今各所で行なわれている循環器集団検診の方式も画一的なものでなく,それぞれ多少とも独自の特徴をもつており,結核検診の如き標準方式の設定は近き将来に残された問題である。以下問題点につき若干のべてみたい。

成人病対策における問題点

著者: 山形操六

ページ範囲:P.523 - P.527

I.はじめに
 成人病問題が最近とみに論議されるようになつてきたのは当然のことながら喜ぶべき現象である。そして各都道府県の段階においては,すでに何等かの形において具体策を実施中である。もち論各県の実情に適応した特長をもつた施策であるため,各々が勝手ばらばらに実行しているのだといつてしまえばそれまでだが,これは詳細に内容分析してみると,決して思いつきを施行しているのではなく,充分考慮した上での施策であつて,根本の柱としてはそれぞれ共通の基幹が存在している事実がうかがえるのである。また,そろそろ国の対策が明示されても良い時期であるとする説も多い。一方成人病の中でも,がんを主とする対策を考える時,早期発見といつても集団検診の形で計画立案することは時期尚早であるとする意見もある。このように今後の成人病対策に関しては,医療機関の立場,あるいは行政機関の立場等から観察すると,それこそ思い思いの論がとび出してくる。いずれにも根拠があるのではあろうが,将来の重要な課題であるだけに,この機会に充分考慮検討することも意義あることと思う。私見をまじえて恐縮であるが,今後の問題点を二,三提供して話題とし,ご批判ご指導を賜われば幸甚である。

日本における衛生行政研究小史(その3)

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.528 - P.539

5.第2次世界大戦後(昭和20年8月〜)
 明治初期以来,太平洋戦争の終末に至るまでの日本における衛生行政研究の歩みを前項までに概観したのであるが,これらは本格的な衛生行政研究ないしは衛生行政学にとつては,いわばその前史ともいうべき段階といえよう。すなわち,この時期を通じて個々についてみると,後年の衛生行政研究の先駆的業績として高く評価されるべきものも稀ではないが,全般的にみると日本の衛生行政発足の後進性と社会的政治的環境の悪条件に災されて,衛生行政研究の本格的な確立と発展に至らなかつたといえる。このような見地からすると太平洋戦争の敗戦を契機とする社会的政治的条件の激変は,与えられたものとしての要素が大きかつたとはいえ,平和憲法の下に福祉国家の建設を掲げ,公衆衛生活動の発展にはきわめて好適な外的条件が具備されるに至つたのであり,このような背景の下に公衆衛生活動発展のひとつの側面として,衛生行政研究の気運が徐々にではあるが,しだいに動いてきたことは決して偶然ではない。以下に戦後における衛生行政研究の動きとその流れをそれぞれの時代の社会的背景を念願におきながら概観することとしよう。

綜説

成人病の統計

著者: 渡辺定

ページ範囲:P.477 - P.488

I.成人病とは
 成人病とは,厚生省が従来老年性疾患といわれている疾患に対し提唱した名称である。成人という字が「成人の日」などに用いられている関係上,20歳前後の人の病気と間違われやすいが,所謂老年性疾患が多くは老年に始まるのでなく,すでに壮年より罹患の端を発しておる関係から,成熟期からの疾病という意味から用いられ出した。が,一方には,これらの所謂老年性疾患が近来の医学と公衆衛生の進歩によつて伝染病が減少のため,国民死因の上位を占めるに至り,老年性疾患の予防改善の対策が厚生省の重要政策として取り上げられるに至つたが,これを老年病対策と銘うつより他の適当な命名ということから,成人病と名付けられたと聞きおよんでいる。
 厚生省では一方,成人病対策としてまず脳卒中高血圧,がん,心臓病に重点をおいて,多くの国立病院には,診療センターをおくほか,本年度は予算を得て,成人病の国民調査を始める予定であり,各府県も成人病対策に力を注ぎ,保健所でも高血圧に対しては集団検診を行なう所が多く,他方,大病院ではいわゆる人間ドックや簡易外来健康調査などが行なわれて,成人病の予防と治療に大きな貢献がなされつつある現状である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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