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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生26巻1号

1962年01月発行

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総説

新生児保健指導の問題点—とくに新生児死亡の予防可能性

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.1 - P.9

公衛の見地から新生児保健指導を訪問指導というかたちで実施する前提として次のことが重要であると考えられる。第一に新生児保健の問題点発見の根拠として
 1)新生児死因統計の分析
 2)病理解剖所見の考察
 3)新生児死亡の予防可能性,および責任所在の検討
 4)新生児死亡の社会的経済的要因ならびに母体側要因との関係
 などからいかなるものが予防できそうであるか,またいかなるリスクグルーブが区別できるかなどの判断に立脚すべきである。その意味でいえることは母性および小児保健を切りはなすことは全く不合理である。しかし便宜上出生後のいわゆる後天的なものに主眼をおいて対策をたてるとすれば感染防止にとどめをさす。何となれば未熟児,奇形などによるこれまでの新生児死亡のかなりのものは予防困難の現状であるからこれらに多くを望むことは無理である。また新生児死亡を支配する社会的,経済的要因の存在からみて,とくに危険度のたかいと推定される母子を優先し,低社会層のものおよびその集積地区を重点的にかつ濃厚に指導することが必要である。これはとりもなおさず地域差に応じた問題中心的アプローチであってその背景となるものは疫学の活用である。(Bierman,1958)21)個人的あるいは地域的に必要度を測定することなく保健指導を実施することは労のみ多く,その効果を期待することができないと思う。

予防接種について

著者: 金子義徳

ページ範囲:P.10 - P.19

 予防接種に関連する伝染病の5年ごとの発生患者数,死者数は第1表のごとくである,あるものは著しく減少し,あるものは依然として発生をつづけ,その間の変遷にはかなり著しい差異がある。この変遷は1)感染源対策,2)伝染経路対策,3)感受性者対策の3原則の上にたつ防疫対策において全く考慮の外におくというわけにはゆかない。防疫対策は上記3原則の中で最も効果的なものに重点をおくのが当然であるからであるこのような統計資料,昭和28年の赤痢全国実態調査1),あるいは昭和30年のジフテリア全国実態調査2)のごとき行政調査は防疫に極めて必要であり,重要な示唆を与えるものである。
 昭和36年10月第17回日本公衆衛生学会において"予防接種の諸問題"のシンポジゥムがもたれたのも,上記の意味では時宜に適したものであり,重要な問題や今後の課題が提起された。本文においては筆者がシンポジゥムで担当した"ワクチンの効果と副作用"を中心に,その疫学的背景についても資料を提供しご参考に供したい。

疲労の本態とその対策

著者: 横堀栄

ページ範囲:P.20 - P.26

1.疲労とは
 疲労1)という現象はわれわれ人間の生活に密接な関係があり,だれもが経験する常識的な概念であるために定義しようとすると難しい。
 この理由は基礎的な現象を追究する研究者の立場,家庭における主婦の疲労観,職場で生産能率の増進や安全管理に関係するものの立場などによって,疲労に対して,みなちがった見方がとられるためである。

胃癌の成因とその周辺をめぐる問題

著者: 佐藤徳郎

ページ範囲:P.27 - P.39

 いろいろの人癌の成因もいつかは解明される時が来ると考えられる,いつまでもわからぬだろうとか,基礎研究が完成した上でなければ手をつけられぬという気持の上にいつまでも安住できるだろうか。人癌の研究は主題の胃癌に限らず,思いのほか急速に進行していると考えられる。それは基礎研究の面では主流をなしていないかのように見受けられる人びとのたゆまぬ努力の結果と結びついていることが多い。それらの関係を解析しながら胃癌の問題をふりかえってみたい。
 人の癌は地理病理学も教えるように,人間生活の場において捕えなければならぬものであって,その作用因子は限られた条件しか備えぬ固定した実験条件や,観念の外にはみ出ている可能性がある。また実験上動物にあてはまる発癌の条件が,人間にあてはまるか否か,問題視される場面もあり,整理を要する。かつてのコレラ,ペスト,結核その他の伝染病原菌の発見が示したように,原因がわかってしまえば,それまでの種々の学説は厳密な批判を受けることになるのは歴史的な必然である。研究者は絶えずこのことを念頭におき,自己の言動に反省を加えなければならない。また学説に止まらず,民衆の啓蒙に従事するときは特に慎重を要すると考えられる。

医療制度と医師—診療所医師について

著者: 木村慶

ページ範囲:P.48 - P.51

 1.
 将来の診療所はどうあるべきか,という論議が年々活発になってきている。いよいよ深刻さを加えてきた医療費問題の解決をはかるにも,また日本の医療制度全体が露呈している数々の矛盾を克服するためにも,このことは何としても避けて通れない問題の一つである。
 健康保険の急速な普及,受診率の一年ごとの上昇,医療内容の高度化による健保医療費の増大は,国家財政政策の壁にぶつかったあげく,低医療費政策となって医療機関にはね返えってくる。そして病院・診療所問,診療所相互間の競合は激化させられる。医学技術の進歩は医療給付額を高めると同時に,他方診療所にも施設・設備の高度化を要求し,これを競争の手段の一つとさせ,逼迫した診療所経営にさらに圧力をかけることになる,現在出されている将来の診療所の構想は,この圧力をどう処理するかというところに一つの立脚点をもっていると考えることができる。

医療制度と医師—専門医制度について

著者: 朝倉新太郎

ページ範囲:P.52 - P.54

1.はじめに--専門医制度の意義をどう把握するか
 医療技術が進歩し,専門分野のひろがるにつれて,高度の専門技能を有する医師の育成と,その処遇をどうするかということは,ますます重要な課題となつてきている。
 そこで,この問題を解決する力法として,いわゆる「専門医」の制度化が医学界の一部の人を除いては,おもに医師でない人の側から強く唱導されている。

名誉会員を訪ねて・2

石原先生にきく

ページ範囲:P.40 - P.47

衛生学教室ができるまで
 編集部 先生が大学をご卒業になったのはいつ頃ですか。
 石原 明治42年の暮れなので,もうそれから52年になります。

紹介

ソ連の労働衛生学

著者: 北上幸雄

ページ範囲:P.55 - P.55

 ソ連では各地方の工業中心地に職業病と労働衛生研究所が設けられ,独自な研究を行なっているが,モスクワ,レーニングラード市にある職業病,労働衛生研究所はともに数百人の研究員と巨大な施設をもって有名である。
 これら職業病,労働衛生研究所では労働条件と環境が労働者の健康状態におよぼす影響について調査研究をすすめている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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