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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生26巻10号

1962年10月発行

雑誌目次

特集 職業病

内職者の職業病

著者: 三浦武夫

ページ範囲:P.533 - P.539

 筆者は特に「内職者の職業病」を組織的に調査を行ったわけでもないが,大阪地区で昭和32年〜34年の間にヘップサンダル作業者の中から6名の死亡者を出し,ベンゾール中毒問題が社会問題として大きくとり上げられた時期に関連して,内職者の検診も一部行われたのでそれらについて述べることとする。

疫学における職業の意義 I.各種疾患の疫学における職業の意義

心臓病・高血圧症

著者: 秋山房雄

ページ範囲:P.540 - P.543

I.諸統計
 まずわたくしは,すでに発表された諸先輩の統計から出発致したいと存じます。

腸管系伝染病

著者: 小張一峰

ページ範囲:P.543 - P.544

 疾病と職業という命題を疫学的背景において考察する時,癌,循環器疾患などのように,職業が原因的なものとしてとり上げられる,すなわち職業がまずあって,次に疾病が問題になってくる。ところが,病原細菌の経口感染による急性腸管系の伝染病の場合は,むしろ疾病があって,次にその職業が問題になってくる。いわば,因果関係の相反するものが1つのシンポジウムの中にとり上げられている証であるから,他の演題と共通の論旨を欠く点をご了承願いたい。

精神障害

著者: 梅沢勉

ページ範囲:P.547 - P.549

 精神障害を職業という点から分析した報告はほとんど見当らない。精神障害の研究そのものがまだ搖らん期にあるためであろう。わが国の実態として昭和29年東京大学で八丈島,三宅島,池袋,小諸,四地域の精神障害実態調査から全国数を推計した報告は第1表の通りでこの報告のうち第2表の成績がわずかに職業との関連を示している。
 職業と精神障害の関係をみる場合次の5点がまず問題となる。

災害

著者: 池田克明

ページ範囲:P.549 - P.550

災害現象の疫学的アプローチ
 流行病に類推を求めて災害現象に疫学的方法を導入しようとする試みはかなり早くから見られ,Greenwoodの多発災害に関する統計的研究はすでに古典的なものに属する。近くはMcFarland,Gordon等はこのような立場から災害現象についての疫学的研究を行っている。
 災害現象の他の立場からする(Heinrich,National Safety Concil,Schulzinger,鶴田)発生因子の把え方も疫学におけるHost,Agent,Environmentの要因把握と基本的に異るものではない。

II.職業病の疫学的研究方法

統計学の立場から

著者: 臼井竹次郎

ページ範囲:P.551 - P.551

 職業別死亡統計のしかも国家統計のことに限って申上げます。人口動態統計が明治32年の分から発行され,明治39年からは死因統計が独立しました。この時初めて職業別死亡数が発表されました。これがずっと続いて来ましたが昭和18年には遂に職業別ははつされてしまいました。戦後人口動態統計が復活しましたが職業別が取入れられたのは昭和28年からでありますので,職業別死亡数に関しては10年間ブランクだった訳であります。
 復活した戦後の職業別死亡統計について統計調査部は大いに力を入れて文献①②のような特別報告を編集しました。毎年の人口動態統計死亡の部に職業別を入れたのは昭和28年からですが,①文献によってその前の昭和26〜27年にかけての1年分について,ここに掲げてある項目について統計をとりました。また同じ項目について産業別分類も行われております。そして記述の部で大凡の死亡率は計算済みでこれ等に対して解析を加えております。死亡率算出の基礎人口は昭和25年の国勢調査によっております。

生態学の立場から

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.552 - P.554

I.はじめに
 職業病が発生するのは生態学でいう主体と環境との不適合(Maladjustment)の際である。したがって不適合の度合いに応じて閾値(Threshold)逆に健康からみれば恕限量とか致死量(Ceiling)という概念が生れてくる。その不適合というのは主体環境系(生態系)が次ぎのように考えられているので決して単一なものではない。勤労者個人の場合,同種職業の勤労者の集団,ある地域的社会を形成している勤労者群,さらに社会共同体をつくっている勤労者層と環境との間に生れる不適合も考えられるはずである。このうち職業病の生態学においては特に生態系(Ecosystem)を重要視するようになろう。

労働衛生の立場から

著者: 土屋健三郎

ページ範囲:P.554 - P.555

 労働衛生の立場から職業という要因を考えるときに,労働衛生という言葉の代わりに職業衛生という言葉を用いた方がよいと提案する人々もある位で,あらためてその意義や重要性を述べるまでもない。しかし,疫学と労働または職業衛生との関係について考究し,改めて労働衛生の疫学的立場から職業の意義または位置を議論してみたいと思う。さらに私が最近行なった職業病の一つである鉛中毒についての疫学的研究成果の一部を報告し,ご批判を吃う次第である。
 労働衛生は他の公衆衛生の分野と同様,施策をその最終目的とする学であるから,基礎的研究から衛生管理,立法行政にまで関与する広範な分野を有する。その目的とするところは労働者の健康の維持増進であるが,他方生産という目的を度外視できないので衛生管理は複雑な問題を提起する。そして疫学という方法論と思索の態度は衛生管理上重要な位置を占めることになる。

名誉会員を訪ねて・6

鯉沼茆吾先生に聞く

ページ範囲:P.556 - P.568

 編集部 先生は衛生学会の名誉会員でいらっしゃるんですが,長いこと衛生方面にご活動なすっていらっしゃる。きょうは先生を中心として,先生の歩んでこられた衛生学会の歴史のようなことをお伺いしたい。また今後の衛生学会はどうあったらいいかというようなことも,折にふれてお話しいただきたいと思うんです。先生,学校をご卒業になってすぐに衛生学教室にお入りになっているんですが,まず衛生学教室にお入りになった動機のようなことからお伺いしたいと思うんですが,先生は大正6年に大学をご卒業になって翌年すぐ衛生学教室にお入りになっているわけですね。
 鯉沼 そうです。12月に出まして,1月から入ったんです。今でもそうでしょうけれど,いろんな教室のジッツが出ましてね。それにみんな希望を入れていくわけでしょう。どこへいったらいいか。(笑声)困っちゃって主な臨床はもうふさがってくるし,席の関係で。私は生化学をやりたかったんですが,生化学に入ると長くかかるでしょう。2,3年勉強しなきゃならん.それだけの資力がないんです。それで早く世の中に出る方法ということで,その当時衛生学教室にクルズスというのがあったんです。主として細菌学の修練ですが,3カ月それを勉強してそれから社会に出ようというわけで,衛生学というよりは細菌学の勉強ですが。石原房雄さんが大体の指導でね。

綜説

界面活性剤について—特に中性洗剤ABSを中心にして(3)

著者: 柳沢文徳

ページ範囲:P.569 - P.584

はじめに――ABSと公害――とくに社会問題
 衣類,食器の洗浄,工業面への応用に用いられるABSが,微生物による非分解のために,米国,ドイツ,英国を始め,諸外国では土壌滲透による地下水の汚染,井戸への滲透,河川への流入,上水道汚染,下水侵入による浄化作用能の低下などの公害問題が十数年前より発生している。
 かような環境衛生上,重要な問題がABSの普及により生ずることが,わが国でも外国の文献の推勢を注目すれば明らかに予測されうるにもかかおらず,それらに対する何らかの施策がなされぬままに現在までに至った。環境衛生行政上,はなはだ遺憾である。前にのべたが家庭用のうちで,食器,野菜使用を厚生省が奨励した以後において,衣類洗剤としても,その使用量が増加したことを考えると,この奨励時に適確なるABSによる公害問題対策を樹立してなければならなかったのである。なぜか当時の施政者は普及のみに力を入れ,公害対策につき無配慮であった事実を,公衆は批判し,あらためて行政の欠陥を十分に吟味する必要がある。この無定見なる考え方の現われが,去る国会委員会の席上,85)五十嵐環境衛生局長の答弁,すなわち玉川浄水の水道水にABSが0.9ppmもすでに侵入している旨の発言である。

文献

訪問保健士(男子)の出現

著者: 芦沢

ページ範囲:P.550 - P.550

 1919年英国ではじめてHealth visitor(H. v)の資格が定められた時には,とくに女子に限るということはなかつたが,1925年から助産婦の資格も必要とされてから,Health visitorは男性に対し門を閉ざすこととなった。保健の面から家族の相談相手としては,子供の育て方,しつけ方の相談,食事の相談から家計のやりくりにおよぶことが多いので,主婦や子供の母親の相手としては女子の方が適しているといえようが,専門職として衛生教育専門職,Psychiatric-health visitor,after-care officer,geriatric health visitorの必要が認識されてくると,男のhealth visitorが出現する契機が生まれてくる。
 そのためには今までのH. v. の教育に加えて発達心理学,教育心理,教育技術,ケースワークの基本技術などの修得が必要となる。すでに1948年以来,ロンドンで,最近はグラスゴーで,それぞれ1年または7カ月の研修コースが設けられている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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