icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生26巻11号

1962年11月発行

雑誌目次

特集 社会医学(第3回社会医学研究会講演) 巻頭言

社会医学研究発表会の反省

著者: 西尾雅七

ページ範囲:P.587 - P.587

 7月28日,29日の両日,社会医学研究会の第3回研究発表会が京都で開かれた。前回の研究発表会で決められていた「社会医学をどう理解するか」「医療保険の統合をめぐる問題点」をテーマとする二つのシンポジウムをもつた上に,一般演題の発表が前回以上に及んだこと及びシンポジウムにおいても,一般演題においても,極めて活発な討論がかわされたことなどでは社会医学への関心が年々高まってきていることを示すものといえよう。また盛夏の京都での会合であったにも拘らず殆んど全国から多数の参加者があり,しかも全く個人の自由意志による新入会員が60有余名に及んだことは社会医学研究会の将来の発展を約束するものとみて差支えなかろう。
 人によっては,一般演題が僅かに18題ということを問題にするかも知れない。しかしながら,他の学会の如く僅かに数分の発表時間では,批判される材料を与える時間も充分でなく,ただ演者の顔見せにしか過ぎないことになりがちである。充分な討論が,それは研究結果についての討論のみではなく,より基本的な研究態度,すなわち問題の採りあげ方,研究の運び方,研究のまとめ方等に関する詞論がなされることが,社会医学の推進には必要かくべからざることであるが,こうなると1題20分の発表時間ではいささか不足気味で18題でも2日間の日程では多過ぎる位であった。

第3回社会医学研究会シンポジウム

社会医学をどう理解するか

著者: 曾田長宗 ,   黒子武道 ,   籾山政子 ,   原島進 ,   庄司光 ,   小宮義隆

ページ範囲:P.588 - P.597

□司会者のことば□
 「社会医学をどう理解するか」というシンポジウムを如何に進めて行くかについては,司会者としても大変苦労いたしました。
 私は,先ず最初に何々学とはどのようなものかという「わく」が出来て,その後学問的研究が進められるというよりは,何か具体的な研究が,ある程度,いろいうと進められ,これらの研究に共通する特徴が認められるようになってから,これを「何々学」とも名付け,一定の研究方法も確定し,この段階に到ると,その後は,いろいろ具体的な問題が次ぎ次ぎに処理されて,この学問の急速な発展を見るようになるものだと考えていますので,余り早急に,社会医学の定義如何というような問題の取り上げ方には,少からず疑問をもっておりました。

"社会医学をどう理解するか"についての討論

ページ範囲:P.598 - P.605

 曾田長宗(座長)皆様方からきたんのない,いろいろなご意見を拝聴いたしたい。また,いままでお話いただきました先生方にもご質問なり,補足なりしていただきたいと考えます。あるいは仙台とか岡山とかでもいろいろと中間的討議が行なわれたと聞いております。なるべく皆様から自発的なご発言をお待ちしたいのではありますが,差支えなければ,東北大の前田先生あたり如何でしょうか。先生個人のご意見でも結構ですから口火をきっていただきたいと思います。
 前田信雄 私の考えでは,理念あるいは原理として,あるいはもっと明確にフィロソフィーとして,この社会医学をとらえてゆく仕方に対して危険を感じます。というのは,何かそういうことでもって,今われわれに課せられている必要というものを,ぼんやり誤魔化してしまいはしないかと思います。それからGrenzgebietという観点,いわゆる医学者が社会保険の問題を,あるいは経済学者が社会政策学のなかの医療保障の問題,医療の問題をとりあげてきた歴史というものを,何か軽視する,なかでもその体系を作ることへの軽視が生じはしないかということが懸念されるわけです。

一般演題

伊豆離島における保健問題

著者: 南雲清

ページ範囲:P.606 - P.607

I.大島出張所管内の概要
 当所は第1図のごとく伊豆諸島のうち,大島,利島,新島,式根島,神津島の5島を管轄し,管内人口は約2万人(第1表),男女ほぼ同数であり,年齢構成は10〜14歳台を底辺としてピラミット型をなしておる。
 地域的には東京より約120kmの地点に大島があり,大島〜神津島間は一直線上に各島が点在しこの間の距離は約69km,交通は3日に1回の定期便が各島を結び,所要時間は5〜6時間であるが,この航路も風雨となれば欠航し,特に冬期になると天候のよい日を選んで就航する程度で海上の交通は保障されてない。このため島民は多くの不便をしのび,また保健活動その他の活動に大きな支障をきたしている。

琉球列島の医療・保健衛生の現況

著者: 相沢竜

ページ範囲:P.608 - P.610

 演者は昨秋,長崎大学風土病研究所の宮古群島の調査に参加し,琉球の医療・保健衛生の概況を調べたので,報告する。
 琉球列島は自然的社会的に種々の特徴をもっている。(1)著しい離島性と僻地性,(2)海洋性亜熱帯性気候,さらに毎年の台風被害と冬季節風連吹による海洋気象の特徴等が琉球開発の自然的障害となって来た。(3)従って産業全般にわたる後進性,すなわち農業が産業の主体であるが生産性が低く,第二次産業が著しく遅れ,さらに近年沖繩南中部の那覇,コザ市を中心に商業,サービス業の著しい発展,さらに文化,教育,経済等諸般にわたる遅れと低い生活水準,(4)戦前の内地に対する著しい従属性と今次大戦における甚大な戦禍,終戦処理・復興の遅れ,さらに米軍政下,ついで米民性下という特殊行政下にあること。

周産期死亡の社会的背景—長崎市における実態調査よりの一考察

著者: 原田圭八郎

ページ範囲:P.610 - P.612

 戦後わが国の乳児死亡率の低下は周知のように実にめざましく,一方新生児死亡率のみについても乳児死亡率同様の驚異的な減少を続けている。しかし,自然死産率の動きをみると戦後年々上昇しており,近年では新生児死亡の著減と自然死産の異常増加といった衛生統計上奇妙な現象が認められる(第1図)。
 すなわち,新生児死亡も(自然)死産も共に出産前の要因に大きく影響されるという生物学約な特性から考えると納得しがたい現象である。そこでこの間の事情を更に明確にするために,晩期死産と,早期新生児死亡(但し戦前については生後10日未満をとった)とを合わせたいわゆる周産期死亡の動向をみる必要がある。周産期死亡率は戦前には新生児死亡とほぼ同じ傾向で減少し,今次大戦中にも(資料がないため即断できないが)戦前と同様に低下していたと思われる。ところが,戦後では僅かな減少しかなく,現在出産千対40以上の値で停滞している。これは近年のスウェーデン,オランダなど欧米先進国の低い水準に比べると遙かに高く,なお改善の余地が相当あるものと思われる。この周産期死亡率の戦後における停滞から考えても,新生児死亡と自然死産とにみられる相矛盾した現象は,単に衛生統計上の問題としてだけでなく,社会医学的にも今後解決を要する問題のようである。

福岡県における育成医療

著者: 水俣大八郎 ,   糸永義明

ページ範囲:P.612 - P.615

 現在厚生省においては,社会保障の整備を進めている。
 ここに医療保障の一つである育成医療に関して,福岡県においてその給付状況を昭和33年度から昭和36年度の4カ年にみて,衛生行政,ことに保健所業務の立場から考察を試みた。

乳児死亡をめぐつての社会医学的考察

著者: 丸山博 ,   南吉一

ページ範囲:P.615 - P.617

 戦後日本の乳児死亡率の低下をもって国民の健康水準向上の証拠だとする主張や,保健技術進歩の結果もはや乳児死亡は国民健康のバロメーターとして役立たなくなったとする意見などがあるが,まさしく乳児死亡は社会医学の課題たりえなくなったのであろうか。本稿ではこの点に考察の焦点を合わせた。
 乳児死亡を客観的に標識する際いつも統計数値が用いられるのだが,その統計の基盤はあまり問題にされていない。われわれは,乳児死亡の評価をある特定の単一指標に求めることは科学的にみて無理であるばかりか危険であり,それは出生前後に関するいくつかの指標の関連の下に行わなければならないことを終始一貫指摘してきた。その最大の理由は,現行社会制度下において,人間の出生,死産,死亡といったデリケートな事象が正確に統計的に把握されうるとは考えられないこと,および関連諸事情の変化にあってはそれらの事象自体すらが自在に操作されうる現実があることのためである。

都市低所得階層の健康問題

著者: 渡辺弘 ,   細川汀

ページ範囲:P.617 - P.619

 戦前に比し企業規模による賃金較差は増加し,日雇・単純労働者・臨時工など低所得労働者の生活はますます悪化している1)。特に大都市におけるこの階層は家屋の老朽化・環境衛生の劣悪・社会病理的問題の増加などと相伴なって停滞または沈澱を深めている2)。われわれは種々の企業における労働者の健康管理をすすめて来たが,零細企業労働者および年少工や臨時工の血液所見が大企業労働者に比して低値を示すことを認めた。このことから,労働者の健康障害を問題にするばあい生活水準がどれほど大きい因子であるかを検討する必要を感じ,若干の調査を行なった。
 低所得階層の健康に関する調査は従来から多く行なわれているが,その大部分は生活保護を中心とする救貧ないし社会福祉対策を目的としており,被保護者ないしは日雇労働者スラム街住民などを対象としている。しかしかれらも労働者階層の一つを形成しており,また他の労働者階層を経過して没落するばあいが多い。従ってこれらの階層は連続したものとして捕捉しないと,対策もバラバラに切り離なされる結果になりかねない。このことは行政面において労働・民生・保健が分離されていることから一そう注意を要する点であろう。

休業率よりみた鉄鋼労務者の実態

著者: 三谷和合 ,   水野洋

ページ範囲:P.620 - P.622

I.産業合理化をどう考えるか
 この数年来,わが国においても技術革新に基づく産業全般の合理化が盛んに行なわれているが,わが国では単に技術革新に基づくというのでなく資本主義競争に打ち勝つために従来すでに産業の各工程で当然合理化されていてよいものを,近来どうしても行なわざるを得なくなつたというのが,特に中小企業の実状といえよう。経営,資本の側はこの合理化は単に生産性の向上のみならず,労働者の従来の過酷な重筋労働を軽減させてもいると宣伝し,一般にこの産業工程上の合理化は労働者の健康を守り,その作業率を下げているのだともいわれている。しかしそれらに対してはすでに多くの人々によって反撃が加えられ「資本主義の下におけるオートメーションは一つの形態の疲労を他の形態の疲労に,肉体的疲労を神経の緊張におきかえている。」というように表現され,事実現場の労働者もそのことを直接その肌で感じている。しかしながらこのような疲労の形態の交換はますますいわゆる現在の生物学的自然科学の方法で,数量的に疲労と健康破かいの度合を把握させることを困難にしている。市川氏が「鉄鋼」(岩波新書)で述べておられるごとく「鉄鋼業における設備合理化=近代化によっても鉄鋼労働者に対する収奪は少しも軽減されるどころかより強化される」のが現実の産業合理化の姿である。その現実を社会医学の立場からどうとらえて行くべきか,そのささやかな第一段階の試みを報告し,ご批判を願いたい。

「社会医学についての質問」調査

著者: 大谷 ,   北川 ,   浅野

ページ範囲:P.622 - P.624

 「社会医学をどう理解するか」のシンポジウムの資料とするため,社会医学研究会会員を対象として,表記の調査を昭和37年4月に実施した。質問紙と回答用紙を郵送し,返送を求めたが,回答率は60%で,回答人員の内わけは第1表のとおりであった。
 質問紙の質問事項は9項目であるが,以下その回答集計の要約を述べる。

富山県クル病多発地帯に於ける社会的因子の調査成績について

著者: 河野稔 ,   中山忠雄 ,   大出博 ,   笠木茂伸 ,   藤井晃夫

ページ範囲:P.624 - P.626

 われわれは過去数年間に亘り主として純医学的な面より富山県下のいわゆるイタイイタイ病並にクル病の調査を行って来たが,実際にクル病調査班を組織して県下のクル病多発地帯に入ってみると従来クル病の発病因子として重要視されて来た紫外線の不足,ビタミンDの欠乏,カルシウムの摂取量不良,Ca:Pのアンバランスな食習慣,Protein Scoreの低いこと等々の事実を確認して来たのであるが,これらの因子の根源を更に探ってみるとこの地帯における疾病地理学的な因子たる北陸特有の悪い気象条件を更に悪化せしむる傾向すなわち山林の鬱蒼たる傾斜面に家が立っていること,また家屋構造が全く採光を顧慮せずに建てられていることおよび貧しい農山村の経済的条件より必然的に食生活が不良となり更に栄養知識の欠乏がこれを更に悪化させている傾向など数々のクル病発生の母体となっていると思われる点を認めたので,これらの社会生活的因子の基礎的資料を得るため先般来われわれの調査班はクル病の専門的集団検診を実施するかたわらルネサンドの環境因子の調査方法に準じてこれらの地域における住民の①職業的因子(Professional Factor),②労働的因子(Laboratory Factor),③経済的因子(Economical Factor),④家庭的因子(Familiar Factor),⑤教育的因子(Educational Factor)等につき調査した結果につき報告する。

無専門医村に於ける検診成績とその対策(第3報)—特に社会医学的環境因子について

著者: 笠木茂伸 ,   馬場三男 ,   多賀谷敬 ,   五十嵐とし子

ページ範囲:P.626 - P.628

 医学はその診断技術と治療面に著しい進歩をもたらし,また予防医学と化学療法の発展により,肺結核と急性伝染病の激減をみるに至ったが反面,脳血管障害,心臓病とか癌や精神病等は増大を示している。経済状態の好転により一般国民大衆の生活水準は改善され,生活条件労働条件がよくなり,疾病は減少して健康増大が期待されるわけであるが,必ずしも実態はそうでない。もちろん国民の平均寿命は延び,死亡率も減少しているが,成人病は増加している。すなわち国民の健康は,医学が進歩したということと経済が好転したということとは,必ずしも平行するものではないということで,近代医学をいかに一般大衆あるいは無専門医村に応用しえたか,そしていかなる具体的方法により適用しえたかということ,また経済問題と労働に関しても,いかに合理的に運営実施されているかということの検討と改善がなされない限り,国民の健康増大は根本的には望まれないと考えられる。われわれは,昭和34年4月より対象を千葉県,茨城県の無専門医村地区にとり,疾病の発生分布,その地域特異性,労働と疾病の関係および健康増進対策をすでに報告(公衆衛生第24巻第11号および第25巻第11号)してきたが,今回は茨城県の東村の高血圧家族60軒を対象として,社会医学的環境因子について調査し,成人病多発地区である東村において,健康を阻害している因子が何であるかという発見と検討を行う目標を立てこの研究が実施された。

兵庫県氷上郡における新しい保健医療計画(その3)

著者: 安達伝次郎 ,   五木田和次郎 ,   柏原荘 ,   氷上町保健課

ページ範囲:P.628 - P.631

 健康でゆたかな町づくりを目ざす兵庫県氷上郡氷上町が,病気追放の第一陣として手をつけた結核対策は,結核医療費の全額保障と予防,治療,患者管理の一元化を骨子として,昭和33年8月に発足した。本年8月で満4年をむかえたわけである。
 この間,一般住民の結核検診では,第1表に示すとおり,年々ほとんど100%に近い成績をあげてきた。この成績をあげるため,初年度には,5回にわたって延べ110ヵ所にあまる検診場を開設するという大がかりな方法をとったのであるが,こうした努力がこの成績を維持する鍵になっている。ただ,第2表のごとく,最初の年には第一回の検診で76%の住民が検査をうけたにすぎなかったのが,年々その割合いが増大し,36年度には90%近くの1町民が第一回の検診で検査をうけていることは,自発的に結核対策に参加しようとする住民の自覚の高まりを示すものであろう。

保健所における健康管理への一試案—その背景と今後の在り方

著者: 橋本周三

ページ範囲:P.631 - P.633

はじめに
 保健所というものの存在は,健康という問題について住民と直接接触する機会の多い重要な機能をもつ行政機関である。しかし,この保健所がもつ性格は,社会的に理解され,運営されているとは考えられない面がある。それは,保健所という建物の中で行なわれる業務内容が,行政行為を行なう行政庁なのか,営造物行為をする場所なのか,その性格が明確でない上に,この業務を運営する人が,行政的な考え方と,公衆衛生的な考え方をする人が併存して,前者は,行政行為を中心とした法にもとつく事務処理的な立場(以後行政的と呼ぶ)をとり,後者は,営造物行為を中心とした医療行為的な立場(以後公衆衛生的と呼ぶ)をとろうとするからである。
 筆者は,この両者の考え方の中にあって,保健所は,行政機構の一隅に位置する行政庁であると考え,この機構の中にあっていかに公衆衛生を展開させたらよいかを考えてみたいと思う。

初診医療機関と患者の関係及び転医の実態について

著者: 山下節義 ,   奈倉道隆 ,   西尾雅七

ページ範囲:P.633 - P.636

I.はじめに
 医療機関の集中している地域では,患者は一疾患の治療中に自分の判断で医療機関を転々と変える傾向があるといわれている。このことは,治療の一貫性が保たれ難いという臨床上の問題および医療費の浪費という経済的な問題等に限らず,医師と患者の結びつきの弱さ,医療機関相互の結びつきの弱さといった問題をも含んでいると考えられる。
 そこでこれらの問題を明らかにするために,‘62年2月より3月にかけて,京都・大阪の大病院の入院患者を対象として,個別に面接し,発病当時の受診状況・転医過程・転医の動機・患者の職業・学歴等を質問し,また病院カルテより入院時病名・居住地等を調査する一方,各病院のそれぞれの主治医より臨床的立場からの入院時期の適否等についての意見を求めた。

退院患者の動向について(第1報)—その医療受診と自宅療養の問題

著者: 奈倉道隆 ,   山下節義 ,   西尾雅七

ページ範囲:P.636 - P.638

はじめに
 近時,疾病構成上の主要な問題点が感染性疾患から慢性・退行性疾患へと移り,また高年齢層の入院患者中に占める割合が急激に増加している1)。このことは,当然療養の長期化をもたらし,重篤な患者が入院治療を受けたのちもさらに自宅で療養を続ける傾向が増すものと考えられる。従って退院患者の医療受診の状況や自宅療養上の問題を追求することは,わが国の医療のしくみを明らかにする点からも,また今後の保健活動推進の上からも,きわめて重要であると思われる。
 このため「初診医療機関と患者との関係および転医の実態について」2)と同一対象について退院後の動向を追跡し,先の調査資料と関連づけつつ問題追求に当っているが,退院後1ヵ月目の調査成績について,中間集計を行い第1報として報告する。

在院に関する研究

著者: 吉田寿三郎 ,   岩佐潔 ,   津田豊和

ページ範囲:P.639 - P.641

 述者らは,社会医学を「疾病についての社会科学」と割り切って,患者循環問題を研究している。
 日本という後進資本制社会を前提とした場合,その厳しい社会的,経済的および権政的限界をいかに排除して医学上の要請を展開するかという社会科学的な努力が必要であるが,これに劣らず,かかる限界内においていかに医療をその必要性に応じ民主的に均霑し,その効率をかちとるかがまた重要である。述者らの関心は,上記の問題研究にあたりとくに後者の見地におかれている。

京都における失対労務者の生活と健康の実態

著者: 西尾雅七 ,   山下節義 ,   竹沢徳敬 ,   川合一良 ,   武田恭子 ,   宮入昭午 ,   帯刀弘之

ページ範囲:P.641 - P.644

 南病院は全日自労千本分会と共同して千本労働出張所内に医務室を設け,3年前から失対労務者の診療に従事してきた。失対労務者は早朝に現場の紹介を受けると4日間働き,5日目はアブレ(失業日)となる。この紹介日とアブレの日に医務室を訪れるわけで"早朝""多人数""設備の狭小"などの悪条件のため予防医学的段階に達することが困難であった。他方日常診療の経験から体系的な健康管理の必要性が痛感されたので,その基礎資料を得るために今回の調査を行なったのである。
 調査対象は京都千本労働出張所に登録する失対労務者約3,600名で,昭和36年9月から11月までの間,24カ所の労働現場に出張して調査した。内容は労働時間,生活条件,病歴等に関する詳細な面接調査と,尿,屎,血液(Ht,CoR,CdR,ガラス板法,CRP),EKG,胸部レ線撮影,診療等多岐にわたるもので,本年2月までに全受診者に結果を通知し,さらに精密な検診と診療に取り組んでいる。

文献

在宅患者の看護事業にかんする報告

著者: 芦沢

ページ範囲:P.644 - P.644

 これはアメリカの保健・調教育福祉局(Department of Health, Education and Welfare)の看護課(Division of Nursing)が1961年8月に表題について行なった調査報告である。1960年人口で25,000以上の676市が対象となったが,その70%(470市)が訪問看護協会(VisitingNurse Association),共同看護事業(Combination Service),ないしこのための担当機関の手によつて各種疾患の在宅患者の訪問看護が行なわれ,必要とあれば継続して訪問看護をしていることが明かになった。在宅患者看護を行なっている市が最も多く集まっているのは公衆衛生地区(Public Health Region)Ⅰ(すなわちコネチカツト,メイン,マサチュセッソ,ニューハンプシャー,ロードアイランド,バーモントの米州東北端の諸州)であって,64市の中,ほとんどの63市におよんだが,他方,最も少ないのは,公衆衛生地区VII(アーカンソー,ルイジアナ,ニューメキシコ,オクラホマ,テキサスの南部の諸州)で,69市中10市であった。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら