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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生26巻2号

1962年02月発行

雑誌目次

特集 ポリオの疫学(その1) 巻頭言

ポリオの疫学

著者: 北岡正見

ページ範囲:P.57 - P.59

 近年,わが国でポリオの流行が急に目立って来た。このことから太平洋戦争後,外国から,ことに占領軍やその家族らによってポリオウイルスが持ち込まれたのではないかと臆測する向きもあるが,この病気は,わが国に以前から風土病的に散発していたことは,明治や大正時代の文献からも推定される。さらにこの病気が一地域に流行型に多発し,またその患者からウイルス分離まで行なって確認したポリオの流行は,戦前すでに昭和13,14,15年に阪神地区に起こっていたのである。当時,東京地区にも患者が発生し,千葉の患者から北研の川村らによってウイルスが分離された。太平洋戦争が始まって以来,ポリオ患者発生の報告は一時中絶した。これは,報告が人為的に中止されたのであって,患者の発生がないということではない。
 敗戦後,エール大学のPaulらが来日し,日本におけるポリオ発生状況を調査し,疫学的に日本はポリオウイルスの濃厚汚染地で,生後まもなくウイルスの洗礼を受け,散発的に患者が発生するけれども,欧米なみに流行型発生を起こす程度に環境衛生がよくないと報告した。この報告はポリオの疫学について知識の少なかった当時のわれわれにとって,一つの衝撃であった。しかしわれわれ1)が日本各地の住民の各年齢層から採血し,ポリオ2型ウイルス(Lansing株)に対する中和試験を行なうにおよんで氷解した。すなわち,わが国で生まれた子供は生後まもなくポリオウイルスの感染をこおむる。

総説

ポリオの流行発生機序の考察

著者: 金光正次 ,   河原林忠男 ,   遠藤正之

ページ範囲:P.60 - P.66

 最近各地にポリオの流行が頻発したため,予防ワクチンや治療剤に対する関心とともに,本病の疫学的研究の重要なことが改めて認識されて来た。これはひとり学問上の興味に止まらず,その知識は防疫対策の基本となるものであるから,わが国の近年の現状からすれば,むしろおそ過ぎた感がないでもない。われわれは過去10年間諸種のウイルス病について,その流行発生の機序を研究して来たが,たまたま一昨年の北海道におけるポリオの大流行に遭遇し,この問題について若干の知見を得,それを同年の日本公衆衛生学会に報告した。今回はその後に得たわれわれの研究を中心として,この問題を考察したい。
 疫学の見地からすれば,すべての疾病の流行は病因,宿主,環境の3要因間の平衡が破れ,病因の力が相対的に優勢になった時に発生する。しかし各要因はその中に多数の疫学的因子を含み,各要因の果たす役割とその相互関係は疾病の種類により必ずしも同じでない。とくにポリオのように不顕性感染が多く,病原ウイルスにいくつもの型がある疾病では,その関係ははなはだ複雑で,まだ不明な点も少なくない.よって,初めにポリオの流行発生におよぼす個々の要因の意義を述べ,次いでそれを総合して,その発生機序を考察しようと思う。

1960年の長岡市におけるセービンワクチン投与試験について

著者: 下条寛人 ,   曾田研二 ,   中野稔 ,   多ケ谷勇 ,   北岡正見 ,   小柴五郎 ,   小見義衛 ,   元川厚平 ,   大島きよ ,   上村伯太郎 ,   栗原貞次郎 ,   川瀬清 ,   渡辺健

ページ範囲:P.67 - P.75

 1960年4月から同年6月にわたって,新潟県長岡市において約250名の乳幼児に経口ポリオワクチン(セービン株,以下セービンワクチンと略称)を投与し,ウイルスの感染や免疫の成立について検討した。この試験はセービンワクチンのある程度以上の規模の人体投与のわが国における最初の経験である。本試験を企てるにいたった経緯は,1960年Dr. A. B. Sabinより筆者らの一人(北岡)にセービンワクチン(Original Vaccine)が送られ,該ワクチンの日本国内における検討が依頼された。一方,長岡市ば1958年に2型ポリオの流行があり,21名の麻痺患者の発生を経験し1),以来ポリオの予防に関して市民,医師,市衛生課が強い関心をもち,新たな予防対策の導入に積極的であった。このような状況で,予防衛生研究所,長岡市衛生課,長岡市医師会の協力のもとに,長岡市に居住する乳幼児の一部に対して本ワクチンの投与を行ない,その後の検査を行なったのである。なお,投与,検体の採取は主として長岡市衛生課,長岡保健所の職員および長岡医師会の小児科医により行なわれ,検査は主として予防衛生研究所腸内ウイルス部によって遂行されたものである。

原著

ポリオの血清疫学的研究—岐阜県下におけるポリオウイルスの侵淫度

著者: 井上裕正

ページ範囲:P.76 - P.79

まえがき
 ポリオは不顕性感染を主体とする伝染病で,したがって,各地の健康児,あるいは各種の患者発生状況下の患者周辺の健康児の中和抗体や補体結合抗体を調べ,さらに,人およびその他からウイルスを分離することなどにより,ウイルスの侵淫度を明らかにすることは,ポリオを伝染病として理解する上に必要であるとともに,また,公衆衛生学的にも極めて重要なことと考えられる。
 この問題については,すでに多くの内外の業績があり,われわれも数年前より,年齢別中和抗体陽性率を通して県内の調査研究を行ない,その成績の一部についてはすでに発表してある1)〜4)

赤痢とポリオの流行関係

著者: 野瀬善勝

ページ範囲:P.80 - P.85

1.緒言
 赤痢とポリオはともに糞口伝染病で,いずれも主として夏に流行し,その感染経路にも軌を同じくするものがあるといわれる。されど赤痢とポリオとの間に流行的に何らかの関係があるのか? ないのか? 仮にあるとすれば,それらの現象的事実は果たしていかなることを意味するのか。赤痢とポリオの流行関係を指摘し,その疫学的意義を解明した報告は見当たらないようである。
 そこで,両者の流行像から,その時間的,地理的および生物学的現象上の関連性を比較検討して,若干の疫学的考察を試みたのが本報文である。各位のご批判とご教示を賜われば幸いである。

総説

最近の職業病

著者: 久保田重孝

ページ範囲:P.86 - P.92

1.はしがき
 最近の職業病をとりまとめるに当たっては,いろいろの立場からの総括が可能であろうが,私はここでは産業との関連を考慮したとりまとめをご紹介したいと考える。産業との関連から眺めることが,職業病の本質を最も具体的に示すと思うからである。
 その概要は第1表イ)〜ハ)のごとくで,まず第1に新しい産業に付随した新しい職業病(第1表イ),次には産業が繁忙となるにつれて従来からあった職業病が多発するようになった場合(第1表ロ),そして第3には,同一の原因物質に起因する職業病が,従来とは全く異なった職場で注目されて来た場合(第1表ハ)をとりまとめてある。

公的医療機関の公衆衛生における役割

著者: 曽田長宗 ,   東田敏夫

ページ範囲:P.93 - P.96

1.はじめに
 国民医療は,たんに疾病の治療にとどまらず,疾病の予防から回復者の社会復帰をふくむ総合的なサービスであるべきことは,すでに公認された原則である。また治療と予防とが不可分な関係にあり,各種の医療機関において予防活動もまた必須の業務であるという認識がつよまっている。このような「医療と予防の有機的連繋」は医療保障における目標の一つであり,また地域における医療サービスの浸透と公衆衛生の向上には,公私の医療機関の活動にも期待することが大きい。私的医療機関の公衆衛生活動については,第4回医療保障自由集会の議題としてとりあげられ,本誌1961年10月号に紹介しているので,ここでは宮公立病院あるいは公的医療機関の公衆衛生における役割についてのべたい。
 ここでいう「公的医療機関」は,公的資本により経営される医療機関をさし,医療法において規定する地方自治体,日赤,済生会,健保組合,農協厚生連,北海道社会事業協会などの設立,経営にかかるものに,国立の医療機関を加えて考えたい。これらの公的医療機関はその設立の経過よりして私的医療機関とことなり,国民医療に対し,それぞれの公的責任を負うていることはいうまでもなく,ここ両3年来,国民医療における公的医療機関のあり方に関する討議がさかんとなつている。

原著

家族計画特別普及事業対象者の調査について

著者: 麻生守勝 ,   正野真宏

ページ範囲:P.97 - P.98

1.はじめに
 わが国の人工妊娠中絶件数の年次別推移は,昭和30年の117万を最高として,以後漸減し,昭和34年においては110万を下回るに至った。諸報告1)によれば,以上の年次別推移にもかかわらず出生率が低下していることは,出生制限の手段として受胎調節が普及してきたことを物語るものであろうと述べられている。
 八幡市における人工妊娠中絶件数の年次別推移と受胎調節普及状況との関係は,さきに園田2)および著者3)の報告のごとく,以上の諸報告とほぼ同様の傾向である。

脳卒中の発生要因,転帰,ならびに予後に関する調査

著者: 大山昭男

ページ範囲:P.99 - P.101

緒言
 脳卒中の発生要因については,すでに先輩諸氏による研究によって広く解明されて来たが,その多くは,脳卒中の死亡者を人口動態死亡票などによって分析してあるので,発生要因としては,いささか偏見のおそれがある。
 保健所において予防行政を行なうわれわれは,脳卒中死亡を予防するのでなく,発作そのものを未然に防ぐなんらかの手がかりをつかまねばならない。そのためには,生存者も含めた発作の全事例を分析して得た要因,および生存者の社会復帰の状況を知る必要がある。

遠洋漁船の積み込み飲料水について

著者: 杉本博俊 ,   中島覚 ,   長信良 ,   平野拓男

ページ範囲:P.102 - P.103

 神奈川県三崎港は三浦半島の最南端に位し,鮪延繩漁業の基地として全国屈指の漁港である。遠洋漁船乗組員の保健衛生に対する関心は近来とみに向上し,そのあらわれとして飲料水の安全を確保することに注意を払うようになってきた。
 過激な労働と長期間の航海をなす遠洋漁船乗組員の健康に飲料水は重要な影響を与えるものと考えられ,昭和34年7月から昭和35年8月まで1カ年間にわたり,三崎港を基地とする遠洋漁船100隻について帰港直後の水槽内の残存飲料水を採取し,衛生検査指針に基づき水質検査を行なった。また採水に際して次に示す21項目について調査,測定した。

Bephenium hydroxynaphthoate(Alcopar)の鉤虫駆虫効果

著者: 松崎義周 ,   高橋達男 ,   山崎俊幸

ページ範囲:P.104 - P.106

緒言
 従来の鉤虫駆虫薬は何れもアメリカ鉤虫(N. Americanus)には相当強い駆虫力を発揮しているが,ツビニ鉤虫(A. duodenale)に対してはその駆虫力が低く,副作用の点より見ても満足すべきものがなかった。
 しかるにCopp,Standen,Scarnell,RawesおよびBurrows(1958)の広範な研究の結果,次のごとき方程式のものがNippostrongylus murisに有効なることが判明した。

生命保健診査1,000名についての医的欠陷調査—体格異常,心搏,脈搏異常,尿異常ならびに血圧測定上の特異点についての考察

著者: 依田富弘

ページ範囲:P.107 - P.109

緒言
 生命保険医学は,個人の疾患を原因や治療の面から研究するのではなく,集団としての死亡率におよぼす影響,すなわち寿命の予測の医学であるからして,公衆衛生の重要な分野をなすものである。しかして,標準下体生命保険資料1)よりみても,体格異常,心搏,脈搏異常,尿異常,血圧異常などの医的欠陥は寿命に影響するところが明らかである。
 著者は昭和34年より昭和36年に至る間に,主として東京地方における保険診査男860人,女140人,計1,000名について調査することができたので,その体格異常,心搏,脈搏異常,尿異常,血圧測定上の特異尊項なと,客観的に判然たる点についての知見を述べて参考に供する。

巡回診療の方法

著者: 木村隆徳

ページ範囲:P.110 - P.111

 巡回診療の問題の一つは次回診療までのギャップをいかにするかということです。移動診療とは投薬することであるとするのなら,甚だかんたんですが,やはり例の"健康とは単に病気や傷害がないばかりでなく,肉体的にも精神的にも,また社会的にも完全に快適である状態をいう"というWHOの世界保健憲章が気になります。こう考えるのは公衆衛生にたずさわる私たちだけではありません。最近九大で行なわれた九州ブロック医学生ゼミナールでも,各大学の種々な巡回診療班から,これまでのやり方への疑問と,これからどうすればよいかのあせりが強く表明されていました1)
 第2に日赤,済生会,大学,新聞社,医師会などのほとんど無数ともいえる巡回診療が今のようにばらばらに行なわれてよいものだろうかという点です。また厚生省が,昭和31年度から「へき地」解消計画2)を開始し,さらに「特別へき地」の巡回診療車などの整備計画が今年度から実施されて県衛生部など公の機関による巡回診療がさかんになりつつある現在,他の巡回診療との関係をどうするかということも問題になります。

文献

フィラデルフィアの大気汚染とその大気汚染源,他

著者: 清水

ページ範囲:P.59 - P.59

 5年ほど前大気汚染対策課は大気汚染の2様式について別々に防止計画を立てる必要を認めた。すなわち(1)は特定の汚染源に由来するもの,その(2)は非特定の汚染源に由来するものの対策である。
 フィラデルフィアにおける最近の実例は1959年のクリスマスの週に起こり,汚染度は平素の6倍にまで上昇した。死亡率には影響しなかつたが,もし煙霧が社会活動が激しく大気汚染度が最高にある時に起こつたなら結果は恐るべきものであつたろう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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