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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生26巻5号

1962年05月発行

雑誌目次

特集 ウイルス感染症の疫学

呼吸器系ウイルス感染症

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.253 - P.256

 本日の疫学ゼミナールは,ウイルス研究の特進班という日本ウイルス学会の事業の一部として行なわれるもので,班長からもお話があると思いますが,この特進班というのは特にその分野の研究が総合的な物の考え方で進んでいないというような問題がある場合に,それをこういうゼミナールを通じて押し進めて行きたいというような趣旨で作られたのであって,ここでエピデミオロジーの各論を詳しくしゃべって,それをディスカッスするという形よりは,むしろエピデミオロジーのなかの一つの問題,たとえば私の分担は呼吸器ウイルス病のエピデミオロジーでありますが,それを一つのテーマにしてウイルス学のなかのエピデミオロジーをどういう具合に,それから発展させなければならないかというようなことに対する話題提供の場にしてくれというのが,このゼミナールを促進された方がたの注文であります。そういうことですから,私の特に呼吸器ウイルス病のエピデミオロジーの各論のためのデーターを提供するという形ではなく,こういうようなテーマに対してウイルス学者がどういうふうな考え方をするならば,日本のウイルス学におけるエピデミオロジーの地位がますます発展して行くかというようなことに関連した主題提供ということにしたいと思います。
 私ここで一つ問題を提供いたしますのは,アデノウイルスのエピデミオロジーというものに結びつけてみたいという案であります。

腸管系ウイルス感染症

著者: 甲野礼作

ページ範囲:P.257 - P.264

1.腸管系ウイルス感染症について
 腸管系ウイルス(Enterovirus)にはポリオウイルス1,2,3型(以下P1,P2,P3),エコーウイルス1〜28型(E1〜E28),コクサッキーウイルスA群1〜24型(CA1〜CA24),同B群ウイルス1〜6型(CB1〜CB6)が知られている。ただしこのうちE10はレオウイルスに転属したため,存在しないことになった。またE9はCA23とされたが,その取り扱いはまだ一定していない。
 これらのウイルスはいずれもRNA型で,細胞質で増殖し,エーテルおよび胆汁酸塩に耐性を示し,小型球型で大きさはほぼ30mμ前後である。しかも人の腸管をすみかとし,主として屎便中に排泄され,時に病原性を発揮するが,その症候は似通った点の多いこと,また季節的出現状態も同一であることなどの共通点をもっている。動物界においても腸管をすみかとするウイルスはいくつかあって,マウスのポリオウイルスといわれるTheiler virusやこれに類縁のもの,サルの腸管から分離されたエコーに類するECMO(Enteric cytopathogenic monkey orphan virus)ウイルスとか,ウシからのECBOなどがある。

アルボウイルス感染症に関する疫学の現段階

著者: 大谷明

ページ範囲:P.265 - P.272

1.アルボウイルス概観
 アルボウイルス(節足動物媒介ウイルス)とは蚊やダニなどの節足動物とヒト,ウマなどの哺乳動物を宿主とし,これらの動物体内で旺盛に増殖するウイルス群と常識的に理解されるが1),現在この定義に矛盾がないわけでもない。現在のところ,世界でこの群のウイルスとして記されているものは,100種類余になる。これらのウイルス群を分類するのに血清免疫学的に分類するのが,恐らく最も合理的であり,またかなり成功しているが,報告される血清学的に多少異なるウイルスをそれぞれ独立のウイルスとして扱うか,またこのなかに多数の株変異の存在を認めるか,まだ渾沌としているのが実状である。立場を変えて,疫学の見地からみれば,流行における媒介者が似ているウイルスは,相互にかなり共通な問題を含んでいるので,媒介者の種類によって分類すると第1表に示す。
 このなかで日本に現存し,またはかつて存在したと記載されるものを第2表にあげた。

ウイルス感染症の疫学ゼミナール

ページ範囲:P.273 - P.293

第1部
午後1時35分開会
 甲野(司会) それでは午後の部にはいりたいと思います。
 最初にウイルス感染症の疫学をどういうふうに考えるかということについて,私が話題を提供したいと思います,そのあと十分ご発言になって,ご意見を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

名誉会員を訪ねて・3

及川周(まこと)先生にきく

ページ範囲:P.294 - P.303

偉くならなくても死なないほうがよい
 編集部 きょうはいろいろと先生の衛生学のご体験をうかがわせていただきたいのですが,まず最初に,ご卒業の頃のお話から……。
 及川 私せんだつてこれを(公衆衛生第26巻第1号)拝見して,石原先生のをみましたら,ちょうど10年違うのですね。私は大正7年の12月に卒業したのです。私の1級上の東(東京都知事)や中田,都築君(外科)たちの時は,大正6年12月に卒業した。あの頃は9月から12は月まで卒業試験があったのです。12月卒業して翌年の6月から7月に卒業式があったのですが,それが私らのときから卒業式がなくなったのです。それで,私は大正7年12月に卒業(石原先生の12月卒業というのはどういうのだったのかな),だからあの時,大正7年卒業というのは2組あったのです。私らのクラス会は大八会といっているが,するとその次のクラスも大八会でつっかえてしまう。あとでお話が出ると思いますが,官路重嗣という細菌学の教授(新潟大学)がおりまして,亡くなりましたけれども,細菌学と衛生学の教室がまたいっしょの時代で,そのときよく「石原と私は同級だ」とおっしゃったので,お2人とも私の10年先輩だとい)ことを覚えているのですが……。

原著

農山村における高血圧集団検診の受診率と高血圧発見率

著者: 坂本弘 ,   滝川寛 ,   因田与志男 ,   杉浦静子

ページ範囲:P.304 - P.306

 わが国における死因別死亡の動向は,終戦以来次第に変遷し,最近に至っては,中枢神経系血管損傷,悪性新氏物,心臓の疾患,老衰といった,いわゆる成人病によってその上位を独占され,結核その他の伝染性疾患による死亡は減少の一途をたどっている。それに伴って,公衆衛生学の分野にも当然のことながら,これら成人病に関する諸問題が,大きな研究テーマとして取り上げられるに至り,中でも,脳卒中,心臓疾患の主な原因疾患といわれる高血圧症にその注目が集められた。しかしながら,高血圧症は単一な原因で発病するものではなく,多要素性をその背後にひそめているものであり,特に農山村における環境要因の複雑さは,本症の疫学的究明を行なう上に非常な困難さを感ずるものである。地域社会における高血圧症の実態調査の方法として,まだ確立をみてはいないが,結核における集団検診と同様,一応の様式でscreeningが行なわれている。しかし,事業場で行なわれる場合と異なり,農山村では住民の協力と,調査者側の大いなる忍耐なしには,受診率の著しい低調という結果になり,高血圧症の実態把握という目的からみれば失敗に終わってしまう。高血圧症集団検診に関する調査,研究は数多くみられるが,大都分が低い受診率を報告している。しからば,この検診もれの人口中に高血圧患者はどのくらいいるものだろうか? ということが,今後集団検診を進めて行く上に重要な問題となって来るのである。

文献

大気汚染物質の呼吸器疾患の発生に及ぼす影響/癌についての概念の変化

著者: 清水

ページ範囲:P.293 - P.293

 大気中の浮遊硫黄化合物が呼吸器疾患の発生と強い相関関係(r=0.964)を持つとの初めての報告が,5都市の調査結果に基づいて行なわれたのは1960年であった,この論文はそれに引き続いて汚染物質が呼吸器疾患のタイプおよび他の一般疾患へ及ぼす影響について調べ,呼吸器疾患の発生に関連がある幾多の因子についても検討を加えたものである。
 調査は米国の某ラジオ会社の婦人従業員延900名以上について1955,1957,1958(1956年は除外)の3カ年間にわたり,それぞれの1年間に連続7日以上病気欠勤したものについて集計し,疾患については,1)インフルエンザ,2)急・慢性気管支炎,3)各型肺炎,4)喘息,5)副鼻腔炎,6)その他の呼吸器疾患の6分類とした。大気汚染度に関する資料は全国空気汚染調査連合(National Air Sampling Net work)及び合衆国公衆衞生局(U. S. Public Health Survice)のデータより得た。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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