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雑誌目次

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公衆衛生27巻11号

1963年11月発行

雑誌目次

特集 地域開発と住民の健康—(社会医学研究会特別報告) 巻頭言

社会医学研究会の新しい試みと反省

著者: 大平昌彦

ページ範囲:P.581 - P.582

 第4回社会医学研究会開催の準備に当った者の一人として,今ここにその成果と欠陥を総括して,全会員および2日間の会期に参加したすべての方々への感謝と,我々自身の反省にしたい。
 社会医学研究会も既に回を重ねること4度となると,発表演題,討議内容等,数的にも質的にも充実したものとなりつつあることを,前3回の経験を通じて強く感じさせられているのは私一人だけではあるまい。

1.経済開発と健康度の地域ならびに階層格差—地域開発の方向づけのために

著者: 東田敏夫 ,   日比達 ,   藤野美津子

ページ範囲:P.583 - P.587

 近年,日本経済の高度成長がうたわれているが,その反面,日本の経済の二重構造の存在,大企業と中小企業との格差と共に,国民生活に相当の地域格差があることが認められる。たとえば,昭和37年の国民生活白書によると,東北,九州などの都市住民の1カ月世帯支出額は6大都市住民より30〜40%も低い。しかも昭和28年以降8年間の成長率にもひらきがあり,格差は一層拡大している。

2.堺臨海工業地帯

著者: 東田敏夫 ,   細川汀 ,   若野六花枝

ページ範囲:P.588 - P.591

I.堺臨海工業地帯の埋立造成事業
 近畿圏整備法は各府県各様の反応を示す中に与野党一致で国会を通過したが,その中心を形造る大阪湾臨海工業地帯の造成は,すでに昭和33年10月から進められている。
 堺市は昭和32〜33年の合併により現在人口約40万,面積123.18km2(人口密度3254人/km2)の中都市で,刃物,自転車,敷物などの中小企業が多く,同時に大阪市のベッドタウンの機能を併せ有するが,第1図に示す通りに,この都市の大阪湾沿岸の全地域に約2,000haの埋立地と,その立地条件を活用するための港湾・道路・臨港鉄道及び工業用水路の整備によって,大工場の誘致が計画されている。またこの臨海工業地帯の周辺に,中小工場地帯・商業地帯・グリーンベルト・集団住宅地帯を配置した都市計画が立案されている。土地造成には約600億の尨大な公共投資や公債が費されており,すでに「サイは投げられている」が,この計画が住民の健康と生活に及ぼす影響について,社会医学的検討は十分ではないように考えられる。筆者らはこの点について主要な問題を指摘し,住民の福祉と保健を保証する綜合的な開発計画の進行を期待するものである。

3.水島工業地帯

著者: 黒田健 ,   岸洋子 ,   古市圭治 ,   村上勲 ,   玉木武 ,   青山英康 ,   吉岡信一 ,   河原宏 ,   板野猛虎 ,   中村文雄 ,   青山嘉孝

ページ範囲:P.592 - P.598

I.総論
 「市町村合併」に相次いで「道州制」の問題が,今日我国における地方自治体の将来を決定づける重要な課題として注目され始めており,さらに所得倍増計画を中心とした国家的な基本施策とも関連して,地方自治体は今や「地域開発」の名の下に再編成されつつあるといえよう。
 今回地域開発として各々異なった発展段階にある4地域を選び,その現状と問題点を検討して行なわれる一連の特別報告のなかにあって,我々に課せられた課題は,地域開発の諸問題をその計画段階において把えることにあると考え,岡山県南広域都市建設の諸計画案を総合的に検討し,ここに残されている社会医学的諸問題を明確にすることを本報告の主目標とした。

4.京葉工業地帯

著者: 社会医学研究会東京ブロック

ページ範囲:P.599 - P.604

地域開発の現状
 千葉県は最近まで工業のない農業県,つまり後進性のつよい県であった。しかし昭和27年になって県は「千葉県産業経済振興計画」をたてることによって,京葉地区の工業化の方針を積極的にうちだした。当時は川崎製鉄の隣に東電千葉火力,船橋に旭ガラスが決定した程度であったが,昭和34年からは大企業の進出が始まった。昭和35年8月に県側は理立計画を大幅に拡張して,3,400万坪の造成面積とすることとした。このようにしていまや臨海地帯に一大工業地帯が形成されつつある。
 千葉県長期計画書は昭和60年には第2次第3次産業のつよい誘因により高水準の所得を求めて就業者移動が行なわれ,昭和35年にくらべて第1次産業は47%の減少になると見込んでいる。このようにして千葉県の産業構造は大きくかえられると述べているが,これを企業の側からみれば,臨海性において行詰った京浜工業地帯の地域的延長によって,京浜工業地帯の行詰りの打開をはかろうとしているのであり,企業の意図と地域の発展が今後果してどのような方向をたどるかが注目されるところである。

5.四日市工業地帯—地域開発と公害問題

著者: 吉田克己 ,   大島秀彦 ,   小川節子

ページ範囲:P.605 - P.608

 今日,日本のおくれた地域,繁栄からとり残された地域の人々の願望は,工場誘致であり,地域開発だといわれている。今日,地方の人々にとっては多くの場合,地域開発と工場誘致は殆ど同意語のように理解されており,事実,京浜,阪神,北九州地帯を除いた殆どの地域での,地方自治体の政治的目標は工場誘致であったし,東京その他の所謂,過剰地域からは考え難いようなムードが,地方の政治的日標をとらえてきた。
 「高度経済成長」乃至は「所得倍増計画」の具体的内容としての所謂,拠点工業基地建設が,地元民に多くの思わくをふりまいてきたことは事実であり,今日においてもそうであるが,しかしこれに必要な港湾,工業用水,道路その他の公共投資を地方自治体に押しつけ,進出企業は更に多くの税法上その他の特典をもちながら,一方において自からの工場投資は生業採算性の観点から行なわれ,都市計画その他の考慮が殆ど実現されず,結果としての,完全なまでの「衛生学的無秩序」というものが,その地域社会を支配したところに基本的な問題点が存在しよう1)

6.四日市工業地帯—地域開発と社会医学的諸問題

著者: 水野宏 ,   堀田之 ,   大橋邦和

ページ範囲:P.609 - P.612

I.はじめに
 地域開発に先立って,地域住民の健康がどの程度に重視されているかによって,地域開発の進め方は全く異った道を歩むことになる。地域住民の健康をまもる具体策とは,単に狭い意味での保健福祉施策には止まらない。地域開発に必然的に伴う地域の自然的生物学的諸条件の改変によってもたらされる地域住民の健康への影響が正しく計量され,それに応ずる適当な施策が準備されているかどうか,産業構造・人口構造・都市構造の変化によって生ずる地域社会全体の保健構造と保健機能の激動が,どれだけ適確につかまれているかが問題とされなければならない。
 現実には正しい調査結果に基づく長期的な見通しの上に立って進められている地域開発が皆無であることは遺憾であるが,その結果,地域開発の進行につれて地域社会全体の保健機能に必ず大きな破綻を生ずる。保健機能の破綻は,それが社会存在のもっとも基盤的な機能であるだけに,地域社会全体の機造と機能に次第に致命的な影響を与えるようになり,地域社会全体に破綻が及ぶに至る。これをつくろうためには,後になって極めて大きな経済的負担を負わねばならず,しかもそれによってもなおつくろいきれないという事態に至ることは多くの先例がこれを示しているところである。ここでは経済優先がそのまま莫大な不経済をよんでいる。

特別報告・総括討議

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.612 - P.613

 〔質問〕原(大阪府公衛研)地域開発に伴なう公害の実態を把握するために各地でとられている組織的(行政的)方案をお伺いしたい。
 〔答〕吉田(三重大公衛)四日市においてさえ未だ必ずしも十分でなく,計画としては大気汚染協議会が大規模な疫学調査,疾病の実態調査を38年度に至って行なうことになっているといった状態である。

綜説

国民栄養の現在と将来—その1

著者: 冨士貞吉

ページ範囲:P.615 - P.619

 毎年4月7日のWHO成立の日に,世界の加盟国で一斉に行われている保健デーには,本年(昭和38年)はWHO創設15周年を記念して,加盟国共通の啓蒙運動のスローガンとして「飢餓,数百万人の疾病」(Hunger,Disease of Millions)をとりあげた。ここでいう飢餓は低栄養(Undernutrition)や不良栄養(Malnutrition)による身体発育の遅れや心身の活動力の減退,あるいはいろいろな疾病状態を指すものである。総括的に潜在性栄養失調の状態を意味している。
 わが国では国連日本広報センターと厚生省とが協議して,本年の保健デーのスローガンとして,「健康づくりは,まず栄養から」を採択して,東京,京都,大阪などで,各種の催を行って啓蒙運動を展開したことは,ご承知のことと思う。なぜこのように本年の保健デーのスローガンに栄養問題がとりあげられたかについて,その間の経緯を国連の世界保健機関(WHO),ならびに食糧農業機関(FAO)の調査資料や一連の報告書や刊行物などの資料のうちから,一部を整理してご紹介することにしよう。国連FAOの統計部長Dr, P. V. Sukhatmeは1961年に「60億の人類に食を与えよ」という書物を刊行した。

原著

奄美大島におけるハブ咬症の治療の現況と血清病について

著者: 沢井芳男 ,   牧野正顕 ,   館野功 ,   川村善治 ,   関口守正 ,   桜井靖久 ,   小此木丘 ,   田川稔

ページ範囲:P.620 - P.627

まえがき
 奄美大島におけるハブ咬症の治療の研究は1957年の現地調査以来続けられ1〜6),治療血清の精製と凍結乾燥7),血清以外の中和剤8〜16),投与方法7)等の研究が進められ,治療が強化された結果,現在ではハブ咬症による死,あるいは受傷後数日で起る広汎な壊死も最小限にくいとめられるようになった。ことに前者では受毒量が多いために最初から嘔吐,頻脈,血圧降下,チアノーゼ等の警戒すべき症状が発現するので,単に血清のみに頼らずに糖リンゲル等の点滴,アドレナリンあるいは副腎皮質ホルモン等の抗ショック剤,あるいは各種ビタミン及び強肝剤等の全身療法を最初の24時間に強力に続けることによりほとんど確実に死から救うことが可能になった。ただ受傷後数日で起ってくる広汎な壊死の発生機序にはまだ不明な点が残されているが,急性の局所の循環障害がとり除かれればひどい壊死が防止されるのではないかと思われるので,われわれの研究ももう一歩のところにきている。またこのようにして大部分のものが血清その他の療法により大事に至らずに治癒するようになると,次に問題となるのは血清病であろう。われわれの調査では血清注射による急性のアレルギーショックあるいはそれに伴う死には出会ったことはないが,ハブ咬傷そのものは2,3日で治癒したものの7日前後にやってくる血清病のためにかえって苦しんだ例すらあるからである。

昭和37年度名古屋市における赤痢菌の菌型と薬剤耐性

著者: 落合国太郎 ,   内藤晶之助

ページ範囲:P.628 - P.632

I.まえがき
 来る年も来る年も毎日同じことを繰返す。これは職業で収入を伴う。それが無報酬の研究であるとしたら,こんな面白くない仕事はなかろう。赤痢菌の菌型や薬剤耐性を調べる。一見つまらない仕事である。しかしこれを毎年たゆみなく繰返して行けば何年か,何10年かの後には,赤痢の消長,流行菌型の変遷や薬剤耐性の推移を知るに貴重な疫学的資料になる。
 この意味でわたくし共はすでに10年も前からこれを繰返えしてきたが,昭和37年度もまた馬鹿のようになって赤痢菌の菌型とその薬剤耐性を調べたので,以下これを報告しようと思う。

文献

慢性気管支炎,肺気腫ならびに喘息/低濃度大気汚染物質への反復被曝が健康に及ぼす影響

著者: 芦沢

ページ範囲:P.582 - P.582

 慢性気管支炎(Chronic Bronchitis)という診断名は慢性の咳,喀痰があり,さらに呼吸困難を伴なうこともあるとき,英国ではよく使われるが,米国では少ない。米国では呼吸困難を伴なわないと医師を訪れず,大ていその場合は,肺気腫,気管支喘息,ないし心臓病等と診断される。それで結核以外の呼吸器疾患の診断基準を確立するために英国でも米国でもそれぞれ専門家の会議が開かれた。英国のはCiba Symposiumで,Terminology,Definitionsand Classification of Chronic Pulmonary Emphysema and Related Conditionsとしてとり上げられ,記事はThorax 14:286, 1959にのっている。アメリカでも最近,American Thoracic SocietyがDiagnostic Standards for Nontuberculous Respiratory Diseacesの委員会をつくり,一応の決定をみた結論はAm,Rev. Resp. Dis, 85:762, 1962に出ている。両者とも慢性気管支炎として「気管支における粘液の過度の分泌状態を特徴とする」点では一致している。アメリカの定義では慢性という条件として,慢性ないし間けつ性の咳嗽が年間3カ月以上続く状態がひきつづき2年以上あることとしている。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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