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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生27巻12号

1963年12月発行

雑誌目次

特集 大気汚染

疫学から見た大気汚染

著者: 猿田南海雄 ,   山口誠哉 ,   石西伸 ,   児玉泰 ,   国武栄三郎 ,   堤達也

ページ範囲:P.633 - P.638

緒言
 大気汚染は最も公衆衛生的な問題であり,不特定,最多数の一般市民生活に最も緊密に直結した問題であるので,その研究の推進は一般市民から最も多く歓迎される問題であると考えられるのに実際はその逆で,これ程市民からは喜ばれない。その上学会からは白眼視され,事業会社からは嫌悪される問題は他にその例を見ないように思う。なぜこの問題がそれ程までに各方面に喜ばれないかを考えてみるに,それは一般市民にとっては何等直接に形而下学的利益を与えない,のみならず時には却って不利益をさえ呼び起こすであろう。それは会社の好況と共に栄え,不況と共に呻吟する一般市民の心理状態としては,その期するところは自ら明らかで,それ以上の多言は不用であろう。問題とされる諸事業会社が本問題を歓迎しないのは当然すぎるほど当然である,ただ分らないのは学会の白眼視であり,牽制である。本問題が学会でシンポジアムの形でとり上げられたのは,昭和33年10月19日九大において,著者司会の下に行なわれたのが最初であり,その後もその取扱いは必ずしも盛んとはいえない。文部省研究費補助に至っては,全く惨酷であるとさえいえる。著者はこれに関し10年近く毎年請求を出しているが,未だ嘗て一度も下付を得たことがない。余りのことにたまりかねて内偵したところによると,「大気汚染は政治であって学問ではない」ということで研究費をくれないらしい。

大気汚染と公衆衛生

著者: 橋本道夫

ページ範囲:P.639 - P.646

1.法律制定までの経過
 我が国における大気汚染防止に関連のある法令の最初は,明治14年の警視庁布達によるガス製造所をはじめ各種の製造,貯蔵物管理についての取締りであろう。次いで明治21年,大阪府令による旧市内における煙突を立てる工場を禁止したものであろう。
 しかし明確に大気汚染防止を意識した法令は,昭和24年の東京都の工場公害防止条例であり,これは戦後の産業の復興によって引きおこされてきた東京都の大気汚染に対処するためのものであった。

気管支炎の疫学

著者: 安倍三史

ページ範囲:P.647 - P.657

 気管支炎問題がここ数年で大きく取り上げられてきた。今までは結核の大きな影に遮られて見捨てられていた気管支炎が(1)肺結核が化学療法で一応おさまったこと,(2)肺機能検査技術の進歩が呼吸器疾患の病態生理の研究を早めたこと,(3)国土の都市化と産業化が大気の汚染を増したこと,(4)慢性気管支炎が肺気腫・肺センイ症・肺性心の原因として重要視されてきたこと,などの背景に支持されて大きく登場してきた。いうならばリバイバルされた疾患の1つである,慢性気管支炎の定義も診断基準もまだ確立されず従って整理された世界の研究業績は極めて少ない。ここには国々の統計をもとに,累積された現象の中から事実を抽き出し,さらにその原因を探求し予防へアプローチする資料にもと考え気管支炎の疫学をものした。

綜説

再生産率の赤字問題—日本人口のPotentiality

著者: 水島治夫

ページ範囲:P.659 - P.663

I.NRRの現状
 近年わが国の人口上注目すべき特異なことは,純再生産率(Net reproduction rate,NRR)が1.0以下に下っていることである。(これを赤字と称することとする。)NRRとは,ある人口が一代に次代の人口により置きかえられる(replace)割合である。例えば1000名の新生児が長じて,生殖を終るまでに1000名の子をもうければ,NRRは1.0であって,人口は増減しない。1.0を割り赤字なれば人口は減じ,1.0以上の黒字なれば人口は増殖する。
 NRRの計算 女性だけを扱う。年令をxとし(実際にxは15歳より49歳までの生殖期間),x歳の母から生まれた年間女児の数を,その年の女人口で割り,x歳の出産率(fertility,記号はm(x))を出す。これを全年令(15〜49歳)にわたり合計したものが総再生産率Gross reproduction,rate GRR)である。出生時からx歳まで生存する確率をp(x)とすれば,p(x)は生命表のLx/loで与えられる。このp(x)とm(x)をかけ合わせ,合計したものΣm(x),p(x)がNRRである。

国民栄養の現在と将来—その2

著者: 冨士貞吉

ページ範囲:P.664 - P.672

8.Rose disease
 この病気は,その症状からRose diseaseと呼ばれ,現在ではまた,ペラグラ(Pellagra=rough skin)と呼ばれている。潜在性飢餓でおこる疾病の一種であって,皮膚に猛烈な勢で紅斑ができ,病人はついに精神不安,精神障害を起して死亡する。第一次大戦の直前ではU.S.Aの南部では年間1,000名以上が,本病で死亡した。被害の最も甚大であったのはミシシッピー川流域であった。アメリカのJoseph Goldbergerはここで本病の対策に死闘を繰返した。
 Goldbergerは本病の死因は中毒でもなければ,伝染病でもないと主張し,患者の血液を自体に注射をしたが,なんの反応もなく,病気にかからなかった。ミシシッピー流域は綿花の産地であって,この地方の食物は至極単調で,食物といえば殆んどトウモロコシに依存していた。そこでGoldbergerは本病の原因は,この食物のなんらかの欠陥によって起るものと考えて,死刑囚にこの食事を与えたところ,皮膚にものすごい紅斑が現われた。

原著

脳卒中と循環器検診における眼底所見および心電図異常頻度についての検討

著者: 土屋真 ,   竹内敏博 ,   菅原正敏

ページ範囲:P.673 - P.677

 脳卒中と循環器検診で発見された1.881名の高血圧者の,眼底所見ならびに心電図所見頻度との関係を検討したが,検診成績と一致することより,集団検診の意義が認められる。
 1)石巻保健所管内の脳卒中死亡率は,人口10万対157.7であり,他の疾患で死亡した脳卒中者は7.3であった。また年齢別にみると,40歳台では人口1,000対0.2で,その後は年齢とともに高率となり,80歳台では107.1となる。更に農漁村別,性別にも著明な差がある。
 2)某臨床医があつかった脳卒中患者における初診時血圧正常者頻度は,119名中12.6%であった。
 3)検診を受けた脳卒中生存者は,少数例のため血圧,年齢および尿蛋白,心電図,梅毒有所見率等に明らかな差は認められなかった。
 しかし眼底所見のK.W.O.I群よりK.W.IIa以上の群に高率で有意差を認めた。
 4)眼底と心電図有所見者率および心筋傷害とは密接な関係がある。
 5)K.W.IIa群およびIIb,III群は,血圧,年齢が高い程高率となる。すなわち眼底出血頻度は,最大血圧210mmHg以上または最小血圧130mmHg以上では18%,年齢別には60歳台の高血圧者では11%であり,老人で最大または最小血圧の高い程,脳卒中の危険性の大なることを示している。また眼底所見程度と血圧との間では有意の正の相関が認められた。

遠洋漁船の栄養実態調査について

著者: 杉本博俊 ,   松永マリ

ページ範囲:P.679 - P.680

 神奈川県三崎港は太平洋,大西洋,インド洋等の広範囲に活躍する遠洋漁船の基地として有名である。遠洋漁船の乗組員の保健衛生に対する関心は近年とみに高まりつつあるが,管内に三崎港をもつ当保健所では,長日月を洋上で過ごす船員の健康維持増進と作業能率の向上のため,今まで全然知られていなかった船内食の実情を把握し,今後の栄養指導方針を確立するための栄養実態調査を行った。なお,遠洋漁船の飲料水についての調査結査は,既に本誌第26巻第2号に発表ずみである。

結核集団検診に於ける二,三の間題点—特に地域社会に於ける「検診洩れの者」の予防医学的意義に就いて

著者: 水野哲夫 ,   柳沢利喜雄 ,   佐々木輝幸 ,   沖山鐐三郎 ,   石井薫 ,   狩野政治

ページ範囲:P.681 - P.683

 我が国に於いて現在行われている結核住民検診は,次の理由によって全員検診を受けるべく,換言すれば可能な限り受診率を高めるように指導されている。即ち結核による死亡率が漸次低下しているとはいっても,未だに結核患者はその数が甚だ多く,特に未処置のままに放置されている患者がその跡を絶たないこと1),及び結核病撲滅に対する官民の多年の努力の結果,住民検診を可能ならしめる行政的・技術的基盤が存在することである2)。しかし結核住民検診の際の受診率を高めることは,様々の努力がなされているにも拘わらず,全国に於けるその平均受診率は低い2)3)。即ち検診を受けなかった者が地域によってはかなり存在する訳である。この「検診洩れ」の住民は結核集団検診という立場から,果してそのまま放置しておいても良いものであろうか。著者等はこの点に関して若干の検討を行ったので報告する。

文献

一酸化炭素被曝者の一酸化炭素血色素

著者: 宇野

ページ範囲:P.646 - P.646

 都市空気中の一酸化炭素は1955年以来ほぼ1ppmずつ毎年増加している所もあり,その75%はガソリン・エンジンの排気と考えられている。低濃度被曝による慢性一酸化炭素中毒というものが果してあるか否かは論のあるところだが,著者らはその排出源に被曝した際のCOHbの変化及び一酸化炭素中毒症状との関連性の研究を試みた。
 車輛検査センターとガレージに働く68名の男子から週2回,同一時間にショランダー・ロートン法によって血液を採取し,スペンサーの血色素計により測定した。

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岡田貫一君を偲ぶ

著者: 山下章

ページ範囲:P.678 - P.678

 "来年の4月は公衆衛生院を出てから25年目になる。残っている10数名の者が集って,昔を語りあおうではないか。その企画は東京におる俺とお前とでやろう。"今年の3月頃であったと思うが,急にそんなことを言った。その時の彼の悪い顔色が今でも私の眼にやきついている。どんな気持で言い出したのか今はもう聞くすべもない。それから間もなく病床について6か月余り,11月19日夜再び会えぬ人となってしまった。
 岡田君は昭和11年慈恵医大を卒業,聖ルカ病院の小児科を振り出しに,都市保健館(現中央保健所)に勤務,昭和14年公衆衛生院第1回医学科正規学生として,日本最初の公衆衛生技術者の養成訓練に参加した。私は東京市の防疫課から派遺されて奇しくも顔を合せ,それから24年余り,途中戦争のため,私は軍医として中支へ,彼は司政官としてジヤワへ5,6年の間離れていた以外は同じ道を歩いてきたのだから,私にとっては最も因縁の深い友であり,兄貴分であった。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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