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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生27巻2号

1963年02月発行

雑誌目次

綜説

長寿を阻むもの—成人病と社会的条件

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.53 - P.57

 この頃徳川家康の伝記小説が経営者間にブームをおこしているそうです。私も歴史上の人物には興味がありますが,それも成人病という観点からで,金もうけとは関係がありません。家康は74歳で当時としては珍しいタイの天ぷらにあたってしばらく病んでなくなっております。どうも症状から胃ガンが疑われているようです。とくに史家が惜しんでいるのは武田信玄の急死でありまして,三方ケ原で家康,信長の連合軍を破って上洛の途中発病したといいます。これも記録によると胃ガンのようです,一方,信玄の好敵手であった上杉謙信も48歳でなくなっていますが,厠で倒れたということで脳出血と考えられます1)
 このように歴史上の知名人についてはかなりのことが判っております。公衆衛生院の進藤博士のご研究によると2),とくに長命であるのは僧侶と神官であり,その他の政治家,武人などに分けてもあまり寿命には差がありません。また年代的にみますと江戸時代に入るまでの方がやや長命の傾向があり,この現象はヨーロッパのそれと逆であることを指摘しています。阪大の丸山教授3)の古文書からの調査によりますと,春日神社の19社家の家系譜から過去10世紀にわたる上流階級の寿命が推定されております。この場合でも17世紀以前の方が長寿者が多く,江戸時代に入ると平均50歳台となっています。

北海道根釧地方の農村衛生

著者: 乗木秀夫 ,   柚木斉

ページ範囲:P.58 - P.63

はじめに
 わが国の公衆衛生行政の多くが,長い伝統につちかわれてきた風習,習慣の批判を中心とした展開であり,旧い型にたいする改革であったり,また,社会のいとまない発展変遷にとまどう住民のぎごちない動きにたいする指摘であったりする。
 自然を愛する国民に,どんなにか自然が不潔であるかを教え,意のおもむくままの楽しみが,如何に危険であるかをたしなめる。自然に帰れの叫びに,大手を拡げてさえぎり無知なものよと叫ぶ。

農村におけるポリオ生ワク投与後の腸管系ウイルスの推移とポリオ中和抗体保有率の観察

著者: 中野英一 ,   榎本知以子

ページ範囲:P.64 - P.68

 1959年の青森県八戸のポリオの流行と,1960年夏北海道に発生したポリオ流行を機として,1960年12月弱毒生ポリオウイルスワクチン研究協議会が発足し,全国にわたるわが国の専門学者の連繋により弱毒生ポリオウイルスワクチン(以下生ワク)の各班にわたる広汎な研究が実施され,その研究成果ならびに実験投与の遠隔成績に多くの期待が寄せられていた。たまたま1961年7月より8月にかけて緊急行政措置として3型混合生ワクの全国一斉投与が実施されたために野外における実験投与計画が当初の計画通りの完全な観察を行うことが不可能となり,わが国のポリオ予防対策に不可欠な疫学的な基礎資料の蒐集が極めて困難な状態にたち至った事はまことに遺憾なことであった。
 本報告は上述の生ワク協議会接種部会の研究の一環として実施した1961年度における野外実験投与の成績,同じく同年実施された行政措置による一斉投与時の成績1)および1962年度に実施された第2次一斉投与の前後における成績についての報告である。

科学体系のなかの公衆衛生学の位置と役割(その1)

著者: 水野宏

ページ範囲:P.69 - P.75

I.はじめに
 本誌26巻9号の母子衛生特集において,わたくしはそこにもられたテーマが,あまりにも臨床医学的に偏しており,「その内容は小児科の臨床雑誌が企画してもすこしもおかしくない,というよりむしろその方がふさわしいくらいで,この企画のどこに公衆衛生の専門誌の特徴があるのであろうか」という疑問を提起し,臨床医学的母子保健と公衆衛生学的母子保健とは区別さるべきものであるとの趣旨を述べた。編集委員は編集後記の中でこの小文をとりあげて,「この問題は公衆衛生全体の基本問題として,今後真剣にとりくまれる必要があります」と指摘したが,わたくしの真意もまさに,あの小文を足がかりにして公衆衛生学の本質についての論議に深さが加えられるようにとの願いにあった。
 しかし何分にもあの特集においてわたくしに与えられたスペースは極わめて小さいものであったので,公衆衛生学の本質との関連について述べるゆとりはほとんどなかったといってよい。今回さいわいにわたくしの真意をさらに詳述する機会をあたえられたので,公衆衛生学の本質について,わたくしが平素考えているところをまとめて記してみたい。

地区診断における条件分析の論理と実用化—小林批判への再批判

著者: 柏熊岬二

ページ範囲:P.76 - P.82

I.はじめに
 本誌第26巻第7号(昭和37年7月)に小林治一郎氏が「地区診断における条件分析の論理と定式化」と題する論文を執筆され,私の地区診断理論を批判している。その主な論点は次のようなものである。すなわち,地区診断の根本方法は条件分析であるという前提の上に立って,①条件分析の構成,②変数のとらえ方,③サイクル形成,④調査の諸段階のいずれについても弁証法的論理学ときわめて類似しており,場合によってはよりすぐれていると主張し,特に矛盾の概念を重視して地区診断への導入を図り,その定式化を試みている。
 私は実はこの論文を拝見するまで「矛盾論」も「実践論」も全然読んでいなかった。そこで早速毛沢東の諸著作を入手しうる限りにおいてすべて読了1)し,他の資料2)とも相俟って新中国の理論的拠りどころや戦術論などを研究してみた。このような機会のきっかけを与えて下さった小林氏には大いに感謝しなければならない。

乳癌の発生要因に関する研究—(2)年令別罹病率曲線の解析と栄養因子

著者: 佐藤徳郎 ,   街風喜雄

ページ範囲:P.83 - P.94

 前報1)において日本に乳癌が少なく,西欧に数倍も多いのを吟味して次のような結論をえた。1)日本の未婚婦人の乳癌は既婚,子供のある人達より2〜30%高いだけであるので,授乳で西欧との差を説明することのできぬ点を指摘し,日本の未婚婦人にも作用している既婚婦人と共通の因子が考えられねばならぬことを明らかにした。2)日本婦人の乳房の発育維持は西欧婦人よりも劣るものが多く,老年でその差が拡大するが,その原因は栄養性因子が大きく,カロリーの制限と動物性食品の差(蛋白,脂肪)によることを明らかにした。3)乳腺の発育には成長ホルモン,estrogensmineral cortiloidの必要だというLyonsらの動物実験2)をもとにし,人間でも成長ホルモンの作用を発揮するために必要な,カロリー,アミノ酸,脂肪酸などの要素が必要であり,それが不足すると乳腺の発育を妨げ,萎縮させ,過剰は発育を促進し,閉経後もそれを維持するのに役立つ。4)動物実験の資料でも栄養因子が乳癌発生に大きな役割りを持っていることを明らかにしている。成長ホルモンの作用に必要な栄養素材の過剰により乳腺を絶えず刺激状態におくと,その一部に乳癌を発生し易いと仮定すると,西欧と日本の差,社会層による死亡率の差,特に貧困家庭に少ないこと,子供のある家庭に少ないことなどが矛盾なく説明される。

昭和36年末の結核登録者の実態

著者: 島田晋

ページ範囲:P.95 - P.103

I.はじめに
 昭和26年結核予防法の制定以来,わが国の結核対策は着々とその歩を進め,その間昭和28年,33年の2回にわたる結核実態調査に明らかなように結核症に対する諸問題は一般的に好転を見ている。しかしさらに結核患者に適正医療の受療促進を目的として患者管理を拡充強化すべく昭和34年度に217保健所がまずその第一歩を踏みだしてより,35年度には209保健所が結核特別推進地区に指定され,36年度からは全保健所が患者管理対策を中核として調和のとれた高水準の総合的結核予防対策を強力に推進している。
 従って新方式による患者登録票を整備した結果 患者の病状および受療状況,要観察者の経過また登録者の家族状況および生活環境等が一目でわかるように記録されることとなった。この登録票の整備は患者管理の基本であり,さらに整備された登録票にもとづいてきめの細かい結核対策が実施されるのである。すなわち結核予防法では患者管理の目的を達成するために必要に応じて登録者に精密検査を行なう事を規定しており,一方では保健婦等の家庭訪問によって適切な指導と効果を期待しているのである。

原著

対馬における肺吸虫病の現況

著者: 安陪光正 ,   高岸達也 ,   武市昌士 ,   山本厳雄

ページ範囲:P.104 - P.107

対馬における肺吸虫病史
 大正7年内務省衛生局の調査,「本邦における地方病の分布」1)の中に,長崎県上県郡(対馬)の住民867名の喀痰を検し,31名に肺吸虫卵を証明し,対馬が本病の濃厚な流行地であることが,文献上はじめて指摘された。しかしこれは,さして住民の注意をひかなかったらしく,昭和3年の対馬島誌2,にも,わずか2行「風土病としては一般に特記すべきものなし。ただ鶏知村大字洲藻および峰村大字三根に肺ジストマの潜伏せるあり」,との記載があるにすぎない。その後本病について,対馬からの報告は見当らない。
 昭和34年に至って,長崎大学風土病研究所,片峰大助教授ら3)は,佐賀川,古田川,三根川,仁田川,佐護川,舟志川のモクズガニの調査と,三根,仁田,佐護,佐賀,舟志の各小中学校児童生徒について肺吸虫皮内反応を行ない,検便の結果25名に虫卵を見出した。さらに35年,上槻川,久根川,阿連川,瀬川,浅藻川,内院川,久和川のモクズガニの調査と金田,久和,内院,大調,阿連,豆酸,瀬の各小中学校児童生徒について肺吸虫皮内反応を行ない,検便の結果10名に虫卵を見出した。

文献

自動車事故に対するドア錠の効果/トロント市におけるセービン,ポリオ3価生ワクチンの経口投与(1962)

著者: 鍋島

ページ範囲:P.103 - P.103

 米国においては1956年に自動車の完全なドア錠が考案されたが,本論文はその効果について述べている。
 本研究は,ACIR(Automotive Crash Injury Research)の都市以外の地区における事故に関する各州間計画の中より,乗員が少くも1名以上負傷した14,131台の自動車を対象として,それをさらに1956年以前製作の車8,606台とそれ以後製作の車5,525台に分け新しいドア錠について比較検討をしたものである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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