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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生27巻3号

1963年03月発行

雑誌目次

特集 癩

癩予防事業の変遷

著者: 林芳信

ページ範囲:P.109 - P.113

 我国の癩予防事業は,癩予防法との関連において発展変遷したところが多く,従って私のここで述べることも行政面と重複するところがあるかと思われるが,しかし,なるべく実際面を基として,明治中期以後におけるこの事業の変遷の大要を述べて見ることにする。

癩予防事業

著者: 若松栄一

ページ範囲:P.115 - P.123

日本及びアジアにおける癩予防事業
沿革
 今から約1,000年前,光明皇后が千人の垢を流してやる悲願をたてられ,千人目にからだのただれくさつたらい者にぶつかり,周囲の人々の止めるのをふり切つて,みずからその体を流された。それが仏の化身であつて光化した,という言い伝えは既に有名である。同じ頃聖武天皇が奈良に悲田院を建てられてらい患者を収容された。奈良から鎌倉時代にかけて,らいまん延の記録が多い。足利時代から織田豊臣時代にかけてキリスト教が入り宣教師が収容施設を作つた。徳川時代になつてキリスト教が禁ぜられ,教会が破壊されると共に収容所もとりつぶされてしまつた。
 明治になつてからは,らい患者は神社仏閣にたむろして物乞いをしていた。特に熊本の本妙寺及び清正公,四国八十八カ所の札所,大阪の天王寺及び草津が有名であつた。患者は放任されていた。

癩の臨床の変遷—特に病型分類について

著者: 石原重徳

ページ範囲:P.124 - P.128

緒言
 本日は,らいの臨床方面の事を病型分類を中心にお話申上げるのでありますが,らい学における病型分類は大変重要な問題であって,その根幹をなすということが出来ます。一応順序として,ごく大づかみならいの症状,殊に最初の自覚症から考えて行きたいと思います。

免疫学の立場から見た結核と癩との関連性

著者: 柳沢謙 ,   前田道正

ページ範囲:P.129 - P.132

 癩の診断に用いられる光田反応は,1919年光田によって発見され,林によって詳細に臨床的研究が行われている。即ち,癩結節の食塩水乳剤(光田抗原)を癩患者の皮内に注射すると,神経・班紋癩患者では注射後24時間で硬結を伴う発赤が著明に現われ,2週間目に最高頂の反応に達し,その後次第に反応が減弱し,数週後には消褪するのに反し,結節癩患者では注射後殆んど反応を示さない。我々はこの反応の病理組織像が結核の場合のkoch現象に極めて良く似ているので,光田反応もkoch現象と同様に癩の免疫を示すものと考えている。我々は結核と癩との関連性を検討するために,まず皮内反応の面から研究を進めた。

綜説

科学体系のなかの公衆衛生学の位置と役割(その2)

著者: 水野宏

ページ範囲:P.133 - P.139

Ⅴ.人間を対象とする科学と医学
 臨床医学は人間を対象とする科学である。統一的存在としての人間を深く理解することなしには,すぐれた臨床医となることはできないであろう。細胞の構造とその機能を知ることは,人間を深く理解するために欠くべからざる基礎的知識の獲得のために必要である。生理学も生化学も病理学も人間を理解するに必要な基礎的知識を提供するという意味で基礎医学とよばれるのであろう。細菌学・薬理学・衛生学・医動物学などは人間にはたらきかける諸要因とその人間に及ぼす影響を追求することによって人間理解を助けるという意味において,基礎医学とよばれるにふさわしい。臨床の学者がこれらの基礎医学的分野の研究に深く打込むことは人間を究めるためにも欠くべからざることであるが,細菌の構造とその機能の研究だけに没頭している者を臨床医学者とよぶことのできないのはいうまでもない。臨床医学者は,細胞とか組織とか器官とかいう次元だけではなく,また人間にはたらきかける諸要因だけでなく,統一的存在としての人間という次元において,まず深い科学的知識に基づく理解がなくてはならない。
 しかし人間を対象とする科学は医学のみに止まるものではない。心理学も人類学も人間を対象とした科学であるし,教育学もそうであるといってよかろう。また社会学も社会的存在としての人間像を追求するという意味でやはり人間を対象とした科学である。

周産期死亡の実態と問題点

著者: 丸山博 ,   南吉一

ページ範囲:P.140 - P.144

はじめに
 本編のもとは二つの調査からなる。
 一つは筆著(丸山)が昭和12〜13年に当時日本の都市で最も乳児死亡率の高かった岸和田市で行った死産,乳児死亡の訪問事例調査で,その詳細はナーセス・ライブラリー133「乳児死亡(Ⅰ)」にまとめてある。

原著

織布労働者の周産期死亡率について

著者: 篠崎吉次

ページ範囲:P.145 - P.148

I.はじめに
 周産期死亡と社会経済的要因との関係については,未熟児出生の場合と同様に,低社会層に多いことが,しばしば指摘されている1)。また母体の生活環境との関係では,就業婦人に高率である2)といわれ,母体労働の影響が注意されている。著者は,さきに織布労働者に未熟児出生,及び死産が多いことを報告したが,今回は更に周産期死亡との関係について検討した結果,同様な成績を得たので報告する。

アルコパールによる小中学生の鉤虫集団駆虫成績

著者: 赤木勝雄 ,   鎌田為夫 ,   藤波浩

ページ範囲:P.149 - P.152

 鉤虫に対しBepheninm hydro-naphthoateが,あらゆる点から有効適切なることはM. Young,J. E. Freed,L. G. Goodwin,O. D. Standenらが,すでに詳細に報告している。教室伊東亨らも1960年に成人に対しての駆虫,副作用効果について発表している。今回山形県下一農村の小中学校生徒を対象として鉤虫集団駆虫を行ない,見るべき成績を得た。

住民福祉と環境衛生

著者: 小山正栄

ページ範囲:P.153 - P.155

はしがき
 人間生活の目的は,今さら申し述べるまでもなく,健康にして文化的な生活を建設することにある。健康にして文化的な生活は,環境衛生の整備如何が大きく影響することはいうまでもない。近代文化都市の前提条件は,ここにいう環境衛生の整備である。ところで,わが国の東京都を始め,大阪,京都,名古屋,横浜,神戸などいわゆる5大都市,これにつづいて,広島,福岡などこの問題がどの程度整備されつつあるか? 都市計画とにらみ合わせて,まことに理想の線に程遠いといわなければならない。東京都においても,来るべき国際オリンピックに備えて,汚物処理施設の問題など,東知事の頭痛の種であるとうかがっているが,わが国の首都が,かような状態であり,世界的に視て日本の恥辱であると考える。
 そこで,福岡県下の実状を分析して,この問題の前進のために検討して見たいと思う。

保健所事業今後の課題

著者: 山内正人

ページ範囲:P.156 - P.157

 私は昭和21年に保健所に入った。
 戦地で防疫業務をやってきた私にとって,保健所の存在は大変興味のあるものに映じた。そして保健所の仕事ならば身を挺しても何等悔いるところはないと考えた。

衛生研究所今後のあり方

著者: 三浦運一

ページ範囲:P.158 - P.159

 衛生研究所は全国の各都道府県と6大都市に合計53設置されており,その主な任務は,(1)衛生行政上あるいは一般公衆衛生上必要な試験検査,(2)同じくこれらに必要な調査研究,(3)衛生技術者の技術指導とされている。
 しかし現在の衛生研究所は各府県や都市によって甚だしい相違があり,その人員も大は130人以上におよぶものもあれば,小は僅か11人に過ぎず,建物も延2,000坪から150坪に足りないものまであり,設備機械もこれに準じる。従ってその業務も,衛生行政上要求される細菌学的検査や水,食品,薬品などの検査をどうにかやるのがせい一ぱいという研究所もあれば,各種検査はもちろん,広汎にわたった調査研究を行ない,さらに労働衛生や精神衛生の部門まであって,高度の研究や指導を行っている研究所もある。

公衆衛生としての精神衛生—第10回精神衛生全国大会から公衆衛生家の役割を考える

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.160 - P.163

比重を増してきた精神衛生
 公衆衛生のなかで精神衛生が最近とみにその比重を増してきたといわれる。本当にそうなのかどうかはともかくとして,公衆衛生に携わるものは今日の精神衛生をもっと冷静にみつめる必要がある。そしてその意味を正しくつかむ必要があると思う。それは精神衛生をおしすすめるために,精神衛生をみつめよというのではない。公衆衛生としての精神衛生を考えることが,つまりは公衆衛生そのものを考えることになるという観点から,精神衛生をみてもらいたいということである。
 わが国に於ける公衆衛生の過去・現在・未来,ことに将来の公衆衛生を正しく理解しようとすれば,今日の時点における精神衛生をぬきにすることができないということでもある。何故そうなのか。

文献

トロント大学公衆衛生学学位取得カリキュラムの内容—カナダ公衆衛生医に対する意見調査からみた/イギリスの慢性気管支炎—呼吸疾患一般医研究委員会による全国調査成績

著者: 芦沢

ページ範囲:P.139 - P.139

 トロント大学のSchool of HygieneのD. P. H. のカリキュラムには選択コースがなく,すべて公衆衛生各分科の基礎と考えられていたが,時代の進運につれ,改訂の要は各方面からいわれている。
 これは改訂に先き立ちすでにト大学のカリキュラムを経てD. P. H. になっている医師339名について意見調査を行なった成績である。大要は 1)現状維持47.5%,改訂すべし38.6%,他は保留ないし意見なし。2)選択科目をふくむコアカリキュラムは必修という考えには賛67.3%,否13.9%。3)必要とする公衆衛生医の技能,学識,志願者の希望によってカリキュラムは個々にきめるべしという考えには賛32.1%,否45.2%といった成績であった。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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