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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生27巻6号

1963年06月発行

雑誌目次

綜説

農村衛生の改善をどう進めるか—農村に於る生活水準(特に健康を中心とした)の改善に関する研究

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.293 - P.301

A.この研究が取り上げられるに至つたいきさつ
 1.国民生活の不均衡問題
 わが国民の生活は,ようやく戦後の混乱から抜け出して,国民所得その他の経済的指標も,戦前の状態に恢復し,経済企画庁は昭和31年の白書で「もう戦後ではない」と声高らかに叫び,その後もおおむね順調な伸展を見せているが,これはわが国全体として平均的に見た結果であり,社会層別に見れば,1,000万人におよぶ生活保護基準すれすれの生活困窮人口があり,地域間の格差も大きく拡がっている。
 若し,これを放置して,ただ一部国民の繁栄のみに目をくらまされていては,経済的発展の途を進みながらも,国民間の生活格差を増大し,社会不安さえ生ずる恐れがある。

国民健康保険直営診療施設の公衆衛生活動に関する研究

著者: 小島徳雄

ページ範囲:P.302 - P.311

はじめに
 医療施設が公衆衛生活動に対していかにとりくんでおり,保健所とどのような関係にあり,またこの活動に対してどんな意見をもっているかについての調査研究は,既に昭和34年度に病院管理研究所が主体となって行ったものもあるが,この間題の分折は従来ほとんど手がつけられていなかった関係もあって,まだ分析が十分なされているとは言い難い。
 また全国的スケールでの大まかなアウトラインは明らかにされたとしても,地域毎あるいは特定経営主体の施設についても,つまびらかに実態をうきぼりさせることは,将来の課題としてとり残された。そこで特定の岩手県という行政区域において,しかも国保直営診療施設においては,医療施設の公衆衛生活動がどう行われどんな隘路や問題,また先進的なものがあるのか,これがわれわれの研究の分析視角であった,本調査は以下の要綱で行われたものである。

在院に関する研究(続報1)

著者: 吉田寿三郎 ,   赤尾芙美子 ,   岩佐潔 ,   津田豊和

ページ範囲:P.312 - P.316

緒言
 少産少死による人口構成上の変化,高度生産のための社会経済構造の変化および医薬学その他の進歩と広義の生活環境の改善などが相乗される結果,近い将来には慢性病弱者が激増しこれらのものにはまた急性症状も頻発して,これに応ずる医療・社会サービスは複雑且つ緊急な問題として登場する。これは見透される限りにおいてますます深刻さを加えるものと予測される。他面,民主々義の生長による人間としての自覚から適切な医療その他社会サービスの均霑・充実を欲する要求はいよいよ増大し熾烈になるものと推察される1)
 このような変化や要請に答えるために,医療の能力やその経済の活用について,新しい社会的,経済的,心理的考想を開発し,最少経費最大効率の冷酷な経済原則を成立させるるような措置が,遠からず切実に求められてくることは自明の理である。ここに述者らは,欧州先進老人国の実際を視,これに触れて,上記の変化や要請に答える方式として,家庭を中心とする広域社会全体を包括する医療福祉体系を樹立することがその最も有力な手段であると考えている。

保健所地域活動の評価

著者: 小宮山新一

ページ範囲:P.319 - P.325

I.はじめに
 わたしたちの保健所は,今年で満10周年を迎える。設立の当所から,保健所活動の目標として,地区保健活動に重点をおいてきた。その概要は「高津保健所10年のあゆみ」として小冊子にまとめたが,ここでは特に地域活動の評価という観点からこれを反省してみることにする。
 保健所活動の目標は,橋本正己先生がいわれるように「国民の健康の保持に役立つあらゆる科学や技術を,すべての住民の日常生活の中にまでもち込むこと」である。そのためには,各種の業務を通じ(1)保建サービスが全地域にもれなく行きわたること,(2)より手厚いサービスを要するケースを発見し,継続的な個別指導をすることが基本となる。したがって,その評価にあたっては,地域住民に対する集団指導はもちろんのこと,クリニックや訪問活動その他各種の日常業務をも総合して検討してゆかねばならない。

科学体系のなかの公衆衛生学の位置と役割—その3

著者: 水野宏

ページ範囲:P.326 - P.330

IX.社会の保健構造と保健機能
 従来の社会諸科学において,特定の社会事象を明確に認識しようとする場合に,それぞれ対象となった問題に応じて,人口構造とか政治構造とか経済構造とかの分析から事をはじめようとする。対象となった問題を全体社会のなかで構造的に把握しなければ仕事の進めようがないからである。ところが社会全体を分析して,そのなかで「生命・健康をまもるための構造」がどのようになっているかを科学的に明確にしようとする努力はあまり見られない。これでは社会全体のなかの「生命・健康をまもる機能」を総合的に,しかも構造的に把握することはできないであろう。そんなことで地域住民の健康をまもる仕事が,科学的に進め得るであろうか。
 人口構造でも政治構造でも経済構造でもすべて地域住民の健康に大きなかかわりをもつ。また法律や宗教や教育も深いところで地域住民の健康を支配している。その1つ1つについて例示するゆとりはないので,ここでは人口構造と経済構造にかかわりのある2,3の問題に簡単にふれるだけにしておこう,農村における生産年令人口の流出は近年とりわけ著しい。これを端的に示す示標として男子の農業人口補充率(中学・高校新規学卒者で農業に就業したものを1年に補充を要する農業人口で除したもの)をみると,昭和30年には70%以上であったものが,その後急激に減少して昭和36年にはわずか20%になっている。

保健所の問題点

著者: 大和田国夫

ページ範囲:P.331 - P.332

I.はじめに
 保健所が衛生行政の第一線機関として,地方における公衆衛生の向上に寄与すべきものであるから,保健所の運営如何は直接公衆衛生の発展に影響をおよぼすことは論をまたない。したがって,その運営や事業についての種々の問題は古くから検討されており,今更,新しく取上げるべきものではないが,ここで,問題点を再検討することは,保健所の整備,発展上に意義があるかも知れない。保健所事業の個々についての問題点は紙面の都合で述べられないが,運営上の問題に関して,私見を述べてみたい。

原著

経口ポリオ・ワクチンの保存に関する検討

著者: 下条寛人 ,   吉田英一 ,   山本弘史 ,   中野稔 ,   吉原美智子 ,   柄沢きみ ,   北原典寛

ページ範囲:P.333 - P.336

 一昨年以来,我が国で経口ポリオ・ワクチン(生ワクチン)が広く用いられるようになってから,その実施に際していくつかの問題がでてきた。ことに生ワクチンの保存は従来のワクチンとかなり様子が異なるために,ある程度混乱をまねいたことは否めない。在来の多くのワクチン類は液状で冷蔵庫に保存され,半年から2年の有効期限があったが,生ワクチンは凍結保存が要求され,液状にしてからの有効期限は極めて短かかった。これらのことは,これまでポリオ・ウィルスを扱い,その経験や知識のある場合には容易に納得されることであるが,それをさらに確認するために,予研腸内ウィルス部において生ワクチンの保存についてたしかめられた成績を招介しておこう。

三重県北部某村における腸チフス集団発生について

著者: 松井良勝 ,   渥美三千里 ,   吉川秀成 ,   野呂治典 ,   宇仁田武 ,   小林金一 ,   宇田川重良 ,   笹本弼 ,   加藤功 ,   間瀬政利 ,   松井清夫 ,   坂本弘 ,   滝川寛 ,   因田与志男 ,   鈴木武 ,   藤田浩 ,   山田潔 ,   森幹雄 ,   稲垣正 ,   長谷川文男 ,   加藤正人

ページ範囲:P.337 - P.340

I.はじめに
 戦後わが国の腸チフス患者の発生は減少し1),集団発生もわずか10例足らずを数えるのみである2)〜8)
 われわれは1962年4月,三重県北部の一農村において,伝染経路があん餅と推定される集団発生例に遭遇し,疫学的,臨床および細菌血清学的検討を行なう機会を得たので,その概要を報告する。

蔵王山麓僻地学童の栄養調査について

著者: 近厚 ,   安藤敏幸 ,   渋谷美恵子 ,   小室ちよ子 ,   相原秀 ,   佐久間梅太郎 ,   後藤きい ,   飯村洋子

ページ範囲:P.341 - P.345

 公立病院の公衆衛生活動の一つとして蔵王山麓開拓地部落(白石市,福岡,不忘)の学童(白石市福岡小学校,不忘分校)について,栄養に関する調査を実施したのでその大要を述べる。
 不忘部落の地理的環境は第1図のようである。白石市から自動車で約1時間の距離にあり,海抜530米,世帯数55,人口250で全て農業(酪農)に従事している。積雪の多い冬季は,外界との交通が杜絶することも屡々である。昭和25年満州からの引揚者が入植したもので,国庫補助を打切られている現在では,生活はかなり苦しいようである。

文献

ガンマーグロブリンと麻疹予防接種/カナダトロント市の試験的在宅医療看護事業

著者: 芦沢

ページ範囲:P.325 - P.325

 現今ジェンナー式のワクチンでは,麻疹にかんする限り必ずしも発病を阻止し得ず,副症状も免れない欠点がある。1953年Kempeらは3〜4週前に麻疹ワクチン接種を受けた者からとったガンマーグロブリンが予防効果を示すことを報告したが,さらに今日ではガンマーグロブリンは麻疹の治療にも予防にも有効なことが分かっている。1955年来モスクワのメチニコフワクチン血清研究所により麻疹ワクチンビールスで高度に感作した動物の血清からビールス中和抗体を高力価にもつ抗ワクチン血清製剤の研究開発が行なわれ,実験的には予防,治療に有効なことが明かにされていたが,1960年のモスクワでの麻疹流行時にあたり次の注目すべき事実が示された。すなわち,予めガンマーグロブリン投与をうけた13人の患者接触者からは1人も発症しなかつたが,何らの前処置をしなかつた29人の同様接触者からは13人の発症をみた。また,前駆期にガンマーグロプリンの投与をうけた患者は軽症に経過した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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