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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生27巻8号

1963年08月発行

雑誌目次

綜説

わが国の保健所活動

著者: 原島進

ページ範囲:P.405 - P.410

1.保健所見学のあとの印象
 昭和35年と36年の厚生科学研究補助金による班研究の一員として,東京附近の保健所を見学する機会にめぐまれたことがある。それまで,私は保健所事業の運営と直接にたずさわったことはなかった。それから今日までも,そうである。しかし,衛生学,公衆衛生学の教員の一人として,保健所には関心をもっていたし,また保健所のいろいろな部局に長年働いておられる人々に接する機会も多く,その時には,その事業について話をきかされることもすくなくはなかった。しかし,なんといっても,保健所のことについては素人である。この班に参加することについても,十分考えたのであるが,中心をなす人々から,素人の考えかたを知りたいから,ぜひとも加わってほしいという説得に負けてしまったのである。
 このようないきさつで,昭和36年秋から37年のはじめにかけて,関東地方にある2つのUR型と1つのU型保健所を班の方々といっしょに訪ね,所長さんその他の方々の説明をきき,また,活動の現場をみせていただき,そのあとで,みんなで話合うことができた。すなわち,保健所事業の見学を行なうことができたのである。

農民と自殺

著者: 柳沢文徳 ,   松崎泰夫

ページ範囲:P.411 - P.418

はじめに
 第23回日本民族衛生学会のシンボジアムとして,東北大学高橋教授は「青年期の自殺は減少できるか」という課題をとりあげられ,各専門分野の立場から種々の意見がのべられた1)2)。同教授は,そのシンボジアムのしめくくりとして――また一面から考えると,カンセリングは確かに自殺予防の一つの手段であるが,或る意味では対症療法的意義より持たないように思われる。さらに根本的手段を追及するためには,その疫学的研究が深く堀り下げられる必要があろう――とのべている。自殺の疫学的研究は福島3),高橋4)5),石田5),越氷7)田多井8)等の研究があげられるが,これらによって,種々の自殺を引きおこす諸因子が判明せられつつある。とくに渡辺定博土9)の論文は自殺の予防処置について,多くの問題を提供しているし,多くの多方面にわたる学者の見解を要約されておる点で注目すべきである。
 また自殺者の職業別に疫学的の考慮をしたという意味できわめて重要であると考えられるのが,福島3)の研究である。

結核と精神障害に対する公衆衛生活動—時代の要求する新しいニードとは何か

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.419 - P.424

疾病とのたたかいは変化する
 わが国の公衆衛生の歴史をふりかえってみると,明治前半期に天然痘・コレラ・ペストなどの急性伝染病の流行があいついで,公衆衛生の中心が防疫であった時代から,やがて明治後半期になって,急性伝染病の大流行が下火になり,それにかわる結核の増加に対処することが公衆衛生の中心となった時代へと,中心となる疾病が移行していったことが,特徴的な事実としてあげられる。
 大正年間に執筆された内務省の医制50年史は,すでに前者を第1衛生不良の時期,後者を第2段の衛生行政の時期と呼んで,明瞭にわけてしてきしている。そして,その後結核が解決のあけぼのを迎えるにいたるまでには,そのしてきの後さらに30年の歳月を要したことは,今日からみて実に印象ふかい。それは長い年月であり,その間に二つの世界大戦がたたかわれたことが思いあわされる。

アメリカ合衆国における公衆衛生サービスの組織機構につて—Organization of Community Health Servicesの概念を中心として

著者: 中沢幸一

ページ範囲:P.427 - P.433

I.はじめに
 最近わが国でも公衆衛生は大きな転期にさしかかっていると考えられ,保健所の両編成,保健所業務の再検討,地域社会における保健衛生組織の育成,地域共同保健計画の推進等多くの問題が論議されている。
 私は昭和36年8月から昭和37年8月まで丁度1年間,アメリカ合衆国ミシガン大学公衆衛生学部公衆衛生学科に留学する機会をもつことができた。そこでMPH(Master of Public Health)course in public health administrationの課程に在学し,主として公衆衛生行政を中心とした科目を専攻してきた。勿論アメリカとわが国を比較した場合,人口の大きさ,人種の複雑性,地域の広さ,社会的・経済的な地盤等種々の大きな相違があるのは当然だと思われる。しかし公衆衛生においては,その組織機構の問題,責任体制の問題,各種社会資源の問題等わが国において現在並びに将来に渉って考えられねばならぬ面について,参考になることが多いと考えられる。浅学非才の私のこと故,精細にわたることはできないのであるが,ミシガン大学においての講義を中心にして主としてアメリカにおける公衆衛生の組織機構(Orgamization of Community Health Services)について述べてみたいと思うのである。

名誉会員を訪ねて・9

冨士貞吉先生にきく

ページ範囲:P.434 - P.439

日本家屋の衛生学的研究
 編集部どうも先生,お忙しいところをありがとうございました。いままで,衛生学会の名誉会員の先生方にずっと先生方の御経験をお伺いして参り,いろいろ御抱負などお伺いしたのですが,本日は,先生に御旅行の途ゆお寄りになって頂いて,お疲れのところ恐縮でこいますが,これからいろいろ伺わせて頂きたいと思います。京都大学を御卒業になられまして,直ぐでございますか,戸田先生の研究室にお入りになりましたのは。戸田先生のところでは,最初はどういうような……。
 冨士最初は私は,日本家屋の衛生学的研究というテーマをもらったわけです。その当時,横手先生の方では矢追秀武さんが,おなじように日本家屋の模型を作って研究を始めておられたのですが,途中で矢追さんは伝研の方にかわられました。私の方は,日本家屋の衛生学的研究をつづけてまいりました。その当時,戸田先生は,フランスから帰られまして,井水の塩素消毒を始めておられたわけです。藤原九十郎さんが,畳のフォルマリン,鋸屑消毒をやっていました。そういうようなわけで,戸田先生は純日本の衛生学をやろうというわけで,私に日本家屋の衛生学的研究のテーマを与えられたわけです。

紹介

英国に於ける病院費の展望

著者: 外山敏夫

ページ範囲:P.440 - P.446

 ナショナル・ヘルス・サービス(National Health Service*2以下N. H. S. と記す)が始って以来,病院費の値上がりは一般大衆や政府及び国会議員にとっても関心事の1つとなってきた。政府は認めた財源の範囲内に病院費を抑えようとしながらも,現在その責任は病院経営に負わせているのである。しかしながらこの問題は英国やN. H. S. の制度の範囲内に限られるものではないのである。病院費の急速な値上がりは第2次大戦後,世界中共通の問題となっているからである。
 その問題が大きいにも拘わらず,それを展望しようとするしっかりした試みは今までほとんどされておらず,医療費の値上がりをもたらす原因がはっきり理解されてはいないのである。そこでこの論文はその真相を明らかにし,その中にある原因をいくらかでも理解しようとするものである。また保健省から出される病院費報告書(Hospital Costing Returns)のように個々の病院における各々の価格を詳しく分析するためでもなく,またWHOで行なっているように病院に関する経費を評価したり,批判的に調べようとするのでもない。むしろ大きな輪かく図を示そうとするのが目的である。

原著

3歳児検診成績—特に市街地居住者のう蝕罹の患状態

著者: 桜井勝男

ページ範囲:P.447 - P.450

I.序
 3歳児は学童と乳児の中間にある。学童は教育関係者により,乳児は保健衛生担当者によって,健康管理が行なわれているが,精神的肉体的発育にとって重要な時期にある3歳児については,その管理が十分行なわれていない実情にあった。昭和36年児童福祉法の一部が改正され国都道府県の責任において,3歳児の健康診査および健康管理を実施することになった。すでに島田保健所管内島田市旧市内検診成績について,その概要を報告した1)2)
 扨て3歳児の検診と共に口腔衛生対策が保健所業務としてその比重を増し,解決を要する問題が擡頭しつつあり,今回昭和36年度の検診成績を検討し,その対策の一端を報告する。

第二次性徴開始と身体発育との関連性に関する研究(追試)

著者: 大山昭男

ページ範囲:P.451 - P.453

緒言
 今日思春期のこどもの諸問題がとくに注目されるとき,彼等を理解するにはまずその開始の時期を把握することが大切な鍵と考えられる。
 このことについて,古くは松林1)(昭7.広島女子),戦後においては早崎2)(昭22.愛知県下農村男女),吉村3)(昭29.鹿児島市男女),石原4)(昭33.兵庫県内全域女子)等により,「第二次性徴は.年令に関係なく,一定の発育値に達すると開始する」という所説が提唱されている。その一定値とは,身長では早崎は151cm,他の諸氏は148cmとしている。

某農村における集団投薬による高血圧管理の一実験例

著者: 南明範

ページ範囲:P.454 - P.458

緒言
 高血圧管理の問題が取り上げられ,各研究者により管理方式の設定が提唱されているが,その大多数は組織化された官庁・会社工場等比較的管理実施が容易な社会集団である。未組織化の地域集団すなわち農村在住者等を対象とする場合は,受診率の面からも同一集団の継続管理には管理経験者にしか味わえない蔭の努力と忍耐が必要である。著者は,昭和32年より長崎市に隣接するN農村において,集団検診・健康管理を続けてきており,その活動方式は既に報告した1)。継続管理を行なう場合各個人に就て,一般生活指導あるいは治療指示の効果を把握する事が必要であるが,その実態を確実に掴む事は因難である。一般生活指導の効果は,家庭訪門あるいは栄養調査を行なっても断片的に実態を知るのみであって,農村に残る封建性や経済問題等の社会要因を含めての実態を如何に掴み指導するかは常に当事者の行き詰るところである。さらに治療指示の効果に至っては,農繁期という特殊事情等もあって,当然入院加療を要する高血圧者でも労働の可能な限りでは,自宅静養や継続治療は周囲の状況からも実施され難いのが現状である。著者は,薬剤投与により一般生活療法の重要性や継続治療の必要性を本人を通して家族にも認識させ,かつ頻回に行なう血圧測定によりcase by caseで徹底的に血圧に関する知識の浸透をはかる目的で,集団投薬による管理実験を行なった。

保健所の問題点

保健所活動の方向

著者: 藤咲暹

ページ範囲:P.459 - P.461

 昭和12年保健所法の制定によって確立されたわが国の保健所活動は,初め相談業務,訪問指導業務を中心としたものであったが,戦後権限業務が附加され,行政機関としての立場をとるに至り,業務は増加した。しかも保健所の果した役割が高く評価されるに伴なって,保健衛生に関する問題が次々と保健所にもち込まれ,公衆衛生の広い業務が無統制に保健所に負荷されるという形で,これが処理に寧日ないという結果となった。昭和35年保健所の再編成とその運営の改善の方途が示されたが,これの適応も社会的経済的変化の速さに追いつかず,困惑に直面しているというのが現状であろう。公衆衛生行政の第一線責任体である保健所について考えるには,基本的な問題の考察が必要であると思い,敢て私が感じている2,3の点について述べることとした。

事業のあり方と管理運営について

著者: 清水利貞

ページ範囲:P.461 - P.463

 「保健所の問題点」これ程書き易いようでむずかしいテーマはない。これに類するものは過去において先輩諸兄の何人かが書いている。今回編集当局は約800名の候補者から選ばれた理由は知らず,試験問題の解答を書くような気持でこの問題を取扱ってみたい。ここでは保健所事業の問題点には多くはふれず,ちようど型別保健所,共同保健計画が打ち出されて軌道に乗りつつある時期でもあるので,保健所が公衆衛生の第一線機関であり保健所活動が再検討されつつあるやに聞いているので,保健所の管理運営保健所事業のあり方について述べることにする。
 年1回恒例に開催される全国保健所長会総会において,保健所に関する諸問題が提案され種々論議され解決への努力がされているにもかかわらず毎回30題前後の議題が審議されている。過去数年のものをみても,何れも重要なものでありまだ解決されない問題も多い。これ等を集めるだけで「保健所の問題点」は列挙出来そうである。昨年の第19回総会の議題をみても,法令改正,保健所整備拡充,その他と分けられてあるが,大部分は保健所の現況を前提としての保健所事業の問題の解決を論ずるものが多く,保健所の問題点というような保健所活動の基となる保健所自体のあり方についてのものは少ない「保健所の問題点」を考える立場として保健所の外より見て保健所の将来を考えての問題点と,保健所の側に立っての考え方とあるが,職責上後著の立場よりみた意見である。

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第1回中小企業衛生問題研究会開かる

著者: 西川

ページ範囲:P.450 - P.450

 6月29日(土)瀬戸市陶磁器健康保険連合会館において,第1回中小企業衛生問題研究会が関西医大東田教授・市京大奥谷教授のお世話によって開かれた。研究会は同会館講堂においてラウンドデーブル式によつて進行した。参加は地元からもあったが近畿・北陸・九州・関東からも集り,110人の多数に上り盛会であった。午前はシンポジウムで近畿ことに大阪における中小企業にみられた工業中毒や東京における中小印刷業の衛生問題,じん肺管理の状態が報告されて討議された。その後愛知県ことに名古屋周辺における中小企業の結核問題が報告され,中小企業における給食の新しい方式が発表された。午後は瀬戸市における陶磁器関係の中小企業衛生問題につき同健保連合会の管理センター,健保組合,じん肺の実状,保健所,労働基準監督署,防じん装置の試作などについて討議が行なわれた。そして最後に地元の陶磁器関係の現場を,見学して名古屋市にて解散した。
 およそ中小企業の衛生問題は厚生行政と労働衛生行政の接触する部面である。かねてから唱導された産学協同は大企業が中心課題となって,産学協同が中小企業において行なわれるすれば,衛生問題の解決が最も重大である。この意味において同研究会が発足したことを御報告する次第である。

文献

飲料水の放射能ならびに硬度と癌死亡率,他

著者: 西川

ページ範囲:P.418 - P.418

 この論文は飲料水の放射能が癌死亡率を増高するという仮設に対する調査研究である。コンウォルはイングランド・ウェルスにおいて最も高い放射能をもっている飲料水を使っている。これに対して放射能の少ない水を使う地区が対象として調べられた。胃癌は後者の方が標準化死亡率で150を越えているが,コンウォルは肺・乳房・子宮の癌ならびに白血病についてとられた標準化死亡率が少なくとも統計学的に100を越えることはなかった。14カ国および12地区について調べた結果は上水の放射能と結びつく可能性は全くなかった。ラジウム(Ra)含有量は大約硬度と正比例する。硬度の高いラジウムを沢山含有する地域の各種の癌の標準化死亡率は決して高くなく,軟水を使っている地区でも癌による標準化死亡率は高い例もあった。相関関係硬度と乳房・子宮・肺の癌死亡率との間にも関係はなかったが,骨の癌とは高い相関関係があることが判った。胃癌死亡の最も多い地域が却って最も軟い水を飲んでいた。
 他の疾患の中で硬度が最も高い相関関係を示したのは中枢神経系の血管損傷であった。高い全死亡率は軟水との間に相関があった。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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