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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生27巻9号

1963年09月発行

雑誌目次

特集 老人の保健問題

総論

著者: 福田邦三

ページ範囲:P.465 - P.471

I.問題のとらえ方
 老人の保健問題が近頃だんだん認識されてきたように思われる。それには種々の理由があるであもろうが,主なものとして,次のようなことを挙げることができよう。
 (1)老人の保健問題を含めて,老人問題は社会一般の知識層の間に不当に軽視されてきた。したがつて考え方にも実行面にも今まで不備の点が多かつた。その不備が指摘された。

老人の医療問題

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.472 - P.476

はじめに
 わが国人口の老齢化指数は,最近の少産少死型の人口動態を反映して次第に上昇し,将来は急激に高くなると推定されている。第1図は60歳以上の人口が総人口にしめる割合(老化指数)が8%より18%に上昇していく様相を国際比較したものである。諸外国は短くとも50年,長い国は150年もかかつているが,わが国はこれを40年前後でたどろうとしている。このような急激な人口老化を前にして,老人の医療問題はわが国の公衆衛生としては重大な意義をもつものである。しかもその老化速度は未だ他の国家が経験しないほど激しいので,これに対処するためには綿密な企画と重大な決意とを必要とする。
 老人人口が増加すれば当然老人病くなる°1961年のわが国死亡数は695,374であり,このうち老人性疾患によって死亡したものが56,9%をしめている。ここに含まれる死因は悪性新生物,中枢神経系の血管損傷,心臓の疾患,高血圧症,老衰等が主となっている。この傾向は人口が老化すれば一層顕著のものとなっていくであるうことは想像に難くない。

老人の精神衛生

著者: 安食正夫

ページ範囲:P.477 - P.482

 老人と精神衛生について書けという話である。ところが現在の私にはこういうテーマについての定見や創見がはっきりしたかたちで存在せず,とても書けませんとお断りした。ところが再三の御要望である。私は安月給取りが高級車を買うときは,きっとこういうストレスをおこすに相違ない--などと考えつつ,とうとう執筆する破目に追い込まれてしまったのである,
 言いわけがましく,また,もったいつけるわけではけっしてない。以下をお読み下されば十分わかることである。私が過去に執筆した著書や,数点の論文のおさらいみたいなかっこうになってしまったことを,ここに告白しておこうとおもう。

老人の精神衛生

著者: 金子仁郎 ,   市丸精一

ページ範囲:P.483 - P.491

1.緒言
 近年の治療医学の進歩と社会の衛生状態の改善は,寿命の著るしい延長をもたらしている。0才における平均余命は,昭和30年には男子は63.6年,女子は67.8年であったが,(第10回生命表による)昭和35年には男子は65.3年,女子は70.2年となり,50〜54才における平均余命は男子で22.3年,女子で25.8年となっており(第14回簡速静止人口表による)まさに"人生70年"年の時代がやって来たことを示している。これに加えて出生の減少により,老人人口は絶対的にも,相対的にも,急激に増加して来ている。しかもこの傾向は今後ますます著るしくなることが予想されており,老人問題は社会の各方面で大きな比重を占めている。
 医学においても,今日成人病対策ということが大きくとり上げられるに到ったが,その中心をなすものは脳卒中などの中枢神経系の血管障害,がんその他の悪性新生物,心臓病の三者で,この三者は老年者の死因の大部分を占めており,人口動態統計によると,昭和35年の50〜60才の死因別死亡割合では,男女ともこの三者を併せると60%を超えている。したがって成人病対策としてはこの三者に焦点がおかれ,世人の関心が高いのも当然である。しかし老人の幸福をおびやかしているのはこの三大成人病だけではない。幸福な人生は身体的健康のみで支えられているのではなく,同時に精神的にも健康でなければならない。

老人の福祉問題—特に最下層にある老人について

著者: 塚本哲

ページ範囲:P.493 - P.500

1.はじめに
 平均余命がのびたということを,直線的に老人個々人の寿命が著しくのびたと,うけとることは没理論的だとしても,実際に個々の老人の寿命がのびつつあることは事実でである。今後社会保障や公衆衛生やまた医学の進歩によって,老人は一層長生きできるようになるであろう。しかしいかに長生きできるようになったとしても生活が豊かなものでないならば,その喜びや人生の意義はまことに乏しいことになるであろう。実際にわれわれが相談事業の面で接する老人のなかには,貧困・疾病・人間関係の不調整などから,生きていることに多くの不安を感じ,「お迎え」の一日も早からんことを念願している人が少くない。
 ともあれ人間の永い歴史の流れのなかに一つの世代を継承し,個人的にも幾山襞を越えてその経験を社会に生かし,社会的生産に寄与してきたのが老人である。したがってその生活力や境遇に相違があったとしても,ひとしく後代社会への継承者として全く同様に処遇すべきものである。しかし現実の問題として65才以上530万を越える老人の実態は所得や文化の享受に著しい格差があり,処遇の方法も単純一様な型式的なものではあってはならない。換言すれば机上の抽象的な企図や施策であってはならないのである。

原著

精神障害者のリハビリティション—公衆衛生の立場から—第1報職業更生序説

著者: 中島元一

ページ範囲:P.501 - P.504

 医学はいわゆるRehabilitationの問題を新しい領域として登場させた。それは,精神科領域でも同様である。
 Rehabilitationの意味するところは,人間を生物―心理―社会的な統一体として,全体的にみて,その機能の復興を計ることにあるといわれている25)。これを個人の生活空間ということから考えれば,rehabilitativeな諸努力とは,せばめられた生活空間を拡げる努力である。そして生活空間は,身体的,精神的,職業的,家庭的等々といった領域における個人の適応の機能として画かれる26)。その意味からいって,治療の実際にあたっては,Rehabilitationサービスの方向の焦点が身体的復元,人格的復元,職業的更生等々のいずれかに向けられる。しかしそれは方法論的にRehabilitationを考える場合の身体的要素,精神的要素,環境(社会)的要素といった三つの和互関係を明確にとらえたうえでのことでなければならない。

岐阜県下に於ける3歳児検診(第1報)—特にその精神衛生的側面

著者: 井上雍子

ページ範囲:P.505 - P.507

1.序論
 3歳児検診の精神衛生的側面に関しては,既に柳川光章,藤掛永良両氏1)や松岡高氏2)などが興味ある結果を報告している。我々は昭和37年度における岐阜県伊奈波保健所管内の3歳児検診において全体の約30%に所謂精神衛生の領域で何らかの問題を有すると認められるものを見出した(第1表)。次に我々はそれらのものについて追跡を行い,6カ月後にその結果を調査し,問題のある幼児自身の変化とその母親の問題に対する態度との関連性について検討した。

仙台市内に於ける井水,簡易水道水及び河川水の中性洗剤(ABS)による汚染調査について

著者: 関敏彦 ,   菊地文清

ページ範囲:P.509 - P.511

序論
 昨年来有害無害で問題となった中性洗剤は昭和37年11月4日,食品衛生調査会が国立衛生試験所,慶応大学医学部での実験結果より普通に使用している状態では全く害がないという報告を行い中性洗剤の問題は一段落した。中性洗剤は,食器,野菜等の洗滌用及び洗濯用と,その使用範囲はきわめて広く今日においては,大都市において85%,全国平均で64%の世帯に普及使用されており,今後益々使用量の増加が考えられる。中性洗剤の主成分であるABS(アルキルベンゼスルホン酸ソーダ)は分解しにくく,強い浸透力を持っているので一旦井戸水中に混入したABSの除去は困難であるといわれている。飲料水に含まれる中性洗剤の許容量については,我が国では基準が設けられていないが,米国保健省ではその許容量を0.5ppm以下に規定している。最近当衛生試験所に市民から「井戸水が泡立つ」といって水質検査を依頼されることが多くなってきており,井戸水中にABSが多量に検出されるということは下水,その他廃水に依り常時汚染されていることが推定される。しかしながら我が国における井戸水中のABSの量の調査報告例が少いので,たとえ井戸水中のABS量を分析定量しても,その量の多少を比較することができないので仙台市内井戸水200件余についての水質検査を,ABSについてはmethylen Blue法で実施し,他の項目については厚生省令第23号水質基準に関する省令の試験法に基づいて実施した。

医療費の有,無料による被扶養者の受診態度について

著者: 牟田口利幸

ページ範囲:P.512 - P.514

 近年公衆衛生の進歩に影響されてか,世人の間で医療保険制度の確立,普及が強く叫けばれるようになってきた。
 厚生省では昭和32年から国民皆保険4か年計画をたて,全国市町村に国民健康保険の普及を押進めて,期間満了時には99.86%の普及まで拡大している。しかし労務者健康保険にしろ,国民健康保険にしろ,被扶養者の場合では加入しても医療費の半額は本人負担となっている。勿論全額負担より発病した際には気軽に治療すことができるから,保険制度が如何に人間生活にとって有益なものであるかは今更強調するまでもない。しかし無料で受診することができるとすれば,より健康の維持増進がなされよう。

九州・北海道等の炭鉱従業員寄生虫相の比較研究—第11報近在の農村との比較

著者: 佐々学 ,   田中寛 ,   三浦昭子 ,   白坂竜曠 ,   松本克彦

ページ範囲:P.515 - P.516

 我々はこれまで三菱鉱業に所属する北海道,東北,九州などの炭鉱従業員およびその家族について寄生虫検便による腸内寄生蠕虫の分布状況の調査と,駆虫および環境衛生改善による駆除効果の観察を行なってきたが,1960年度には北海道,東北,九州のこれら炭鉱に近い農村をえらんでほぼ同じ方式による寄生虫検便を行ない,その成績を炭鉱従業員の成績と比較してみた。
 北海道では美唄市郊外の中村部落について1960年9月6日に採便の上,急行便で伝研に送り,これまでの炭鉱検便と同様の方法で検査した。山形県立川町は油戸炭鉱の近くにある農村で,添津・荒鍋・三ガ沢の3部落を対象に1960年4月20日に採便したものをこれまでと同様の方法で東京の伝研に送り検査したものである。長崎県の西海村は崎戸炭鉱の対岸にある農村で,七釜と中浦の両部落について1960年9月10日に採便の上,我々が現地で塗抹法を実施し,培養法は東京にもちかえり実施した。なおこれらの農村の検便には,塗抹と培養を併用しその綜合成績について検討を行なったものである。

鉱山廃水の地下水におよぼす影響調査

著者: 土屋文男 ,   鶴田剛介 ,   真田幸成 ,   神谷忠一

ページ範囲:P.517 - P.519

まえがき
 札幌市のT鉱山の選鉱廃水がⅠ市街の地下水を汚染し,飲用不適であるという苦情が地区住民の間にあり,昭和36年夏より該地区の地下水について2,3の調査を実施した。
 T鉱山は昭和15年に同社の他所で採堀される鉱石から亜鉛鉱,鉛鉱および硫化鉄などの浮遊選鉱を事業として発足し,戦後,一時休止したが26年に再開し今日にいたっている有数の鉱山である。T鉱山の発足当時は操業も小規模であり,かつ選鉱廃水も少なかったのでその廃水による地下水の汚染などの問題も起らなかったと思われ為,しかし,最近事業の伸展するにしたがい廃水量も増大し,加うるに当市の異常な発展とともに増加した同市街の人口と,その住民の衛生知識の向上が,これらのことを大きな社会問題として取上げられるにいたったものと考えられる。

文献

慢性呼吸器疾患問題のしめる次元/肺気腫発見方式の実用性

著者: 芦沢

ページ範囲:P.500 - P.500

 National Health Surveyによるアメリカの呼吸器疾患統計(1960)によると急性症の推定件数は約1億9600万と慢性症の10倍以上におよぶが,年1人当り就床日数は1.5日であり,慢性症である喘息および枯草熱の2.8日,慢性気管支炎5.3日,肺気腫,けい肺等のその他の慢性症の9.6日にくらべ甚だしく短かい。ただしこの統計には推定1,000万といわれる慢性副鼻腔炎はふくんでいない。慢性症の8〜9割は何らかの医療をうけており,作業もしくは生活の規制を受けている点では肺気腫をふくむ,その他の慢性疾患が最も多く,その17.6%に達している。
 1954年と1959年の呼吸器疾患死亡を比較すると,増加著明の肺気腫(1959年7,728名,+15.8%),呼吸器悪性新生物(同じく38,185名,+36.1%),気管支炎(同じく2,705名,+43.7%)であり,全体,としての増加分は肺結核および喘息死亡の減少分を帳消しにし,さらに全呼吸器疾患死亡は1959年は5年前に比し+18.7%の増加を記録した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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