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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻1号

1964年01月発行

雑誌目次

特集 保健所活動

シンポジウムを始めるに当つて

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.1 - P.1

 わが国の公衆衛生は,特に戦後約20年の岡に,伝染病の防遇や国民の死亡状態の改善などに輝かしい成果を収めてきたが,この問多くの悪条件と闘いながら,公衆衛生三の第一線の担い手として保健所が果してきた役割は,高く評仙されてよかろう,しかしながら,およそ昭和32年頃から,わが国は激しい社会的経済的な変動を経験しており,このような変動の中から,地域住民の保健についても従来われわれが経験しなかったような多くの新しい間題が提起されつつある。近年,公衆衛生活動ないしは衛生行政の一大転換の必要性が強調されているゆえんであり,また,II7生省をはじめ各方面で保健所のあり方が盛んに討議され検討されているのも,このような問題意識に立つものといえよう。
 保健所の問題については,すでに本学会のシンポジウムにおいても再三とり上げられたのであるが,今回の学会の本分科会のシンポジウムとして敢えてこの問題を重ねてとり上げたことは,新しい局面に立つわが国の公衆衛生活動において,期待されるべき保健所の使命の垂大性を痛感した結果にほかならない。

問題と対策

ページ範囲:P.2 - P.6

保健所活動の発展のために—主体的実践的なとりくみを

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.7 - P.10

はじめに
 日本の公衆衛生活動は,近年日本社会が経験しつつある激しい社会変動の中にあって,新しい段階に入っている。これはいってみれば従来の公衆衛生活動のあり方が大きな転換を迫られているということであり,一面においは公衆衛生活動の新しい発展の可能性を意味するとともに,他面,時代と社会の変動する要請に応えないならば,とり残されて価値の少ないものになる大きな危険性を意味している。このことは,保健所活動についてもそのまま当てはまることであり,今日われわれの当面している共通の基本的課題であるといえる。
 昭和38年10月,第20回日本公衆衛生学会総会の第1分科会のシンポジウムとして,重ねて保健所間題がとり上げられたのも,このような問題意識に立つものであった。このためシンポジウムの関係者は,事前に数回の会合をもって具体的対策の観点から問題を5つのレベルに分けて整理し,またこれらに対する打開策を討議して資料を作成した。これを出発点として,シンポジウムの限られた時間を最大限に具体的対策の討議に当てようというのがそのねらいであった。しかし結果的にはその準備と運営の不手際や,企画のむりなどのために,最初のねらいとはほど遠いものに終ったが,私としてはむしろ今回の資料を基礎として,今後全国的に問題の堀り下げと打開策の検討が積み上げられることを期待したいと思う。ここではこのような見地から,主題に関連して若干の感想を述べてみたい。

保健所の位置づけと内部態制の強化

著者: 小宮山新一

ページ範囲:P.11 - P.13

 保健所はどうすればよいか,という問題でありますが,この抄録にあるように,上部機関や他の組織や団体との関連性のある問題も多く,保健所のなかだけでは解決できないものが多いのでありますが,私はまず,保健所の努力によって解決しなければならないことを考えてみようと思います。そのなかでも,つぎの三つの点に焦点を合せて話を進めます。
 (1)総合的な公衆衛生活動のなかで,保健所の占める位置と,その役割をはっきりさせること。

地域開発の進行と保健衛生

著者: 青井和夫

ページ範囲:P.13 - P.17

1.保健衛生の社会的背景
 日本の経済と社会はいま急速な勢いで変化しようとしている。人口の都市集中,産業構造の急激な変貌,都市化の進展,生活様式の変化,工場の地方分散等々が,そのあらわれであるが,その中心をなすものは「地域開発」といわれる一連の政策であろう。13の新産業都市,6つの工業整備特別地区の指定も本年の7月に終った。これからは今までよりもさらにはげしい地域社会の変貌過程が全国的規模で展開されることになるであろう。
 しかし地域開発計画をつぶさに眺めてみると,そこには改善しなければならないいくつかの問題点がある。

市町村および国保について

著者: 山本正弘

ページ範囲:P.18 - P.19

 先程小宮山先生から"地区のニードに答える保健所活動の障害と克服策について"話されましたが,私は市町村側の立場から,市町村がどのようにあれば,保健所が地区のニードに答える仕事がより良く出来るかと云うことについて話を進めたい。
 昭和28年には約9300あった市町村も,その後の合併促進により,現在では約1/3に減じ,行政規模の拡大とともに,新時代に対処する住民福祉の行政態勢を着々と整えてきたことは御承知の通りである。

地方衛生部局からの問題解決

著者: 村中俊明

ページ範囲:P.19 - P.22

I.組織運営上の問題
 ①公衆衛生行政について他の部局との連絡が悪い。--公衆衛生事業は縦割行政にはなじみにくい行政の一分野だと考えている。なる程過去の衛生行政は乳幼児対策・結核対策・伝染病対策など成果があげられたが,他の行政の協力・提携を必要とする分野の事業が取り残された感じである。へき地医療は農地部,土木部との連けいが必要になってきたし,農村衛生は農林部だけでも衛生部だけでも解決されない。縦割の組織では今後衛生行政を進めるには不都合が起りつつある。現在本県では各部の連絡をするため庁議(部長会議)が毎週開かれている。この後知事は記者会見で庁議の結果を話し,衛生部では各課連絡会議(課長会議)を行っている。現在のところ衛生部の会議はやや形式的であるが,今後各課の協力によって実質的な問題が討議されれば部内の調整はできると思う。しかし根本的には前述のように綜合,連絡,調整ということがスムースに行われるような組織機構を再検討する必要がある(埼玉県が本年3月公表した衛生部,保健所の業務実態調査の資料を勉強中である)。
 ②行政監査,会計監査のやり方が形式的である,―本県で行われた過去3年間の保健所の監査の指摘事項を見ると会計事務が最も多く116件(57%),庶務的事項27件(12%),業務指導66件(31%)となっている。この業務内容については技術的指導は殆どない。

こんどのシンポジウムは失敗—保健所行政の低調を打開したい

著者: 石垣純二

ページ範囲:P.23 - P.27

新演出は泡雪のように
 このシンポジアムは今までと全くちがう演出で行なうというのが,事前の打合会での一致した意見でした。それは過去のシンポジアムの討論や質問を聞いていて,一ばんもどかしいのが歯車が噛み合わないことでしたから。
 何しろそのテーマでは超ヴェテランもいるし,駆け出しもいる。めいめいの経験の次元がちがうままに討論や問題提起をする。だから行きつ戻りつして,いっこうに建設的な方向に進行して行きません。

保健所はどうすれば地区のニードにこたえられるか—保健所運営研究協議会中間報告案の内容を中心として

著者: 児崎宣夫

ページ範囲:P.28 - P.32

I.はじめに
 保健所が公衆衛生行政の第一線の担い手として活動しているわが国において,保健所活動が地区のニードにこたえ得るためには,まず第1に,公衆衛生行政の各種施策が今日の社会的要請にこたえられ得るものであることが前提である。しかしながら,近年における急性伝染病の減少・死亡率の低下とくに結核死亡率の激減・平均余命の延長など保健衛生の改善,国民世論の動向の変化,経済的・社会的諸条件の変遷などまことに日覚ましく,これがために公衆衛生に関しても多くの新らしい問題が提起されつつあり,公衆衛生行政の各種施策について再検討の必要が強調されている。従って,公衆衛生の万般にわたって真に社会のニードに即応する行政施策が行なわれることが必要であり,このためには,問題解決のための科学と技術が早急に確立されなければならない。公衆衛生に関する大学・研究機関などの関係者のこの面への研究努力を必要とすると同時に,研究機関の整備と研究推進体制の強化が必要である。
 第2に,すでに行政施策としてとりあげられている各種事業が,人・予算・組織・制度など全体にわたって十分に整備されていることが前提である。しかしながら,当事者および関係者らの懸命の努力にもかかわらず,諸般の事情によって,それらの事業の或るものは真に地についた事業展開が困難であったり,また或るものは未だ日浅くして十分にその事業活動が展開されていないものがある。

一般討議のまとめ

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.32 - P.35

 シンポジウムの各講師の意見発表の後に行なわれた一般討議は,このシンポジウムが現状分析と問題の提起だけに止まることなく,その具体的な対策の話しあいにまで発展することをねらいとして実施された。ただし,講師から発表された内容は,問題点だけでも88にのぼり,到底全体をつくすことはできないので,保健所の段階のものにしぼり,関連のある場合にのみ他の段階にもふれることとした。
 このように保健所段階にしぼっても,5つの大項目と23の小項目とがある上に,企画側の見込みをはるかに上まわって,約1,000名もの方が参加されたので,徹底的な討議が行なわれにくく,全体として実際的な対策が打出されるまでには至らなかった。また,一般討議は約1時間半にわたって行なわれ,従来のこの種の集まりとしては長い方であったが,まだまだ発言希望の方が多数いらしたのではないかと思う。

私はこう思う シンポジュウムをきいて

期待はむしろ今後にある

著者: 栗原忠夫

ページ範囲:P.37 - P.38

 このシンポジュウムは自分自身が当初本学会の第1分科会長であった時,自分で企劃し,今度司会をして下さった橋本正己氏と相談をして中途まで進めてきたもので,むしろ責任の一端をになうものとして徒らな批判は出来ない立場にある。
 保健所の問題をとりあげる場合,非常に広汎な論議になることは始めから想像していたので,そのための充分な用意をして可能な限り論議に具体性を持たせることを考えていたのであるが,実際やってみると資料の不足及びその配布方法等が思うようにゆかなかったため,所期するような運びにはならなかったようである。その責任は第1分科会長としての直接な責任の位置からは離なれたにしても,学会の中心的位置にあったのであるからまぬがれ得ないのは当然で,関係者に深くお詫しなければならない。

シンポジゥムの感想

著者: 山下章

ページ範囲:P.38 - P.39

 来る日も来る日も,"よりよく地区のニードにこたえるためにはどうすればよいか"そればかりを考えなやんでいる我々保健所長にとっては,このようなテーマはたとえそれが3回目であっても4回目であっても,砂漠に水を求むるに似た感慨をもって傾聴する。というよりせざるを得ないのである。1000人余り入る青少年センターがほとんどいっぱいになったのもうなづける。
 魅力ある講師陣,88もの問題点を並べた印刷物,しかもそのサブタイトルに,その障害と克服の具体策と書かれてあるに至っては,ノートを広げ鉛筆を持ち一言一句聴きのがさないかまえをせざるを得なかった。しかし終った後のノートは白紙のままで,問題点はやっぱり問題点としていつものように終ってしまった。特に討論の方向が保健所から県へ,県から厚生省へと,上へ上へと,向っていったことは残念だった。たしかに,今の保健所活動が地区のニードに応じて行えない根本は,国なり都道府県なりの行政のありかたを改めなければ,どうにもならないものが余りにも多すぎる。しかし,いつもいつも討論の方向をそこへもっていってしまったんでは,いつまでたっても我々は一歩も進めない。ただ不満を持ち,なげき,ふんがいし,そしてなげやりになる以外に手はなくなる。特に今回は保健所を出発点として考えようということで,小宮山先生の問題提起から始まったものと思う。

ニードの疑惑

著者: 中村文雄

ページ範囲:P.41 - P.42

1.上向きか下向きか
 保健所は兎角上をおそれて下に従わないものだという。だが衛生部や厚生省などさ程こわいとは思わぬ。甲斐性は知らず,いわゆる上部機関というものは親許のようなもので,駄々もこね,頼っても行ける所である。上としておそるべきは国民ではないか。それは下どころか主であり,我々はその僕に過ぎぬ。時としては僕呼ばわりに抗議して待遇改善を要求したこともある。そして最も気がかりなのは,国民たる主が保健所をどれ程重んじてくれるかということである。設備も人もこれ位で十分だから我慢しろ。そう思われたら大変だ。それならばもうこれ以上どんなニードが出ても到底力は及ばないのである。電気時代に保健所という灯がいつまでもランプのままで光っていると,公衆衛生は暗闇かとも思われるのだ。寝たままニードが適うなら,それは魔法のランプである。

どうすれば保健所は混沌の現状から脱出できるか

著者: 石田一郎

ページ範囲:P.42 - P.44

 シンポジウムは橋本氏の司会ではじめられた。目的とするところは地区のニードにこたえる保健所活動の障害の克服の具体策となっており,ニードとは必要性という意味である。このシンポジウムは,学問的なものというより方法論的な戦術的なもので,そのためか主催者が予想していたより数倍の聴衆を動員した。これによって,保健所の期待がいかに大きいかがうかがわれる。
 シンポジウウは司会者がはじめに意図し協力をもとめていた,あすにでも保健所で実践できる具体策についての発言がすくなく,問題点の提示と抽象論が中心となった.また討論はかなり活発で,聴いているには面白かったが,期待していたものは,得られなかったのではなかろうか。しかし保健所の現在の混沌を再認識するには参考となった。

保健婦の立場から

著者: 谷口智子

ページ範囲:P.44 - P.45

 このたびの公衆衛生学会の第一の関心は,「地区のニードにこたえる保健所活動」のシンポジウムであった。それは日頃保健婦として,複雑多岐にわたる公衆衛生の第一線で活躍している私達にとって,今後への明るい方向づけに対しての期待が大きかったためである。主催者側の予測に反し,立錐の余地もない参加者を見ても,何か一縷の望みを託し,将来の公衆衛生活動の指針を学ぼうとする熱心な雰囲気が感じられたが,内容的には再三の打合わせ会をもたれ,効果的な学会が企画されたとのことであるが,現場で働く者にとっては,抽象的で的確な具体策がなく,この点だけは今後の業務に反映させてゆこうと思う方策がなかった。結果としては,厚生省は保健所のニードに如何にこたえるか,(参加者の多くの実感)が中心議題になった点などからみると,基本的障害となることもこのへんにあり,公衆衛生の進展を阻害する第一の因子かと情なく思った次第です。

公衆衛生は夜明け前

著者: 大平昌彦

ページ範囲:P.47 - P.48

 公衆衛生活動の中心的な存在としての保健所が魅力に乏しいところであるとか,職員の充足率が低いとか地区民からの認識が足りないとか等々,芳しからざるうわさを聞くことが少なくない。大学で関連学科を専攻し,一人でも多くの医師をこの方面に送り込もうと意気込んでいる私にとっては,まことに憂慮に耐えない問題である。
 この度の日本公衆衛生学会第一分科会のシンポジウムは,こういう保健所の,いわばデッド・ロックを問題にとり上げ,何とかこれを打開しようとの意図のもとに企画されたように思われる。

転換期にきた保健所

著者: 村田謙二

ページ範囲:P.48 - P.49

1.はじめに
 シンポジウム参加会員が1000名をこえる会場の一隅に,この原稿を依頼された私は周囲を見渡して,更には,会の進行につれて発言する方々が何れも,都道府県衛生部若しくは保健所関係者であることに,当然であると思い乍ら,また一方疑問をもったのである。
 従って,メモを取りつつ興味を感じた発言内容はというと,講師或は発言者がしばしば用いた「立て割り」行政機関の,上,下級職の方々のものではない。社会学の立場から講演された青井氏と,地域住民とのアプローチを長年月もっている石垣氏の講演或は質疑応答の間に述べられたことである(その表現の方法に問題はあっても,テーマの本質をついている)。

地区のニードにこたえる保健所とは

著者: 村江通之

ページ範囲:P.49 - P.50

 終戦後国内の制度があらゆる方面において大きくかわってきたのであるが,そのうちでもいちじるしいものの一つに,保健所制度の変革がある。
 戦前は健康相談といえば,それは被保険者に大変親しみのあった保健所の仕事であった。保健所は敗戦とともにすっかり変って,まことに権力のある役所となり,一時は泣く児も保健所という言葉を聞けば,その泣きをやめるほどであった。また大衆は税務署や警察と同様におそれた。まったく,そのかわり具合の大きなのにおどろいた。その根本となる権力はどこかの威力の背景にあずかっているようであって,その機構に比較してその内容は誠に貧弱といわねばならなかった。

具体策を望む

著者: 須川豊

ページ範囲:P.51 - P.52

 問題が,現在の保健所の悩みの焦点であるだけに,どんな考え方が出るかと期待した。昼食時に開催された全国衛生部長会議を途中で失礼して,青少年センターにかけつけたが,開始時間に間に合わなかった。予想通りの参集者である。小宮山所長の発言中であった。
 従来の経験から,こんな問題のシンポジウムは,演者が,問題点だけをならべ,解決方法にふれずに終るのではないかと想像していた。問題意識を明かにすれば,それでも良いと思うが,国や府県当局の責任のみを追求したり,制度や予算のせいにして,保健所自体の努力や工夫をおろそかにし,保健所にある問題点を意識する努力を怠ってしまっては,どうかと考えていた。

栃木県下における保健所活動強化の具体策

著者: 矢吹陸郎

ページ範囲:P.52 - P.53

 地域のニードをみつけ出し,そのニードにこたえる保健所活動を展開するためには種々な方策や隘路打開策があるけれども,保健所自体及び保健所活動の量質的強化がその大前提であろう。
 この古くて且つ常に新しい課題である保健所強化ということについては,県や保健所のレベルでは解決し難い問題が少なくないが,現実に当面する問題の解決責任を身近かに迫られている第一線としては,徒らに国の責任を問うて拱手しているわけにゆかない。

シンポジゥムを聞いて

著者: 荻村正男

ページ範囲:P.54 - P.55

シンポジウムが終って自由集会までの時間つぶしに東京都の3人の所長が,コーヒーをのみながら放談した記録およそ次のとおり……
 A ちょっとがっかりしたね。

思想を忘れた衛生行政

著者: 左部勝

ページ範囲:P.55 - P.56

 この頃,公衆衛生にたずさわるものの間に,欲求不満を主徴とする,いわゆる「あり方病」若しくは「あるべき病」が流行しつつあることは重要視しなければなるまい。その意味で今回のシンポジウムは,各演者らの大変な努力により,いろいろな立場から問題点を整理され,その対策の足がかりを示されたことは意義があり敬意を表したい。ただ,運営の面で折角の資料が参加者にゆきわたらず活用されなかったためもあろうが,1億の人間の目が保健所にむくよう,2億の瞳でみられるような保健所になることを常に意識し歩むところに,明日の日本の公衆衛生の進展があるのだという共通の現解の上にたった討議が余りなされず,このシンポジウムは「保健所はどうすれば地区のニードにこたえられるか」ではなくて「厚生省はどうすれば保健所のニードにこたえられるか」ではないかという声もあったように,パイオニア精神の欠けた欲求不満調なものになり,相互信頼の上にたたない論議は得るところが甚だ少ないといわれるが,そんなシンポジウムになったことは些か残念であった。
 保健所活動の進展は地域住民の利益と一致しなければならない。

主客転倒

著者: 橋本周三

ページ範囲:P.56 - P.57

 "本シンポジウムのねらいは,表題ならびに副題から明らかであると考えるが,「保健所がよりよく地区のニードにこたえるには,どうすればよいか」ということであるので,このような共通の理解に立って討議をして戴きたい"という司会者の言葉であったが,はたして共通な理解があったのだろうか。
 市町村を代表してと発言された山本氏は,町村合併前の市町村とかわりなく,保健所に依存しているとのことであるが,これは,市町村が行なうべき検診業務を保健所が,かたがわりしているに過ぎないのである。この現状を打開しない限り,保健所活動の改革はないと思う。

行政機構のサイドに偏す

著者: 山崎卓

ページ範囲:P.57 - P.58

 私は公衆衛生学会員ではないが,厚生省保健所課員である関係から,今度始めてシンポジウムを聞く機会を得たところ,突然「その感想を書け」とのことである。思うに,初めて学会を傍聴した事務屋に何か書かせるのも,飛び入り的,斜視的興味が湧くかもしれないとの目論味からであろうか。その目論味に添っているかどかは知らないが,以下,感じたことを書いてみよう。しかし,山を賑わす枯木の域を出る自信は到底ないことを,最初にお断りしておく。
 先ず,テーマに,「地区のニードにこたえる保健所活動」をとり上げられたことについてであるが,これは司会も最初に述べておられたように,すでに本学会においても再三とり上げられた由であるが,それにもかかわらず,現下の公衆衛生関係における最大の関心事であり,公衆衛生の次への飛躍のために脱皮の時期が到来しているという関係者一同の暗黙の時代感覚からして,最も時宜に適したテーマであると考えるし,しかも各レベルの関係者により数次の会合を重ねられて,各レベルからの問題点を綱羅的に摘出掲示されたその意欲的態度には敬服の念を禁じ得ない。

保健婦の質と量と所属

著者: 荻野淑郎

ページ範囲:P.58 - P.59

 現在,保健所が地区のニードに応えるべく活動を行なってゆく場合,その最前線に働らく職種として,最も重要なメンバーの一つは,保健婦である。そこでこの保健婦について考えてみると,ここにもその質と量との両面に亘る不足が明らかである。
 まず質の点について考えてみよう。保健婦という資格取得のコースが同一でなかったため,その受けた教育課程,更には遡って,その課程に入る前段階までの基礎知識にかなりの差がみられる。個人的能力の多少の差は当然のこととしても,資格取得に至るコースの相異による質的の差は,量的不足と相俟って,保健婦が地区のニードに応える場合に問題となってくる。そしてこの質的不均衡を少なくするため,或いはより一層の質的向上を期途して行なうポストグラヂュエートの教育の際にも,上述の資格取得までのコースの相異による保健婦の能力の差が障害となっている,たとえば職場研修を行なう場合に,その対象としては,最下位のレベルに墓準を合わせなければならず,一方研修を受ける側も,内容を理解するのに時間を要することになる。勿論この資格取得コースの相異は,わが国の公衆衛生の歴史をみた場合,その成り立ちおよび歴史の浅さからみて,止むを得なかったものではあり,大方の識者の指摘と努力とによって,現在この問題は改善されつつある。

文献

1953年11月のNew York市に於ける大気汚染事件の報告

著者: 宇野

ページ範囲:P.10 - P.10

 本論文はニュヨーク事件の綜括的報告であって,グリーンバーグ博士は同市の大気汚染防止委員会の委員の職にあった人である。有名なモイゼドノラ,ロンドンの各事件は大気汚染と死亡数の増加の関連性を確信させるものだが,高気圧,気温逆転及び霧の3条件が共通しており,何れも多数の罹病と死亡をみた。
 合衆国気象局の記録を調べると11月12日から大陸性極地性の冷たい高気圧気塊が3大湖上から南東に徐々に移動し,ニューヨークに温暖な空気をもたらした。しかし夜間には地表面からの輻射によって地上数百フィートの空気は冷えたまま蓋をされた形となり,汚染物質の上昇拡散が妨げられた。ミチェル空軍基地では500フィートまでが微風か無風であった。この逆転は23日迄続く。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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