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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻11号

1964年11月発行

雑誌目次

特集 住民の保健をいかに進めるか—第5回社会医学研究会・主題報告と総括討論

巻頭言

著者: 井上俊

ページ範囲:P.593 - P.593

 第5回社会医学研究会の主題は,全国世話人会と開催地東海地区世話人会の熟議のすえ「住民の保健をいかに進めるか」と決定された。広い分野をもつ社会医学研究会にとって,主題を定めて討論することは,短かい会期中に充分討議をつくすために,極めて意義あることである。主題の設定によって,研究会のもち方にはおのずから一つの方向が与えられることになったが,この主題が今日の社会医学者の中に常日頃つちかわれてきたものの主要な一つであったことに間違いはない。
 「住民の保健をいかに進めるか」は,社会医学における「実践」の問題を真正面からとりあげたもので,社会病理学でも社会診断学でもなく,社会治療学に相当する課題である。いわば,今回の研究会は,住民の健康にスポットを当てて,社会治療学原論を活溌にくりひろげるということに,その意図があったといってよい。

発題講演

ある保健医療担当者の反省

著者: 丸山博

ページ範囲:P.594 - P.601

 本文だけで筋は通してありますから註をとばして,読んでいただいても結構です。よく理解していただくためには註をも同時によんでいただきたく思って,本文中に挿入してありますから,お読み下さい。
 なお,「反省」が反省になりえないで,「追憶」にとどまったことは,私自身のよわさからでているものですから,その意味において,私自身の反省になりうるように,読者の御批判を寄せていただければ幸です。

主題報告

1.地区衛生組織の再検討

著者: 青山英康 ,   岸洋子 ,   古市圭治 ,   玉木武 ,   村上勲 ,   安東規雄 ,   蔵井良雄 ,   康逸雄 ,   吉岡信一 ,   池田英樹 ,   広田滋 ,   太田武夫 ,   加藤尚司 ,   河原宏 ,   板野猛虎 ,   青山嘉孝 ,   水田正臣 ,   丸屋博 ,   中村文雄 ,   重岡美也 ,   倉田孝

ページ範囲:P.602 - P.607

緒論
 近来,衛生行政に限らず,政治と行政の民主化というcatchphraseのもとに地域住民の組織化と組織活動の育成が,強力かつ広範囲にわたって推進されつつあり1),community organization orcommunity organization workといった言葉が盛んに用いられている2〜6)
 特に衛生行政の分野においては,従来からその 本質的な必要性からも,衛生に関する組織化が推進され,その育成に現場の保健医療関係者は努力してきたといえるし,またその結果として地域における保健問題の解決になんらかの成果をもたらしたともいえる2)

討論

ページ範囲:P.608 - P.609

 橋本(国立公衆衛生院) 全体を通じて地区組織というものが自主組織なのか,役所の下請組織なのかという問題がつきまとつているのだが,私たちは明治初年来敗戦までの70年にわたる伝染病予防法の衛生組合に関する非常に貴重な経験をもつている。それは明らかに行政の下部組織としてつくられたもので,それがどういう限界をもつているか,どういうマイナスがあつたのかについての反省をしたはずだ。こういう反省をふまえて,戦後すぐはじまつた地区組織活動――東北,信越の山の中で,赤痢や日本脳炎の多発に悩まされた村の人たちが立ち上ったというユニークな事例――が始まり,保健所や終いには厚生省も気づいて音頭をとつて進めようということになつたのが昭和27〜30年頃の段階である。こういう歴史を忘れたくない。
 しかし,それがだんだんマスコミにのつてさわがれ,厚生省がそれをとりあげ3カ年計画とかいう形にし,さらにオリンピックを前にしてあらためてとりあげられるようになつてくると,今の演者が指摘したように,下山部組織としての性格がつよく出てくる。その原因としては保健所の担当の人が地区組織を下部組織としてみている,たとえば保健婦さんの中にはそういう人がまだ多いのではないかと感じる。それとうけとる側が下部組織としての姿勢でしか対処しないところもあるのではないか。

2.公害問題四日市における大気汚染の諸問題

著者: 吉田克已

ページ範囲:P.610 - P.613

I.四日市での公害問題の状況
 四日市における公害問題については,大気汚染の問題および排水汚濁の問題があるが,ここでは大気汚染の問題に限局して触れたい。
 公害問題としての大気汚染の問題は,一つは,大気汚染が市民の生活に,不愉快さであるとか,ほこり,悪臭,器物の腐蝕などとかの市民生活への侵害という問題と,今一つは直接市民に対する医学的影響,すなわち保健,疾病,および死亡という問題とがある。

討論

ページ範囲:P.613 - P.614

 森田(四日市保健所) 四日市の保健所長として行政の立場から公害問題発生の経過を述べたい。私は昭和33年に四日市へ転勤してきたが,その頃は石油関係企業は6社で規模も小さく,公害に対する苦情も住民と工場の直接交渉だつた。しかし石油廃液やピツチによる身体障碍がでてきて,警察,人検擁護局,保健所あたりに訴えられるようになつたのが昭和33年の始めである。保健所では環境衛生監視とか健康診断ということだけではかたずかないということで,保健所がよびかけて警察や労基,市役所など行政機関が集まつて昭和33年の終り頃協議会を作つた。しかしこれでも解決はしないが,しかし新聞報道になつたりで,市民からの苦情が直接工場へゆかないで市役所や保健所に来るようになつたのが34年である。そこで保健所としても態度を明らかにする必要があるということで,名古屋の水野先生の教室の御援助もえて,県市に対して調査機構をつくるよう進言した。しかし当時はまだ工場誘致にもつぱらポイントが置かれており,そういう調査機構をつくるということが工場誘置を妨げることになりはせぬかという思惑から実現がむずかしかつた。しかし,そのあいだにも住民の訴えはしだいに大きくなり,市も対策委員会を設けようということになつた。この間約1年半かかつている。そうしてまず現状のはあくということで名大,三重大に依頼し,調査にとりかかつた。

3.離島住民の保健の社会医学的問題

著者: 野村茂

ページ範囲:P.615 - P.618

 わが国は四つの主島と佐渡島以下の島嶼よりなっているが,その総数は3,290島(水路部調査),そのうち,居住島は約450島,総面積9,200km2,総人口は約200万で,主として,瀬戸内と九州に分布している。これは優に1県の面積と人口に匹敵する規模であるが,島々は全国に分散し,また,各県,各市町村でもその行政区画はさまざまであるために,その存在は忘れられやすい。しかし,国民の保健と福祉はその住む所によって差別されてはならないのであって,国も地方自治体も離島の保健の実態を認識し,その対策にさらに積極的でなければならない。私は,ここで,全国離島の43%をもつ九州の離島の実態から,その保健と医療を考察したい。
 離島は山村とともに典型的な僻地であるが,その位置,大きさ,気候などによって,島民の生活が規制される。島の特性は,その孤立性,隔絶性にあるが,これが島の住民の生活をとくに大きく阻害しているのが離島である。離島振興法(昭28)の離島指定規準は,島民の生活がつよく本土に依存し,しかも本土とのあいだの交通が不安定で,本土との最短距離が,5km(内海では10km)以上のものとしているが,離島の本質はその地理的な隔絶よりも,むしろ,社会的な隔絶性にあるのはいうまでもない。

追加報告 社会医学的にみた伊豆離島の地域格差について

著者: 南雲清

ページ範囲:P.618 - P.620

緒言
 伊豆離島のうち,大島支庁(東京都中央保健所大島出張所)管内の5島:大島,利島,新島,式根島,神津島の保健,医療問題についてはすでにその概要を報告したが,今回は社会医学的見地より,その実態と格差性について検討した。

討論

ページ範囲:P.620 - P.621

 青山(岡山大医・衛生) 行政的な対策は離島振興法などで,進められていくと思うが,その中にまたおくれた部分がつくられていくのではないか。こういうことを保健医療担当者はどんな目でみていかねばならないかを聞かせてほしい。
 渡辺(長崎大医・公衆衛生) 1)離島の中の離島という所が長崎に多い。離島に所属した所で不便な島がある。こういう所にはキリシタンの子孫が多い。ことさらに,不便な所に隠れ住んだというのが多いので(人口は最近減りつつあるが),交通悪く,波荒ければ行けず,医師が非常に入りにくい。彼らキリシタンは貧しい生活でもあまり不服に思わない。病気にかかって死んでも,死ぬ方が生よりも神に近づくという点で価値を認め,死ぬことを何とも思わぬ。だから重病になつても医者を呼ばない。また舟を仕立てれば何千円もかかるということからも医者を呼ぶことをしない。死ぬ前に呼ぶのは神父であり,亡くなつてから,医師がいつて,死体検案書を書くというのが多い。住民自身に健康に対する積極性がない。神父を通じてやれば,命令一下検診にも100%でも出てくるが,神父がいわなければでてこない。2)離島の中の本島の人々のまわりの島に対する差別感が強い。青山氏のいうように,離島振興法によつて本島がよくなり,まわりの離島はおくれていく。3)こういう状態の下では医療担当者だけでは物を考えようがない。

4.農村地域での保健医療活動

著者: 若月俊一

ページ範囲:P.622 - P.625

 私どもは臨床の医者であり,ここに居られる多くの保健衛生専門のみなさんとすこし立場はちがうかもしれない。しかし,国民の医療と保健を守ろうとする気もちでは,まったく同じだというふうに考えている。
 「国民の中へ」というような気もちで,農村に入って仕事をやっているが,そこは四日市だとか水俣市だとかいうような問題のある所でもなく,そうかといって離島というような特殊なところでもない。ごく普通な,ありふれた貧しい農村であって,その中へ入っていってどういうふうに働らいたらいいか,いかに村民と結びつくべきかを追求してみたいというわけである。村の中は今でも,いや今ならばこそといった方がいいかと思うのであるが,無医村的環境に悩んでいる。学会などをみると日本の医療と保健の学問がいかにもすばらしく進んでいるように見えるのであるが,そう見えれば見えるほど,これを下の国民の立場からいうと,それは画にかいたボタモチみたいなもので,はやい話が,農村には医者と看護婦もいないではないかというのがウソもいつわりもない気もちなのである。

追加報告 地域医療機関における保健医療活動について

著者: 室生昇

ページ範囲:P.626 - P.627

 健康は,日々の生活の中で築かれてゆくものであり,健康と生活とは深い関係にあることは論をまたない。われわれの診療所は,地域住民と医療担当者が一体になって保健医療活動を行うことを目的として,約600世帯の住民によって組織された医療生活協同組合の診療所として昭和36年11月設立された。

討論

ページ範囲:P.627 - P.628

 久保(新日本医師協会) 地域住民の健康管理を進める中で,地域住民が自からどのように問題をつかみとり,さらに健康を保持するために自から運動を進めていつたか。住民にもし要求があれば自からそういう運動がでてくるはずだが,その点もうすこし追加してほしい。
 若月(佐久総合病院) そのひとつとして戦後八千穂の隣の稲子部落にすぐれた衛生看護卒であつた人がもどってきて,世話役活動をやつていた。そのうち部落に病気になる人が多いのに無医地区だから出張診療をやつてくれと言ってきた。部落の人たちは健康を守る会をつくり,自から金を集めて運動をはじめた。その後10年たってその人がその地区の区会議員になり,村会議員,町会議員になつて大いに働らくようになった。この人は共産党員であったが,地区の人々の衛生活動をぜひ伸ばしてほしいという要望が,彼を議員にしたといえる。その町には当時国保がなかったが,彼を中心とした努力によって南佐久23カ町村のうち5番めの国保をつくった。いまでは健康を守る会というよりは区全体が,町から無医地区ということで金をもらい,私たちを呼んで健康管理をやっている。また婦人の子宮癌の予防活動もはじめ,国保の保健施設費の中から10万円をとって町全体の希望者の検診をはじめるようになっている。まあ1例としてこういう動きもある。

5.地方自治体保健衛生担当者の活動—名古屋市衛生局職員のボランティア組織活動をかえりみて

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.629 - P.632

 地方自治体保健衛生担当者の活動事例として,名古屋衛生局職員のボランティア的組織活動をかえりみる。数多くの問題点をもっているゆえ,社会医学研究会は忌憚のない批判をしていただき,また参考になる他事例を教えていただきたい。

討論

ページ範囲:P.632 - P.633

 神谷(名大医・公衆衛生) 戦後の国民保健の増進に保健所が大きな役割を果してきたことは今日だれも否定する者はない。しかし最近の高度経済成長政策の推進にともない,また厚生省の45年をめざす長期計画の策定とあいまって,公衆衛生の各分野に大量のプログラムが投下されるようになってきている。このような上からの一連の要求とそれを実際に受けとめて実施する側の保健所職員との矛盾がたいへん大きくなってきている。日々接する住民の生活の実態と上からの要求の食いちがいに良心的な保健所職員は悩まなければならず,さらにこれをつきつめてゆくと大量に負荷されてくるプログラムは真に国民の保健をめざすよりもむしろ国なり自治体なりの恥部をおおういちじくの葉ッパではないか。たとえば公害問題ひとつにしてもどこまでほんとうにやる気があるのか,てつてい的にそれを解決するという基本的な姿勢に立っての施策なのかあるいは一時的な言いのがれの糊塗策なのかという疑問が生まれてくる。さらには保助看法の改正,公衆衛生従事者の教育訓練,保健所費の整理統合など保健所の合理化政策がしつように追求されるようになって良心的な保健所職員の苦労はますます深くなつてくると思う。

6.子どもを小児マヒから守る運動をめぐつて

著者: 久保全雄

ページ範囲:P.634 - P.637

はじめに
 昭和27年,小児マヒが世界的に大流行したとき,諸外国では,それぞれ予防対策のための研究と予防ワクチンの開発にとりくみだした。
 わが国においても,昭和30年以来,ポリオ患者の発生が増加していたが,医学者からも,行政当局からも,積極的な対策はだされてなかった。政府は産業構造の重化学工業化,即ち独占資本優先の設備投資,技術革新の政策を進めていったが,ソークワクチンの製造は,設備投資の割に,利潤率が少いため,33年にポリオの対策はソークワクチンの輸入で賄うことに決定し,その検定のために1ロットの設備をつくったにすぎなかった。

追加報告 大阪八尾市西郡未解放部落の環境改善斗争と民主医療機関の果した役割とその経験教訓

著者: 奥山昭 ,   南吉一

ページ範囲:P.637 - P.638

 すでに1)第16回日本医学会総会,その他各種の全国または地方会議において報告したように,わが国の社会医学の歴史および現況を論ずる場合,その基本的課題の一つとして"未解放部落の衛生の変遷"に注目することがどうしても必要である。なぜなら全国6,000部落300万をかぞえる未解放部落民は,日本社会の底辺として,封建時代の為政者によってつくられてきた"差別"の中できびしい貧困と頑固な疾病に悩んできた。封建時代につくられた差別制度は,支配層が,労働者,農民,市民を最大限に搾取するための必要から温存され,強化され,このため国民の差別観念は助長され,根をはり,部落民は,いまなお二重三重の圧迫をうけている。

討論

ページ範囲:P.638 - P.639

西尾(司会・京大医・公衆衛生)
 国産生ワクチンの人体安全テストがほとんどなされていないと述べられたが,東大の高津教授のところでテストをされたように聞いているがどうか。
 久保(新日本医師協会) 高津教授の報告は39例,委託先の日大,慈恵大その他のものをあわせた数百例は,大衆からよせられた報告によれば,ある所では自己の大学の外来でなく,大学から人を出している病院で昼間は忙しいので夜間にアルバイトの医師にやらせ,しかもその調査は異常があったら申し出よというものである。

総括討論

討論

ページ範囲:P.645 - P.651

 庄司(司会) まとめを担当された方々,たいへんごくろうさまでした。それではこれから討論をおねがいします。
 久保(新日本医師協会) 昨日の報告をまとめられたのを聞いていささか淋しく感じている。そのわけは,大衆の要求しているのは働らくということが中心であり,しかも健康という問題をからめて要求しているのだ。住民を,働らくという問題から切りはなすことはできないと思う。

まとめ.1

国民の間において,医療および保健の活動が必要とされた具体的な状況はどのようなものであつたか

著者: 庄司光 ,   山田信也 ,   南吉一

ページ範囲:P.640 - P.642

 山田(名大医・衛生)まず「必要とした状態をつかみとる立場」について考えてみることにする。丸山は発題講演で,昔,権力者である主人公に仕えた医者は,現在の社会において世の中の主人公になっている労働者,農民,市民に仕える医者として,積極的に大衆の健康の実態を明らかにしこれを守るために働くべきではないかという発言をした。青山は現在の地域活動に,上からの立場からするものと,住民の自主的な立場からするものと二つの傾向がある。その二つの傾向を保健医療にたずさわるものが充分に認識して活動する必要があると指摘した。若月は現在の農村での圧迫された状態がもたらした健康の破壊を農民の中での保健医療の活動から,具体的に明かにしていった経験をのべた。四日市の公害について吉田は,現在の地域開発が住民の切実な訴えをいいかげんにしてなされている中で,住民が自ら運動を進めることにより,県の公害対策委員会に健康破壊の実態を浮きぼりにさせるまでに至ったことが述べられた。久保はポリオ生ワクチンを投写する時期にあたって,学者・政府がおこなった調査に疑問をいだいた大衆が,自らが調査にのり出し,全国的に投与後におこった健康障害の実態を明かにし,また他方自治体に実態調査をさせるというような成果をあげたことを指摘した。

まとめ.2

このような状況において医療および保健の施策や活動はどのように進められたか

著者: 橋本正己 ,   山本理平 ,   神谷昭典

ページ範囲:P.642 - P.643

 山本(東京・山本医院) 主題報告6題,追加発言を加えて9題の報告がその主要な力点を国民大衆自身の自発的な健康を守る闘かいにおき,あるいはその必要を力説していたのは当然とはいえ,大きな特長というべきであろう。したがって国または地方自治体の上からの「施策」への言及は,自主的な健康を守る運動との関連において,主としてその立ちおくれないしは否定的側面においてとり上げられることが多かったといえるであろう。
 まず冒頭の発題講演で丸山は国民大衆に仕える新らしい保健医療担当者のあり方を提起し,しかし現実にそれをそうさせえない困難の中にともすれば正しい方向を見失ないがちな保健医療担当者の反省を述べた。

まとめ.3

この中で,医療および保健の担当者はどのように努力し,どのような役割を果したか。そのばあいの問題点は何か

著者: 水野宏 ,   細川汀 ,   小栗史朗

ページ範囲:P.643 - P.645

 細川(関西医大・衛生公衆衛生)発題講演において丸山は封建時代の医師の哲学を「侍医の医学」と規定した。それは特定の権力者の鼻毛まで読むほどたえず気を配るお抱え医者の哲学である。しかし新しい保健医療担当者のあり方はどのようなものであるか。丸山はそれが発題講演につづく報告と討議の中で明らかにされることをのぞみ,自からの反省として,住民の健康を守るのは保健医療担当者であるという思い上った考え方をすて,保健の主体的なにない手である住民自身の努力に誠実に奉仕する必要を示唆した。
 その後の報告と討議の中にこの発題はどのように引きつがれ発展させられたであろうか。

三木行治岡山県知事追悼記事

岡山県知事としての三木行治先生/三木さんを偲ぶ

著者: 大森誠

ページ範囲:P.654 - P.655

 9月21日夜半,三木知事急逝の悲報に接し,耳を疑い,息をのむショックを受けた。フィリピンのマニラで,マグサイサイ賞受賞という人生最良の日から,僅2旬,心筋硬塞の発作で仆れられた。人生無常,正に劇的終焉であった。生涯独身を通され,人一倍母思いの先生を回想して,独り暗涙をのんだ。
 三木知事と同郷の私は岡山中学,六高,岡山医大の2年後輩であり,衛生行政の畑で共に働き,三木先生が知事に就任当初より,衛生部長として11年間お仕え出来た事は,浅からぬ因縁であった。若い日の三木先生の想い出はつきないが,当時から座談の名手で,独特軽妙な比喩は万座を笑倒させた。春風の様な心の三木先生の周囲には友人知己が常に集って居た。若冠30才の頃,三朝に岡山医大の温泉研究所を,本島に大学の臨海実験所を,相次いで創設された手腕は,晩年の活躍の片鱗を伺うに足るものがある。昭和26年4月,厚生省公衆衛生局長から岡山県知事選挙に立たれ,自由党の現職知事を相手の戦は県政史上空前の激戦であった。圧勝の結果,知事に当選された事が生涯をきめる大きな山場となった。教育と衛生と産業を三本の柱に,県民のしあわせに奉仕すると云う,選挙スローガンが爾後14年間,着実に実行された。専門の公衆衛生の仕事は枚挙にいとまがないが,昭和28年第8回公衆衛生学会は空前の規模と云われ,吉備水道赤痢集団発生,粉乳砒素中毒事件の処理には昼夜を分たず,率先垂範された。

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第5回社会医学研究会一般報告一覧

ページ範囲:P.652 - P.652

(1)思春期学童の循環器健診について…………河野稔,○馬場三男,笠木茂伸(河野臨床医学研究所)
(2)離島における老人の健康と生活…………渡辺孟,川越武慶,辻均(長崎大医・衛生),大塚喜久雄,○宇田欣也(長崎県平戸保健所)

News References in September '64

ページ範囲:P.656 - P.657

ボツリヌス菌か? 高知県で6人重症原因は青森県八戸市で製造のイカの味つけカン詰と判明。青森県衛生研究所で検査する一方,厚生省は全国にこのカン詰の回収を指示した。(1日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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