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主題
都市保健婦の実態と考え方
著者: 木下安子1
所属機関: 1東京大学衛生看護学科
ページ範囲:P.672 - P.681
文献購入ページに移動昨年の夏ごろから,保健婦のあいだに「最後の保健婦」という言葉が流行?している。この言葉の発端は前長野県立保健婦学院教務主任の発表した一文1)にある。その要旨は,保健婦事業が社会的良心のめざめとしておこったのにもかかわらず,現在は社会の流れにただ追従している,けれども現在でもなお農村に入っていってたくましい実践にうちこむ若い保健婦のあること,その人々が地理的条件と多忙さから孤立しやすく声の出せないでいることに対し,厚生省や看護協会がもっと本気でこの人々の社会的処遇を考えてほしいと,生々しい事例をあげての痛切な訴えなのである。そして「(この人々が)日本の保健婦事業のあたたかい最後の脈うちだからです」とむすんでいる。この文が保健婦に大きな反響をまきおこしたのである。あちこちのサークルで読書会などが持たれたり,「思えば,新井京予さんの"最後の保健婦"はあたかもわれらのフィナーレを暗示したものともいえよう2)」といった発言があったりする。ことさら暗い面が強調されすぎているという声もないではなかったが,しかし特に若い層の保健婦の心をとらえ都市保健婦も大いに共鳴した。このことは保健婦の直面している問題が,農村といわず都市といわず共通であって,現場の保健婦が自分の経験と照らし合せ,今さらのごとく現状の保健婦事業のまずしさを思い,当面している深刻な事態を再認識したからだといえよう。
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