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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻2号

1964年02月発行

雑誌目次

綜説

個人・家族・集団単位での先天異常

著者: 柳瀬敏幸

ページ範囲:P.61 - P.69

1.まえがき
 配偶子の接合から個体発生の過秤におけるいろいろな病気の発現状況をみると,ヒトの生活機能はすでに受精の前後からはじまっているという感を深くする。この点は指摘するまでもないことであるが,改めて認識されてきたのはこの10数年来のことであろう。外部の要因,例えば病原や毒素,或いは低い衛生環境によってひきおこされる病気が減少するにつれて,個体の内部に根ざしているいわゆる宿主要因(host factor)によって決定されるような病気が次第に日常医学の前面に押し出されてきた。最近では,感染症に代って先天奇形,その他の内因病の疫学が盛んにおこなわれるようになり,また過去においてごく少数の研究者の領域であった先天異常の病理学も,最近では広い分野に関連を持って活溌に押し進められつつあるし,この趨勢は,臨床医学の面では出生前小児科学または産前小児科学の提唱となってあらわれている。
 これらの傾向は明らかに全般的な疾病patternのいちじるしい変化によるが,そればかりではないであろう。主として遺伝学の立場からこの点に若干の推論を追加してみよう。

農山村に於ける社会衛生上の問題点

著者: 柳澤利喜雄

ページ範囲:P.70 - P.75

1.緒言
 わが国の社会衛生問題の中,最も遅れており,また顧りみられることの少ない分野は,農山村のそれであろう。農山村は人口稀薄で,その地理的環境からも,文化に遅れ,交通にも,恵まれていない。また資本主義発展にともなって,現在では我が国の工業発展とからみ合って,めまぐるしい変貌を余儀なくされている。しかし,現在なおまだ,山林開放は行なわれていなく,小数の山林地主と多数の山林労働者からなっており,耕地の狭少と相まって,家計は多くは,山林労働に依存している。また,無医地区的性格をもっていて医療,保健サービスの貧困も指摘されている。このような多くの点において,後進性を示している山村の衛生状態を究明し,その問題点を明らかにして,その対策を考えることは我が国の目下の重要課題の一つである。
 われわれは,かかる観点から,数年来,長野県下伊那郡,静岡県磐田郡,愛知県北設楽郡を含む中部山岳地帯を対象に,農山村医学の究明につとめてきたが,ここではその中の社会衛生的な問題の二,三を提起してみる。

最近におけるコレラの諸問題

著者: 春日斉

ページ範囲:P.77 - P.86

1.アジア・コレラの蔓延状況
 1962年,印度及び東パキスタンからは患者28,199,死者10,003がWHOに届出られているが,この2国の報告数は,1960年迄は殆んど世界中の患死者数の総てを占めるものであった。しかし1961年以降はこれら2国がアジアコレラについて依然重要な地位を占め,コレラのふるさととして無視し得ないことは勿論であるが,El Torコレラが流行の形で登場したことによって,少なくとも西太平洋地域における印度,パキスタンの演ずる役割は誠少しつつあると言えよう。
 印度における1962年の発生数は(患者25,566,死者8,671)61年に比しやや減少している。1962年の特長としてはガンジス河の上流,中流であるUtta Pradesh及びBihar地方が劇的に減少し,下流及びデルタ地帯を占めるWest Bengalには依然として,発生が集中し常在流行地となっていることである。

日本に多い本態性高血圧と脳卒中の環境因子に関する学説の吟味,特に寒冷刺激に対する考察

著者: 佐藤徳郎 ,   松下寛

ページ範囲:P.87 - P.101

 Pickeringは本態性高血圧の性質に関する著書1の緒言で "I have not tried to smooth the corners, because I believe that controversy is the life-blood of science. Disagreement stimulates the collection offurther evidence".と云っている。また緒論の始めに "Science abvances not by the accumulation of newfacts, ……but by the continuous development ofnew and fruitful concepts".というConantの言を引用している。
 日本の脳血管損傷による死亡は総死亡の5人に1人,老人の死亡の約3人に1人に達し2),宮城県などでは40才以上の死亡の半数を占めている。その成因を解くことは予防に直結しており,医学に従事するものにとり大きな関心の一つである。その成因につき種々の学説がでているが,それを併列で眺めることでなく,そのどれが適合するか,あるいは他の因子を考えなければならないかを検討するのは,その間題を解決するための一つの近接法であり,現段階で最も必要なことの一つである。

原著

精神障害者のリハビリテイシヨン—公衆衛生の立場から—第Ⅱ報精神病院でのV. R. S. の現況と将来

著者: 中島元一

ページ範囲:P.103 - P.105

 V. R. は精神科領域では文字どおり職業的リハビリティションという意味で解釈されるものではない。そういう意味の分類からすれば,これは確かに医学的リハビリティションの一方向である29)。アメリカ等では病院以外にいろいろの施設があって,側面から病院のV. R. S. を容易ならしめているが,本邦においては依然として精神病院がV. R. S. を実施している中心的機関である。その地域での精神病院のあり方が精神障害者のV. R. をある意味で決定づけiている。ともあれ,このような現況下で,精神障害者に対するV. R. S. が病院内でどんな形でなされているかを調査した。
 調査結果は,東海地区の精神病院のうちでV. R. S. をかなり積極的に行っている病院の昭和38年6月現在の資料から得たものである。

試験管法及び顕微鏡写真撮影による集団的血球算定法の試見

著者: 屋形稔 ,   滝沢行雄 ,   川合敏男

ページ範囲:P.106 - P.108

I.まえがき
 われわれは,血球数の算定について東大公衆衛生学教室その他で考案された1)2)3)いわゆる試験管法に加えて血球の顕微鏡撮影の併用を試みたが,流れ作業的集団検診に極めて有効であると考えられるので,その経験を報告し御参考に供したい。

紹介

パキスタン印象記

著者: 山口正義

ページ範囲:P.109 - P.111

 去る11月6日から16日までの11日間,WHO主催の"Inter-Regional Seminar on Health Aspects ofIndustrialization"が東パキスタンの首都ダッカで開催されたが,それに参加するよう招請を受けたので,11月4日の朝羽田を発ち,約2週間彼地で過し,18日の夜に帰国した。
 パキスタンには曽て渡欧の途次,カラチの空港に少憩したことがあるだけで国内を訪れたことはなく,殊に東パキンタンは全く未知の土地であるので,セミナーの内容もさることながら,非常な興味をもって出かけた。ただ名にしおう悪疫常在の地であるので半ば不安もあり,食生活その他にかなり神経は使ったものの,数々の貴重な経験をしてきたので思い出すままその二,三を誌してみたい。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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