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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻4号

1964年04月発行

雑誌目次

特集 学校保健と地域保健

総論

著者: 福田邦三

ページ範囲:P.169 - P.174

 学校保健と地域保健とを並べて考えて見るとき,先ずはっきりしていることは対象の差異ということである。また,それぞれ保健を推進する役割をもつ中心人物が違う。しかし保健の推進という大筋は一致しているので共通点が非常に多い。とにかく事柄の性質上,両方が連繋をもって進めらるべきであるのに,実状では両方が独立無関係に推進される傾向がしばしば強いのは,一体どうした訳だろう。これらの問題を少し考えて見たい。

学校保健を中核とした公衆衛生を

著者: 白戸三郎

ページ範囲:P.175 - P.180

1.はじめに
 学校保健と地域保健という題を与えられたが,私はここでいう地域保健という言葉を公衆衛生活動の対象となる地域の保健というように解釈して,主として公衆衛生活動と学校保健との関連性についてのべて見たい。
 昭和20年8月15日の第二次大戦終結後,日本の公衆衛生は大いに向上し,その成果も目覚しいものがあるが,広義の公衆衛生の三大分野である学校保健,労働衛生及び狭義の公衆衛生のおのおのについて,その発展の跡をたどって見る時,そのなかになお幾つかの解決を要すべき重要問題がひそんでいることを発見する。

学校保健と保健所の協力

著者: 水野俊夫

ページ範囲:P.181 - P.186

はじめに
 学校保健は,児童生徒等の保康の保持増進を図ることを目的とするものであって,学校教育の基本である心身ともに健康な国民の育成をめざして進められることは,いうまでもないところである。健康で文化的な生活を望むことは人類の幸福の基本的要件であり,そのためには児童たちが社会の一員として重んぜられるばかりでなく,人としての基本的な生命が尊重されなければならない。児童生徒は,心身ともに発育の途上にあるので,これが育成にあたっては独り学校だけではなく,家庭や社会が協力し,教育学者をはじめ広く医学者や社会学者,政治家等が,健康管理の面においても,教育活動の面においても愛情と熱意を注いでやらなければ真の効果は上らないはずである。
 学校保健の基本的構造は,学校における保健教育と健康管理の2つの柱から成り立つものであって,児童生徒の健康の保持増進を図るためには,学校における保健教育の充実と健康管理の整備徹底とがあいまって達成されることになる。

学校保健振興の悲願と地域保健

著者: 冨士貞吉

ページ範囲:P.187 - P.192

学校保健と地域保健の関連
 学校保健は学校を中心とした教育関係の分野において,地域保健は保健所を中心とした公衆衛生関係の分野で行われているが,両者の関係はきわめて密接で,学校という子供達の集団もまた社会の一部として社会から大きな影響をうけている。学校を含む地域の公衆衛生状態が好ましくなければ学校だけいくら努力しても,良好な学校の保健管理は覚束ない。保健所では公衆衛生活動として,その地域の成人教育として疾病予防や栄養知識の涵養普及について不断の努力をつづけ,見るべき成果を挙げているが,将来の社会の荷い手である児童,生徒等に,学校の場における保健教育で人命を尊重し,自己や社会の健康生活に関する知識をしっかり身につけさせ,実践させ,習慣化しておけば,これらの地域社会の不良衛生状態は回避できるであろうし,あるいは緩和できるであろう。または社会人が,すでにこれらの保健教育を身につけておれば,保健所からの公衆衛生活動の呼びかけに際しても,打てば響くように,その活動に呼応して,顕著な成果を期待することができるであろう。

大阪市における学校保健と保健所

著者: 吉田博義

ページ範囲:P.193 - P.197

まえがき
 保健所というところは地域における公衆衛生の第一線機関であるとよくいわれる。もしも保健所がこのような看板どおりのものでありとするならば,担当行政地区における全般にわたる日々の保健衛生の諸問題を正確に把握し,必要に応じた施策を自らうちたてられるだけの技術的行政的能力があってよい筈である。
 現在,大阪市の保健所が公衆衛生の立場より学校保健に関してどのような質の指導的な役割を演じつつあるであろうか,また学校側の要望に応じて,児童生徒達のためにどのような保健サービスを行っているだろうか。

地域保健が先行

著者: 久保秀史

ページ範囲:P.198 - P.199

 学校保健も,学校衛生といわれ,身体検査といわれていた時代からみると,現在はまったく隔世の観があるといってよい。とくに私達が,学校に行ってみて驚くことは,PTAをはじめとする,地域社会の方々が,学校保健に関して,深い理解をもち,非常な協力をしておられることだ。
 このことを逆からいえば,学校側は,地域社会の人達を,よくもこんなに利用し,協力させたものだと,驚くほかはない,ともかく今日の学校保健は,地域社会の協力がなくては,成りたたないことは事実だ。

地域ぐるみの保健活動

著者: 竹尾正弐

ページ範囲:P.200 - P.203

 本校は,東海道本線の豊橋より西へ二つ目の愛知御津駅下車北へ約2粁の山間部落にあり児童242名,PTA戸数172戸の小規模校である。学校保健活動と地域の保健活動とが,地道に実践されてきている。
 人づくりの仕事は,学校教師だけでは全きを得ない。地域社会,学校,家庭が一体となってはじめてよい児童よい国民の育成が望まれる。

地域総ぐるみの健康教育に想う

著者: 中山嶚

ページ範囲:P.204 - P.205

1.緒言
 身体的にも精神的にも健やかであり,社会性豊かで立派な能力をもって活動し得る状態を健康という定義が戦後世界的に認められた。
 学校における保健活動も従来の学校衛生から脱皮して,その内容が大いに改善されてきている。朝日新聞社が,昭和26年以来,文部省,厚生省の後援のもとに,全日本健康優良学校表彰の大事業を実施している。この趣旨は,新しい健康の定義に基づいて,集団の健康増進を重視されている。この点,まことに立派な事業で,心から敬意を表したい。

定時制高校生の健康に関する考察

著者: 佐渡一郎 ,   内田和子 ,   千葉裕典 ,   城所伸男 ,   千葉昭二 ,   石館敬三

ページ範囲:P.207 - P.215

I.はじめに
 定時制高等学校に学ぶ生徒は,約60万人に達している。定時制生徒の大部分は昼働き夜学ぶという生活をつづけており,彼等をとりまく社会環境,庭家環境にはかなり多くの困難点が蔵されている。これら生徒に対し,彼等の目的を達成させるためには,生徒自身の自覚にまつことは勿論であるが,彼等に接するところの人々のよき助言と,温い指導に負うところは少くない。
 著者らの1人千葉1)2)は定時制高等学校生徒の生活と健康について数年に亘り研究をつづけ,定時制生徒のおかれた環境条件が,彼等の健康に大きな影響を与えていること,及びその健康をまもることが学業と勤労の両立を図ろうとする彼等にとって,いかに重要な問題であるかを指摘し,定時制生徒に対する健康管理及び健康指導の重要性は,より強調されなければならないことを明かにした。

原著

東北一般住民における正常血圧者と高血圧者の眼底ならびに心電図所見の比較検討

著者: 土屋真 ,   竹内敏博 ,   菅原正敏

ページ範囲:P.217 - P.220

 宮城県の40歳以上の一般住民における,集団検診時の正常血圧者と高血圧者の眼底ならびに心電図有所見頻度を比較検討した。正常血圧者にもK. W. Ⅱa群以上の網膜動脈硬化者が9.1%いることおよび脳卒中者の約10%が正常血圧者値をしめしたごとく,高血圧者だけの循環器疾患対策では不十分である。
 1.最大血圧者別にみた高血圧者1593名中のK. W. Ⅱa群は41.0%,K. W. ⅡbおよびIII群は7.8%であるが,最大血圧150mmHg未満で最小血圧90mmHg未満の正常血圧者561名中,K. W. Ⅱa群は7.7%,K. W. Ⅱb群は1.4%である。
 2.正常血圧者において最大血圧140mmHg未満ではK. W. Ⅱa群5.7%,K. W. Ⅱb群O.8%であり,140mmHg台ではそれぞれ12.0%,2.4%である。これらは年令とともに高率となる。
 3.今までに集団検診をうけた脳卒中生存者80名中11.3%が集検時正常血圧値を示した。また正常血圧者,高血圧者ともにK. W. Ⅱa群以上の者が脳卒中者の約80%であった。心電図上心筋傷害を認めた者は脳卒中者の35.0%である。
 4.正常血圧者において最小血圧80mmHg未満のK. W. Ⅱa群は4.2%,K. W. Ⅱb群は0.4%であり,80mmHg台のK. W. Ⅱa群は10.3%,K. W. Ⅱb群は2.2%である。
 5.高血圧者1881名中の心電図有所見者率は34.2%,心筋傷害は19.3%,心筋梗塞は0.3%,心房細動は1.7%であるが,正常血圧者1032名中の心電図有所見者率は13.2%,心筋傷害は3.1%,心筋梗塞はO.2%,心房細動は1.0%である。

資料

小都市の衛生費—愛知県守山市の事例研究

著者: 小栗史郎

ページ範囲:P.221 - P.224

 名古屋市北東部に隣接する小都市の衛生費を,36,7年の時点で比較考察した、資料はほとんど両市の予算書に依存しているため,その言及する範囲は狭く,両市の特殊事情は一般化を困難にしている。しかしながらこの小論でみた特違な2現象にふれて,要約と考察に代えてみたい。
 清掃問題はとくに大都市に隣接する小都市行財政のきわめて重要な環である。春日井市は起債をテコにして,また市民へのシワヨセを増して,解決に努め,比較的貧困な守山市は,この問題でゆれて合併へと傾いた。また春日井市のように清掃費は他の保健衛生費を圧縮する。それゆえこの解決への努力がなければ,市町村および市町村民を基盤とする保健所行政の運営は空転することになるであろう。
 市民病院の経営は,この小論では明瞭に指摘していないが,一般会計からの助成は緊急の事態である。全国自治体病院協議会が「自治体病院財政の改善に関する意見」6)を出したのは,この危機事態の深刻さを示すものである。もっともこの「意見」の強調する他の一面,すなわち39年から適用される地方公営企業法に具体化した合理化には直ちに賛成できない7)。しかし「意見」の指摘どおり,公立病院は保健衛生行政の一翼であり,共同保健計画の重要な一環である。
 以上の2点は,公害,国保民生の諸問題とともに小都市の保健衛生を管理する保健所活動の弱点でなかろうか,と附記してこの事例研究を終える。諸学兄の批判を切望する。

文献

ニューヘブライズ群島の3地域住民の血圧,他

著者: 芦沢

ページ範囲:P.180 - P.180

 本態性高血圧の罹患率と西欧文明との接触の程度との関係が類推されている。(Lovell, Maddocks and Rogerson, Aust. Ann. Med., 9, 4, 1960;Maddocks, Lancet, 2, 396, 1961)またWilsonはアッサム地方で茶裁培農夫の間で加年令と共に血圧上昇を認めたが(Brit. J. prev. Soc. Med., 12, 204, 1958),Lovellらはフィジー島およびギルバート諸島住民ではこの事実はなかったとしている。Barnesはパプア島の入院患者200例中最大血圧120をこえる者はなく,平均は92と報告している(Med. J. Aust, 2, 540, 1961)。
 ニューヘブライズ島は南太平洋のソロモン群島とフィージー島の間にある山の多い諸島である。住民はメラネシヤ人であるが人類学的には互いに異なる多くの部族が住んでいる。全人口は約5万,海岸地帯に住んでいる層はキリスト教の教化をうけ,生活様式は比較的西欧化しており,若い者は賃労働に従事している。山地に住む者は原始的な衣食住の生活で,ほとんどマラリヤ,寄生虫に罹患しているとみてよく,栄養状態も劣悪である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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