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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻5号

1964年05月発行

雑誌目次

特集 清掃事業の現状と将来

清掃事業の回顧と現状への反省

著者: 楠本正康

ページ範囲:P.229 - P.235

汚物掃除法以前
 人間の生活過程においては,じん芥やふん尿は必然的に排出されるもので,これを何等かの形で処分しなければならない。ふん尿は,かつてわが国では,流水に流し去って処分することが広く行われていたようであるが,一部は地下滲透の方式が採られていた。鎌倉時代以後,農業が発展するにつれ,家畜に乏しいわが国では,ふん尿が肥料として極めて重要な地位を占めた。その結果農家の汲み取りによって,おのずからのうちに収集処分が行われるようになった。この間,江戸や大阪では,繁華街や祭で人出の多い場所に農民が肥桶をおいてふん尿を集めて持ち帰ることが行われ始めたが,まことに不衛生であり,美観のうえからも好ましくないので,町奉行が一定の施設基準を設け,許可制度によって取り締った。これがおそらく日本における清掃行政の最初のものであろう。
 いずれにせよ,農家の自由汲み取りによるふん尿の処分は,支障なく最近まで続いていた。明治37年に汚物掃除法が制定されてからも,この方式はそのままつづいたが,明治末頃から都市が近代的に発達するに伴い,農家の汲み取りは局所的に行き詰りを来たすところも現われ,少数の汲み取り業者が農民に代って農村還元を行った。大正7年に東京市ははじあて市費を計上して,市の責任で一部汲み取りを行うようになった。その後大阪市などの大都市においても,市の事業として汲み取りが始められた。

ごみ処理について

著者: 児玉威

ページ範囲:P.236 - P.240

 ゴミは人間の日常生活および生産活動の廃残物として出されるもので,量の割合に価値が少なく,衛生上も好ましくないものであるから,これをできるだけ人間の生活環境から隔離し,速かに運び去ることが必要である。しかし,農村のように周囲に広い山野や田畑のあるところでは,ゴミも自家処理することが容易であるが,都市においては,これを組織的に処理するほかない。この都市のゴミを最も効率的にまた衛生的に処理することが公衆衛生ならびに清掃関係者の大きな課題である。

し尿処理の現状と将来

著者: 三浦運一

ページ範囲:P.241 - P.245

し尿処理の過去と現状
 古来わが国のし尿は,肥料として農業上不可欠な有価物とされ,農村は勿論,都市のし尿もそのほとんど全部が農村に運ばれ,肥料に用いることによって処分されて来た。これがわが国における消化器伝染病と寄生虫病蔓延の根本原因であって,極めて非衛生的な方法ではあるが,ともかくこれで一応,量的処分が行われていたのである。
 しかるに大東亜終戦後はその様相が一変し,化学肥料の普及と農民がし尿の如き不潔物の取扱を厭うようになったこと等により,農村のし尿需要量は年々急速に減少し,加うるに都市の急激な人口増加と相まって,都市は従来のように農村還元で処分できないいわゆる"余剰し尿"が激増し,これをいかにして処分するかが焦眉の急となって来た。

東京都清掃事業の現況とその問題点について

著者: 手塚正三

ページ範囲:P.246 - P.251

 最近,環境衛生問題が,都市行政の大きな問題として,脚光を浴びている。
 なかでも,ごみ,ふん尿等,市民生活に,直結している清掃問題は,一日も放置できない,緊急な要務としてその解決を迫られている。東京都が「首都美化の誓い」を提唱し,明るい街づくりに懸命の努力を傾け,都市の近代化促進に,全力を注いでいるのも,時の流れに即した要請であり,文化都市として,生成発展しようとする歴史のひとコマであろう。

地域の保健問題

著者: 山本幹夫

ページ範囲:P.252 - P.259

はじめに
 去る1963年10月横浜で開催された第20回日本公衆衛生学会総会において「地域保健のすすめ方」という特別講演をする機会をあたえられた。ここには,その講演中に述べた,地域保健をすすめるに当って,当然まず考えなければならない地域社会にある保健上の課題を中心として,講演の概要をのべてみたい。
 「地域保健は,その地域の特殊事情に立脚して,公衆衛生の原理を計画的に適用しつつすすめるのがその原理である。」「日本では,その地域社会の複雑性や,長年にわたる中央集権的衛生行政の伝統,地域保健に関する科学的基盤の脆弱性などが原因して,必ずしも各地域に即した保健活動が行われているとはいえないのが現状である。」しかし今後各地域において保健対策を有効にするためには,これらの原因を更に明らかにし,それに適切に対処するような計画を各地域毎に樹立して,進めなければならない。

保健所における健康相談業務の合理化について

著者: 高橋啓子 ,   藤咲暹 ,   大庭英子 ,   高橋よろず ,   赤間ミツ ,   伊藤治子

ページ範囲:P.260 - P.266

Ⅰ.はじめに
 歴史的にみれば,保健所は当時の衛生行政機構に欠けていた指導面を強化するために,純然たる保健指導機関として発足したので,当初の保健所業務の中核は家庭訪問指導と健康相談活動とであった。その後保健所には衛生行政上の責任が課せられ,各種の業務が漸次加わったが,健康相談は殆んどその形態を変えることなく現在に至っている。近年保健所における健康相談業務について特に多く論議されるようになったが,その理由の第1は保健所に課せられる業務が年々増加してきたこと,第2は保健所の職員殊に保健婦が健康相談業務に時間を拘束され,より重要と考えられる他の業務に十分な時間をとれないこと,第3は特に都市保健所においては健康相談利用者が著しく増加し,一定時間の範囲では質的に良い指導ができないことなどであると考えられる。
 要するに保健所設置以来本質的な変化を要求されなかった健康相談業務が,近年に至り他の業務との均衡上,大きく変化しなければならなくなったのに,保健所の基本的な業務形態であるということから,従来の方式のままに放置された結果,利用者の偏りが目立ち,業務の効率が低いことが自覚されて,反省の論議がおこったわけであろう。

放射線防御剤—開発現状と問題点

著者: 砂田毅

ページ範囲:P.267 - P.275

はじめに
 有害な電離放射線の影響を受けないようにするには,必要のない限り近つかぬこと(疎開と退避)であり,止むを得ず近づかねばならぬときは遮蔽の手段を構ずる必要があることは言うまでもない。しかしながら,このような防御手段や態勢がとれないケースが空間的にも時間的にも有り得る(例えば核戦争,原子炉事故,原爆実験による重降下物,誤照射等)。このような場合に一概に仕方がないとあきらめて,その対策を構じておかずにしまうことは,人間の自己防衛本能からして我慢出来ないし,また例えば核戦争を想定してみた場合,自分が死亡または重篤な放射線病を起すことは他人に迷惑をかけ,災害時の活動をそれだけ阻害することになろう。まさか死人をその儘放置もできず,病人に何等の手当看護も加えないでおく訳にもゆかぬからである。また多数の人間が放射線傷害を受ければ,それだけ全体としての復興活動に支障を来すことになる。従って「貴方は生き残る必要がある」1)訳である。放射線傷害を受けた患者の治療は,Cronkite2)の犬を被曝モデルとした一連の治療実験に於て観られたように,多くの人手と充分な看護と厳重な監視を必要とする。ユーゴの原子炉事故による患者の治療経験3)4)からして放射線傷害の治療の前途が非常に明るいものと,過重評価する傾向が一部にあるが,現在のレベルでは果してその当時採用された治療法が実際に有効であったかどうかに疑問を投じている者もある2)5)6)

日本人の発育について(その1)

著者: 沢田芳男

ページ範囲:P.276 - P.285

はじめに
 発育,発達,成長などのことばは一般には同義語として用いられている場合が多く,はっきりと区別することは困難ではあるが,一応つぎのように解釈することが出来ると思う。
 受精卵が細胞分裂をして個体としての形態が大きくなり,各器管が分化,複雑化して胎児となり,母体を離れて新生児として,さらに乳児,幼児,学童および青年を経て成人となって発育を完成する。この過程で発達ということばは主として機能の変化を意味し,成長ということばは生体の形態の増大を,発育ということばは精神および身体機能とともに形態の変化をも意味している。従って,発育ということばの意味は広く,成長あるいは発達ということばの意味を含んでいる。

文献

加速度病における副腎皮質機能の変化

著者: 白石

ページ範囲:P.266 - P.266

 廻転椅子或いは機動空中演習により加速度病に陥った健康男子の血清中遊離17-OHCS値を負荷の始まる前,負荷中,負荷後の3時期にわたり測定した。加速度病に陥った人々には例外なく17-OHCS濃度の急速な上昇がみられた。この上昇は加速の開始とともに始まり,その持続時間は一様ではないが,その加速負荷停止後40分以内である。ステロイド濃度はその後の1時間半から4時間のうちに負荷前の状態に回復する。
 同じ負荷を受けた時嘔吐しなかった人の血清中17-OHCS濃度の変動は2型にわけられ,その一つは負荷開始後17-OHCS上昇がおこる。この17-OHCS濃度の上昇がみられる者の半数に嘔気が自覚された。今一つの型は日間変動と大差ない型であった。この型では負荷中および負荷後血清中の17-OHCSレベルが負荷前のレベルを越えなかった。この型では11名中1名しか嘔気を認めたものはなかった。しかもその1名の嘔気は軽度であった。この群では加速度病の原因と考えられている負荷が殆ど影響しないのである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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