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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻6号

1964年06月発行

雑誌目次

綜説

先天性代謝異常と口腔異常

著者: 岩波文門

ページ範囲:P.289 - P.296

1.従来の小児科学と先天異常をめぐる問題
 本邦では小児科学が,医学の中で一つの独立した分科としての体系をとりはじめたのは,1889年以来のことであり,この歴史は古いものとはいえない1)。しかしこの当時の医学研究の在り方は,いわば算術平均値的にすべての人間を一律に割り切ろうとする傾向が強かったように感じられる。そして本邦の小児科学にもこのような考え方が非常に強く,斯界を風靡してきたといいうると思われ,形態的にはたとえば体重について多数例の算術平均値を求めて,ややもすればこのある時期に求めた一つの算術平均値を確固不動のものと考えて,すべての小児の体重はこの平均値と一致することが理想的なものであるとして教育がおこなわれ,あるいは乳児の栄養面では算術平均的な処理によって一定の授乳方式を模式として示し,すべての乳児の授乳法はこの一律の模式に一致することが理想であるという指導がおこなわれてきた感が深い。すなわちすべての小児の体重,あるいは授乳法は算術平均的な処理から表示された,それらの一定の値と合致しなければならないという強制が,小児科学を推進する大きな力となっていた。このことは体重とか授乳法にとどまらず,小児科学の全般についてみられ,しかもつい十数年前まで,このような状態の中にとどまっていた。

空気イオンの諸問題

著者: 安倍三史 ,   原寿太郎

ページ範囲:P.297 - P.306

はじめに
 空気イオンの生物学的研究は,1930年頃からドイツ,フランス,ソ連,チェッコスロバキア,アメリカ,日本で展開された。日本では1932年から北大木村助教授(後京城大学教授),慶大原島助教授(現慶大教授),九大入江教授,日大,慈恵大の研究が報告された。
 空気イオンの一般については木村ら,気象と空気イオンについては石館ら,換気と空気イオンについては安倍ら,空気イオンの生体反応については北大(木村,石館,安倍ら)と慶大(原島,上田,湯浅ら)の報告がソ連やアメリカの研究に引用された。第二次大戦が世界の空気イオン研究を中断させたが,終戦と共に研究が復興し,1961年10月はアメリカで,第1回国際空気イオン学会が開かれ,世界諸国から集った物理,生物,医学,心理学者の報告は物理学的特徴と生物学的効果の究明に大きく寄与した。これを機会に,世界のあちこちで空気イオン研究がはじめられ,治療医学分野はもちろん,公衆衛生学,特に術生工学の領域で大きく取り上げられた。

日本人の発育について(その2)

著者: 沢田芳男

ページ範囲:P.307 - P.319

5.時代差
 A.児童生徒の体格の向上:児童生徒の体格は昭和36年度に比べて37年度は一段と向上している。特に男子中学生の身長の伸びは著しい。同年齢の児童生徒について36年度と37年度の体格の平均値を比較すると表17に示すように,男子14才の身長は0.9cm伸び,体重も男子14歳で0.7kg増えている。女子の身長は12歳で0.6cm伸び,体重も0.3kg増えているが,それより14歳の増加の方が大きく0.4kg増えている。胸囲も全般に向上している。
 昭和32年度と36年度の男子身長について六大都市と他県の値を比較すると,つぎの表18に示すように,六大都市の値は他県の値より両年度とも各年齢において高い値を示し,その差の最高は14歳で,32年度は2.2cm,36年度は2.5cmである。36年度の値は32年度の値より各年齢とも高い値を示している。なお六大都市と他県との身長の格差は8歳と18歳を除く年令において,32年より36年の方が大きくなっていて,この両年度の成績からは,地域別格差の縮少する傾向はうかがえない。

日本の赤痢,疫痢と下痢腸炎考

著者: 佐藤徳郎 ,   岩戸武雄 ,   福山富太郎 ,   佐藤喜代子

ページ範囲:P.320 - P.328

(1)日本の赤痢に対する大腸菌群検索の意義と対策
 日本の下痢腸炎,赤疫痢による死亡は第2次大戦後急速に減少したが,西欧諸国に比較するとまだ非常に高い率を示している。抗生物質がそれらの減少に大きく寄与したことは疑いがないが,日本のようにその乱用に近い国で,何故死亡が西欧より多いのか,一つの大きな問題と考えられる。また疫痢は減少したものの赤痢死の半数以上を占めている。特に以前最も多かった東京,京都が全国で最低の死亡率であることは,疫痢の解決に光明を与える点であろう。
 本報告では赤痢伝搬の要素を保菌者,患者の面から解析し,その対策として保菌者検索ではなく,大腸菌群検索を中心として予防刻策をすべきことを報告した。本報告に続いて二報以下に疫痢の本態的考察,日本の下痢腸炎の特徴とその対策に考察を加えた。

高崎市における全額市費負担による予防接種の検討

著者: 重田精一

ページ範囲:P.329 - P.334

I.まえがき
 国が福祉国家の建設をその大目的として指向して以来,各般の施策が福祉国家完成のために進められている今日,地域社会においても,その福祉の向上を計るべく,各方面から最善の努力が払わるべきことは当然である。
 疾病ことに流行性疾病が個人及び地域集団に及ぼす罪科は夙に明らかなことであり,我々は地域社会の福祉の向上のため,流行性疾病の蔓延を防止すべく努力しなければならない。この際疾病鎮圧の方向として,予防出来る疾患に対する予防接種の問類が当然惹起されてくるはずであろう。

原著

神戸港港湾地域及び外航船にみたハツカネズミMus. molossinusとMus. musculusに関する調査

著者: 大橋六郎 ,   高野正明 ,   四ツ柳実 ,   乙益道隆

ページ範囲:P.335 - P.338

緒言
 近年,海空の交通機関が発達し,船舶や航空機が増加するにつれて世界各国との交通が非常に容易になったことは喜ばしい事であるが,その反面,怖ろしい伝染病の侵入する機会も多くなって来ている。昨年(昭和37年)の我が国におけるコレラ禍,そしてヨーロッパ,北,東欧の痘そう侵入等つぎつぎと防疫対策に各国共にいとまがない有様である。
 外来伝染病の一つであるペストは,ネズミとそれに寄生するノミが媒介の主役を演ずるのであるが,これらの主要な媒介者が船舶,航空機等によって我が国に侵入してくることは当然考えられることであり,実際に我が国には棲息をみなかったネズミの種類(Suncus. caeruleus)が港湾地域で捕獲されている1)

資料

岡山県における開眼運動

著者: 安江正子

ページ範囲:P.339 - P.341

I.はじめに
 昭和30年に東京で行れたアジア盲人福祉会議で,アジア地域には人口10万に対し,盲人は402人を数えると云われ,また昭和26年の厚生省身体障害者実態調査1)によると,日本には15万人以上の失明者がおり,その約10%が医学的に治療の見込みがあるとのことで,従来このような調査は,各大学2)3)4)5)6),盲学校において局部的に行われ,広く一般失明者を対象とした統計は殆んどなく,岡山県においては,県福祉計画に基き,昭和36年より三木知事の提唱する「盲人に光を」をスローガンにその運動を開始した。

一企業体の疾病統計から見た諸問題

著者: 武内俊郎

ページ範囲:P.342 - P.345

まえがき
 各種企業体における公衆衛生上,或は衛生管理上の問題をとりあげた研究発表は少なからず行なわれている。これらの研究は概ねその目的とする点,例えば特定の環境と関連の深い特定の疾病の消長とか,精神衛生上の管理とか,それらに対する対策等を目標としてなされていることが多い。
 公衆衛生活動の基木に示されている通り,それ等の対象のニードに適応した診断→対策→活動→評価=再診断→対策……という系列を追って研究を行なうためには,とり上げる材料の選沢において,環境,形態,質等の純粋化,或は整理が必要であるので,自然にその研究対象の選択の幅は制限をうけることになる。しかし,現実には社会的に真に公衆衛生活動の助けを必要とする対象は,学問的な分析,研究の材料としては余りも粗雑な条件の下におかれており,学問的興味から縁遠い存在として放置さている状況にある。

文献

精神分裂病の診断および入院時の症度診定の病院間ならびに病院内における変動

著者: 芦沢

ページ範囲:P.341 - P.341

 1951年と1956年に分裂病と診断されてW,XおよびYの3精神病院に入院した患者記録の任意抽出標本についての病院間の診断の変動性を検討した。また別のZ精神病院の1956年の分裂病と診断された全患者記録について診断の病院内変動を検討した。以上の各症例について,C. Wardle(1960)の方法に準じて分裂病診断基準を定め,これに一致するかしないかを "Probable","Doubtful",および "Not Confirmed" の3段階に分類した。まずZ病院の記録について全く独立に2名の専門医によって評定した。入院時の症度の診定は発症時入院 "Crisis Admission" と非発症時入院 "Non-Crisis Admission" にわけて同様に2名の医師により独立に評定した。3段階の診断区分で2名の評定の一致率は68%(144/211),"Doubtful" と "Not Confirmed" を一緒にして2区分とすればその一致率は79%である。不一致の最も大なのは "Doubtful" の区分であった。入院時症度の一致率は79%である。一応この評定法の信頼性は満足できるものと考えられた。
 診断3区分の一致度はW,XおよびYの3病院では "Probable" がそれぞれ69,73,72%でよく一致するに反し,Z病院のそれは47%と有意差を示した。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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