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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻8号

1964年08月発行

雑誌目次

座談会 公衆衛生の未来をかたる

保健所活動は夜明け前

著者: 粟原忠夫 ,   西川滇八 ,   柳沢利喜雄 ,   田波幸男 ,   橋本正己 ,   小宮山新一 ,   石垣純二 ,   山下章

ページ範囲:P.412 - P.423

 久しく「保健所活動はたそがれムード」などと言われてきました。公衆衛生の頼むべき未来を語るのにこれは困った誤解です。保健所をめぐる人と仕事の隆路を押し拡げていただきながら,夜明け前の鼓動に息づく新しい保健所の姿を見直しましょう。

人籟 国家衛生原理抄出・1

国家ハ実ニ至高ノ人体ナリ

著者: 後藤新平

ページ範囲:P.409 - P.409

宇宙開闢ノ神妙斧鋮ノ痕無ク吾人ヲシテ其秘ヲ窺フニ由ナカラシムルモノノ如ク其真相ヲ諦認スルノ難キ亦如何ソヤ然レトモ造物悠久行蔵ノ機ヲ存シ吾人ニ其理窮ムヘシト告ル所アルカ如シ是学者其難ヲ辞セス試考百端益勉ル所以ニ非ラスヤ而シテ其説今日ニ至ル迄紛々雑出未タ醇乎トシテ醇ナルモノアラス
 数千年来天然Naturト題セル天錫ノ宝典モ亦吾人ノ前ニ開カレ解読ニ便ナラシム此宝典ハ彼ノ文字ニ写シタルモノニ比スレバ其天真ヲ失ハサルノミナラス仮令国家顯覆シ学術衰頽スルモ依然トシテ不滅ナリ

談話室

公衆衛生から見た新しい医師像

著者: 柳沢利喜雄

ページ範囲:P.410 - P.411

 「医は仁術である」という言葉は東洋では古くから人口に膾炙している言葉である。この場合,注意したいことは「医は技術である」とはいわれていないことである。なぜ医は技術ではなくして仁術なのであろう。
 医学という学問は疾病の治療を目的に発達したものであり,さらに疾病の予防へと発展し,将来は健康の積極的増進の学となってゆくことであろう。医学は応用科学であり,はっきりした実用的目的をもっている。だがその底には一貫した医という行為を直接目標としたイデヤが厳存している。その医のイデヤが行為として表現されたとき,それを仁術と呼ぶのである。

地域活動の中から 保健所活動の将来

保健所は今や成人です。それなのに…

著者: 祖父江昭仁

ページ範囲:P.424 - P.428

 保健所活動の将来といった大きなテーマをいただき,私のような一地方の一僻地で馳け出しの保健所長をしているものにとうていおよびもつきませんので,私どもの保健所で現に行なっています保健所活動を中心にお話してみたいと思います。
 私どもの保健所は,名古屋市の南方,知多半島の先端にあります。管内は町村合併により現在ではわずか2町,人口5万弱を管轄するL型の保健所で,名古屋市からは郊外電車で,ほぼ1時間あまりでまいります。

人と仕事,当局への望みは多い

著者: 工藤敏信

ページ範囲:P.428 - P.432

 はじめにお断りしておきますが「公衆衛生」から寄稿を依頼されたとき,私は,その任にあらずとしてお断りすべきか,それともこうした日本の僻地からナマの声を出してほしいとの意味に理解して,あえて寄稿すべきかに迷いました。なぜなら,私はまだ経験6年の未熟者であり,また医師は所長だけという保健所で,日常業務に忙殺されにわかには,「保健所活動の将来」というテーマに対する構想は浮かんでこなかつたからです。
 しかし,しばらく考えているうちに,多忙な日常業務のなかで,たえず頭の中を去来していたものについて,まとめてみたいという気持になり,あえて筆をとつた次第です。

海外事情

フランスの公衆衛生—1963年

著者: 岡部宗雄

ページ範囲:P.434 - P.436

 はじめに1959年より3年有余,仏国首相だったMichel Debréの父君Prof. Robert Debré(1882〜)は1958年以来,医学研究改革提唱者Réforme de Pétude Médicale Promoteurとして支持されている。彼は仏国医学アカデミー総裁,仏国学校衛生審議会々長,UNICEF仏国代表,国連児童本部CIE本部長として公衆衛生,社会医学のため,その情熱を傾けている。先年,東京で開催されたCIEのアジア地域セミナーに栗山重信先生とともに非常な努力をはらったことは周知のとおりである。
 同氏宛の東京都知事の依頼状により私の渡仏の要件をご承知だったので,私がお訪ねした時,公衆衛生人口省のDr. Aujalou局長(CIE審議官兼務)あての紹介状を用意しておいてくださった。このことは約半年間にわたる私の滞仏期間をとおして非常に有益だった。

イスラエル国の公衆衛生

著者: 原島進

ページ範囲:P.436 - P.438

 現在の衛生統計イスラエルは1948年以来独立した共和国である。首都エルサレムと人口最大のテラビブ市を結ぶ線は,緯度のうえでは鹿児島市とほぼ一致する。四国と同じくらいの面積ではあるが,地中海の東海岸からさらに南北にのびた細長い国である。そして,レバノン,シリア,ヨルダン,エジプトにとりかこまれている。
 亜熱帯にちかい国土であり,乾季の春夏と雨季の秋冬という気候であるが,この国の衛生統計数値は欧米のすすんだ国に比較して遜色がない。読者の関心のために,わが国のものと比較したものをあげよう。

焦点

保健所における精神衛生事業の方向

著者: 吉川万雄

ページ範囲:P.439 - P.441

 物質文明が進むほど,人類は不安と焦燥の影をこくし,社会保障がすすむほど,人間は孤独と悲哀を深めるという言葉は,現代社会の一面の真を伝えている。
 この社会に対し,精神衛生は一つの大きな支柱とならねばならぬし,社会もそれを期待する。

論叢

公衆衛生の基盤についての哲学的考察—柏熊氏の再批判にこたえて(1)

著者: 小林治一郎

ページ範囲:P.442 - P.445

■この小論のねらい
 柏熊岬二氏が「地区診断における条件分析の論理と実用化1)」――小林批判への再批判――(以下「再批判と略称する)を書かれてから思わぬ月日がたってしまった。「再批判」のもととなった私の「地区診断における条件分析の論理と定式化2)」のなかで,私は「実例をあげる前に,それについて検討しなければならない重要な理論的問題が未解決のまま残されている3)」と書いた。その後,その「未解決の理論的問題」にとりかかっていたため,それが一段落つくまで「再批判」の問題に着手できなかった。それで「再批判」に対するこたえが思わず遅れてしまったのであるが,前者は本小論とも深い関係があるのでいずれ発表されることになると思う。
 私は,柏熊氏が私への「再批判」を書かれたことに対して,深い感謝と敬意をはらうものである。「社会病理学という社会科学と自然科学の両方にまたがる分野を専攻4)」していられる同氏は,地区診断理論を進展させるために,私への「再批判」において,いろいろ重要な,基本的な問題にふれて居られる。同氏との批判,再批判というかたちでの討論が,公衆衛生の基本的な立場の掘下げについて有益な成果をもたらすと信じ,同氏への批判を再び書く。

保健婦よりみた精神障害者訪問活動への疑問

著者: 外口玉子

ページ範囲:P.445 - P.446

 最近,精神障害者への訪問活動の必要性が叫ばれはじめたのを知った私は,まず「何の保障も裏づけもない素手の私たちに,何をどれだけ,期待しているのかしら」と疑問をもった。そんな私に,ある医師は一農村での精神病巡回診療にいっしょに参加した保健婦を引きあいに保健婦の前衛的役割を指摘する。意気に盗れ自信をもっていたと,讃美し同調する。このようにフロンティア精神にもえる保健婦の話は,都市保健所での行き詰りを体験した私を勇気づけはするが,すぐにまた前にもまして多くの疑問を感じさせる。
 「20年以上たってもなお同じかたちで現場の保健婦の足と手が地域の健康管理体制の不備の穴埋めとして必要とされるのを喜こんでいて良いのだろうか」

事例

ウエルシー菌食中毒(集団発生例より)

著者: 長崎護 ,   善養寺浩 ,   坂井千三

ページ範囲:P.448 - P.454

緒言
 ウエルシー菌食中毒はKnox & Mac Donald(1943)1)により耐熱性A型菌によるものが報告されたのが最初であり,1953年にはHobbs1)らにより,英国において学校に発生した例が報告されている。一方,耐熱性F型菌による食中毒は1947年〜49年にドイツに発生し,耐熱性A型菌による食中毒と異なり,出血性腸炎症状を呈し,死亡率40%に及ぶ重症型のもので,これについてはZeissler & Rassfold-Sternberg2),Hain3),Oakley4)らにより報告されている。
 我が国におけるウエルシー菌食中毒は,1959年5月,北海道において学校給食により発生し,中村ら5)により報告されたほか,青山ら6),堀ら7),山県ら9,9)により報告された数例にすぎない(第1表)10)。東京都においては,本菌による食中毒と決定された例はかってなく,今回報告する例が最初であり,かつ,患者数1,491名に及び,我が国における本菌食中毒例中最大の規模のものとなった。我が国におけるウエルシー菌食中毒は,いずれも耐熱性A型菌によるものである。またわが国においてはウエルシー菌食中毒は比較的稀なものと考えられているが,社会,経済の発達により,食生活形態の変化が起こっており,将来は本菌による食中毒は必ずしも稀なものとは考えられない。そこで,今回の発生例の概要を報告し,本菌食中毒予防の参考とする。

合併による保健衛生費の変化—愛知県守山市と名古屋市守山区の比較

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.455 - P.457

 諸外国では町村合併がきわめて稀といわれる1)が,日本では明治以来今日まで明治22年と明治末期―大正後期,昭和中期および戦後と4度の大合併が,体制の再編成とともに行なわれてきた。その結果,明治7年の78,280町村が昭和28年町村合併促進法施行当時9,895市町村となり,さらに36年3月には3,503市町村となった。
 促進法によれば,町村合併は「住民の福祉を増進するようにその規模をできるだけ増大」することになっているが,住民福祉の一環である保健衛生面の合併による影響をみると,今までの記録では否定面がつよい2),3)。ただしこれらの事例は小市町村の場合である。

原著

赤痢疫痢と下痢腸炎考—(3)日本の下痢腸炎死亡率の高い理由とその対策についての考察

著者: 佐藤徳郎 ,   福山富太郎 ,   佐藤喜代子

ページ範囲:P.459 - P.461

 胃炎,十二指腸炎,腸炎,大腸炎(B36)の死亡のうち腸炎,大腸炎によるものは幼年期は大部分,老人年期でも7〜80%を占めている(昭35年)。大正の末期からのB36のうつりかわりをみると1)(第1図)階段的に下降し,現在では大体10%以下となっており,特にその死亡の大部分を占めていた0〜4歳において変化が著しい。終戦当時までに半減したものが,昭和30年で約8年の間にさらに1/5に急速に減少しているが,生活水準の向上,抗生物質の使用,保健所などの乳幼児の相談事業の普及が大きな因子となっていると考えられる。その後の低下傾向はなおつづいており,5年間にさらに半減している。しかし,年齢別死亡率を欧米などの外国と比較すると2)(第1表)日本の死亡率は現在なお著しく高いことが理解される。0歳では,6〜9倍,1〜4歳では13〜20倍,75〜79歳の老年では10〜18倍の高位にある。日本の下痢腸炎による死亡率は従前にくらべれば下降したものの,西欧に比較すると未だに非常な高位にあり,その原因を考察することは将来の対策をたてる上にも,必要な事項と思われる。
 先に疫痢の発生原因について考察を加えたが,同様に家庭内における下痢に対する処置,治療の面で,過去から現在への移りかわりと現在における古い型の存在を中心に考察を加えた。

高校生の身体的精神的ストレスに対応する生理的研究—特に唾液pHについて

著者: 木村勇

ページ範囲:P.462 - P.464

緒言
 高校生は身体的には一応ととのっているので,身体運動のストレスに対する反応については多く研究されている。しかし精神的には幾分不安定であり,結果はあまり明瞭に出ないきらいがあるので,過去にはそのストレス反応の研究成績は非常に少ない。1)
 身体的な運動に対する尿,唾液,血液および眼調節,皮膚感覚などによる比重,pH,各種成分の変化,Donaggio反応,Flicker値,越智反応,各種の反射による疲労測定については過去に非常に多くの研究がある。2)〜6)然しその測定は特殊の選手および職業についてのものが多く,測定対照も限られたもので,一般高校生のものについてはあまりないそして前に述べた如く精神的ストレスに対する反応についてはわずかしかないので,一般生徒の多数の男女について比較的簡単に測定できる唾液pHを基準にして,その成績の結果が出たので報告したいと思う。

華曄

詩・薔薇(リルケ)

著者: 大山定一

ページ範囲:P.458 - P.458

どこにこのやうな内部をいれる外部があるだらう
この清らかな布はどんな痍にのせたらよいだらう

文献紹介

癌に関連する環境要因,他

著者: 有賀徹

ページ範囲:P.465 - P.465

 本論文は環境要因の分析が癌研究の手がかりとしていかに重要であるかを述べている。
 今日癌研究において疫学的研究はその基礎的知識を得るため極めて有効な方法であるが,疫学的研究を誤認したり濫用したのではかえって反対の結論に導くものである。したがって過去から今日に至る疫学研究の過程から考えると,誤りであったと考えられていた知見も今日では癌研究の疫学的アプローチとしては重要であるかもしれないと最初に述べている。そしてこのような疫学的研究における誤謬を防ぐためつぎに示す,Wynderの4つの基礎的条件を引用して注意を喚起している。すなわちWynderは癌の環境要因を認める条件として,(1)Relative riskは,その環境の曝露に応じて上昇しなければならない。(2)ある集団における発生率が病因(Agent)の分布と一致しなければならない。(3)集団におけるAgentの減少と限定に伴ない癌の罹患率が減少しなければならない。(4)Agentはある動物に対して発癌性物質としての作用をもたなければならない。

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News References in June '64

ページ範囲:P.433 - P.433

 第16回保健文化賞表彰候補を募る①保健衛生を実際に著しく向上させた個人または団体,②保健衛生向上に著しく寄与する研究または発見した個人,団体を対象として。主催は第一生命保険相互会社。

未熟児—家庭訪問指導のかんどころ(1)

著者: 青木康子

ページ範囲:P.447 - P.447

I.母親をよく知ろう
 先ず母親の性格を親をみれば子がわかる,子をみれば親がわかるの例えどおり,母親の生活態度によって子供の育ちぐあいはちがう。その生活態度は母親の性格や生活態度などと密接な関係をもっている。
 未熟児の養育にあたっても,未熟児というものをどう解釈し,どう取り扱かうか,母親の性格に左右される点が多い。まず,何よりも母親の性格を把握することである。

DESK・メモ—東海地区からのモニター・レポートから

著者:

ページ範囲:P.423 - P.423

 岐阜県精神衛生協会では隔月に精神衛生研究会を開催している。この6月25日には,県の精神衛生相談所長らが「3才児の精神衛生について」研究発表,ひきつづき各方面からの討議追究が加えられた。
 3才児検診も今年で4年めを迎えるわけだが,精神発達を知る方法はなかなかむずかしく,厚生省から指示された検診項目だけでは判定至難とも言われている。そこで,保健所によっては,遠城寺式などの簡易検査を実施しているところもあり,今後さらに検討してゆかねばならぬ重要課題が残されている。この研究会で,ある精神病院長は,幼児の精神発達は知的なものばかりでなく情緒的問題をも重視すべきであること,それには家族関係ことに親子夫婦関係というものを,もっと大切にしなければならぬという趣旨の発言をしていたが,ありふれた観点のようで本質的に緊要の視点というべきだろう。

リハビリテーション書について

著者:

ページ範囲:P.441 - P.441

 従来,多少でもリハビリテーションが問題にされ,その観点からの実践が行なわれていたのは,結核と整形の分野であったが,リハビリテーション医学は,本来病める人が各科にわたる限り,各科に存在すべきはずである。植村敏彦著「肺結核のaftercare」(医学書院),大塚哲也著「運動障害の回復訓練図説」(金芳堂),小林太刀夫監修「図説・脳卒中の初期リハビリーテーション」(金原出版),大島良雄監修「卒中に打ち勝て」(医道の日本社)といったような限局された本しか出されていない出版界の現状は,今後急速に改善されてゆくことになると思われる。とくに循環器関係や精神医学関係の領域がクローズ・アップされてくる動向にあろう。
 服部一郎・上田敏著「神経疾患のリハビリテーション」小林太刀夫編「心臓病のリハビリテーション」,西尾友三郎・他著「病院精神医学」,江副勉編「精神障害の発見と管理」(いずれも医学書院)などの近刊が予定されているのは,このような動向に符節を合するものである。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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