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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生28巻9号

1964年09月発行

雑誌目次

人籟 国家衛生原理抄出・2

衛生ノ一理ニ帰納セサルハ無シ

著者: 後藤新平

ページ範囲:P.469 - P.469

幸ナル哉文明ノ風潮ハ人世ノ汚濁ヲ洗浄シ先入ノ迷霧ヲ払ヒ去テ漸ク人事ノ向フベキ針路ヲ覚ラシメ世事ノ本末ヲ明ニシ従来人事ノ末ニ置キシ衛生ハ却テ其本タリシコトヲ知リ之ヲ措テ道徳言辞,史伝,経済等ノ諸科ニ通スルモ復何ノ要ナキヲ覚リ且今日マテ衛生ノ声価ハ其真価ニ比スレハ遙ニ低位ニ潜ミタリシコトヲ嘆セサルハナク前ニ認メテ衛生ト信シタル区域ハ所謂全豹ノ一斑ニシテ今ヤ井蛙管見ノ譏ヲ免レサルコトヲ覚リ且其範囲ノ広大ナルコトニ驚カサルハナシ是ニ於テ乎上下一是ニ衛生ヲ講セントスル勢ニ至レリ是固ヨリ学者事ヲ好ムノ情ニ発シタル一時ノ流行ニ非ス又唯々政府カ過慮ノ誘導ニ出テタル結果ニ非ス臣民深ク各自ノ身心ニ反省シテ自治自衛上其必要ヲ感スルノ所致ナリ
 動モスレハ衛生ハ身体内ノ事ニ関シ其事小ナリ政治,経済,文学ハ身体外ノ事ニ関シ其事大ナリト為スモノアリ

談話室

岡目八目・酒と煙草と女と

著者: 竹内繁喜

ページ範囲:P.470 - P.471

■酒
 職務柄1〜2回ではあったが都知事主催のパーティに出かけたことがある。知事は,ビールはどうかしらないが日本酒を飲まない。ウイスキーである。若い先生方によくサービスして酒をついでまわっていたが,自分ではウイスキーグラスを持ってまわって「私はこの方だから」と日本酒の返盃はことわっておられた。真意はしらない。元気に活躍している知事のことだから病気のせいではないだろう。数多い返盃をことわる逃げ口上かもしれないが,やはり,洋酒にくらべると日本酒はどうも身体によくないと考えておると察するのがいちばん妥当だろう。
 2〜3日前,外来に中絶希望の患者がきた。「ズッと受胎調節をやっていましたが,一度だけ主人が酔っぱらって帰り,つい予防をしませんでした。どうもその時に妊娠したようです。書物を読むと,酒を飲んで関係し,妊娠した子供は頭がわるいと書いてありますね。私どもは育児に熱心なので,頭のわるい子供ができては困るのです」というのが理由である。ちかごろ,教育ママとか育児ノイローゼとかいう言葉がはやっているが,育児に対する関心も,ついにここまできたかという感じがする。そのうち紋付,袴で子供をつくる時代がくるかもしれない。

主題

医科大学における衛生学公衆衛生学教育

著者: 北博正

ページ範囲:P.472 - P.476

 医科大学における衛生学公衆衛生学の教育の問題については,これまでに書いたこともあるし1,2),また今春の日本衛生学会の教育に関するシンポジウムでも述べており3),いまさら同じようなことを再び書くのもあまり意味がないと思われるので,本稿では,わが国の近代医学教育における衛生学の立場を歴史的にふりかえり,現在をみる場合の参考に供し,さらに現在ないし近い将来における衛生学公衆衛生学の教育に関する問題点をいくつか挙げて私見を述べることで責をふさぎたいと思う。

教養課程における保健体育教育

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.478 - P.483

1.歴史的観点
 今日の時点における保健教育のありかた,および将来におけるあるべき姿について論評を加えるためには,歴史的視野においてその発足,あるいは起原の背景について考察する必要がありそうである。
 ここでは,医学部学生の教養課程における保健教育を対象として検討を行うわけであるが,彼らもまた一般学生とまったく同様に,教養コースにおいて「保健体育」を学習しなければならないことはいうまでもない。

海外事情

イギリスの保健衛生教育

著者: 高橋英次

ページ範囲:P.484 - P.486

 私が英国に滞在したのは1960年から61年にかけての期間であつたので,その見聞に属するわけであり,またとくに保健衛生教育視察を目的として滞在したわけでもないが,滞在中の見聞を回想しつつ筆をとることとする。

アメリカ医学教育の昨今

著者: 高桑栄松

ページ範囲:P.486 - P.489

 私は2年ほど前にRockefeller財団の援助を得て,米国における医学教育の現状を視察する機会を得た。これはそのおり,つまり'61-'62 academic yearに私が訪問して関係者と意見を交換し,見聞し得た10大学(Columbia,Cornell,Harvard,Boston,Pittsburgh,Western Reserve,Northwestern,Utah,Stanford,Southern California)に関するレポートの概要である。

連載講座 公衆衛生活動のための精神衛生学・1【新連載】

公衆衛生と精神衛生の共通点

著者: 進藤隆夫

ページ範囲:P.490 - P.493

■ 公衆衛生の問題の変質
 わが国の公衆衛生は19世紀から20世紀初期にかけて,まず急性伝染病との戦いに勝ち,ついで慢性伝染病中で,もっとも猛威をふるった結核を第2次大戦後の短時日の問に克服した、また30年前に出生1,000につき130もあった乳児死亡を30年間で4分の1以下に低下させた。最近はまた急性灰白髄炎の予防に劇的な成果をあげた。
 あとに残った問題は何かというと,第一に赤痢や寄生虫の予防のように屎尿処理施設の完備によって征服できるものがある。第二に成人病のように成人病センターと保健所と病院と医師会などの人々の協力によって成果をあげうるものがある、第三に肢体不自由者や身体障害者や老人性退行性疾患のように医学のほかに心理学や社会学的処置の必要な総合的リハビリテーションの推進によって解決すべきものがある。第四に悪い労働条件下にある中小企業や零細企業を労働基準法の恩恵はあずからしめて,全体としての衛生水準をたかめるべき問題がある。第五に上下水や道路や住宅を整備して,著しくたちおくれている環境衛生を推進すべき問題がある。第六に文化の進歩によってあらたにおこった大気汚染のような公害と農薬中毒,放射線障害,有機溶剤中毒などの職業病がある。

焦点

家族計画の今日的意義と方法

著者: 荻野博

ページ範囲:P.494 - P.495

 日本で,家族計画ということが,声を大にして言われはじめてからすでに10年以上を経過した。戦後の社会変動とともに,家族計画も短期間のうちに,めまぐるしいとさえいえるほどいろいろな問題をともないつつ発展,展開してきた。いろいろなかたちで家族計画に直面した問題をならべてみると,人口問題,産児制限,人工妊娠中絶,受胎調節,受胎調節実地指導員制度,特別普及対策(生活保護,低所得者),優生保護法,母子衛生,家庭づくり,人づくり,新生活運動,農村問題,人手不足,新婚者対策,婚前指導,性教育,一人っ子,不妊手術,新らしい避妊薬と器具,マスコミ,結婚生活のカウンセリング,行政と民間活動など,ただ文字をならべるだけでも,まだまだあり,それらが互いに関連しつつ短時日のあいだに問題を提出するのであるから,かんたんに解説もできなければ,問題の解決も容易ではない。複雑で手がつけられないようにも見えるが,根本的な家族計画の考え方,進め方は変わらないし,そうかんたんに変えるべきものではない。
 あれやこれやを同時に考えてばかりいて,すくんでしまっては何にもならないが,最近問題となっている点をすこしひろい出してみることで現在の家族計画の進め方のポイントが輪郭として浮べば幸いである。

論叢

公衆衛生の基盤についての哲学的考察—柏熊氏の再批判にこたえて(2)

著者: 小林治一郎

ページ範囲:P.496 - P.501

■私のいう矛盾
 私のいう矛盾とはいかなるものかという柏熊氏の問に答えるまえに弁証法的論理学とはどのようなものかから始める。
 「弁証法的論理学の名で呼ばれるものは,唯物論以外も当然含まれる。ところが小林氏の論拠は弁証法唯物論に限定されるのであるから,より広い学問的範疇である弁証法的論理学と称するのは当を得ていないし学問的慣行にも反する」と柏熊氏はいう。

無医地区解消せよ—衛生思想普及保健所だけでは進まぬ

著者: 工藤敏信

ページ範囲:P.501 - P.502

 憲法第25条には,「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国はすべての生活部面について社会福祉,社会保障および公衆衛生の向上および増進につとめなければならない』とうたわれている。すなわち,国はすべての国民に健康で文化的な生活を保障する義務を負っているのである。ところが,現実には辺地の生活は,およそ,これとは縁遠い状態である。
 近年,産業構造の変化に伴って,青壮年層の都市への流山はますます激しくなり,辺地農山村においては,老人と子供の占める比率が逆に増大しつつある。かかる人口構造の変化は,都市産業の発展に伴って,必然的に起こる現象であって,この流れをせき止めることにまずできないことであろう。青壮年層をとどまらせるだけの魅力ある働き場のない辺地の宿命というべきであろうか。

地域活動の中から

母子保健事業の地域への沈潜—静岡県受胎調節実地指導員協会幹部研修会に招かれて

著者: 青木康子

ページ範囲:P.503 - P.504

 6月27日・28日の両日,伊豆長岡で開催された上記研修会に出席する機会があった。
 家族計画普及事業が市町村の段階に移りつつある昨今,広く深くこの運動をおしすすめるための具体策を,研究討譏する目的で開かれたこの会の出席者は,各支部長(主に助産婦)と各支部の中堅幹部(主に保健婦)ということで折からの激しい風雨にもかかわらず,50名余りが一堂に会した。

活躍する子供保健所

著者: 青柳セン

ページ範囲:P.504 - P.505

 群馬県沼田市の西北,下沼田町の子供会はいなほ子供会という米どころ薄根にふさわしいよい名前がつけられている。昭和35年4月,この子供会の骨としてみんなで仲良く楽しくできるもの,そして,明るい環境の中で心ゆくまで働らき,気のきくよい子になろうとはじめたのが子供保健所である。当時の子供会,会員と相談し親保健所である沼田保健所にお邪魔して増村所長さん,占野技師さんにご指導いただくことになった。
 仕事の内容,働く方法など教えていただき一通りの勉強ができるといよいよ開所式。その運びとなったのが昭和35年8月16日夏休みのことだった。会長を中心に子供たちの手ですっかり準備ができて開所式には親保健所の吉野さん,市役所の小林衛生課長。中学校の角田校長,岡村教頭,顧問の私が出席。所員は小学校の4年生から中学校3年生までの生徒である。進行もすべて生徒の手で行なわれ,親保健所の方,市役所の方,学校長のご挨拶を聞いて本当に意義のある開所式ができた。この日のお祝いにと区長さんからお菓子の袋をいただいたことは全く嬉しくてしっかりやらなければならない気もちと,ありがたいことで胸がいっぱいだったと当時の記録にのこされている。いなほ子供会は保健所をもつことをほこりとし精いっぱい働いた。現在もなお働いている。

原著

僻地における教育環境の公衆衛生的実態—とくに興津小中学校児童生徒の健康を支える背景について

著者: 小松寿子 ,   岡本史子 ,   広瀬和子 ,   工藤はる子

ページ範囲:P.507 - P.520

はじめに
 昭和37年秋,報道機関によって興津問題が一般に知らされた。この報道によって,わたくしたちは,興津が「陸の孤島」と考えられる点を発見した。1日3回しかないバスで窪川につながる興津は,1日2回の小型船によって片島と連絡している沖の島と共通点があるからである。
 わたくしたちは,数年来「海の孤島」沖の島,鵜来島の児童生徒の体位,疾病や教育環境などについて調査研究をつづけてきている。沖の島と興津を比較研究するという見地にたって,学校保健面からの調査研究を興津小,中学校と窪川町教育委員会との協力をうけておこなった。

集団健診/事例

老人健康診査についての一考察

著者: 加藤道子

ページ範囲:P.521 - P.523

 近年老令人口の増加,家族制度の変革などのため,老人問題がしだいに重要視されるようになってきた。そこで老人福祉に重点をおき,昨年8月1日にあらたに老人福祉法が制定せられ,本年4月には社会局に老人福祉課が新設された。老人福祉法第10条には「市町村長は65歳以上の者に対して,毎年期間を指定して厚生大臣が定める方法により健康診査を行わなければならない」ことを明記している。
 本年は65歳以上のうち,その1/5の老人について全国的に一般健康診査を実施することになり,岐阜市においても本年2月までに一応終了した。この健康診査の実施のしかたなどにいろいろ問題や議論があるようである。岐阜市において実施した方法とその成績を紹介したいと思う。

「公衆衛生」書評

未熟児家庭訪問指導のかんどころ(2) フリーアクセス

著者: 青木康子

ページ範囲:P.489 - P.489

Ⅲ.家庭の雰囲気にとけこもう
 家庭のリーダーの信頼を得る 家庭のリーダーとは,世帯主あるいは家長という意味ではない。明るい家庭,にぎやかな家庭,なんとなく固くるしい家庭など家庭にもいろいろあるが,その雰囲気をつくりあげている中心人物,それがリーダーである。世帯主が社長であろうと,家庭では奥さんというリーダーに動かされていることもある。
 将を射んと欲すれば馬を射よのたとえのとおり,未熟児指導を行うときも,その家庭のリーダーを早くみつけ,調子を合せてゆくことは,指導効果をあげる最短距離のように思われる。たとえば迷信を信じ昔風な育児の方法を最良としている祖母であっても,その人がリーダーである場合は,その祖母と親しくして指導したほうが,祖母を無視して母親に指導するよりは効果的である。リーダーと親しくすることによって,その信頼を得さえすれば,リーダーの考え方を是正することは,比較的困難でなくなるばかりでなく,未熟児を包むその家庭の雰囲気をも変えられないでもない。

モニター・レポート

血液型のこと,性相談のこと

ページ範囲:P.506 - P.506

1.高校生の血液型検査
 岐阜県では昭和37年より愛の血液助け合い運動の一助として県下高校生の血液型検査を,衛生研究所,各保健所で実施し,献血予約登録に主体をおいている。
 本年も,県下高校2年生の血液型検査を実施することになり,岐阜市においても6月1日〜15日まで10日間に全日制高校のみ終了し,9月には私立,定時制を予定している。

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News References in July '64

ページ範囲:P.524 - P.525

おぎゃあ献金始まる 東大,小石川分院で,心身障害の子らにあたたかい手をさしのべようと(2日・朝)

リハビリテーションの新雑誌

ページ範囲:P.495 - P.495

 「リハビリテーション医学」という雑誌が創刊された。日本リハビリテーション医学会が編集し,医学書院から発行されている。年4冊を発行し,定価は300円で,学会員以外にも市販される。創刊号は7月に出,次号は10月の予定。近時医学の新しい発想より成った本誌は,まさしく与望を担っての登場といえよう。公衆衛生活動においても,最近では疫学的活動に加えて,当然ながら密度高い地区への浸透が目立っているが,リハビテーション医学の知識は不可欠の武器であろう。

「公衆衛生」(28巻・8号)とともに考える

著者:

ページ範囲:P.502 - P.502

 「公衆衛生」第28巻第8号(前号)は読者に実にさまざまな反応を強いたようである。とにかく,そこには一の刷新があり,模索がある。「学と実践との架橋的役割」を果してゆく意識的な足どりは,まだ不確かながら踏み出された。あとは,広く本誌を愛して下さる読者からの叱正と鞭撻を力に,親しみやすい誌面をうみ出してゆくことだと考えている。どうか,忌憚ない助言を寄せていただきたい。
 ただ,編集技術的な刷新にとどまらず,第8号は多くの,注目すべき内容を備えていたと思う。この「論叢」欄を利用して,意見交換を必要とする問題は決して一,二にとどまらないだろう。おせっかいなようだが,誌面をかりて,次のような点に読者の寄書を望む。

DESK・メモ

著者:

ページ範囲:P.526 - P.526

「早来迎」
 京都知恩院に「早来迎」と呼ばれる阿弥陀二十五菩薩来迎図があり,国宝に指定されている。縦長な画面の左側に崖状の山塊が欝蒼と傾き,暗い山肌を尾根越えに,奔流する白雲に乗じた阿弥陀如来と二十五菩薩が逆巻く波頭の勢いでふもとの小さな草庵へなだれてゆく。庵の端近く,経机を前に寂然端坐する一人の僧を今しも浄土へ迎え摂ろうとするのであろう。僧はいかにも小さく人形のように俗をはなれ,雲と仏菩薩の一団はまぶしいまでに巨大な白光となって画面の左上から右下へ斜めにすさまじく吶喚している。「早来迎」の通称そのままで,しかも微尽も騒々しくはない。心にしみる憧れがやがて身も心もとり包み,ため息ながらに思わず合掌される。
 来迎美術は日本人の見た幻覚の最も美しく独創的なものである。末期の眼が捉え得た幻として,これほど豊かに安らかな悦こびをたたえたものが他にあろうか。「山越阿弥陀」は来迎図中の特色ある発想をもつ。山々の背後から,九天に聳え千仭を照す御姿で阿弥陀如来がぬっと立たれる。末期の眼に欣求浄土の願いがはたらき,山の端を上る月をまざまざと仏引摂の御姿と幻覚したのだろう。何という幸福と安心とが絶えなん魂に満ちあふれたかはかり知れず,そのような瞬間を想像できるだけで,私もまた言いようない安心を感じ掌を合さずにおれない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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