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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻1号

1965年01月発行

雑誌目次

特集 綜合保健活動の推進 年頭言

新時代の公衆保健に思う

著者: 神田博

ページ範囲:P.1 - P.1

 新年おめでとうございます。この機会に志を同じくして日夜精励をいただいている皆様に公衆保健についての所懐の一端を申し上げたいと存じます。
 わが国は明治維新以来近代国家として脱皮し極めて順調に発展をつづけ,特に戦後の20年間においては世界の驚異ともいわれるほどの高度成長を達成いたしました。この高度成長も決して完全無欠というわけには参りません。農業生産部門や中小企業の面でいわゆるヒズミと称せられる欠陥を生じており,これを是正して調和のとれた経済構造に仕上げる努力がなされつつあります。

談話室

綜合保健は時代の要請

著者: 斎藤潔

ページ範囲:P.2 - P.3

 「公衆衛生」誌が,編集企画上の旗幟を「綜合保健の推進」とかかげて,今年一年間,読者にその方面の記事を提供してゆくという。けっこうなことと思う。もつとも,「綜合保健」なる言葉が人々の口に上るようになってから何といっても年浅い。だから,理解の仕方やそれに応じての姿勢ともいうべきものには,まだまだ人によって微妙なずれがあるに相違ない。それはそれなりに,せいぜい数多く綜合保健の在り方や方法について発言されることが望ましく,それらがやがてより良い綜合保健活動の安定した土台を築く結果となろう。
 綜合保健を時勢の必然たらしめた根本は,文明の急激な進歩であり社会の急速な変容であろう。この進歩と変容がもたらした人間の内外の生活環境には一世紀前のそれと比較しがたい複雑な変貌がみられる。疾病の一点をとらえても病像の変化,患者年齢の推移は著しい現象であり,綜合保健はまさしくこの変化,推移が招来した必要不可欠の理念だと考えられる。

主題

綜合保健活動の推進を旗幟に

著者: 山下章

ページ範囲:P.4 - P.5

 明治初年内務省に衛生局が誕生した頃から,わが国の公衆衛生活動は始まった。だがその後の数十年は急性伝染病予防だけに終始したといってよく,大正から昭和の初めにかけて,結核,トラホーム,らい,性病,寄生虫病などの慢性伝染病の予防に手が延びるようになり,一方,母子保護法,工場法,労働者災害扶助法,健康保険法などの法律の制定もあり,社会衛生的なものも芽をふきだした。そして昭和12年には保健所法(現行法の前身)ができ,翌年は厚生省,公衆衛生院が和次いで創設され,一応公衆衛生活動の基礎づくりが整った。しかしながらちょうどその頃から始まった大戦争のために,これらがすべて,健民健兵の軍事目的のための人口政策にぬりかえられてしまった。
 戦後,新憲法の制定によって,健康であることが国民の権利であると同時に,公衆衛生に対する国の努めが義務づけられた。これによって,厚生省の再編成強化,地方自治法の改正による衛生担当部局の設置,保健所法の大改正による保健所網の整備,各種公衆衛生法規の制定などみごとな基盤ができあがった。その後十数年,この間,実に真面目に精力的に活動は続けられ,ために国民の健康度は急速に向上し,特に結核死亡,乳児死亡,伝染病などはすばらしい減少をきたし,国民の寿命は大幅に延長した。それはそれとして立派な成果である。しかし,社会はそれ以上に早いスピードで進んできている。欧米先進国の衛生状態もどんどん先へ進んでしまっている。

座談会

綜合保健活動の推進

著者: 曽田長宗 ,   日野原重明 ,   原島進 ,   山下章

ページ範囲:P.6 - P.17

 行政,病院,保健所,大学から綜合保健の推進に関わる諸問題を提示しながら,在るべき綜合保健活動の青写真を描き出してみた。今年の「公衆衛生」文字通りの主題である。盛大な討議がこれにつづくことを期待したい。

主題参加 綜合保健と公衆衛生活動の方向

地域事情に合わせたサービス

著者: 若松栄一

ページ範囲:P.18 - P.19

 綜合保健という言葉で何を考えたらいいのだろう。保健衛生といわれるものにいろいろの分野がある。それらを寄せ集めたものが綜合保健なのだろうか。それにしても保健衛生の分野の分け方にいろいろの方向がある。例えば比較的漠然とではあるが国民あるいは地域住民一般を対象とした公衆衛生と,学校や工場事業場というような特定集団を対象にした学校衛生と労働衛生という分け方がある。また広い意味の公衆衛生というものの中には伝染病,結核,精神障害などの特定疾患を対象にした予防衛生もあり,母子衛生や成人衛生のように特定の年令層を区分の基準にしたものもある。また環境衛生,食品衛生というような衛生に関して物の規制を方法論とした分野もあり,栄養指導や精神衛生相談事業のように健康の保持増進のための個人生活面の衛生妻業もあり,医療施設や薬物を保健上活用させる指導を行うことも保健衛生の一つであろう。これらの保健衛生のいろいろの分野を綜合するということは一体どうすることなのかという疑問もわいてくる。
 しかしそれも理屈のための理屈のようなもので,綜合保健という言葉がそう珍らしい言葉でもない以上は,ふつうの人々がかなり共通したイメージをもちうる言葉であるにちがいない。そうであれば,あまり異を立てては人並はずれになってしまう。

暗中模索の関係者

著者: 北野博一

ページ範囲:P.19 - P.20

 岡山県在任中は故三木知事から「君たちはすぐバイキンのことばかり考えて大きなことを忘れている」と注意されたことしばしばであった。列車のふん尿--黄色い霧--作戦で国鉄総裁宛の陳情書の起案の際,折から河口湖畔の英人コレラ患者が中央線の車中でも下痢をしていたとの新聞報道もあったりしたので,さっそく病原菌をバラ撒く危険も大といった文句を入れたところ,バイキンは消毒によって殺菌できる大原則を忘れた大馬鹿起案ときめつけられ,消毒されてあれば大小便の霧が弁当の上や顔にかかっても平気なのか,不潔さということをどうして強調しないかとさとされたことがある。東海道新幹線では黄色い霧解消のための国鉄の努力によってタンク式の新方策が採用された。操車場での終末処理もいろいろ工夫がこらされて将来の国鉄ふん尿処理に明るい見通しができたことを三木知事に報告したのは三木知事急逝のほんのちょっと前のことだった。
 われわれ公衆衛生関係者の不勉強,視野の狭さを常に歯痒く思われ,鞭撻された三木知事こそ綜合保健の権化であったのだと今さらながらつくづくと思い出すことだ。

市町村長の公衆衛生開眼が急務

著者: 及川俊平

ページ範囲:P.20 - P.21

 所長就任13年6カ月の体験を通して,すなわち衛生行政の末端機関としての立場から二,三所見を述べてみたいと思う。
 初め衛生行政は上意下達式であったが,そののち住民の盛り上り式に転換したことは民主主義の原則から申せば当然のことであるが転換の時期が尚早の感なきにしもあらずである。とくに環境衛生面において然りである。当管内においても「そ」族昆虫駆除事業は強力な行政指導と補助政策によった時代は顕著な効果をみたが,そののち住民の自主的事業となってから,むしろ後退の傾向であり,少くとも市町村長の無関心な所はまことに成績がわるい。やはり現段階では強力な保健所の指導と補助金がなければ,まだまだ活溌な動きはできないのではないか。民主主義が日本人の身につくのはまだ数十年はかかると思われるがどうであろうか。

健康教育をPublic Health mindedの医師が

著者: 野津謙

ページ範囲:P.21 - P.22

 私は,大学卒業後,小児科医局に在局中,Harvard大学公衆衛生学部において1カ年の課程を修了,PullicHealth minded とは,何であるか理解し得たような気がする。
 終戦後,診療所を開設して,今日にいたったのであるが,患者に接するときには,必らず,その病気の実体から,死亡率,治療および予防などが頭に浮かんでくることは,診療にとって非常に役立つことを体験している。

保健を主題に各種専門家が協力せよ

著者: 山本幹夫

ページ範囲:P.22 - P.23

 綜合とは,物の実体を把握するために分析し,分析の過程とその結果とをもとにして,これから全体像を形成し,またこれをもとに活動をすすめることをいう。綜合保健とは,人々の保健のために綜合を行うことである。従って単なる分析的手法のみでなく,また単なろ物理化学的手法のみでなく,精神的,行動科学的,社会科学的手法にもとついた接近も必要である。
 保健活動に当っては,狭義の医療(健康障害者に対する健康恢復のための努力)のみでなく,予防,リハビリティション,健康建没などのための努力を組織的計画的に推進するものである。しかしこの実現のためには,これらに関連する各種の専門家により,人々の保健を主題とした真の協力が必要となる。以上は,私のこの主題に刻する綜括的答えである。説明すると次のようになる。

あくまで地域住民と直結した活動を

著者: 加藤邦夫

ページ範囲:P.23 - P.24

 近年人間の平均寿命は70歳前後に達している。しかし卵が受精により発生する生命力は理想的に養護された場合,現に112歳の生存者により実証されているようにさらにその寿命の延長は可能であり自然死に近づきうる。悠久無限の時間に比し,あまりにも瞬間的人生において,足腰が立ち頭がきいて,自然死の間際まで幸福を味到したい願望は人間社会で最も尊厳なものである。かかる幸福の追求には健康と賢明さが必然的に要求される。健康は終局的には自分自身で守るべきものである。
 医学ならびにそれに隣接する自然科学,社会科学が開拓した健康養護の知識技術を可能な限り学習し,それを実現できる経済開発に自主的に挺身すべきである。しかし個人の有限の能力財力の下にはおのずからその限界が現存し,ここに社会連帯性の責任において健康は養護されなければならない。公衆衛生活動は医学を根底として集団の人間の健康養護を目的とする限り,必然的に地域社会と直結しなければならない。また公衆衛生活動は営利行為としては成立しがたい内容をもつために,共同出資による活動の比重は極めて大きく,一方その地域住民の自治権のシンボルである自治体は主権者自身の幸の開発のために,それに必要なあらゆる条件の開発をする責任を但っていることから衛生行政と直結したがる運命をもっている。

事業所の健康管理と公衆衛生活動

著者: 近江明

ページ範囲:P.24 - P.25

 事業所における健康管理の内容と問題 点戦後,労働基準法の制定を契機として,事業所における健康管理は幾多の問題点をもちながらも,全般的にみて著しい発展をとげつつあるといえよう。
 一口に事業所と申しても,規模,経営内容によって,健康管理活動の内容,水準などは著しい差異がある。

論叢

団地の綜合保健計画

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.26 - P.30

はじめに 考え方
 近年における産業化の進展にともなう都市人口集中増加と,世帯規模の細分化により,従来からすでに深刻な状態にある都市の住宅難はいっそう切実なものになっているが,このような住宅難を打開すろことは,もちろん住宅対策のおくれをとりもどすことである。それには大規模な集団住宅の建設が不可欠な事業である。またこのような集団住宅団地の造成は,たんに住宅の量産にとどまらず,わが国の都市生活における数々の欠陥,すなわち住戸の過密,「緑と空間と太陽」の欠乏,不良な土地・排水条件,商工住の雑居,さらに大気汚染・交通騒音など,市民の生活の保安と健康をおびやかしていた悪条件からの解放をめざすべき必然性を背負っている。38年の第43国会で「新住宅市街地開発法案」の提案にさいし,「(1)人口集中の著しい市街地の周辺の一定区域について新住宅市街地開発事業を施行すべきことを都市計画として決定し,これを都市計画事業として実施することができるものとし,原則として地方公共団体および日本住宅公団が施行すること,(2)新住宅市街地開発事業は,単に宅地の造成にとどまらず,道路,公園,下水道などの公共施設を整備し,必要な場合には,学校,病院,店舗などの公益的施設を建設し,処方する事業とし,人口1万以上の総合的な町づくりの事業とすること」と述べ,今後の進路は一応示している。

新産業都市の綜合保健計画

著者: 橋本寿三男

ページ範囲:P.31 - P.34

 昭和38年度厚生科学研究補助金を得て,「地域開発における社会開発」のため研究委員会が編成されたが,ここに報告する「新産業都市の綜合保健計画」はその第2部会(原島,橋本,鈴木,岩佐,白戸が構成)の報告の骨子となつたものである。

地域活動

島根・松江保健所の共同保健計画

著者: 今村隆 ,   田中松子 ,   岩村昇

ページ範囲:P.37 - P.41

 松江保健所では,昭和34年以来管内市町村の共同保健計画事業を指導援助してきたが,そのうち3カ町村が本年まで継続して5カ年の歩みをつづけてきた。この3カ町村の共同保健計画事業について報告したい。
 これらの町村はいずれも人口10,000以下の農村ないし半農半漁村で,国保財政の窮乏が町村当局をして共同保健計画を推進せしめた直接の動機であり,町村当局が主役となって,県厚生部,保健所,福祉事務所,農業改良事務所,生活改良普及事務所,大学などの協力を要請する姿勢からスタートした。

ある住宅公団団地における母子管理の歩み(第1報)

著者: 居村茂徳 ,   細川昌義 ,   奥山紀美子 ,   青山美子 ,   堀江紀 ,   藤原君子 ,   福永陽子

ページ範囲:P.42 - P.44

はじめに
 近年人口の都市集中化はますます著るしく,管内の西宮市にても年々1万以上の人口増加をみている。
 一方,戦後なおつづく住宅難は大都市近郊の高層集団住宅の建設を促がし,各地に続々と団地の誕生をもたらしている。

高血圧対策としての農休日制実施にいたる経験

著者: 松井清夫 ,   坂本弘 ,   山本冨美子 ,   森川節子

ページ範囲:P.45 - P.48

はじめに
 わが国,死因別死亡の主位を中枢血管系障害が占めるようになり,その基礎疾患としての高血圧症が公衆衛生上重視されるようになってから,かなりの年月がすぎた。その間,高血圧症の地域差,ふるい分け検査などの検討がなされる一方,発生要因についての検索もなされてきた。すなわち,佐々木1)は,各種人口集団を対象に,血圧値の分布を観察し,血圧の変化は連続的であって,血圧値の調上から,正常血圧者と高血圧者を区別することはできず,従って,高血圧症というより,高血圧状態として理解すべきことを示唆している。また,Claude Bernardの人間の内部環境の恒常性の概念にふれ,人間の生命に必須な物質,またはその機能としてあらわれるものには,たえずその恒常性が持たれるように運命づけられているのがわれわれの姿であろうとし,それを支配している要因は多種多様であり,人類として一つの山に分布し,それが各種人口集団によって,それぞれのもつ要因によって,その分布に相異調ができてくるにすぎないとの見解をのべている。このような意味にたって,高血圧状態発生要因についての知見をながめてみると,気温なかでも寒冷環境の長期間の繰返しの関与が問題となろう。2)〜5)

グラフ

新潟地震の状況

著者: 小坂隆雄 ,   滝沢行雄 ,   菅井隆一

ページ範囲:P.50 - P.51

〔災害発生〕 昭和39年6月16日午後1時2分
 〔災害名〕 新潟地震

連載講座 公衆衛生活動のための精神衛生学・3

仕事の尊重と文化関係

著者: 進藤隆夫

ページ範囲:P.54 - P.57

■ 公衆衛生活動における分化
 現在おこなわれている公衆衛生の内容は実に多岐にわたっている。これを分類する一つの方法として私は,身体,自我,社会,文化の四つの面にわける。
 身体面では,栄養生化学,生理衛生,微生物学,疫学,成人衛生などが含まれる。

文献紹介

ロンドンにおける分裂病退院患者121名のその後の被雇用状況/自殺未遂者と精神外来患者との比較研究

ページ範囲:P.49 - P.49

 これはロンドンの8精神病院に分裂病の診断で1ヵ月以上入院して退院した50才未満成年男子の中でロンドンに住所がある者について,退院後の被雇用状況を調査するため,退院後1年間の追求面接調査を行なった報告である。成績の要点は次のようである。
 1)退院後1年以内はどの1ヵ月をとっても全例127名の約半数が常勤で雇用されている。2)全例の約1/4は1年の間にそれぞれの職に定着して満足すべき就労状態である。3)同じく約1/4は1年以内に再入院したが,雇用中に一応満足すべき状況であった。4)全例の約1/3は失業しその後の再就職は不可能であった。このうち多数の者は再入院した。5)残りの全例の約1/6は1年を通じて全く被雇用の経験をもたなかった。6)金例の約1/3は退院前に就労先がきまっていたが,その9割がもとの職に復した者である。その他病院のソーシャルワーカーの援助による者は5名,独力で広告をたよりに求職した者は25名,他は家族,知人紹介等のあっせんで求職した者である。就労状況はもっとも良好なのは復職者,ついて自ら求職した者,他の機関,家族などにたよって求職した者の順である。7)有配偶者と両親等と同居の独身者との間では前者の方がまさって就労状況はよい。8)退院時の一時的な臨床所見と就労状況とは関連がうすい。むしろ入院中の観察所見のような長期の所見との方が関連がつよい。

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「イラン・クエートを診る」を読んで—砂漠の国から学ぶもの

著者: 木下安子

ページ範囲:P.17 - P.17

 世界は狭くなった。ものがたりの国,アラビヤやペルシャに学生が見学旅行する時代になった。この本は慶応義塾大学の公衆衛生学研究会に属する医学生達が中近東に見学旅行をした記録である。
 『他国の,しかも,いわゆる工業国でない国の健康や公衆衛生を診ることによって日本のそれを反省することは,意味のあることだ……中近東の諸国を診て,そのなかから「学びとり」を行うことに賛成し,その団長を引き受けた』とこの書の筆者である土屋健三郎(慶応義塾大学医学部衛生学公衆衛生学助教授)団長は旅行の意味を述べているが,クェート政府やテヘラン大学その他多くの機関,施設,あるいは個人の好意の支えがあったこととはいえ,このようなプランが実行出来る時代なのだと,ちょっとびっくりさせられた。

農村の将来を憂えながら

著者: 中野重男

ページ範囲:P.35 - P.35

 一体,農村は将来どのように成るだろうか。
 いま,農村で働いている農民のすべてが不安をもって将来への希望と期待をなくしつつある。

後藤新平の衛生観—巻頭・人籟によせて

著者: 小野寺伸夫

ページ範囲:P.36 - P.36

 衛生行政の先輩として,後藤新平の名は高く評価されてよいが,さらにその識見に先見的なものがあり,現代にあたえる影響は少なくない。科学技術の発展と国際的な立場で問題解決をはかることが期待されている現状であればあるほど,後藤新平のもつ衛生観や抱負経倫はあらためて考えてみる価値があり,示唆されることの余りに大きいことを痛感している。本誌巻頭に「国家衛生原理」が抄出された意は,まさにここにあり,公衆衛生を推進する人が受けとめることのできる歴史的な遺産としてその価値をみのがすことができ調ない。国家衛生原理は1889年に出版され,1888年,大日本私立会衛生会雑誌第63号〜68号に掲載された職業衛生法と,1890年の衛生制度論とともに青年衛生行政官としての後藤新平の衛生観を知りうる貴重な3部作である。これら3部作の全貌について論述する余裕はないが,国家衛生原理は衛生制度論で指摘しているように,実際的な論究を行なったものでなく,衛生についての考え方,理調想を論じた著であるだけに,彼の衛生観を知るには貴重な資料であることは論をまたない。国家衛生原理には,衛生そのものについての考え方の側面と,国家そのものについての考え方の側面があるものと思う。

栄誉に輝く橋本寛敏博士—米・メーヨー・クリニックが顕彰

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.57 - P.57

 聖ルカ国際病院長橋本寛敏博士がアメリカのメーヨー・クリニック50年記念,メーヨー兄弟生誕100年記念の式典に招かれて偉業達成賞(Outstanding Achievement Award)を授けられた。これはメーヨー(ミネソタ大学大学院)の出身者4,000人のなかで各国から選抜された35名がその栄誉に浴したわけで,日本からは橋本博士,東洋では他にインドから1名が受賞した。
 受賞の理由としては3項目があげられている。その一つは公衆衛生面での功績であり,そのほか,病院管理の推進者となったことや,パラ・メディカルの領域での教育・養成に尽力して,その功顕著であったことがあげられている。聖ルカ国際病院では,つとに人間ドックを行ない,予防医学の面での成果をあげて来た。日本においては病院と公衆衛生の接点には,まだまだ今後にも問題が多く残されているわけであるが,聖ルカ国際病院が先鞭をつけて懸案の解決に乗り出した点は高く評価される。橋本博士は,今度メーヨー・クリニックの実情を見て,メーヨー・クリニックでも同じようなシステムの人間ドックを実施しており,期せずして同じようなことが行なわれていることを知って愉快に感じたことを語っていた。

モニター・レポート

著者:

ページ範囲:P.58 - P.58

 以下にお伝えする所は,岐阜市衛生部としての躍進的事業の一端で,ぜひ各方面の方に知ってほしいと思っている。
 最近の都市化の急速な進展とともに,汚物とくにし尿,ごみの処理問題は最も切実な日常の市民生活の問題となつている。岐阜市では,以前から水洗便所の普及率では全国一を示し,大いに衛生都市としての意を強くしているところであるが,さらにその需要に応ずるため,38年11月には衛生センターとしてのし尿処理施設が完成し,また39年からはマンモス焼却場の建設が進行中であり,40年の国体をひかえて,環境衛生の面ではますます向上している。

News References in November '64

ページ範囲:P.52 - P.53

仁川にまたコレラ(3日・朝)
 健康優良児の表彰式(3日・夕)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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