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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻11号

1965年11月発行

雑誌目次

特集 変貌する農村の社会医学的研究—第6回社会医学研究会・主題報告と総括討議

総括報告と討議

著者: 東田敏夫 ,   前田信雄

ページ範囲:P.664 - P.667

はじめに
 近年,日本経済の高度成長は,国民生活の平準化あるいは少産・少死の「人口革命」がうたわれているが,その実は,独占段階における重化学工業の育成拡大を主調としたものであり,そのかげには,農林漁業をはじめ土着産業の開発がおくれ,かえって国民の所得格差は増大し,とくに農民層の転落がめだっており,農山村・僻地における不健康と医療保健サービスの停滞がつづいている。この現実にあって,農村人口構成と農民生活の変貌を追求し,また農村における保健医療活動の実相をたずね,そのあり方を検討することは,当面の社会医学的課題であり,「変貌する農村の社会医学的研究」を本研究会の主題とされたことは,当然であった。
 まず京都大学経済学部山岡亮一教授より「変貌する農村の実態」についての発題講演により,われわれの研究討議に必要な予備知識と方向づけが与えられた。すなわち,今日の独占段階における日本農業の位置づけと高度経済成長政策下における農業発展のたちおくれについて,わかりやすく,しかも理論的な解明を得た。第一次産業と第二次,策三次産業との格差は増大し,農業専業によって農民の生活は保証されず,必然的に,日本の農業は農業労働の過密集約化,農村有効労働力の出稼ぎ,通勤兼業,または農家主婦の家内職下請などのパターンをとることを余儀なくされ,農村人口は女性化,老齢化し,農家構造は崩壊の過程にある。

発題講演

日本農業変貌の実態—農業基本法段階における日本農業

著者: 山岡亮一

ページ範囲:P.614 - P.621

 I.
 戦後20年,この間の日本農業は,農政上からみて2つの重大な時期を通過している。すなわち農地改革の実施と,農業基本法の制定である。農地改革は明治維新以降徐々に形成され確立された寄生地主制を払拭して,過重な小作料負担のくびきを取り去り,小経営ながらも自営の農民を自由に羽ばたきさせるという偉大な仕事をなしとげたのである。農地改革実施の際,農地改革から農業革命というあい言葉がよく語られた。農地改革によって,高率小作料の過重負担をまぬがれた自作農の手による農業革命の道は準備されたが,時あたかも戦後日本資本主義再建の過程にあたり,明治維新当時地租改正を軸として農民の犠牲の下に資本主義発生の本源的蓄積が強行されたのと正に相似の役割を,生れたばかりの自作農が,強制供出その他によって,担わせられ,その後は独占資本の確立とともに,多面的なルートを通じての搾取によって,農業革命の道はとざされる結果となった。ものごとは常にタイミングが大切であるが,日本農業の資本制的発展の芽は,再度その端緒においておしつぶされたのである。
 資本制社会においては,農工両部門の生産力は両者を自然のままの発展にゆだねるかぎり,その格差をひらくのみである。これは一つの歴史的必然と考えられる。国家独占資本主義の段階に入った今日,総資本の立場が独占資本によって全面的に代表されるかぎり,この歴史的必然性はその方向をかえることはない。

主題報告Ⅰ

農村人口の変貌

著者: 柳沢文徳 ,   天明佳臣

ページ範囲:P.622 - P.633

はじめに
 今日の変貌しつつある農村の実態を正しく把握して,これをどう理解するかという問題は,農村の保健医療にかかわるものにとっても重大な関心事である。なぜなら,農村における保健医療はその社会的経済的条件にきわめて強く規制されており,都市におけるそれとは明らかに異なった多くの独自性を持っているからである。従って,農村の実態とその社会経済的な背景の理解なしには,農村医学はその成立の一つの基礎を失ない,また正しい農村保健医療活動をも望めないと考えられる。
 さて,今次大戦後における農村の変化は1)農地改革による地主の解消に伴なう小作農の消減1)2),2)農業技術革新,とくに農薬と農耕機械化,3)農家人口の減少,といえるわけである。ことに社会医学的見地から農村を考察するときには,農家人口の減少がもっとも大きな変貌であり,それを背景にして多くの問題を提供している。しかし外部からの力による変貌は1),2)のごとくであって,内的にみると農民自体の思想にはそれに伴なった変化は微々たるものである。

追加報告

1.長野県一山村における人口移動の実態

著者: 金子勇 ,   内田昭夫

ページ範囲:P.634 - P.635

 変貌しつつある農山村の中にあって,対象地区長野県下伊那郡南町和合も例外ではない。当地は駅から20km,総面積60km2の中,山林が86%を占め,標高500〜1,000mの間に13の集落が散在して成立っている。ほぼ70%が農家で,専業はその3%にすぎない。農家一戸平均耕地は5反強,山林は16町であるが,多くは零細規模である(耕地3反以下24%,5反以下46.5%,山林1町以下13%,10町以下55%)。生産の第1位は林産物で,64年には総生産額の44%,次いでこんにゃく,米,養蚕などとなっている。近年における傾向として,経営面積70a以下の農家数の減少,二毛作田,桑園の減少とともに,肥料,農薬の購入,耕耘機などの設備の増加が認められる。また木炭生産は,木炭の値下りと原木代の上昇のため著しい打撃をうけ,60年の35,000俵,1225万円から65年には20,000俵,700万円に落ちている。山林にも著しい変化が現われている。山林総面積5,000町歩強のうち,63年には公有林12%,地区民所有68%,不在地主所有19%強となっており,次第に不在地主の占める割合が多くなってきている(現在では実質的に約25%以上が不在地主所有といわれている)。また針葉樹は総面積の19%にすぎず,そのうち樹齢30年以上は22%に達しない。しかもその所有は富農に集中し貧農は資金不足から山林における再生産は不可能になってきている。

2.某離島における人口動向

著者: 野田三地之 ,   渡辺孟

ページ範囲:P.635 - P.635

 長崎県北松浦郡大島村は離島であるが,戦前各種漁業の根拠地として栄えたころは人口も1万数千,開業医も6人という状況であった。それが,戦後の漁業における変革のため衰退し,農業を主とし一部沿岸漁業も営みつつ経過した。
 しかしここ10年余都市および大都市周辺における産業に労働年齢層が流出するとともに,生計中心者の出稼ぎ,更には一家をあげての永久離村者が相つぎ,この10年間に人口は約4,500名から4,000名へと2割以上の減少を呈し,世帯数では約1,100から950へと約1割の減少となっている。人口構成も極端な中くびれのヒョウタン型となっている。

主題報告Ⅱ

農民生活の変貌

著者: 大牟羅良

ページ範囲:P.637 - P.641

 私の演題は「農民生活の変貌」となっております,実は私は人に頼まれると安うけ合いする悪いくせがあって,後で"しまった"と思うことがよくあるのですが,今回も後で"しまった"と思ったのですがあとの祭り,今この壇上に立っても困ったことになったとくやんでいる仕末です。実は「農民生活の変貌」と申しますと,私はアチコチ農村を歩きまわっているので若干知っているつもりでお受けしたのですが,後で考えてみますと,"生活"とは何ぞや,という問題に引っかかったわけです。"生活"といいますと,衣生活はこうだ,とか,食生活・住生活はこう変ったとかも,生活の変貌かも知れませんが,それだけが生活の全部ではないはずです。生活--とは,人間が生まれてから死ぬまでの生の営みの全部が入るわけでしょう。そう考えますと"生活"の変貌を語るということは,非常に難しいことになります。少なくも経済の側面からだけ,あるいは農業労働の面からだけ,といったとらえ方には,私としては何か抵抗を感じてならないのです。

追加報告

1.出稼ぎ農民の実情と健康調査

著者: 岩月淳

ページ範囲:P.642 - P.642

 研究目的 出稼ぎ農民の農村における実情と出稼ぎ先における労働条件,労働環境および健康についての自覚症状。
 調査対象 建築飯場3,印刷工場1,計26人。

主題報告Ⅲ

討論

ページ範囲:P.662 - P.663

追加報告2.について
 中川(岐阜県)対象のとり方,衛生行政の限界,主体はどこにあるかについて。
 小田(長崎県) 農協組合員を対象にとった。将来は国民健康保険組合に移行していきたい。主体は農協で技術援助は保健所である。

追加報告

1.農村における疾病構造と医療の破壊—秋田県一農村の社会医学的分析の試み

著者: 中谷敏太郎

ページ範囲:P.655 - P.656

はじめに
 農民の疾病の状態と,健康と医療を破壊する諸要因について,一医療機関の立場から,社会医学的な調査分析を試みたので報告する。
 われわれの病院は創立以来10年間に,数百回にわたる農村部での検診活動と,毎年1回東北大医学部社会衛生部を中心とした学生と協力して夏期農村調査を実施してきた。昭和39年は8月に秋田県八郎潟沿岸の昭和町の4部村,344世帯,2538名を対象として夏期調査を実施した。今回の調査で目的としたのは,1)農民の持っている疾患を出来るだけ正確に診断する。2)同時に行なう経済調査(戸別訪問による悉皆調査)や医療受診との相関を求める。3)医療受診が生活に及ほす影響を見る。4)要加療と診断されたものの医療放棄の実態と原因を求める。5)調査活動によって得たつながりをもとにして,健康と生活を守る自主的な組織と意識の発展を求める,の諸点である。

2.農民の健康管理について—長崎県の場合

著者: 福田千代太 ,   野中芳雄 ,   小田浩爾 ,   坂田新一郎 ,   添川忠芳

ページ範囲:P.656 - P.657

1.本問題をとりあげた動機
 農村は今日激しく変動しているといわれる。労働の激しい割に所得の少い農業から,若年層のみならず,基幹労働力までが都市に流出し,農村婦人を農業の主人公たらしめ,従来の悪条件にさらに加えて荷積されてきているのが農村婦人の姿である。健康レベルの問題でみた場合,生命表,粗死亡率,乳児死亡率,農夫症,栄養などは他の職種に比して悪く,この点でも衛生行政の重点対策として手をうつ必要がある。ここに組織的な健康管理がゼロに近かった農民に対して,われわれは,企業体や学校が行なっているような組織的継続的な健康管理を実施したいと考えている。

3.某離島の医療・保健活動

著者: 野田三地之 ,   渡辺孟

ページ範囲:P.657 - P.657

 長崎県北松浦郡大島村は人口約4,000の農業を中心とし漁業が一部をしめる離島である。昭和34年まで数年間無医地区であったが,35年より1人の医師が,国保直営診療所医師として,保育所,小,中学校,高校分校医を兼ねるとともに,大学,保健所と協力して村民の診療,保健の中心となって働いてきた。

4.某離島における傷病構造

著者: 渡辺孟 ,   野田三地之

ページ範囲:P.658 - P.658

1.目的
 都市中心の経済成長をはじめとする社会的,産業的変革のあおりを受け,人口流出や労働負担の上から大きな問題を背負わされている離島において,その住民の健康度,傷病構造はいかなる状況にあるかを知るために本調査を行なった。

7.青森県開拓地保健衛生の実態

著者: 土方恒省 ,   津川武一 ,   木村公麿

ページ範囲:P.660 - P.661

 青森県開拓地では借金と営農不振に悩み,開拓民は出稼ぎに出ている。そのために開拓地保健衛生状態は著明に悪化している。加えて開拓地は無医村,無医地区が多く状態をさらに悪くしている。本報告は既存の資料により開拓地の保健衛生をまず明らかにし,それに対して協和病院,健生病院が開拓地農民と手を組んで,医療や調査をした実態を対比して問題を明らかにしてみた。

8.農村地方自治体の衛生行政の停滞をめぐる問題

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.661 - P.662

 地域住民の福祉と保健は,地方自治における基本的命題である。ことに生活水準が低く,乳児死亡率や感染病死亡率がたかく,衛生状態がわるい農村・後進地域では,地方自治体の保健衛生・医療業務を強化,充実する必要があり,国民保健における当面の課題である。果たして実情はどうか。自治省発行の資料により全国的傾向の分析と,関西および岩手の農村地域の実態調査の結果を報告する。

記録

衛生学公衆衛生学教育協議会記録

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.668 - P.669

まえがき
 本年度の第1回衛生学公衆衛生学教育協議会(世話人代表―北博正東医歯大教授)は,弘前市において開かれた第35回日本衛生学会(会長―佐々木直亮弘大教授)において,5月14日の同評議員会のあと引続いて開催された。
 今回の教育協議会開催については,かねてより運営と議題につき会員の意見が集められていた。その結果議題を7題にしぼり.3つの小グループに分れて2〜3題を論議し,これによりまとめられた意見を全体会議に提示して,最終的に検討する。このうち,結論のえられたものは,その結論に従って次の段階に進展する。もし結論がえられない場合には,意見の調整をして次回も継続審議をするという手順になるわけである。

ニュース

第17回保健文化賞贈呈さる

ページ範囲:P.621 - P.621

 去る9月15日午後2時から第17回保健文化賞贈呈式が第一生命ホール(東京千代田区有楽町1-9)において行なわれた。東京混声合唱団のロシア讃美歌と勤労を讃える歌のコーラスで幕を明けた贈呈式は,矢田恒久第一生命保険相互会社取締役会長の挨拶のあと,第一生命賞賞金(団体100万円,個人30万円)厚生大臣賞(表彰状)朝日新聞厚生文化事業団賞(記念品)NHK厚生文化事業団賞(記念品)が9団体,4個人にそれぞれ贈呈され,広いホールをほぼ8分どおり埋めた参列者からさかんな拍手をあびた。来賓祝辞は,朝日新聞東京厚生文化事業団理事長増田寿郎氏が述べ,これを受けて受賞者代表として,小野基樹氏がつぎのような挨拶をのべた。「第一生命,厚生省,朝日新聞,NHKのあついご配慮に感謝する。今まで保健衛生の仕事のために奮闘努力してきて,それが認められたのは,われわれ受賞者だけでなく,われわれの仕事を援助して下さった先輩,後輩の力があずかって大きい。ともに感謝したい。
 今後は今日の受賞の感激を深く胸にいだき,ますます保健衛生の向上のために尽力することを誓って挨拶にかえたい。」このあと,約10分の休憩ののち,「受賞者のふるさとの唄を訪ねて」という,東京混声合唱団による,そうらん節などの唄がメドレーでうたわれた。

モニターレポート

第2回岐阜県精神衛生研究会開催さる

著者:

ページ範囲:P.641 - P.641

 8月28日,岐阜県精神衛生協会において,第2回の会をもつことになった。今回は"企業内における精神障害者の発見とその処置"の主題のもとに,主題提供者として,中部電力K. K. 岐阜支店診療所長戸谷真澄先生と川崎航空機K. K. 岐阜製作所の翠宏氏があたり,司会は,岐阜医大の館正知教授がされた。
 戸谷先生は中部電力K. K. の過去5カ年における精神障害者の発生状況をスライドで示しながら話された。特色としては机上勤務者より現場関係の方に障害者が多く出たこと,そのうち退職者は20.0%前後であとは復職しているが,復職しても34.5%は再発し,大半は2年以内である。障害者は係長クラスで,一応責任ある職についた者の中に多く出ていることなどをあげられた。採用時には梅毒血液検査と,クレメリンテストなどが行なわれる他,遺伝的関係などは主に問診によってなされる。その後精神的に異常のあると思われるものは管理医によって診察を行なう他,更に専門医にわたされる場合もある。また必要ある時は保健婦により家庭状況も調査される。復職の場合には診査基準が定められており,支店審査が終ったものは更に本店審査にまわされ,ここをパスしたものは始めて復職出来る。

NEWS LETTER

来年度の厚生省予算要求の概要(1)

著者:

ページ範囲:P.670 - P.670

 昭和41年度の厚生省関係予算の概算要求が去る8月末決定した。新年度予算要求は去る閣議において財源難の見通しから,本年度の30%増におさえるよう要請されているのでこの線にそって要求されている。すなわち,厚生省所管の要求総額は6,265億円で本年度予算額4,819億円に比し,1,445億円増となっている。この新年度概算要求のうち,保健所事業に関連する主なものについて示すと次のとおりである。

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NEWS REFERENCES in September '65

ページ範囲:P.671 - P.672

ガン征圧月間始る厚生省は来年度から強力なガン征圧対策を実施することを決め,ガン征圧月間を前にガン対策実施計画を発表。主点項目は①専門医療施設の整備②ガン研究助成③医師・技術者の養成④集団検診に対する公費補助,で40年度の2.3倍に当る約30億円の予算を要求している。(1日・朝)
 たんそ病,盛岡市に飛火肉屋の3兄弟が発病(1日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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