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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻12号

1965年12月発行

雑誌目次

座談会

綜合保健活動をめぐって—その現状と将来像を分析する

著者: 北博正 ,   榊孝悌 ,   西三郎 ,   谷口智子 ,   長崎護

ページ範囲:P.676 - P.690

 綜合保健活動の推進を旗印に本誌が紙面を刷新して一年たった。その反響,効果を期待するのは早計かもしれない。綜合保健活動の現状をみきわめ,活動そのものの足並を乱さないために何をみつめ,どう進むべきか,この座談会の結論はいささか辛いようである。

人籟

松香私志—払出(最終回)

著者: 長与専斎

ページ範囲:P.673 - P.673

〔7〕
 回顧すれば余は衛生局長の職に在ること二十有二年,今其の間の事業成績を追想するに,医学教育の事は当時学科の目さえも備はらず,各科専門の教師を外国より聘して其の課程を整理すること喫緊の急務なりき。されど外国教師の招聘は事太だ面倒にして容易に行はれず,辛うじて其の手続を了し漸く講椅の打揃ふに至り先づこれにて創始の業も完成せりと思ふが内に,早しも俊才の学士済々として輩出し,十余年を出でざるに本邦の学者中優に教授に任すべき人も備はり,今は外国の教師は僅かに内外科各一人を存するのみとなりぬ。
 又衛生行政の事は明治十年以来年々歳々悪疫防禦の急に忙殺困殺せられて一時を糊塗するに止まり,国家と自治とを問はず衛生行政の機関未だ完備せりと云ふを得ず。一事一物の枝葉を就きて見るときは発達進歩の跡なきにあらざれども衛生及医務の大本に至りては一として永久の基礎を確立し得たるものなし,余が一念此に及ぶ毎に恐悼慚愧措く所を知らざるの思あり。

談話室

綜合保健活動の展開

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.674 - P.675

〔I〕
 綜合保健活動を推進しようという旗印のもとに,本年頭初より何回かの特集を送ってきた。それには,先ず,行政,病院,保健所,大学など綜合保健活動の担い手から青写真を描き出してもらい,本誌の主題を検討していただいた。それから,外国の綜合保健活動に関する報告を収集して読者の視点を洋の東西に配っていただいたわけである。そして10月に「綜合保健活動成立の条件」という課題が日本公衆衛生学会総会シンポジウムに採り上げられるに及び,綜合保健活動の推進は根底から批判検討の対象として,多くの公衆衛生関係者の目前に迫ってきたわけである。

討論記録

綜合保健活動は時代の要請—「綜合保健活動成立の条件」をめぐる自由討議から

著者: 曽田長宗 ,   東田敏夫

ページ範囲:P.692 - P.696

はじめに
 「医療保障自由集会」が昭和32年,大阪における第14同日本公衆衛生学会にさいして発足して以来,今度で9回目である。その間にとりあげたテーマは34年「医療と予防の有機的連繋,とくに公的医療機関の役割」,35年「私的医療機関の公衆衛生活動」,36年「医療保障をめぐる経済問題」,37年「医療サービスのあり方をめぐって」,38年「医療報酬の形態について」,39年「地方衛生行政と医療,とくに僻地の問題点」などであった。
 今年は総会シンポジウム「綜合保健活動成立の条件」がパネル形式であるので,一般会員の追加討論ができない。そこで西尾教授の諒解を得て,この集会において自由討議をすることになった。皆さんの活発な発言を期待したい。

地域活動

東白川村における健康にして明るい村作り

著者: 河田勘市

ページ範囲:P.697 - P.698

まえがき
 去る9月15日,この日東京第一生命保険六階ホールにおいて輝く保健文化賞受賞の光栄に浴し,翌16日皇居宮殿北ノ間で天皇陛下皇后陛下に拝謁,お言葉を賜り重ねての光栄誠に恐催感激に堪えず,これみな関係皆さんのご指導の賜と深く感謝致しています。この感激を肝に銘じ更に今後一層住民福祉増進のため保健行政の向上発展に努力する覚悟を新たにし,過去10余年間の保健行政を顧みその歩みを綴つて,大方諸賢のご批判いただき,合せて今後のご指導を賜わりたいと存じます。

研究

都市の地域社会における結核蔓延の疫学的研究

著者: 小林治一郎 ,   吉田三郎 ,   藤田寛子 ,   高田とし子 ,   竹内享斉

ページ範囲:P.699 - P.705

 結核蔓延の地域格差の状況をあらわすために,結核死亡率の格差指数と期間格差指数という指数的表現を工夫した。それを用いて,
 1.昭和34年〜38年の全国の都道府県,指定都市について期間格差指数を算出した。
 2.その高位(結核死亡率が高い)の15府県市を選ぶと,すべて西日本に所在し,神戸市が最も高く(155.7),長崎(143.0),大分(140.8),鹿児島(137.7)がこれにつぐ。
 3.その低位(結核死亡率が低い)の15県市を選ぶと,すべて東日本に属し,長野が最も低く(55.5),山梨(65.2),福島(67.7)がこれについでいる。
 4.神戸市の8区について期間格差指数(昭和29〜38年)をみると,長田区が最も高く(191.1),葺合区(180.2),生田区(176.9)がこ加につぎ,東灘区,垂水区はいちじるしく低く,全国平均に近い。
 5.長田区の11地区についての期間格差指数では,長田地区(256.8),御蔵地区(244.3),西代地区(223.6)真陽地区(217.2),駒林地区(201.0)などがきわめて高い。

発育遅滞地域学徒の体位研究—第2次性徴を中心として

著者: 川畑愛義 ,   大山良徳 ,   大原純吉

ページ範囲:P.706 - P.711

I.研究の目的
 青少年の心身の発育発達・性成熟現象の早期化,アクセレレイション(acceleration,Akzeleration,Wachstum schub,Wachstumbeschleunigung)はわが国では戦後とくに目だつ現象とされているが,外国ではすでに世紀的なもの(säkulares Akzeleration)として注目されてきた1)〜4)。欧米においても第2次世界大戦後の発育促進現象は著明に現われており,戦前のそれより増大する傾向もみられるが,わが国の戦前戦後の発達率の差には一層大きいものが認められる(発育の絶対量においては必ずしもそうではない)15)〜17)
 わが国の学徒の発育発達と外国のそれとを比較するとき,相当異なった特性を表わしている。たとえば同じく敗戦の憂き目をみたドイツの学徒ではむしろ幼少年の体位の向上が遅れたのに2)〜4),わが国ではやや年長の13〜16才くらいの体位の向上が著しく遅滞した。同じようにドイツでは体位の回復には地域隔差がそれほど目立たないのに,わが国の場合,今日なおこれが相当に開いている。今回は全国的な発育促進の大勢のなかでもっとも成長促進現象の遅れている鹿児島県下のH中学校生徒の体位と,第2次性徴の発現の様相について調査し,地域格差の問題を究明しようとした。

中性洗剤ABSの衛生学的検討

著者: 谷戸恵子 ,   砂田毅

ページ範囲:P.712 - P.717

はじめに
 戦後,電気洗濯機の普及が家庭主婦の洗濯労働の軽減に貢献してきたが,洗剤の需要は増大し,更に食器や野菜果物のごとき食品の洗浄にさえ洗剤を使用する習慣が普及するにつれ,洗剤の使用量は飛躍的に増加した。ところが,その洗剤は戦前と面目を一新して,いわゆる合成洗剤が主体となり,殊に化学的に安定な石抽系洗剤のアルキルベンゼンズルフオン酸ソーダ(ABS)が最近では最も多く用いられている。このものが石油系であることからその毒性に疑いが持たれ,ことに食器および食品類の洗浄に用いられている現状からして,経口的に大人口に摂取されていることが,将来何か国民の健康に不吉な影を投じないかと不安を持たれること自体は食品衛生思想の向上してきた今日では当然のことであろう。そのため,昭和37年に厚生大臣から「中性洗剤を野菜,果物類,食品類の洗浄に使用することの可否」について諮問が発せられ,これを受けて食品衛生調査会は「中性洗剤を,野菜,果物類,食品類の洗浄に使用することは,洗浄の目的から,はなはだしく逸脱しないかぎり,人の健康をそこなうおそれはない」と答申した1)。この答申を補足する意味で,厚生省食品術生調査会委員長の阿部は答中の骨子に説明を加えたのち2),「ある化学物質に毒性がある場合に,ただちにそれを人が用いるのは危険であると見なす考え方は正しくない。そんなことをいえばほとんどすべての化学的物質は用いられなくなるだろう。

論評

保健衛生のなかの人権—望まれる保健衛生関係者の政治能力

著者: 小松寿子

ページ範囲:P.718 - P.720

はじめに
 私は,学校保建の立場から教育現場の理解と協力を受けて高知大学学生や教師たちと一緒に約10年間調査を続けている。
 長年月にわたる現場での苦闘と研究調査との結果,私達協同研究者は「単なる研究調査の段階では教育公務員としての職責を果たすことができない」という焦燥にも似た気持をどうすることもできない。

連載講座 公害・6

騒音・2

著者: 五十嵐衛

ページ範囲:P.722 - P.725

まえがき
 近年における人口の都市集中化,産業の驚異的発展,交通量の激増などに伴い,都市における騒音はますます激しくなりつつあり,公害としての苦情などからみても,騒音に関するものが最も大きな割合を占めており,識者の関心を集めるようになってきた。これら都市騒音の実態については前回に当課片山技官が概要を述べているので,ここでは騒音の影響と環境における騒音の許容基準について述べたい。

時事内報

来年度の厚生省予算要求の概要(2)

著者:

ページ範囲:P.728 - P.728

◎精神衛生対策
 本年精神衛生法が改正され,これに伴い保健所法の第2条に精神衛生の業務が新たに加えられるなど,精神衛生対策は大幅に強化拡充された。昭和41年度においてもこれをさらに推進するため,本誌11月号に述べたとおり保健所職員の定数増が図られることが計画されている。
 また事業費についても著しく増額要求が行なわれている。すなわち保健所運営費の精神衛生対策費としては,精神科嘱託医師,在宅指導打合会,訪問指導,精神衛生相談員現任訓練,資格認定講習会,調査事務などに要する経費について,本年度の946万円に対して3,279万円が要求されている。

モニターレポート

ガン検診車"しあわせ号"できる

著者:

ページ範囲:P.717 - P.717

 岐阜県の "ガン検診車" がこのほど完成,10月15日午後4時から県庁玄関前で命名式があり"しあわせ号"と名付けられ,11月中旬から活動を始める。
 最近クローズアップされた各種ガンによる死亡者は,県下でも年間1,600〜1,800人にのぼり,毎年増加の傾向をたどっている。

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池田忠義君を偲ぶ

著者: 山下章

ページ範囲:P.720 - P.720

 本誌の9月号に掲載された"西ドイツにおける公衆衛生看護活動の実情と考え方"が,池田君の最後の執筆であったであろう。前日まで特に東京都保健所長会副会長として,母子保健法対策のために大活躍をしていた彼が,突如東大の同クラスの中尾教授のもとに入院し,諸検査を受けた結果,すでに極めて重い病状の慢性腎炎であることがわかった。その後まる3カ月手厚い治療と看護を受けたが,その効はあらわれず,ついに10月24日51才の若い生涯を終った。池田君は昭和12年東大を卒業,結核療養所,労働科学研究所を経て,昭和22年から保健所長として,砧,蒲田,世田谷,大森と歴任し,見事な業績を残し,衛生行政官としてはまさに第一人者であった。また保健所長同僚間にも信頼が厚く,早くから代議員,幹事,副会長として重きをなしていた。口数は少い方であったが,静かに聴き考え,そして適切な判断を下した。「池田君がいいと言ったんだから大丈夫だ」彼の周囲の誰からもこの信頼を受けていた。童顔と立派な体躯の内に秘めた情熱はわれわれの及ぶところではなかった。全く私心のないただひと筋に住民の幸せを願ってひたむきに努力を重ねてきた。

NEWS REFERENCES in October'65

ページ範囲:P.726 - P.727

心ないゴミの捨て方(1日・朝・ひととき)
一年に11408人が献血武蔵野市の都赤十字血液センターが発足来1年の集計。ただし月によって採血量に差がありすぎるとの反省があり,計画的採血が望まれる。(1日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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