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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻3号

1965年03月発行

雑誌目次

特集 精神衛生

精神衛生問題の展望

著者: 村松常雄

ページ範囲:P.126 - P.131

 昨春のワイシヤワー刺傷事件以来,はじめて精神衛生法改定の動きがあつたように一般には考えられているが,事実は各界に於てより効果的積極的な精神衛生推進の底流をうかがうことはできた。機は熟し,懸案は解決の手を待ち望んでいたのである。ここに,現下の精神衛生問題を展望的に再認識したい。

精神衛生の課題と対策

職場の精神衛生—その課題と対策

著者: 安井義之

ページ範囲:P.142 - P.147

■労働衛生における精神衛生の位置
 十数年以前に私たちが日本の産業現場に精神衛生の思想と技術をもち込む必要性を強調していた頃は,多くの産業人ばかりでなく,産業医の中からでもきわめて冷淡な態度で,あまり問題にされなかった。
 ところがこの数年来,ことにライシャワー事件以来産業界でも精神衛生管理こそもっとも力をそそがねばならぬ分野であろうと考えはじめられた。技術革新に伴って,職場の様相は旧態から著しく変ってしまった。

職場の精神衛生—その課題と対策

著者: 大道明

ページ範囲:P.148 - P.152

■最近の職場の進歩と変化
 最近の職場は,企業の発展をはかるため,もっぱら生産性の増大を目標とし,技術革新の導入をはかり,経営管理は急激に進歩し,科学性,経済合理性を徹底的に追求する峻厳なものとなりつつある。
 これまでの労働は,自分のペースで仕事を進めることが可能であり,しかもはじめから終りまで一つの物をつくり上げるという創造もしくは生産のよろこびがあったが,最近の労働は,生産性の向上をはかるため,生産手段の機械化,自動化,自動制御化が行なわれ,それと同時に仕事が特殊化(専門化),単純化,標準化され,肉体労働は減少したが,単調感とともに精神的負担は大となり,マイ・ペースで仕事を行うことは不可能であって,仕事の速度すなわち労働の密度を規定するものは,コンベア・システムでは,ベルト・コンベアのスピードであり,しかも分業,特殊化のため,生産工程全般の見通しがきかず,生産のよろこびは稀薄化し,モラールはややもすれば低下しがちである。しかも仕事の単調感と焦燥感,さらに人間疎外感がその特徴である。

学校の心情衛生—その課題と対策

著者: 鰭崎轍

ページ範囲:P.153 - P.157

■まえがき
 記憶というのは,ものをおぼえ,保持し,必要におうじて想起することであるが,この記憶という現象は,とくべつに教えられなくても,そのようになっている。記憶のありさま,経過は,時代とともにかわることはなく,万人共通の現象で,自然にそのようになっている自然現象である。
 記憶という現象は,万人共通の自然現象であるが,記憶の内容は万人共通ではない。ある人は自由主義的デモクラシーを,ある人はマルクス・レーニン主義を,ある人は民族主義を,ある人は世界連邦主義を記憶の内容とするであろう。

地域の精神衛生—その課題と対策

著者: 吉川萬雄

ページ範囲:P.158 - P.161

 私は精神科の医師であるが,昭和25年の精神衛生法公布とともに行政に転じ,精神衛生法,優生保護法を手がけ,そののち,保健所長として現在におよんでいる。設問にたいし,広く概説的な記述をすることはさけて,この15年間,疑問や迷い,そして狭い活動のあとをふり返り,その経験を記すことで答えたいと思う。
 精神衛生が現在のように,広義に解されるようになると,考えることが先走りし,焦点があいまいとなり,あたかも深山に迷い込むの感なしとしない,いわば彷徨の記録である。

老人の精神衛生—その課題と対策

著者: 大和田国夫

ページ範囲:P.162 - P.168

■はじめに
 公衆衛生領域としての精神衛生対策の必要性は,わが国でも,古くから認められている。しかし,精神医による患者の医療保護が主であって,発生防止,国民の精神的健康の保持向上をはかる実際的活動は,微々たるものといっても過言ではないようだ。
 昭和34年頃から,個々の保健所で,幼児の精神衛生学的検査が実施,報告されているのを散見するが,1)2)それを基盤に,3歳児の検診が,全国一せいに行われるようになったのは,昭和36年で,まだ数年の歴史をもつにすぎない。しかも,その検診自体にはいろいろ疑問があり,現在の検診方式で,幼児の精神衛生面にはたしてどれだけの成果が挙がるのか疑問である。

麻薬・アルコール等の薬物中毒と精神衛生—その課題と対策

著者: 樋口幸吉

ページ範囲:P.169 - P.174

 麻薬・覚醒剤・アルコールなどはそれぞれ特有の作用をもつ医薬品で,これを適量に用いると,人の気分を爽快にし,苦痛を除き,あるいは能率を増進するなどの心理的効果を有している。しかしながら,一方では習慣作用があって,連用すると次第に用量がまし,自分の意志では中止のできなくなる状態,すなわち嗜癖に陥り,しばしば慢性中毒症状を呈するようになる。そのため,それぞれ特有の中毒による人格変化をきたし,時には重篤な精神病の症状を呈するものである。
 このような薬物の乱用ないし嗜癖は,しばしばその周囲の人々にも不幸を及ぼし,家庭を破壊し社会に種々の害毒を流すことから,その取扱いには種々の法的組制がなされてきた。したがって,これらの薬物の使用の結果,中毒の状態で非行や犯罪に陥る者もあれば,使用そのものが犯罪となる場合もある。したがって,これらの薬物中毒の問題は,薬物の個体における薬理的効果や,中毒による健康の障害ばかりではなく,社会の悪徳や犯罪などとも結びついている。

精神衛生相談所の活動—その課題と対策

著者: 松崎喜美枝

ページ範囲:P.175 - P.177

 東京都立梅ケ丘精神衛生相談所は昭和35年1月に開所しました。昭和40年1月で満5年になります。
 ここでは38年中の資料によって,当相談所がどのような活動をしているかを報告いたします。

座談会

精神衛生の問題点と将来像—実態調査の資料をめぐつて

著者: 大谷藤郎 ,   梅沢勉 ,   笠松章 ,   南孝夫

ページ範囲:P.132 - P.141

 昭和38年に実施された第2回精神衛生実態調査の意義とそこから生じた幾つかの問題点をとり出し,我が国の精神衛生行政の将来像をより正しく把握したいと思う。御出席の方は,いずれも精神衛生について日夜尽力されている方であり,実態調査にも関係の深いメンバーである。

時事内報 NEWSLETTER

昭和40年度における保健所医師の充足対策

著者: 榊孝悌

ページ範囲:P.178 - P.178

 公衆衛生活動の第一線機関である保健所において中心的役割をはたすのは医師であるが,その数は年々減少し,昭和38年度末においては保健所医師定員3562名に対し1706名で充足率は47.9%となった。
 このような保健所に勤務する医師の不足原因としては,医師需要の増加,給与待遇の問題,臨床医への魅力などが一般的にいわれているが,このほか大学における医学教育が臨床医的なものが中心であり,なかんずく実際の公衆衛生活動に触れる機会が少いため,公衆衛生に対する関心の欠除をまねいていること,また本誌(39年10月号)にも若い保健所医師の意見として述べられていた如く,現在の保健所では,技術的な向上,あるいは調査研究などを十分行い得ないことなども,若い医師が保健所に魅力をもつことができない大きな原因と考えられる。

今後の精神衛生の方向

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.179 - P.180

 戦後長い間ジミな努力をつみかさねてきた公衆衛生体系下の精神衛生事業は,昨年のライシャワー事件という不測の刺激にも触発されて,精神衛生法改正の促進となり,その結果として,今年はエポックを画する進展が期待されている。
 そこでほぼ実施の見通しのできたプログラムについて,以下,簡単に説明し,地域社会にあって現実にその衝にあたっておられる方々の今後のご参考に供したい。詳細な技術的事項については,いずれべつの機会に改めて述べる。

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モニター・レポート

著者:

ページ範囲:P.161 - P.161

■精神衛生相談の実施
 岐阜県精神衛生協会では協会事業の一環として精神衛生相談,主として精神障害者に対する相談指導を実施することになった。患者の早期発助言を行なうものである。相談日は県下各保健所とも隔月1回とし,1月より開設。
 "精神衛生と公衆衛生の結合について" 本誌第29巻第2号に進藤氏が掲載されているが,たしかにわれわれ公衆衛生にたずさわっている者は精神衛生の重要性を痛感しながらも,それをいかにとり入れてゆくかに,とまどいを感じていたようである。

DESK・メモ 気で病む

著者:

ページ範囲:P.174 - P.174

 「病は気で病む」というが,精神身体医学はさしづめこの言葉の科学的裏づけなのであろう。精神身体医学の方法と公衆衛生の方法とがそう手早く結べる訳はなく,前者はあくまで臨床の領域にあるが,とり入れ方では公衆保健の基礎的な一部には十分なる。ことに,広義のノイローゼやメンタル・ストレスを扱う精神衛生的観点からは「気で病む」式の心の在り方やパターンに鋭い観察と秀れた示唆のできる知識が欲しい。
 医学書院には,その方の成書も雑誌もあるので御利用を願う。また今年5月4〜5日には仙台市で第6回日本精神身体医学会総会があり,演題を募集中である。

NEWS REFERENCES in January'65

ページ範囲:P.182 - P.183

腸炎ビブリオの発見と研究に朝日文化賞きまる受賞者は藤野恒三郎,滝川巌,福見秀雄,坂崎利一の各氏。(3日・朝)
 厚相,診療側に会談申入れ神田厚相は医療費引上げをめぐり紛糾したまま年を越した中央医療協の事態収拾をはかるため,5日まず診療側に会談を申入れ,医療協再開への協力をとりつけたい意向である。(5日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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