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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻5号

1965年05月発行

雑誌目次

特集 綜合保健活動と医療機関 談話室

綜合保健活動雑感

著者: 関悌四郎

ページ範囲:P.250 - P.251

 本誌1月号をみると,綜合保健という語の定義,内容について諸家の見解が述べられている。かなり大幅な差異が,その間に,みられる。しかし,あえて見解の統一をはからねばならぬというものでもあるまい。
 この場合のように,あきらかに社会科学的な事象のあつかいにおいては,事象の進行の方により支配的な意味があるので,今日の定義はすでに昨日のそれとはことなるものとなる。そのような例は乏しくない。物理学におけるごとき定義の不可欠な必要性はなかろうではないか。

主題

綜合保健活動と医療機関

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.252 - P.253

1.公衆衛生活動の発展過程
 近代公衆衛生活動は,前世紀の初頭,第一次席業革命を契機とし,産業と生産の爆発的な発展の半面で大きな社会問題となった貧困と不潔と疾病の悪循環に対する社会防衛的な斗いとして,イギリスに台頭した。第一次産業革命の特色は,周知のように工業化による資本主義体制の確立であり第一次産業人口の二次化であり,都市への急激な人口集中であった。初期の労働者は,労働条件がきわめて劣悪であったため,貧民街を形成し,それは伝染病流行の温床となり,都市における汚物の堆積や河川の汚濁など生活環境の劣悪化は甚しいものがあった。1850年から1900年に及ぶ半世紀は,イギリスにおける公衆衛生活動の確立期であるが,その最大の力点は,衛生行政組織の確立と,上下水道,汚物処理施設の整備,スラムの改良など主として環境衛生施設の計画的整備に集中され,コレラなどの急性伝染病に対する社会的防衛として,その推進はSanitary reformersとよばれる熱烈なボランティアたちの努力に支えられたものであった。このような,いわば衛生行政組織と環境衛生の整備に主力をおいた半世紀を経て,その基盤の上に,20世紀の前半,当時漸く学問的にも確立した予防医学を武器として,公衆衛生活動は疾病予防を主眼とする組維的な対人保健活動personal health serviceへと大きく発展する。

主題参加 公衆衛生活動と医療機関の結びつき

ある国立療養所とある開拓村

著者: 月岡和雄

ページ範囲:P.254 - P.256

 国立療養所の立場:国立療養所はご承知のごとく,戦後の結核対策に大きな役割を来してきたことは間違いのないところであるが,ここ数年来結核対策の一応の整理段階に至ると同時に,その在り方に対し種々論議がなされるようになった。国療の役割を国立の医療機関として今少しすっきりしたものにする必要があるというのである。ところが国療の大部分は,その立地条件がいわゆる辺地ないし準辺地といわれるところに存在している。したがって,現在のようにその地域の医療需要に応じた医療組織が望まれる時代には,隔離を目的とした戦前の考えから発足した国療の存在は,地域住民との結びっきに大いに戸惑いを感ずる立場にある。従って国療が他の一般病院同様その地域社会とどのように結びついて,その地域ごとの医療水準を向上させ得られるか,この辺に将来の国療の在り方としての方向があるのではないか。
 開拓村との結びつき:筆者がこの観点に立ち,広大な富士山麓にて酪農事業に従事している西富士開拓団があり,しかもこの集団が無医地区として放置され,また自分たちの健康を顧みる余裕もなく重労働に従事していることを知った。

成人病集団検診4年の成績から

著者: 金森晟

ページ範囲:P.256 - P.258

 集団検診成積:終戦後抗生物質などの進歩や発見と生活内容の向上,食生活の改善により平均寿命が延長され,比較的老年層の人口比率が増大して参り,それらの年令層に多い病気すなわち成人病,なかでも高血圧,癌が医療の対象となってきた。
 昭和35年有力地方新聞で秋田県は全国一の短命の町であり,特に飯田川町は最も短命の町であると報道された。このことが町当局と私とを結びつける結果となり,町民の生命に対する関心を高めた。私の常に抱いていた予防医学への構想は町長初め各方面の関係者の理解をえて,全県にさきがけて飯田川町成人病予防対策協議会を発足せしめるに至り,さらにその事業として集団検診を実施することに決定した。私の出身校日本大学医学部有賀内科学教室はその方面の活躍している所で,すぐにご協力を頂き昭和36年より毎年7〜8月に集検を行うことになった。

G. Pの公衆衛生活動に妥当な報酬が急務

著者: 村田謙二

ページ範囲:P.258 - P.260

 はじめに:さきに,私は昭和36年9月第17回日本公衆衛生学会第9分科会において「高崎市医師会の公衆衛生活動と集団および個人へのアプローチについて」と題して発表したが,その全文についてはまだ発表はしていない。
 地域医師集団としての考え方なり,日常活動の方法論については,その意図する対象が全国の都道府県の民間医療機関個々(以下G.P)あるいは地域医師会の会長以下執行部理事の医師会員であるので,近く日本医師会雑誌に掲載の予定である。

保健所長が推進役を

著者: 鈴木弘之

ページ範囲:P.260 - P.262

 昭和39年7月,策13回東北地方公衆衛生学会が行われ,その前日,東北ブロック保健所長会総会が仙台において開催された。その総会の全員協議会の討論中再三話題として提示されたことはいわゆる保健所運営研究協議会答申による中間報告資料であった。この資料についていろい議論はあったが,それはさておいて,根本的な意味で今後の重要な研究課題として残されている大きな分野こそ,表題に示す医療機関と公衆衛生活動との関連問題であったと思う。
 この機会に,自分の浅い体験と認識の中から若干私見を述べてみよう。率直に申上げて日本の公衆衛生学というものの姿をめぐって,関係諸学者の間でも論議があり医学を基礎とした「健康の科学」であり,社会科学と考えた場合学問の体系としては,きわめて重要かつ難かしい問題ではあるが,その歴史は浅く,まだ若い学問であるとしみじみ想う。

保健婦からの発言

著者: 中島さと子 ,   高橋ミツ子 ,   井出そとえ ,   渡部好枝

ページ範囲:P.262 - P.266

 わが国でも最近の疾病状況は欧米諸国と同様の傾向をみせており,罹病率や死亡率にも著しい差はなく,従って成人病対策としても欧米諸国の場合と共通点が多くなっているといわれております。医療の社会化,すなわち中隼以降の年齢層において病気が非常に多くなり,しかも1件あたりの罹病日数が長くなると,ひいては社会全体の生産制を阻害することが当然考えられます。さらに人口の老齢化がこれに拍車をかけるという事象から老齢人口を対象とする医療の社会化は必然であり,綜合的な予防,診断,リハビリテーションまでを一貫した体制が望まれます。当然,予防医学と治療医学との二面をとらえて,大きな意味の医学として了解することが現代社会における社会的要請であり,またこれに応えうる公衆衛生活動が為されなければならないと思います。特に農山村の現状から考えられますことは従来治療を主としている病院,診療所それから予防関係を主として担当する保健所,町村などの機関または,そこに従事する人たちが木当に結びついた仕事をしているでしようか,かりにそこに人間的な結びつきがあっだとしてもそれは継続的なものではなく,人事交代によって途絶することも考えられます。

医師会と公衆衛生活動との連繋—その実情と将来像

著者: 村田武一

ページ範囲:P.268 - P.272

 「その実情と将来像」というテーマを与えられ特に「将来像」に私はいささか当惑してしまった。というのは医師会の公衆衛生活動の将来像とは,とりもなおさずわが国の医療制度の問題とむすびつき,これは軽々には論ぜられないからである。
 大体「医師会と公衆衛生活動との連繋」というテーマもどういうものであろうか。医師会の目的には「公衆衛生の向上をはかり社会福祉を増進する」と明記してある。医師会にとって公衆衛生活動は片手間の仕事ではない。どうも外部の人は,相当の有識者でも切りはなして考えたがる。医療費問題でワアワア騒ぐのが医師会だと考えてるのだろうか,「武見会長指揮下の圧力団体」としか考えていないのだろうか。それとも公衆衛生活動は保健所がやるものだと単純に理解しているのではなかろうか。私はもちろんテーマをつけられた編集者に文句をいっているわけではない。

地方病院と公衆衛生活動との連繋—その実情と将来像

著者: 井手一郎

ページ範囲:P.274 - P.281

 社会開発なる言葉がニュース面をにぎわしている。この言葉は一応生活環境の整備,社会保障の充実,教育の向上などが柱として考えられているが,その実質は経済開発の中心となっている生産第一主義を反省して,国民生活の現実の面の改善を考えてゆこうということのようである。
 国連経済社会局編の「世界の経済開発と社会開発」によるも,以前の経済開発さえはかれば,社会の発展も,自ら期せられるとする考え方に代って,社会開発と経済開発の均衡という考え方に赴き代ってきているようである。

大都市病院と公衆衛生活動との連繋—その実情と将来像

著者: 菊池虎之助 ,   荒木盛雄 ,   石原純

ページ範囲:P.282 - P.286

 戦後治療医学の急速な進歩により,死亡率は低下し,病気の性質も大いに変ってきた。一方,検査技術の高度複雑化のため客専門家に委ねるようになった。従って小児科領域においても患者の診療のみでなく,公衆衛生方面にも手を伸ばす余裕ができ,医師本来の使命を全うする傾向にあることは御同慶のいたりである。幸いにして近ごろの母親は育児に非常に熱心で,われわれの病院でも健康保険の適用に該当しないにもかかわらず,育児相談の件数が漸次増加している。そこで,当院小児科で行なっている実情とその成績を報告し,所感を述べる。

人籟

松香私志—抄出

著者: 長与専斎

ページ範囲:P.249 - P.249

〔2〕
 英米視察中医師制度の調査に際し「サニタリー」云々「ヘルス」云々の語は屡々耳聞する所にして,別林に来てよりも「ゲズンドハイツプレーゲ」等の語は幾度となく問答の間に現はれたりしが,初の程は只字義の儘に解し去りて深くも心を留めざりしに漸く調査の歩も進むに従ひ,単に健康保護といへる単純なる意味にあらざることに心付き,次第に疑義を加へ漸く穿鑿するに及びて,此に国民一般の健康保護を担当する特種の行政組織あることを発見しぬ,是れ実に其の本源を医学に資り,理化工学気象統計等の諸科を包容して之を政務的に運用し,人生の危害を除き国家の福祉を完了する所以の仕組にして,流行病伝染病の予防は勿論,貧民の救済,土地の清潔,上下水の引用排除,市街家屋の建築方式より薬品染料飲食物の用捨取締に至るまで,凡そ人間生活の利害に繋れるものは細大となく収拾網羅して一団の行政部をなし,「サニテーツウエーセン」「オッフエントリへ,ヒギエーネ」など称して国家行政の重要機関となれるものなりき。さても医学関係の事業にして斯る大事の目前に横はれるをも心付かず,盧山に入りて盧山を見ず,米英以来半年以上夢幻の如く泛遊しうかうか看過したる事の今更に悔しくも恥かしく歎息の外なかりけり。

連載講座 公害・2

法制問題

著者: 金村博晴

ページ範囲:P.290 - P.293

■公害関係法令の現状
 「公害」という言葉であらわされる範囲は,現在人によって種々雑多になっているが,事故または過失によって生ずる被害を公害の範疇から除外して考えれば,公害そのものを防止するための法律は,数えるほどしかない。それというのも,公害に対する認識が高まってきて法的規制の必要性が一般的に承認されるようになったのが近年のことであり,以前にはむしろ,公害の発生は必要悪である,場合によっては悪とさえも感じられていなかったことが一つの原因であろう。また他面,ばい煙,騒音,振動,悪臭,廃液などの公害原因を除去する方法が発達しなければ,法律でいかに規制しようとしても,工場,事業場などの活動をやめなければ,実行できないようであれば実効性のない法律となってしまうということも一つの原因であろう。もちろん,人の健康をそこなうようなものであれば,工場,事業場の事業活動を中止させても規制しなければならないものである。しかし,短期間にその影響があらわれるものは別として,長期間たってはじめて影響があらわれるようなものは,その因果関係の証明がむずかしいばかりか,許容限度をいかに定めるかが極めて困難な問題に属する。従って,法的規制の程度もまたきめにくいことになるということも一つの原因であろう。現在,自動車排ガス,悪臭,振動に関し,規制する法令がないといっても過言ではないのは,これらの原因のいくつかが存するためでもあろ。

研究

3才児健康診査についての研究(その1)—診査票の1試案について

著者: 若林慎一郎 ,   伊東秀子 ,   伊藤忍

ページ範囲:P.294 - P.299

I.問題点
 児童福祉法により,昭和36年以来,3才児健康診査が全国的に実施されているが,検診を実施するに当っては,その方法,判定,処置に関して種々の困難と問題が存する。
 愛知県精神衛生対策基礎調査書(昭和38年)1)によれば,37年度において,愛知県では実施総数 24,256名 正常率 96〜24%
 名古屋市では実施総数 12,327名 正常率 96.8〜41.5%

高血圧学生と遺伝および環境との関係—大学生の健康管理 1

著者: 富田昌三

ページ範囲:P.300 - P.302

 高血圧の真の原因であるか,否かは別として,遺伝や環境がこれに関与していることは否定できない。大学新入学生の高血圧者(最大血圧140mmHg,あるいは最小血圧90mmHg以上)は,北海道大学では,1957年(昭和32年)より1964年(昭和39年)の各年度の調査で,2.9%−4.9%の間にあり,平均3.7%の頻度である2)。これらの高血圧学生と遺伝,および環境との関係について調査したので,その結果を報告する。

時事内報 NEWSLETTER

環境衛生関係の新規事業

著者: 榊孝悌

ページ範囲:P.287 - P.287

 ◎環境衛生関係営業に対する指導助成  最近における消費者物価の値上り問題に関連して,環境衛生関係営業についての国民の関心もにわかに高まりつつあるので,昭和40年度において環境衛生関係営業の指導強化に必要な予算がはじめて評上されることとなった。これは従来の衛生上の取締のみにとどまらず,これらの経営が直接消費者大衆に影響するところが極めて大きいこと,あるいは殆どが零細企業であること等その特殊性を勘案して,営業の近代化,合理化に関する指導ならびにそれに必要な資金のあっせん等について積極的な助成措置を講ずるとともに,これが指導体制の確立をはかるものであり衛生行政の新しい方向を示すものとして,その進展が期待されている。なお昭和40年度予算としては,環境衛生関係営業団体(中央連合会,都道府県段階の組合,各9業種)のおこなう運営指標・標準経理方式の作成,団体役員の講習会,相談室の開設等に要する費用として4,000万円,都道府県のおこなう県職員(担当者)の研修,経営者に対する講習,環境衛生関係営業指導員(中小企業経営指導員―商工部)の委嘱等に要する費用として2,000万円の補助金が計上されている。
 ◎公害防止対策厚生省は昭和40年度重点事業として公害対策をとりあげ,予算においても一般会計約1億6,800万円,(39年度予算は約5,000万円)を計上しその強力な推進を期することとなっている。

モニター・レポート

保健所医師の給与待遇

著者:

ページ範囲:P.267 - P.267

 「公衆衛生」29巻第3号で厚生省の榊氏がのべられているごとく,現在保健所に勤務する医師の充足率はわずかに47.9%で半数にもみたない現状である。現に岐阜市でも38年には新しく保健所が一つ生まれたが,医師,保健婦などは,今までの保健所からごぼう抜きされるだけで補充は殆どなく,かえって事業内容では低下をみるような憂目をみている。更に明年度は一つ新設される予定ときくが,そうなると又々分散のうき目をみそうな状態である。
 榊氏は40年度における保健所医師の充足対策として数項目をあげられており,非常に明るい見通しがあるようで喜こばしいが,現在保健所に勤務する医師として,切実に感ずるのは,やはり給与待遇の問題である。

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DESK・メモ 10カ月

著者: 秦恒平

ページ範囲:P.273 - P.273

 テニスコートー面ほどの社宅の庭へ或る午さがり,見知らぬ少年が犬を引きずるようにして入ってきた。鳴きもせず,犬はずるずると横転しながら引っぱられていた。庭の真中に名ばかりだが砂場がある。少年はそこに犬を残して,行ってしまった。「おや」と思ったそうだ。管理人を呼んで出てみると,犬は屍だった。少年は確かに見なれぬ顔だった。よほど遠くから引きずって来たか屍体はいたく汚れていた。
 妻から聞いたことである。怖いように何かの抜け落ちたはなしだった。この事件を想い出しながら,似たような不快に苛まれつづけている。それは犬ではないが通勤の路上にもう五日も放置された鼠の屍だ。人通りのない野原道ではない。明らかに自動車にやられたらしい死にざまで,武蔵野ではこんなふうに地鼠が死んでいることはそう珍しくはない。だが,避けることのならない細い一本道ではあまり見掛けず,バス道路での方が多かった。それと分れば遠く避けることもできた。

NEWS REFERENCES in March'65

ページ範囲:P.288 - P.289

大阪でネズミ退治に"多角戦法"ドブネズミの媒介で新しい風土病まであらわれた大阪では大阪市大教授考案の多角戦法の実験に成果があったので業者に協力を求めて普及させることになった。その兵器は次の如し。①超音波(寄りつかない。また感じたネズミは狂乱のすえ共食いに至る)②赤色の誘惑(ネズミ取り器に応用)③忌避剤④避妊剤⑤殺ソ剤(1日・朝)
またかぜ薬で死亡枕もとに空のアンプル。堺市で。(1日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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