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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻6号

1965年06月発行

雑誌目次

特集 都市化と保健活動 談話室

都市と保健をめぐつて

著者: 田中正四

ページ範囲:P.306 - P.307

〔1〕
 詩人のウィリアム・クーパーは「神は農村をつくり人間は都会をつくった」とうたっている。都市化urbanizationとは,都市の人口が爆発的に膨脹し,その反面,農村の人口が急激に減ることをいうのであるが,この傾向は今日ではヨーロッパや米国よりも,アジア,ラテンアメリカの諸国や,ソ連,アフリカなどにも見られるようになった。
 都市の人口集中のきっかけとなったのは産業革命,蒸気機関の発明で,工業と交通が飛躍的に発達したためである。イギリスではすでに1850年頃には国民の40%が都市でくらしていたし,ヨーロッパであふれた人間を吸収した当時の新興国,米国でも1870年頃には25%が都市生活者であった。しかし世界の人口学者を驚かせたのはアジアの一小国日本の都市人口集中の急激さである。大正9年(1920)にはわずか18%にすぎなかった都市人口が,昭和35年(1960)には63%と急増し,現在では70%をこしているものと推定される。

主題

都市化と保健活動

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.308 - P.309

■都市化について
 わが国では,今日非常な勢いをもって都市化urbanizationが行なわれている。この傾向は欧米先進国においても同様である。都市化の過程において発生する綜合保健の問題を検討するには,都市と農村とを明確に区別しておかなければならない。しかし都市と農村とを区別する線をどこに引いたらよいかがすこぶる漠然としている。現在主要な都市という意味で用いているmetropolisは,ギリシャ時代にはmother city of a colonyということであった。しかし後にはcapital city首都またはa chief city of a region中心都市という意味をもつように変わってきた。昔は1行政単位に1都市という程度であったが,その後,大都市を中心として周囲に生まれた群小都市も考えなければならなくなってきた。さらにLondonや東京のごとく,周囲の群小都市を融合して大きく成長し,都市の中に幾つもの行政区画を設けなければならないほどの過大都市も出現している1)。近世までの都市は多少の差こそあれ地域および人口に制限が設けられて安定した状態であっだ。この制約がとりはらわれて人口が無制限に増加し,したがって地域が拡大しはじめたのは第一次産業革命の影響である。そのため近世の都市の事情と今日の都市とは全く異った問題を抱えていると考えなければならない。

座談会

都市の保健活動

著者: 清水寛 ,   杉原正造 ,   池田正義 ,   橋本正己 ,   松井煕夫 ,   山下章

ページ範囲:P.310 - P.324

 高度成長に伴いマンモス化した巨大都市,そこには住宅,交通難,環境衛生,母子保健,医療などさまざまの難問題が包蔵され,都市の中の僻地といった状況さえ生じている。第一線でとりくんでいる方々にこの現状を分析し,将来への対策,ビジョンについて話しあっていただいた。

大都市周辺の保健活動

著者: 松浦利次

ページ範囲:P.325 - P.340

 "むさし野"はもはや憩の場所とはなり難い。自然はふみにじられ,道路は車の波,人の波で一ぱい。そして空地は建築ブームで,原色に近い屋根と,灰色コンクリート建築とで埋められていく。これらはいうまでもなく,東京という大都市の発展と変貌に直結した,いわば都の息吹きに呼応した現象の一つである。
 ひるがえって他の大都市とその周辺との関係をみても,同じことがいえる。それは"売手買手接近の法則"という冷い名のルールによって,人間が集中する"都市化(Urbanism)"の一現象である。しかもその人口集中は年とともに激しさを加える(第1図)。

新産業都市の保健計画

著者: 山本二郎

ページ範囲:P.341 - P.348

■地域開発にともなう保健衛生の問題点
 現在,新産業都市の建設あるいは工業整備特別地域の整備など諸種の地域開発計画が進められている。
 これらの地域開発が,大都市への人口および産業の過度の集中を防止し,地域格差を是正し,国土の開発・発展・国民経済の発達と,国民福祉の向上をはかることを目的としていることはいうまでもない。しかし,既成の大都市および工業都市において発生している地域の保健衛生の現状を見るとき,今後,実際に各地域で開発を進めてゆくにあたって,保健衛生上,十分な配意をしなければ,地域開発が住民の福祉に直結しない諸腫の問題を生ずるおそれのあることを指摘しなければならない。

都市開発計画と住民の保健

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.349 - P.358

Iはじめに――問題の所在と住民の意識――
 昭和35年国勢調査によると,30年以降5年間における就業人口の増加は44万あり,その大部分は,京浜,阪神,中京の5大都市に集中しており,大平洋沿岸重化学工業ベルト地帯における過大都市化は,一層はげしくなっている。すでに,都市における病理現象は万人の認めるところであるが,近年の独占集中過程における経済成長は,いっそう過大都市化をすすめ,大都市がもっている多くの都市病理現象の度合を強めている。
 昭和39年8月神田厚生大臣は,「厚生行政における課題」についての閣議報告のなかで,「過大都市の諸問題」として述べている。「これまでのわが国の都市化,工業化の進展過程における最大の問題は,無計画,無秩序な都市発展と人口の膨脹によって,道路,住宅,上下水道の諸機能,諸施設の整備がたちおくれていたこと,および産業の発展に重点がおかれ,それが住民の生活に対して及ぼす影響について,十分考慮がはらわれなかったことである」。また39年度建設白書は「都市の整備」について,「最近における都市化の趨勢は甚だしく,その勢いは今後20年間においてますます強化され,55年の市街地人口は,35年の1.8倍強にあたる7,500万人に達し,企人口の約70%が市街地に住むことになるが,それ以降は,人口増加の鈍化にともなって,かなり鎮静化することが予想される。

人籟

松香私志—抄出

著者: 長與専斎

ページ範囲:P.305 - P.305

〔3〕
 明治六年三月文部省中に医務局を置き,余は其の局長に任ぜられ医制取調を命ぜられぬ,これぞ本邦衛生事業の発端なる。其の事務皆新たに創定せらるるものにして素より旧制慣例の拠るべきなし。……飜りておもひめぐらすに我邦人文の程度にては国家公衆の観念さへ確かならぬあり様なれば国民健康の保護などいへることは上下の心に入りがたく,まして其手足となりて朝野の間に周旋すべき開業医師に至りては漢方家十の八九に居り,西洋の事物としいへば一概に忌み嫌ひ,一切の新政に対しては暗に反抗の念をさへ包蔵するものなきにあらざれば,今日に当り如何に事情を斟酌したればとて欧米に型を取りたる医制の滑かに行はるべき様なし,寧ろ習俗事情に拘はることなく真一文字に文明の制度に則りてこれを定め先づ帰着する所あるを天下に示し,而して施行の実際の如きは急がず迫らず多少の余地を与へてその成功を永遠に期することとすべし,されば先づ医学教育の規程を整備して鋭意に其実行を奨励し,医術開業試験の方法を規定して将来業に就く者の方針を明らかにし,一方には地方医務吏員の組織を設け徐ろにこれを指導して衛生行政の地をなし,諸般公衆健康保護の事項の如きは仕組の大体を定め置き利害の目前に近づくに臨みて便宜にこれを設施することとなすべしと,茲に始めて腹案を定め,やがて医制七十六条を草し文部省を経て太政官に上つり編制の趣旨を副申として進めたりけり。

時事内報 NEWSLETTER

社会保障研究所発足/厚生省公衆衛生局各課の所掌事務一部変更

著者: 榊孝悌

ページ範囲:P.359 - P.359

 わが国の社会保障制度は戦後飛躍的な進展をとげたが,いまだ内容的には各種の制度のあいだにかなりの不均衡がみられ,また最近における経済の高度成長,人口構造の変化あるいは地域開発の推進など著しい社会経済の変動に伴い,社会保障の分野においても早急に検討すべき新しい問題が生じている。
 厚生省では社会保障に関する綜合的な研究体制を整備することになり昨年7月7日社会保障研究所法が制定され,この法律に基づき昭和40年1月11日,特殊法人として社会保障研究所が設立された。研究所の概要は次のとおりである。

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NEWS REFERENCES in April'65

ページ範囲:P.360 - P.361

出張採血5月にスタートきれいな輸血用保存血液確保のため,厚生省は出張採血にふみきる方針をきめ,「出張採血に関する取扱い方針」について全国都道府県,各日赤血液銀行に通達する。5月頃実際にスタートするのは北海道,東京,大阪,福岡の赤十字血液センター。(1日・朝)
食用の2赤色色素の使用を禁止厚生省は食品に使われている赤色タール色素11種のうち「食用赤色101号」と「食用赤色1号」の使用許可を4月1日から取り消すと発表。この2種の色素を長期間使った場合じん臓,肝臓に悪影響をおこすおそれがあるとわかったため。(1日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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