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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻7号

1965年07月発行

雑誌目次

特集 伝染病予防 巻頭言

伝染病問題の追憶

著者: 野辺地慶三

ページ範囲:P.365 - P.365

 橋本伯寿を憶う痘瘡,麻疹,梅毒,麻癬薬は胎毒によるという唐宋の迷説が風靡していた徳川時代に,碩学橋本伯寿は彼の疫学的観察に基いて,「断毒論」(1810)を著わして,胎毒説を笑殺し,隔離による予防法を提唱し,なお多くの正鴻を得た疫学的知見を述べているが,これはわが国の医学史上特筆すべき事績である。惜しむらくは彼と並び称へらるべき北伊のFracastroの場合と同様,彼の卓見を継承発展せしめる後継者がなかったので,わが医界は再び暗夜となったことはわが国の文化史上の遺憾事であった。
 わが国最初の法定伝染病4種前号本欄の松香私志抄(3)に記されてある如く,明治7年(1874)文部省は医制76条を公布したが,その第46条に第扶私,虎列刺,痘瘡及び麻疹の4病を悪性流行病と指定し,その届出と予防法を指示したのであった。茲に「第扶私」というのは発疹チフスのことで,腸チフス(泰ホイ土)は軽病として問題にしなかったのである。またこの場合麻疹を発疹チフス,コレラ及び痘瘡と並べて4悪性流行病に指定したのは,今日の感覚からは異様の感を覚えるのであるが,これは次ぎのような理由によるものである。

伝染病問題の展望—流行と予防の相関

著者: 湯沢信治

ページ範囲:P.366 - P.375

 古くて新しい伝染病問題に対する論議は後をたたず,最近ますます増大するかの感さえある。ここに第一線で取りくまれている筆者に問題の解決を示唆すべく展望的にとりあげていただいた。

新しい伝染病—その課題と対策

はしか

著者: 松本稔

ページ範囲:P.376 - P.378

 ウイルス学の進歩は,ここ10年間に,ハシカの研究に急速な展開をもたらした。その結果すぐれたハシカワクチンが実用になるようになり,ハシカ予防の見通しは明るい。ハシカは一生に一度はかかるもの,とあきらめていた時代はすぎさり,この病気の根絶に向って,攻撃態勢をととのえる段階になった。

伝染性肝炎

著者: 乗木秀夫

ページ範囲:P.378 - P.381

■まえがき
 伝染性肝炎(流行性肝炎)は,血清肝炎と共に,いまだ,病原学的,免疫血清学的な診断法の確立をみないウイルス病として,また,現在多発し,流行の様相を示している伝染病として,世間の注目を浴びている疾患である。
 その初期症状が軽いことから,同様な症状を示す他の疾患と区別することもなかなか困難で,主要症状と考えられる黄疸でさえ,欠除し,無黄疸性肝炎として経過し,数カ月後突如として高熱をもって再燃,電撃性に進行し,急性黄色肝萎縮の像を示しながら,片手の掌に隠されるぐらいの肝になって死亡するような,恐るべき結果を生みだすことさえある。また,急性期がようやく過ぎ,治癒と認められた後も神経性肝症候群を残し,全身倦怠,目まい,食慾不振などという日常の生活を暗くする神経症状を残していく。また,慢性化し,肝硬変へと移行し,20年後の悔を残したり,原発性肝癌の原因ともなるのではないかとさえ,真剣に採りあげられている。これが伝染性肝炎である。この伝染病学的な詳しい調査は,すべて貴重な人体実験成績によって明らかにされたといってよい。患者の血液,糞便材料を健康な協力者に,咽頭粘膜を通して,また経口的に与えることはよって,同様な症状を呈したことから,その材料処理によってウイルスを確認し,その抵抗性を知り,感染経路,排泄経路を知ったわけである。

インフルエンザ

著者: 大井清

ページ範囲:P.381 - P.383

 インフルエンザ流行の歴史同じ伝染病でも病気の重さ,後遺症の有無,伝染力の強さ,などによって恐しさが違う。
 明治30年伝染病予防法が施行されたときには少くともペスト,コレラ,発疹チフス,痘瘡がその代表的なものであったに違いない。

腸内ウイルス疾患

著者: 多ケ谷勇

ページ範囲:P.383 - P.387

■腸内ウイルスと疾患
 腸内ウイルスはヒトの腸管の細胞で一次的に増殖する小型(径28mμ前後)のウイルスで中心にリボ核酸を持っている一群のウイルスであり,いろいろの疾患と関係があることはよく知られている1)。中でもポリオウイルスは,いわゆる小児まひの病原ウイルスとして非常に恐しいウイルスであるが,同時に予防対策も広汎に研究され大きな成果が収められた。その他に,腸内ウイルスには,ウイルスの性状からコクサッキーウイルス(A群とB群とに分けられている),エコーウイルスに大別される数多くのウイルスが含まれる。これらのウイルスは,ポリオウイルスに1,2,3型の血清学的な型があるように,コクサッキーA群にはA1-A22およびA24の23の血清型,B群にはB1-6の血清型,エコーウイルスにはエコー1-7,9,11-27,29-33型の30の血清型がある。コックサッキーA23はエコー9と同じであり,エコー8はエコー1と同じ血清型である。またエコー28は諸性状が腸内ウイルスと並んで別の一群をつくるライノウイルスに一致するもので,将来ライノウイルスの1血清型となるであろう。エコー10は腸内ウイルスより大きく,またその性状も異り,むしろ別の独立した群のウイルスと考えられ,レオウイルスという名で呼ばれている。

外来伝染病—その課題と対策

著者: 春日斉

ページ範囲:P.388 - P.392

■外来伝染病とは何か
 外来伝染病とは,わが国に常在しないで,しかも一旦わが国に導入された場合は流行の恐れがある伝染病と定義できるであろう。ところがWHOの国際衛生規則で定められた6種のいわゆる検疫伝染病の大部分は,わが国にとって代表的な外来伝染病であるため,検疫伝染病すなわち外来伝染病として認識される場合が多い。
 しかし,痘そうやコレラの常在地である印度,パキスタンにしてみれば,それらは外米伝染病ではあり得ないし,わが国にとって黄熱は常在せず,検疫伝染病であっても,媒介蚊たるエーディス・エヂプテイはわが国に棲息していないので,将来輸入され土着する可能性があるとしても,急速に黄熱が蔓延する条件はなく,純粋な意味では外来伝染病と呼ぶに躊躇せざるを得ないのではなかろうか。

予防接種—その課題と対策

著者: 金子義徳

ページ範囲:P.393 - P.399

■まえがき
 One to oneの医療活動に対してMassとして人の健康を取り扱う立場にたつ公衆衛生としては,国民死亡の内容や疾病像の変化などの数字として現われてくるものに関心を払い,その対策を考究することは当然であろう。いわゆる成人病も予防医学活動によってその発生を防ぎ,また死亡を滅らす可能性が立証されつつあることも周知である。
 本文の主題である予防接種に関連する伝染病については統計数字をまつまでもなく1〜2の疾病を除いては著しく減少した。今日においてはジフテリアや百日咳患者を診ないで医学校を卒業し,あるいは小児科を開業する人も多いはずであり,またそのワクチン接種を担当する側にしても,これによって疾病を予防するという実感をほとんど持たないで実施している人も少くないと考えられる。

ウィルス性疾患の検査体制—英国における見聞をもとにして—その課題と対策

著者: 甲野礼作

ページ範囲:P.400 - P.404

■まえがき
 筆者は昨年(1964)の秋,欧米におけるウイルス検査の組織と体系を視察する機会をもった。この旅行の前半,私はソ連で開かれたWHO主催の疫学セミナーに出席したのであるが,このセミナーにはTopley-Wilsonの細菌学教科書の著者として知られたSir Graham WilsonがWHOの顧問として参加しており3週間起居を共にした。Sir Grahamは後で述べる英国のPublic Health Laboratory Serviceの生みの親の1人であり,親しくその生い立ちや活動の実際について聞くことができたのは幸いであった。というのは視察した各国のうちで,ウイルス検査の組織と体系が,最も整備されていて,わが国にも参考になると思われた国は英国,正しくいえばEngland,Walesだったからである。そこで以下に英国における私の見聞を中心として,そのウイルス検査の現況を述べわが国の現状との比較,そのあるべき姿にまで言及したい。

流行予測—その課題と対策

著者: 松田心一

ページ範囲:P.405 - P.413

■流行予測の目標
 フロストによると,"流行"Epdemicというのは,伝染病も含めて疾病異常のほんの一時的な分布の様相あるいは状態を指すものであって,元来集団中においては疾病異常の発生分布は,それに関与する諸要因,すなわち疾病異常の働因と生活環境と宿主集団との三つの要因が,互いに"動的均衡"Dynamic Equilibriumを保つことによって制御されているものであるが,たまたまその均衡が明らかに破れてしまう程度の規模をもった疾病異常の一時的な増加があった場合,これが正しい意味の流行であると解釈する。したがって流行の意義と内容とをこのように理解すれば,こうした意味の流行に関する研究調査は当然疫学の領域に属する。公衆衛生上から見て,疾病異常の流行機序を明らかにし,これを防禦ないし予防する方策をうち立てることは,疫学の窮極の目標とするところであることはいうまでもない。この意味で伝染病予防の上に,古くから果たしてきた疫学の役割は,決して過小評価されてはならない。過去において,猖けつをほしいままにした多くの恐るべき悪疫が,今はその姿をひそめるにいたったものも,2,3に止まらないのは,疫学の功績に負うところが大きい。もちろん,これには疫学とならんで重要な役割を果たしてきた細菌学,免疫学,伝染病学その他の諸科学の恩恵をもわすれてはならない。

伝染病対策に望む

疫学の成果を行政面に

著者: 中野英一

ページ範囲:P.415 - P.416

 Public health does pay急性伝染病に対する予防法および治療法は,最近の公衆衛生あるいは治療医学の進歩にともない,いちじるしく改善され,それらの諸病に対する脅威が著明に減少しつつあることは喜ばしいことではあるが,その反面急性伝染病に対する安易感も台頭しつつあることも否めない。
 わが国の近代公衆衛生は,細菌学の導入に伴う伝染病予防に端を発し,時代の変遷に伴い種々の曲折を経て今日に至っている。この際,急性伝染病予防対策に反省をおこなうのもあながち無益なことではなかろう。

過渡的伝染病院からの脱皮

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.416 - P.417

 伝染病対策のなかで,むしろ受身の形で協力している伝染病院の医師の立場から,将来の伝染病院の在り方を含み,伝染病対策に対する希望を触れてみたい。
 伝染病の実態の把握一般に伝染病は逐年,軽症化の傾向が強く,その実証的な反映は届出教の減少,致命率の低下の形で表現されている。例を赤痢に求めると,赤痢菌感染を基盤とし致命率の高い疫痢は,現在ではむしろまれな疾患となりつつあり,赤痢症状発呈例でも軽症化と抗生剤の普及は,その予後を著しく好転させている。菌型の上からみても,少なくとも都市にあっては昭和27年頃よりフレキシネル菌の減少,ソンネ菌の異常な増加という現象と同時に,抗生剤の普及は今日の入院患者の約50%がクロラムフェニコール,テトラサイクリン等の抗生剤に耐性という現況になりつつある。

各種伝染病の疫学的対策と今後の課題

著者: 落合国太郎

ページ範囲:P.417 - P.420

 近年における伝染病流行の概況伝染病対策を論ずるには先ず伝染病流行の消長を知る必要がある。私は当院の前身もと城東病院に就職し,以来伝染病を専攻して30有余年になる。この間,名古屋市では初め腸チフスとパラチフスBがもっとも多く,ついで猩紅熱,ジフテリアの順で,これは全国的にもだいたい同様であった。
 赤痢は実際の数に比して届出数は少かった。その菌型は今日いうSh. flex. 2a,2bすなわち駒込BⅢ菌が多く,志賀菌はほとんどなかった。疫痢が多かった割合に大原菌すなわちSh. sonneiは少かった。

真の伝染病予防法への切りかえを

著者: 山下章

ページ範囲:P.421 - P.422

 伝染病予防活動に進歩がないもう27・8年も前,私が公衆衛生に足を踏み入れた最初の勤務場所が東京市の防疫課であった。当時ここで東京市全体の防疫を担当していた。そこには20名ほどの医師と30名ほどの保健婦がいた。仕事は外来伝染病の検診や集団発生の措置もあったが,主なものは接種会場である市内の小学校を訪ね歩いて,種痘とジフテリアの予防接種をすることであった。腸チフス・パラチフスの予防接種は町会で自主的に行われていた。
 戦後東京都の防疫課に復員してきたときは,丁度発疹チフスと痘瘡の大流行の真最中であった。したがって有無を言わせず種痘や発疹チフスの予防接種と疑患者の検診に追いまくられた。昭和23年には予防接種法が定められ,予防接種の業務量は一段と多くなった。

時事内報 NEWSLETTER

国民の健康・体力増強対策について

ページ範囲:P.423 - P.423

 昨年10月開催されたオリンピック東京大会を契機として,国民1人1人が日常の生活環境をより一層清潔なものとし,精神的にも,肉体的にも健康な国民の生活あるいは社会環境を国民自身の手によって造成しようという国民運動が展開された。この国民運動の一環としての健康増進運動は,厚生省,文部省,労働省およびその関係団体などによって「健康の日」が設定され,この日を中心に組織的実践活動をすすめることとなった。また,昭和39年5月6日には厚生事務次官通知をもって各都道府県知事あて,この運動に対する協力方が要請されるに及び,各地の保健所などでも健康増進運動が推進されるに至った。そして,昭和39年12月18日の閣議において,おおむね次のような「国民の健康・体力の増強対策について」の基本的方針が決定されることとなった。

モニターレポート

第2回岐阜県結核予防推進大会開かる

著者:

ページ範囲:P.399 - P.399

 本年は「明るく,つよく,美しく」のスローガンのもとに県民待望の岐阜国体が開催され,明日への県民の飛躍が期待されています。
 結核予防会岐阜県支部としては,県政重要施策の第一にある「明るい社会を築く施策」の一連として「結核健康診断県民総検診」という重要目標をかかげ,市町村,家庭婦人の力を結集して強力に運動を推進し,復十字のマークを胸に,結核撲滅のため努力するよう,「第2回岐阜結核予防推進大会」が5月13日岐阜養心会館で午前10時半から開催された。当日は岐阜県下の市町村関係職員,婦人会員,保健所職員など約600名が会場せましと集まり盛大に挙行された。

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NEWS REFERENCES in May '65

ページ範囲:P.424 - P.425

 医療費の2本立て,かなりの紛糾予想厚相は関係者に要望する大臣声明を発表(30日夜)したが診療側は強い態度を変えていないので,旧料金を適用される4組合について窓口での混乱のおこるおそれが出ている。支払い側は全保険に旧料金を適用すべきであるとの基本的態度はかえていないが,窓口では一応新料金で支払ったのち,社会保険審査官,社会保険審査会への不服申立てを行なう方針である。(1日・朝)
 2本立て医療費,厚生省と医師会の話合い物わかれ(1日・夕)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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