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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生29巻8号

1965年08月発行

雑誌目次

特集 綜合保健活動と保健従事者 談話室

綜合保健活動と保健従事者

著者: 原島進

ページ範囲:P.430 - P.431

綜合保健活動の理念
 本誌は今年度の主題として,行政,病院,保健所,大学などの綜合保健の推進のための諸問題をとりあげようとしている。そして,本年度の第29巻の初号のはじめに,「綜合保健活動の推進」のための座談会を設けている1)。綜合保健ないしはその活動については今年から新たにとりあげられたものでないことはいうまでもない。この言葉はすでに数年以前,あるいは,それよりも前から,われわれ関係者の間で用いられるようになったものである。それは,わが国ばかりでなく,世界の各国での保健活動の歴史からみて,個々のそれぞれの領域における保健についての活動が,それに応ずる成果を十分に果たしてきたのであるが,他方において,保健についての社会の要求が高くなうとともに,社会の人口や疾病やさらには死亡の構造がここに大きく変動してきたためであると考えられる。このように進展し,また,複雑化する社会の保健についての要求によく答えるためには,われわれは従来の保健活動についての考え方をさらに発展させなければならない。従来の保健活動が個々の保健従事者の活動を中心として成果をあげてきたのに対して,それらの活動を綜合して,さらに,一段の進歩発展を期待しようとするところに,その目標がある。すなわち,保健活動についての理念の拡大であるといってよい。

主題

公衆衛生技術者養成の国際的動向—綜合保健活動の立場から

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.432 - P.437

■課題の歴史的背景
 近代公衆衛生活動は,イギリスの歴史に典型的に示されているように,産業革命を契機とし,主として急性伝染病に対する社会的防衛として,前世紀後半,まず環境衛生の整備と行政制度の導入によってその基礎を確立し,20世紀前半,予防医学の発展と相まって,急性および慢性伝染病の克服に輝かしい成果を収めた。しかしその後,西欧諸国ではおよそ1930年代以降,人口,産業,死因,疾病等の構造の近代化が進むとともに,老令人口,老人性慢性疾患の増加等はしだいに社会の重圧となり,とくに第二次大戦後はいわゆる福祉国家の建設に対する綜合対策として,社会保障制度とその重要な内容として,予防と治療を綜合した綜合保健活動を主体とする医療保障制度の確立に,世界各国を通じて積極的な努力が払われているとはよく知られているとおりである。
 公衆衛生技術者養成の問題も,このような発展過程の中で,それぞれの国と時代の要請に応じて発展したものであることはいうまでもない。歴史的にみれば,公衆衛生活動の担い手として,前世紀の後半まず制度として登場したものは,イギリスのPublic Health Act, 1848にみられるとおり,保健医官Medical Officer of Healthと清掃監視員であり,ついで今世紀に入るとともに,母子保健等に重点をおいたいわゆる対人保健サービスの担い手として保健婦が登場し,その教育訓練,資格等が制度化されている。

綜合保健活動と公衆衛生院

著者: 曽田長宗

ページ範囲:P.438 - P.442

■治療と予防との分化および統合
国際的問題として
 治療医学は古くからあったが,予防医学は極めて近代に到ってからの所産だ,とよくいわれるが予防的思想は治療の医学とともにその淵源が遠く人類未開の時代にまでさかのぼる。神の怒りを解き,悪霊や邪鬼の退散を図って,祭事やまじないを行うことは,すでに発生した悪疫や傷病の治療をのぞむだけでなく,このような疫病の侵襲を防こうとするものであって,あえて治療と予防との目的が分離,分割されていなかった。古人が,各戸に祭ったり,各人のはだ身に付けたりした,護符,お守りの類にも,予防の思想が多分に盛りこまれている。
 ただその方法が,未開の時代や,合理的精神にもとづく近代科学の発達しない時代にあっては,荒唐無稽で,その効果にも十分期待できるものがなかった。傷病治療のための草根木皮の利用や錬丹の術と共に,不老長寿,強精の薬物も探し求められたが,効果的な方法や物品は長い間容易に出現しなかった。

綜合保健活動と医学教育

著者: 北博正

ページ範囲:P.443 - P.446

■はじめに
 綜合保健活動というものを,医師をはじめ種々のパラメジカルの職種の人々のチーム・ワークと考え,さらに対象集団の人々も,これに参加するものと,素朴に考えた場合,この活動における医師の立場,ないしは役割というものをまず考えてみる必要がある。
 チームというからには,兵隊の位でいえば,将校あり,下士官あり,また,手足となって働らく兵隊もいるわけであるが,この際,医師が将校の位にあるということは,まず異論はあるまいが,チームのリーダーまたはキャプテンかどうかということになると,種々の考え方が出てくる。たとえば保健所活動というものを考えてみた場合,所長は法律によって,一定の条件の医師であることが規定されているが,現状では,保健所勤務医師の質・量の関係から,必らずしも医師である必要はあるまいという議論が,パラメジカル職種や事務系職員の問におこってきており,今後,保健学科卒業生が育ってくると,この意見はさらに強まってくるだろう。

綜合保健活動と教育機関—東京大学における新しい試み—その現状と将来像

著者: 島薗順雄

ページ範囲:P.447 - P.451

■保健学科開設の趣旨と経過
 本年4月から,東京大学医学部に保健学科が設置され,また大学院保健学専門課程が開設された機会に,設立の構想,経過と将来像について,医学部長および人学院系の委員長としてその開設計画の衝に当った私に執筆の依頼があったので,ここに大要を記すこととした。
 私どもは医学教育の改善と向上のために種々の方策を検討してきたが,現在では傷病の予防や健康の保持増進が医学においてその比重を増しつつあることを認めざるを得ない。医学科が一本の授業を行っている現状では,保健学専門家に対する現代社会のこの要請をみたすために,医学科とは別に保健学科を設けることが必要であると考える。医学科は臨床医学と基礎医学との教育に重点を置いているので,その4年間の課程では保健学の専門家を養成するのに十分な授業を課することはできない。医学科卒業後,保健学を専攻させるためには,大学院教育を必要とするが,学部教育6年ののちに更に保健学の大学院課程をおいて系統的に専門の教育を行うことは,わが国の現状では多数の専門家養成のためには困難が多い。むしろ大学教育4年間で一応の保健学の専門を身につけさせた上で,大学院希望者のために保健学修士課程,博士課程に進み得る道を開いておくのがよいと考える。

綜合保健活動と教育機関—北里大学における新しい試み—その現状と将来像

著者: 沼田岳二

ページ範囲:P.452 - P.459

■まえがき
 北里研究所が研究の場であり,またワクチン製造所であることは知られているが,戦前数十年にわたって純然たる保健従事者養成所としての一面を持っていたことを知る人は今日極めて少ないと考える。北里柴三郎は伝染病研究所長時代に細菌学を主とする公衆衛生学の学理と実技に関する講習会を開き,年々多数の卒業者を世に出していたがこの講習会は北里研究所創立後も全く同じ形で継続され,支那事変迄続けられた。聴講生は医師を主とし,他に歯科医師,獣医師を対象としたかなり高度のもので,今日のpost graduateの教育であった。
 その後時代の推移と共に単なる伝染病予防を目的とする講習会は次第にその存在理由を失うと共に,支那事変などのため廃止するに至ったが,公衆衛生学の啓蒙あるいは教育方面に関する意志は連綿として流れていた。このことは生前において慶応義塾大学医学として現れたが,その没後も昭和32年に2年コースの北里衛生科学専門学院が創立され,これは往時の講習会が再現したと見られるもので,続いて37年には4年制の新制大学である北里大学衛生学部となり,更に39年には薬学部が新設されるに至った。以上,北研がかかる学部を創立した事は偶然でなく,由って来たるところは北研に流れている公衆衛生学教育に対する熱意に他ならないと了承されたい。

綜合保健活動と教育機関—順天堂大学における新しい試み—その現状と将来像

著者: 山本幹夫 ,   沢口進

ページ範囲:P.460 - P.465

■まえがき
 公衆衛生は戦後特に目覚しい成果を挙げているが,一方急激な生活構造の変化に伴って新たな保健上の問題が惹起され,それとともに保健関係者の量と質の再検討が緊急の課題として取り上げられるようになった1)。しかしながら,ここできわめて重要なことは橋本らも指摘するごとく2),新しいものと古いものとの二重三重の構造を有する日本の社会では,新しい問題の根底に常に古い問題があることである。新しい問題に対する対策は,従来の基礎的一般的な問題に対する十分な対策を前提としなければならない。確かに社会はcultural-lagと歴史的に連続と非連続の複雑な断層を持っている3)
 諸個人や各種の集団に対し合理的な保健活動を行うためには,社会に刻するこのような認識とそれを透徹する技術を有するものを幾種類も確保することである。それゆえに集団並びにCommunity-sideに活躍の舞台がある保健従事者は,単一原因を分析的に追求する旧来の医学教育では不十分で,多元的に要因追求をし,綜合化しうる方法と技術を修得していなければ効果を期待し得ない。そのためには,先ず第一に将来的見地に立って保健活動に従事する「人」の教育,訓練体系が整備・拡充されることである。幸に昭和37年「公衆衛生教育制度調査委員会」から各種の保健関係従事者養成のための教育カリキュラムに関する青写真が示されている4))

環境衛生分野の技術者

著者: 庄司光

ページ範囲:P.466 - P.470

■環境衛生分野の技術者の需要
 わが国における環境衛生の本格的な発足は清掃法(1954),水道法(1957),下水道法(1958),水道保全法(1959),などの法律の制定の時期であり,ややおくれてばい煙規制法(1962)の制定をみた。質的には環境衛生はEngland and Walesにくらべて約1世紀のおくれがある1)。第2次大戦後,都市化,工業化の進展,人口都市集中に伴って上下水道,汚物処理,公害対策に対するsocial needsが急激に増大し,生活環境施設のための公共投資が行われるようになったが,これを担当する技術者の問題は抜本的な対策が未だに講じられていない。
 Smilli, W. G. は環境衛生の機能として,(1)安全で適当な給水,(2)し尿の適当な処分,(3)安全で適当な食糧の供給,(4)じん芥および廃物の処理,(5)環境の清潔,(6)住宅および都市計画,(7)事故に対する人命救護対策,(8)疾病伝播の媒介源の取締をあげている2)。環境衛生分野の技術者の職場は官庁,地方自治体企業などこに広く分布しているが,衛生行政の分野を例にとって業務内容を検討してみる。環境衛生関係職員の業務,とくに衛生監視活動の範囲には,清掃(汚物処理)の企画,監視,指導,上水道および飲料水の監視,公害防止などの機能が含まれるが環境衛生あるいは衛生工学の高度の知識と技術が要求される。衛生工学は環境衛生の中核でおるといっても過言ではない。

衛生教育従事者

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.471 - P.473

■綜合保健活動と衛生教育
 はじめに,衛生教育とは具体的にいってどういうことか,また,綜合保健活動とはどういう関係になるかといった点について考えてみよう。その考え方によって,衛生教育従事者の任務などが変ってくるからである。
 およそ,われわれの仕事は,個人や集団の健康状態を改善したり,向上したりすることであるが,それには,いろいろな手段が考えられる。生活保護,医療保護あるいは殺虫剤の無料配布などのように,経済的な援助をするのもその1つであろうし,技術的なサービスの提供もあるし,法的な手段を講ずることもある。そういう手段の1つとして,衛生教育すなわち教育的・啓蒙的な手段がある。その意味では,衛生教育も保健衛生の向上を図るための1つの手段にすぎず,衛生教育そのものが目的なのではない。こういった点が,学校教育などと,われわれがする衛生教育との,大きな相違ではないかと思う。しかし,衛生教育が手段の1つであるといっても,他の手段とは多少異なっている。かりに経済援助や技術サービスがなされても,対象が保健衛生上の問題を認識し,自覚しているのでなければ,お金も,サービスも正しく利用されずに終ってしまう。従って,衛生教育は先行しなければならぬものであり,また,基礎的で不可欠なものといえよう。

医療社会事業技術職員

著者: 村山午朔

ページ範囲:P.474 - P.475

■わが国の医療社会事業従事者養成の現状
 社団法人日本医療社会事業協会では,吉田ますみ副会長が医療ソーシャルワーカーの教育を担当しておられるが,この仕事に特に関心をもっている一医師として,意見を述べてみたい。
 わが国の現状では,医療ソーシャルワーカーの身分並びに教育制度は,まだ確立していないので,一般にその教養は低いという批判を聞かぬでもない。専任のソーシャルワーカーでも,7〜8割位までは,保健所,病院などの保健婦,看護婦,事務職員などから厚生省などが主催する2〜3カ月の医療社会事業従事者養成講習会における養成課程を経たもので占めている。そして近年ようやく各地の大学または短期大学で,社会福祉に関する学科を修めて卒業したものが相当就職するようになってきたことは喜ばしいことである。しかしこうした大学卒業者も,現状では社会福祉学科を修得したというだけで,医療社会事業に必要な医学その他の専門科目を修めていないのですぐ仕事にならず,悩んでいる岩い人々が少くない。わが国の特異な現象かあるいは医師の理解の不足によるというか,兼務でやっている医療社会事業従事者がすこぶる多い現状である。これらの中にも一部優秀な専務者に等しい人もいるが,この仕事が兼務でできるようななまやさしい仕事ではなく医療社会事業に対する教養の程度も論外であり,こうした兼務者の多いことによって,かえってわが国の医療社会事業の進展を妨げているといってもよい。

リハビリテーション技術者

著者: 吉田寿三郎

ページ範囲:P.476 - P.478

■綜合保健活動とリハビリテーション技術者
 綜合保健活動の引きあいに,リハビリテーション(以下「リ」と略す)技術者が保健従事者の一員として取扱われるようになったこと自体は,次記のように,まことに正鵠を得た見解である。というのは,予防医学も治療医学も及ばないために生じた心身障害者の生命が,ことに感染症制圧の成功によって,著しく延長された今日,綜合保健活動は「リ」を加えることによって初めて完結できるからである。ただ,残念なことは,日本の現状は一般医療サービスすら体系ある組織的な活動になっていないし,まして「リ」を含んだ綜合保健活動を語るにはほど遠い感じがする。ところが,このような状勢を尻目に最近の10〜20年間に,疾病の牙は量質ともに大きく変化してきた。西欧の例を引くまでもなく,この変化に対応しては当然保健活動には治療医学や「リ」医学を含まなければならないし,また機能上高度の分化が行われ,分担が明確化される必要がある。この高度の分業を前提として,綜合保健活動の完結性というような問題がはじめて切出される立場が開けてくるはずである。この場合「リ」は内容的には,病的なプロセスが固定した身障だけでなく,これが大なり小なり併存し,また進行していることもあって,障害はつねに増悪の可能性を孕んでいる。その上,老弱も加わって生理的なプロセスも減退してくる。

主題参加 綜合保健活動と保健従事者のありかた

専門分野の確立とその相互理解こそが鍵

著者: 大平昌彦

ページ範囲:P.479 - P.480

綜合保健活動とは
 最初に,綜合保健活動ということばが,正確にどう規定されるかということが問題であろうが,一応われわれ国民の健康を保持し,さらに増進させるために,あらゆる関連性のある仕事をしているもの,すなわちその従事者がみんなで目的達成のために協力して活動することであると解釈する。

専門的な環境衛生技術者の養成が急務

著者: 緒方一喜

ページ範囲:P.480 - P.481

環境衛生従事者のわが国の現状
 つい先頃の厚生省の調査によると,全国の環境衛生関係職員の数は約6,900名にのぼる。その内訳をみると獣医師が約40.7%,薬剤師が約16.0%で,両者合わせて約56.7%を占めている。外国のことはあまり知らないが,環境衛生行政従事者の大半を獣医,薬剤師が占めているということは,他に例のない日本の特殊事情であろう。ある外人がこの実状を聞いて驚き,その不可思議さをついに理解できなかったということがある。われわれは馴れっこになっているので,日常別に気になっていないがあらたまって考えてみると,やはりそのいびつな姿には釈然としないものがある。歴史的経過や現状からみれば,それは最も妥当な自然な姿であるかもしれないが,望ましい形態であるとは誰も考えていないであろう。それぞれ,獣医・薬学の領域で働くのが本筋のはずである。それが,ほとんど関係のないといったらいい過ぎかもしれないが,あまり関係のない環境衛生の領域で働くというのは,せっかくの学校教育が無駄になるということもあるが,環境衛生発展のための健全な姿ではない。

メディカル・ケース・ワーカーとの連繋が必要

著者: 鹿野松

ページ範囲:P.481 - P.482

保健指導の重要性
 綜合保健活動の中で,個人,家族に対する保健指導の重要性を痛感するので,保健婦としてこのことを中心にして考えてみた。
 病院にいる患者が健康を回復したり,あるいは社会生活が可能な状態になって社会に帰されても,同じ疾患で再び入院してくる場合が多い。このことは綜合保健活動の目指していることからみて,非常に考えさせられる問題である。このようなケースは結核その他の慢性疾患に多くみられると思うが,現状では,保健所保健婦の家庭訪問は結核,乳児,妊産婦,未熟児などに多くなされ,慢性疾患々者の退院後の指導はほとんど行われていないのが実情である。病院と保健所との連絡もなく,何よりも,保健婦の人員の上からも現状で手一杯というところであろう。外国では公立あるいは私立機関で訪問看護事業が行われているようであるが,わが国でも綜合保健活動を推進してゆく上にこの種のサービスについて考えられてよいのではないだろうか。

保健所の主体的な活動の強化を

著者: 石田一郎

ページ範囲:P.482 - P.483

綜合保健活動の萠芽と推進
 1人の人間がこの世に生をうけ波乱の多い生活をおくって,やがて死をもってその生涯を閉じるまで,くり返される人間の歴史は人類が地上に生命をえてより有名無名はべつとして限りのないものである。しかし,その個体を肉体的・精神的に健康を維持増進したいという欲求は古今をとわず共通のものであり,さらに社会の形成と発展とに伴って個体の健康維持には社会的な努力の必要なことを悟った。保健活動の基盤はここに萠芽していると考える。とにかく人と生れた以上は人間のもっている健康と能力とを十分発揮したいのであり,この障害となるものは不健康な各種の条件と生物としてもっている寿命とか老化とかいうものであろう。古代の帝王が最後に到達する欲望は不老長寿の秘薬であったことでも想像できる。ところが不健康の条件のうち個体の苦痛や能力の障害を自覚しうるものについては,その改善の要求があり排除の行動にでている。たとえば最近の「アンプル入り風邪薬禍」を頂点とする大衆薬の爆発的なブームである。これはマスコミの普及と,その巧妙なP.R.,技術によって健康に対する大衆の欲求にアピールしたためであろう。大衆が自分の健康の保持増進にたいして,いかに大きな関心と行動のエネルギーとをもっているかがわかる。

国家のきめ細かい衛生行政を

著者: 鈴木平三郎

ページ範囲:P.483 - P.484

三鷹市における公衆衛生活動
 保健所の設置を許されない公共団体の保健活動は一切都道府県立保健所の連絡の下に,限られた部分の活動しかできない。私どもには公衆衛生に関する取締権も指導権もなく,また保健活動を行うべき何の施設もなく,保健婦以外の専門職員も持たない。かかる状態であるのに市民は保健行政のすべてが市長にあると思い,その要求は極めてきびしい。市民に釈明しても納得しないので,この苦しい立場の下で懸命に努力しているのが現状である。人口10万人に対し,保健所1ヵ所の原則に従い,政令を改正して人口10万人以上の公共団体に対しては,保健所の設置を命じ,市民の保健に対し直接責任を持つ市長の指揮下に保健所を置くべきである。当市で行っている公衆衛生に関する業務は大約して下記のとおりである。
 ①母子衛生:母子手帳交付,母親学級,乳幼児保健指導および健康診断(常設)家族計画教育の実施。

人籟

松香私志—抄出

著者: 長与専斎

ページ範囲:P.429 - P.429

〔4〕
 本邦の医師は中古以来父子師弟相伝承して一家の私業となり考試の制とてもなかりければ,医制を創定するに当り,先づ試験の法を設けて其の資格を一定するは差当りたる急務にして擱くべきに非ざれども,全国三万有余の漢法医は皆深く其の家学を崇信し,西洋の事物といへばおしなべて忌み嫌ふこと頑固なる宗教信徒の如し。今若し急に西洋流の学科を以て試験法を設けたらんには信念の執着のみならず営業上の不利をも招くべければ,全国医師の苦情を醸さん事必然なり。物論頗る喧しくて深く心を悩ましたりけれども,此大本定まらざる限りは医務衛生の百般の事手を下すに由なく到底止むべきことにあらざれば,寧ろ速に断行して先づ大勢を制するに如かずと心を決し,八年二月其端緒を啓くこととなりぬ。即ち物理,化学,解剖,生理,病理,内外科及薬剤学の大意を試験の科目として之を掲げ,今後新たに医術を開業せんとするものには府庁の病院に於て試験を遂げしめ,其の成績を具状して免状を受け受験者に交附すべし,而して従来開業の医師は試験を要せず其儘に免状を与えて開業を許すべき旨,文部省より東京,京都,大阪の三府に達せられたり。
 明くる九年の一月には更に内務省の達を以て試験法を普く各県に施行することとなりぬ。

連載講座 公害・3

大気汚染

著者: 松吉康夫

ページ範囲:P.486 - P.489

 公害問題がこの数年急速にクローズアップされた背景には,経済の高度成長,人口の都市集中などをあげねばなるまい、しかし,公害問題が特に一般国民の関心の的になったのは,大気汚染によりわれわれの健康が徐々にむしばまれているという衛生関係者の警告に負うところが多いといっても過言ではあるまい。1962年のロンドンスモッグ事件を契機とし,四日市問題,東京,大阪のスモッグが連日のようにマスコミをにぎわしたのは,それまでの例が主として産業間のトラブルであり,当事者以外の者にとっては対岸の火事視するきらいがあったのと異り,全市民の問題として考えねばならなくなったところに起因するところ大なるものがあろう。しかも白覚的には被害認識が浅いという点に大気汚染の騒音,悪臭などとの大きな相異がある。もちろん,公害防止の観点からいって大気汚染であれ,あるいは水質汚濁,騒音振動,地盤沈下であれ,その重要性に甲,乙があるわけではない。にもかかわらず,大気汚染問題は公衆衛生の分野がらみて,とくに重要な意味をもっている。大気汚染の問題は,気象学,医学,分析化学,工学などあらゆる分野の専門知識を必要とし拡散,影響,除じん装置などそのどの一つをとっても重要であり,しかも奥行が深く,とうてい満足を得るような記述は筆者の能力の及ぶところではない。筆者は公害行政にたずさわる者として,ざっと表面のみ述べることとする。

時事内報 NEWSLETTER

清掃法の一部改正

著者:

ページ範囲:P.485 - P.485

 先の第48回国会において清掃法の一部が改正された。その要点は次のとおりである。
 (1)生活環境の清潔保持についての関係者の責務の明確化.生活環境の浄化は国および都道府県,市町村など地方公共団体の努力はもちろんのことであるが,国民1人1人が日常生活でおのおのの立場において責任をはたすことによって達成されるものである。今回の法改正ではこの点が明確化され,新たに公園,広場,道路,河川,港湾など公共の場所を利用する者は,これらの場所を汚さないよう努めなければならないこと,これら公共の場所を管理する者は,その清潔を保つよう努めなければならないことが規定された。(法第5条第2項,第3項)また従来運行中の列車便所によって生ずる環境汚染の問題が,各方面から提起されていたが,今回の法改正によって特別清掃地域(季節的清掃地域についても準用)内において便所が設けられている車両を運行する者は,当該便所によう屎尿を環境衛生上支障が生じないように処理することに努めなければならないことが規定され(法第5条第4項),軌道附近の市街地などの環境衛生におよぼす影響がとくに考慮されている。

モニターレポート

3才児健康診査実施す

著者:

ページ範囲:P.478 - P.478

 昭和36年,児童福祉法により3歳児健康診査が実施されるようになってからすでに5年。その間いろいろの問題点もあり,各保健所でも,種々検討されてきたし,日本公衆衛生学会や小児保健研究会でもシンポジウムでとりあげられたり,多くの発表がなされてきた。岐阜市でも,最初は,とまどいしながらも何とか厚生省の指示によって実施してきたが,毎年反省するたびに,各項目で難点にぶつかり,どうも,すっきりしない。そこで本年は実施を前に2〜3回関係者で検討した結果,該当者の一部は遠城寺式"乳幼児分析的発達検査表"を追加し,またある一部のものには,公衆衛生第29巻第5号に掲載された愛知県城山精神衛生相談所児童研究班の"3歳児健康診査票の一試案"にもとついて,従来の検診票より,よりくわしい診査票により実施してみた。これは岐阜市中央保健所管内の3歳児が約5,000人そのうち受診予定数を約2,000とすると全員に到底,精密な検診は出来ないため,一部のもののみに限って実施したわけである。実施期間は5月31日より6月12日までの12日間,従事した人員は,毎日,医師2名,歯科医師1名,保健婦12名,助産婦6名,栄養士2名,歯科医師助手1名,計24名であった。
 従来までは,診査票の内容はすべて,事務員や助産婦が問診しながら,書きこんでいたが,本年は,項目をなるべく,わかりやすく印刷して出来るだけ母親に記入させる方式をとった。

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佐藤徳郎博士を偲ぶ

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.470 - P.470

 大阪出張中に佐藤徳郎博士の訃報に接した。社の座談会などで,例の周到な,粘着力のある発言に接していただけに,一瞬信じられないような気持であった。
 本誌「公衆衛生」は,随分先生のお世話になった。「公衆衛生」の前身はA5判の「公衆衛生学雑誌」である。この雑誌は,どちらかといえば原著雑誌の性格が強かったが,それをもう少し幅広く編集しようというので監修に三木行治,田宮猛雄,斎藤潔の3先生をいただいて改革を行なった。そして石垣純二,館林宣夫,豊川行平,田多井吉之介博士の編集スタツフがきまった。田多井博士の外遊に際し後任として佐藤徳郎博士が推されたのである。現在のようにB5判の雑誌になって,依頼原稿を主とした主体的な企画が進行するようになったのはその切りかえの頃からである。編集会議は談論風発,夜おそくまでかかることがしばしばであった。天馬空を行くような企画,鋭角的な狙い,一般ジャーナリズムに近いような啓蒙性,さまざまな個性的な発言のなかにあって佐藤博士は終始,じっくりと学問的な態度に粘着して,静かに説得力のあるアイデアを出されていたことが,強く印象に残っている。編集会議は,特定の酒仙も居ったが,むしろ大ヤカン1杯(ある編集委員はバケツ1杯と称した)のお茶を飲みつくすような雰囲気であった。

NEWS REFERENCES in June '65

ページ範囲:P.490 - P.491

医療費問題,東京高裁が地裁決定を取消す高裁が厚相の即時抗告を認める決定を下したため,医療費2本立てをめぐる混乱は新料金1本ということで一応終ることになった。但し,高裁は職権告示の有効無効についての判断は本訴にゆずって触れず,本訴の結果新旧料金差額返還の必要がおきてもそれは可能であるから,効力停止決定に必要な緊急の必要性無し,という立場である。(1日・朝)
厚生省直ちに高裁決定の趣旨を各都道府県,関係団体に通達 (1日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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