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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生3巻5号

1948年03月発行

雑誌目次

論説

公衆衞生學の一つの行き方

著者: 吉川春壽

ページ範囲:P.223 - P.225

 公衆衞生には,調査をしてその結果を統計學的にまとめあげるという仕事が,非常に大切なこととされてゐる。わたくしたちは,これによつて現状を正しくつかみ,その事實にもとづいて有效適切な對策を講ずることが出來るのである。このようなわけで,正しい調査は公衆衛生にとつて第一段階なのである。この第一段階を踏みあやまるか,あるいはいゝ加減にごま化しておくと,それからとんでもない結論が出てしまつて,對策のたてようもなくなる。現實をまちがいなく把握するということは,何も公衆衞生に限つたことではなく,あらゆる學問に共通な根本的の要點であるが,公衆衛生ではその結果でひろく一般公衆の健康ということに直接ひびいて來るのだから,實際上の問題としてますます念を入れなければならないところである。
 調査にはいろいろの方法があろうが,一番大切なのは計測ということであろう。體重,身長のようにきはめて簡単にはかれるものから,上下水の細菌學的・化學的の檢査とか,呼吸ガスの分析とかのように相當進んだ技術を要するものまで,公衆衛生擔當者のしなければならない計測の種類はなかなか多い。ことに調査對象が大規模となることが多いので,多數の計測を比較的短い期間にすませてしまはなければならないという制約があつて,いろいろと苦心せねばならない。

原著

昭和21年春期の東京都に於ける發疹チフス流行の疫學的觀察(續報)

著者: 山下章

ページ範囲:P.226 - P.244

序言
 余は曩に昭和21年春東京都に流行した發疹チフスの疫學的調査觀察を行つて,其の成績を豫報した。其の後本調査資料に更に分析檢討を加へて二,三の新知見を得,其の後の都内の流行状況,比較資料及び關係文獻と對比考察を加へたので,茲にこれ等の結果を報告し,識者の高教を乞ひ,且つ將來の防疫對策に資し度いと思う。

研究と資料

東京に於ける乳兒結核

著者: 立川淸

ページ範囲:P.245 - P.248

 東京都衞生局では1947年(昭和22年)4月から死因統計を始めたが,それによると東京都區部における4月から9月までの結核死亡は第1表および第1圖B. Dの通りである(全國の傾向は第2表および第1圖C. E)。この半ケ年間の結核死亡を2倍したものを年間の死亡數と見做して,年齢別死亡率を計算してみると,第3表および第2-3圖の如くになる。これを1935年(昭和10年および1940年(昭和15年)と比較すると,男女とも20歳以上では死亡率は大差なく,5-19歳では死亡率が低くなく,0-4歳では約2倍の高率に昇つている。渡邊定博士の計算によると,全國でも乳幼兒の結核死亡率はやはり増加の傾向を示している(第2−3圖)。
 しかし4月−9月の6ケ月を2倍したものを年間の死亡と見做すことは正しいだろうか。4月−9月は結核死亡の多い季節ではなかろうか。1939−41年の東京市の月別結核死亡は第4表および第1圖Aの如くである。4-9月は年間に對し,男では49.73%±0.44,女では51.01%±0.46にあたつている。從つて4-9月の結核死亡の2倍をもつて年間の死亡數と見做して差支へないと思われる。たゞしこれは戦前の季節的變動であつて戰後の,季節的變動は趣きを異にするとも考へられる。現に4-9月の全年齢の結核死亡の推移は1939-41年とは甚だしく異つている。

ヴィダール反應實施上の一卑見

著者: 鈴木武夫 ,   戸邊政一 ,   西堀篤

ページ範囲:P.248 - P.251

緒論
 ヴィダール反應の陽性を以て腸チフスパラチフスの診斷を下す事は,該反應が發病後早期に表われぬ事に依り迅速を缺き,且豫防接種の影響を受ける點,個人差のある事,其の他種々の熱性疾患(特に結核性疾患)に屡々表れる點等に依り診斷の的確さに缺けることは先人より屡々指摘されて居るところである。腸チフス,パラチフスの迅速且つ確實な診斷を下す事は,防疫上治療上特に重要な問題であるので成書にもある如く血液中の菌檢出に力を注ぎ状況止む得ざる時にヴィダール反應を2囘以上行うべきである。然るに當所に送附された該病に關する1ケ年間の可檢物858件の中82%(704件)はヴィダール反應のみの依頼である。夫れが爲吾々はヴィダール反應の陽性か陰性かが該疾患の診斷に對し實際上如何なる價値を有つかに疑ひを持つて居た所に厚生省のヴィダール指針が發表されたので我々は昨年10月より1ケ年間に亙り,夫等の可檢物に就て實験を行つた結果,ヴィダール反應と菌檢出との關係を聊か明かにする事が出來たので卑見を述べて大方の批判を乞う次第である。

黴毒血清診斷法比較實驗成績に就て—厚生省生物學的製劑等基準調査委員會 性病專門部會

著者: 中村敬三

ページ範囲:P.251 - P.256

 生物學的製劑に就ては,その製造の基準を決定すると共に,國家檢定を施行すべしとの要望が豫てから識者の間にあつたのであるが,この氣運が熟して,昭和22年11月29日付厚生省令第32號を以て,生物學的製劑製造檢定規則の決定公布を見るに至つた。
 政府に於てはこれより先き生物學的製劑等基準調査委員會の官制を制定し,その中に各専門部會を設置して基準の審議に當らしめたのであるが,こゝに生物學的製劑といわれるものは,『病原微生物を使用し,又は免疫理論を應用して製造する疾病の豫防,治療若しくは診斷に關する醫薬品及び厚生大臣の定めるものをいう』と定義せられたもので,それには20品目が擧げられている。そしてその20番目に性病診斷液なるものがある。

農村赤痢の對策

著者: 大久保正一

ページ範囲:P.256 - P.262

I.緒言
 本研究は農村赤痢の實情を述べて,次にその對策を考察するのが目的である。
 赤痢は傅染病であるから人から人に移る。これは都市でも農村でも同様に行われる。ところが人間が營む生活方法は,都市と農村では風俗習慣の差違があつて異る。つまり農村赤痢はその生活様式の特異性によつて色々違つた模樣を示す。

論述

日本に於ける公衆衞生—昭和23年1月9日公衆衞生院においての講演要旨

著者: C. F. サムス

ページ範囲:P.263 - P.267

 善き公衆衞生の計畫は4つの基礎の上におかれるものである。從來公衆衞生とは此の4つの基礎の上にではなく,唯一つの單純な基礎の上におかれておつた。すなわち過去に於て公衆衞生ということは,或る組織體團體の協力において或る群に對する豫防醫學の應用であると考えられていたのであつた。
 之は公衆衞生に關して極めて限局されたかたちのものであり,かつ視野の極めて狹きものであつた。すなわち一つの壁で家を建てようとすると同樣のものであつた。近世の公衆衞生は,よく組織立つた公衆衞生に關する計劃は,四邊に壁あり,或は四つの確かりした基礎を有するものでなければならぬと考える。從つて吾人は之等の四つの重要なる場面を考える。

公衆衞生關係者のため口腔衞生學

著者: 正木正

ページ範囲:P.267 - P.271

 W. T. SedgewickはC. E. Turner.:Hygiene,Dental and General,1923の序文の中に"齒を科學的に注意する齒科衞生學はすべての衞生學の基礎の一つである。齒科衞生學は一般衞生學の一部門に過ぎない"といつているが,また齒科衞生學は公衆衞生學の一部分で,アメリカでは口腔衞生學として公衆衞生學の分科の内では小兒衞生學の一部に含まれている。
 口腔衞生學Oral hygiene(Mouth health)は齒科衞生學Dental hygeineと同意義語に用いられ,豫防齒科學Preventive dentistry(Prophylactodontia)とも呼ばれている。

屎尿の化學的處理について

著者: 玉城仁 ,   川畑愛義

ページ範囲:P.271 - P.276

おたずね
 拜啓,ぶしつけながら突然書面をさしあげる失禮をお許し下さい,私は現在日立保健所に勤務している醫師でございますが,先生のあらわされた『實用環境衞生學』中223ページ,屎尿の終末處分法の化學的處理方法,硫酸を用いる方法をくわしく御教示いたゞきたいと存じます。
 申上げるまでもなく,たゞ今蛔蟲による被害は相當深刻なものがございます。が,この對策として,すぐれた驅蟲藥をあつせんすることは必要なことでございますが,いかにサントニンを用いても,この食糧事情,肥料事情ではどぶにダイヤモンドを投じるのと同じではないかと思います。しかし,各家庭或いは共同肥料つぼで貯留消化法をおこなうにも,セメント等資材の點,長期間貯留しなければならない點で實行困難でございます。ところが,幸い當地には日立鑛山から硫酸が生産されております,加うるに鑛山は耕地がなく野菜を他から求めなければならないのですが,町に出るには比較的容易でも市の周邊に農村が少く,汽車で買出しに出歩くという有様でございます,又,鑛山の上になれば上になる程人工榮養兒が多く,發育不良兒も多いという現状で全く同情にたえないのですが,若し硫酸による乾燥法で肥料が出來ればこれとリンク制にでもして野菜を入手させることも困難ではないと存じます。現に,1日平均27石4斗の屎尿を汲取つて,それを貯留槽に投じて一定期間の後川に放流しているのでございまして,もつたいない限りでございます。

杉並モデル保健所の紹介

著者: 酒井威

ページ範囲:P.276 - P.277

 緑の園に圍まれた小綺麗な住宅,良く整理清掃された明るい窓,科學的に調和の取れた榮養,避け得る限りの疾病に常に豫防措置を講じて安んじて勤勞に勤しむ健康家庭。凡そ互に他の爲に衞生責任を自覺して働く事は,民主文化の眞の礎である。戰後の日本の現状は正に自棄頽廢不衞生なる,呶令を俟つ迄もなく憂に餘る所であつた。
 昭和23年3月15日に東京都杉並區の一角に連合軍將校が一堂に會した席上,總司令部のサムス代將は,物靜かな講義の中にも誠意と熱意とを充たしつゝ,次の如き意味の言葉に花を飾つたのであつた。

紹介

産業衞生要綱便覧—第2囘

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.278 - P.281

醫療部の任務
1.原因の如何を問わず作業中負傷したり,病氣になつた者の應急處置
2.業務上の疾病又は災害による患者の繼續治療

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ニユース

ページ範囲:P.281 - P.282

模範保健所の設置
 衞生行政機構の強化擴充の一環として,保健所の機構機能と劃期的に整備することになり,さきに行われた東京都杉並モデル保健所における講習會の展示内容を基礎として,各都道府縣においても保健所一ケ所を選定して,模範保健所として早急に整備することになつたが,それぞれ7月初旬に發足の豫定。なお,その他の全保健所は向う3ヶ年計畫で,順次,模範保健所と同様に擴充整備の豫定。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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