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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生3巻6号

1948年04月発行

雑誌目次

總説

勞働衞生と産業復興

著者: 勝木新次

ページ範囲:P.285 - P.289

(1)
 最近私の同僚はある被鉛電線工場從業員の鉛中毒に就いて調査を行つた。同工場の勞働組合が有害作業であることを理由として特別の手當支給を要求し,工場側と勞組側とでこの作業の有害度について見解を異にしたため,問題を科學的な調査の結果に基いて解決するため私共の方へ調査を依頼して來たのである。調査の結果を要約すると,この工場で鉛が粉塵として發散するのは主として熔融釜の酸化鉛であり,ここでは鉛蒸氣の發生も考慮せられる。他の部署の鉛塵は特に問題とするほどでなく,全體として工場内の空氣中鉛量は恕限度以下と思われる。勞働者について詳細な檢査を行つた結果では,蒼白,鉛縁,ポルフイリン尿を示すものはなかつたが,鹽基性顆粒赤血球を示すものが52名中6名あり,血中鉛量が鉛中毒者と認むべき量即ち100cc中60γ以上の者が27名中4名あつた。彼等のうち自覺的に神經症状を訴えるものが相當あつたが血中鉛量の相關は明らかでなかつた。その他の所見については省略する。要するにこの工場には著明な鉛中毒は見られないが,鉛の害作用は明らかに認められ,それは鉛塵の發散の多い部署ほど明らかで,直接鉛を取扱はない作業部署でも鉛塵の流れ漂つて來ると思われるところでは矢張勞働者の血中鉛量は正常値より高かつたのである。
 此の工場でかような結果を來してゐる原因としては,勿論第一に鉛塵の發散防止乃至除去が不充分というよりも全然考えられてゐない状態にあることを擧げねばならない。

原著

BCGの人體接種によるKoch現象に就て

著者: 大八木重郎

ページ範囲:P.290 - P.298

緒言
 1891年Robert Kochが發表した次の如き事柄が後日人々によつてKoch現象,或はKochの基礎實驗と稱へられ結核アレルギー乃至結核免疫の一表現として重要な事柄となつて來た。即ち未だ結核に感染せざる健康天竺鼠の皮膚に結核菌の純培養を接種しても直ぐ接種創は閉鎖し,數日位で一應治癒した様に見えるが,10日乃至2週間を經て,漸やく硬結を作り始め,間もなく破れて潰瘍を形成する。そしてその天竺鼠が全身結核で斃れる迄その潰瘍は治らずに終る。一方既に結核に罹かつた天竺鼠に同様結核菌を接種すれば,上記の場合と全く違つた關係を示し,就中4-6週位前に豫め充分なる量を接種した動物が最も都合良いが,斯様な動物に再接種すれば,接種創は直ちに閉鎖するが,一定の時日を經ることなく,接種翌日即ち接種後第2日目に既に特異なる局所反應を現はし硬結を觸れ,暗赤色を呈し,それが接種個所の周圍0.5-1cmの範圍に擴がる.なお續いて2, 3日は益々著明となり,遂にその部の皮膚は壊死に陷り脱落し,扁平なる潰瘍を形成する。併し通常その潰瘍は速かに且つ永久的に治癒し得る。そしてこの場合隣接淋巴腺は侵されない.要言すれば,結核菌に對する個體の反應が健康天竺鼠と結核天竺鼠とで可成り違つて現はれることである。この現象は專ら生菌に限らず,死菌の場合でも,同様著明に起り得るものである。

研究と資料

新制腸チフスワクチンに依る豫防注射の副反應に就て

著者: 金光正次

ページ範囲:P.299 - P.302

 昨年全國的に行われた新制ワクチンに依る腸チフス豫防注射に際して,私も約1300名に豫防注射を行つた。ワクチンの注射量に就ては,厚生省から體重別に細かく規定されている。即ち體重35kg迄は第1囘0.25cc,以後5kgを増す毎に0.05ccを増量し,55kg以上は第1囘0.5cc,第2,3囘は第1囘の2倍量と定められている。此の様に注射量が體重に依つて細かく規定されたのは,他にも理由があるかも知れないが,ワクチンの注射に伴う副反應に堪え得る範圍で,成る可く大量を注射させると云う意味が含まれていると推測される。併し私の今囘の經驗では,副反應の現われ方は從來の場合に比べて必ずしも輕いとは感じられなかつた。特に壮年期の男子に於ては.第1囘注射の反應の爲に,第2囘以後の注射を忌避する傾向が見られ,所定の注射を完了するのに少からぬ困難を感じた。次にその成績の概要を報告する。

金澤地方に於ける蠅の研究

著者: 伊與雄二

ページ範囲:P.303 - P.307

第1章 家屋内に侵入し來る蠅の種類
 常住性のものに家蠅・姫家蠅・猩々蠅があり,屡々侵入し來るものに大家蠅・肉蠅・姫肉蠅・金蠅・大金蠅・黒蠅があり,甚だ稀に侵入し來るものに姫黒蠅・毛深黒蠅・刺蠅等數種ある。

生理休暇に關する知見

著者: 江口豐潔

ページ範囲:P.307 - P.317

1.緒言
 新に勞働基準法が公布確立され,母性の尊重擁護を目的とした生理休暇が勞働婦人に認められ.遂に條文化されるに至つた。抑々生理休暇は既に諸外國では認められてゐるものであるが,その條文化を見たのは今次我國に於てのものを嚆矢とするのであつて,右は全く對女子勞務者の封建性打破と,衞生厚生施設が非常に不備不完である邦家の現状に於て誠に妥當合理的な措置として欣快に堪へない次第である。
 依つて吾人は之れが實施に當つてはその萬全を期したく,先づ一般に婦女子の生理に關する知識を啓發培養の上基準法の示した生理休暇附與の精神を十分咀嚼消化して,經營者及び勞働者側相共に緊密な連繋を保持しながら勞働婦人の當該職場に於ての精神的肉體的障碍を極力排除する様努め,體位の向上健康の保持増進を圖り勤勞意慾の發揚生産の増強等に寄與する責務があると信ずる。

論述

理容師法概説

著者: 伊藤正義

ページ範囲:P.318 - P.321

 日本國憲法の施行に伴つて,理容師法は昭和22年法律第224號として12月24日官報で公布され,本年1月1日より施行された。
 從來理髪業,美容業については府縣ごとに府縣令(警察命令)を以て規定され取締られていたのであるが,理容術營業取締規則,といつた警察的な色彩から脱皮して,衞生法規として,公衆衞生の分野にクローズアツプされて來たことについて矢張り新らしい觀方がなされなければならぬであろう。

大豆粉中毒事件の對策

著者: 桑原丙午生

ページ範囲:P.321 - P.327

1.前言
 東京都において2月13日頃から,逐次,散發的・爆發的に發生したいわゆる大豆粉中毒事件は,まだその原因については今日までは(3月15日)はつきりした結末をつげてゐないが,中毒件數は2月末日までに大豆粉によるもの1,097人,パンによるもの201人,小麥粉によるもの26人計1,324人という一應の數字に上つてゐる。
 茲に,事件發生以來,吾々が今日までとつてきた措置を,業務日誌的にのべ,今後におけるこの種事件の,より良き對策について,大方諸賢の御教示を得たいと思う。

保健所のページ

昭和21年群馬縣北甘樂郡下に流行した赤痢に就て

著者: 高橋武夫 ,   大須賀きみ子 ,   稻葉宗夫

ページ範囲:P.328 - P.331

 本稿の要旨は昭和22年10月31日第1囘公衆衞生學會で報告した。
緒言
 昭和21年夏群馬縣北甘樂郡下に小幡町を中心として651名の赤痢患者發生を見たのでその概況を報告する。
 本郡は群馬縣の南西部に位し人口10,8193名,面積39,791方里・東西に延びた山間地で23町村よりなり,小幡町は之の東部に位する町で中央を小幡川が流れて居る。

公衆衞生の先驅者・4

長與專齋

著者: 高野六郎

ページ範囲:P.332 - P.336

『英米視察中醫師制度の調査に際し「サニタリー」云々「ヘルス」云々の語は屡々耳聞する所にして,伯林に來てよりも「ゲズンドハイツプレーゲ」等の語は幾度となく問答の間に現はりなりしが,初の程は唯字義の儘に解し去りて少くも心を留めざりしに,深く調査の歩も進むに從ひ,單に健康保護といへる單純なる意味にあらざることに心付き,次第に疑義を加へ,漸く穿鑿するに及びて,此に國民一般の健康保護を擔當する特種の行政組織あることを發見しぬ。是れ實に其の本源を醫學に資り,理化工學氣象統計等の諸科を包容して之を政務的に運用し,人生の危害を除き,國家の福祉を全うする所以の仕組にして,流行病傅染病の豫防は勿論,貧民の救濟,土地の清潔,上下水の引用排除,市街家屋の建築方式より藥品染料飲食物の用捨取締に至るまで,凡そ人間生活の利害に繋れるものは細大となく收拾網羅して一團の行政部をなし,「サニテーツウェーゼン」「オッフェントリヘ・ヒギエーネ」など稱して國家行政の重要機關となれるものなりき。さても醫學關係の事業にして斯る大事の目前に横はれるをも心付かす,盧山に入りて盧山を見ず,米英以來半年以上夢幻の如く泛遊しうかうか看過したることの今更に悔しくもまた恥かしく,嘆息の外なかりけり。』

海外情報及最新の文獻

1947年度米國公衆衞生協會Lasker賞受賞者,他

著者: K. H. 生

ページ範囲:P.338 - P.340

 年々米國に於ては公衆衞生に最も貢献した人々に對し本賞が贈與されその功績を讚えることになつてゐる。受賞は公衆衞生人として最大の榮譽である。1947年度は下記2團體5學者に決定表彰せられた。
1.Oswald T. Avery氏:
 肺炎雙球菌菌體成分の研究が同疾病豫防に貢獻した。

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ニユース

ページ範囲:P.341 - P.341

新しい公衆衞生關係法案
 目下,國會に上程審議中の公衆衞生關係法案の主なるもの次のごとし
 豫防接種法,性病豫防法,公衆浴場法,旅館業法,優生保護法,國民健康保險法の一部を改正する法律,醫師法,醫療法,藥事法,理容師法特例案,保健婦,助産婦,看護婦法その他である。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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