icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生30巻1号

1966年01月発行

雑誌目次

特集 社会開発と公衆衛生

社会開発は公衆衛生に何を期待するか

著者: 安倍三史

ページ範囲:P.2 - P.7

I.地域開発と経済開発と社会開発の概念
1.開発(development)の意味
 開発には積極性・事前性・計画性・公共性・投資性という5つの意味がふくまれている。開発とはルチンワーク(routin work)でもなく,問題が起ってからそれを救うためのパッチワーク(patchwork)でもなく,人間や物の能力を積極的に発見し,育て,伸ばしてゆく手段である。そしてそのためには,はっきりした計画をもち,一部の人達のたあではなく地域社会全体の人たち(community)のためになるという前提が必要である。

府県レベルの考察

著者: 北野博一

ページ範囲:P.8 - P.11

I.地域開発の中に占める社会開発の比重
 戦後10数年経って経済成長も所得倍増計画に沿って順風満帆であったが,階層間格差・地域格差はますます増大したため,地域格差の解消を目標とした国の施策とそれに呼応して各地方自治体が乗り遅れまいとすることから,日本中いたる所が開発ブームにわいたのも,つい先頃のことであった。新産業都市・工業整備特別地域・低開発地域工業開発地区などの指定をめぐって競争も華々しかったし,バラ色ムードの地域開発計画が各所で発表されたのも時代の要請であった。生産を拡大して国民の生活水準を引きあげ地域住民の幸福を願っての施策であった。
 しかし真の住民福祉は所得の増大だけで得られるものではないし,かえって地域別・階層別・職業別に格差をむしろ増大する結果をもたらすために生活上の不安や相対的貧困感が強まるという経済発展のひずみとしての社会変動の摩擦が起こり,あるいは公害の発生など,住民の福祉が阻害されるばかりでなく経済発展をも阻害する要因となるという反省が生まれ,社会開発の理念の導入となった。

人とことば

生への畏敬の倫理

著者: アルバート・シュバイツァー

ページ範囲:P.1 - P.1

 わたしの幸福をも,生への畏敬の倫理は,わたしにむざむざと与えない。わたしが無凝のよろこびにひたりたいと思う瞬間に,この倫理は,わたしが見たり推量したりした悲惨への思想をわたしの心中によびおこす。それはわたしがこうした邪魔物を追い払うことも許さない。真の倫理は不気味な教えをわたしの耳にささやく。君は幸福だ,とそれはいう。それゆえに君は多くを差し出さなければならない。君が健康,天分,能力,成功,美しい幼年時代,むつまじい家庭生活において,他の人々よりも多くを恵まれているのを,君は自明のこととして受け取ってはならない。君はそれに対して代償を払わなければならない。生命の生命に対する異常な献身を,君はなさなければならない。
 生への畏敬の倫理は学者がもっぱらその学問に生きることを,たとえその学問によってきわめて世に稗益するものがあっても,許さない。芸術家がもっぱらその芸術に生きることを,たとえ彼がその芸術によって多くの人々に何物かを与えるにせよ,許さない。たくさんの仕事をしている人が自分は自分の職業的活動によってすべての為すべきことを果たしていると考えることを許さない。この倫理は,すべての人々がその生命の一端を人々にささげる事を願う。どのような仕方で,どのような程度に,それが彼に課せられているかは,各人がおのれのなかに生ずる思想と,おのれの人生をめぐっている運命から汲みとらなければならない。ある人の果たす犠牲は,外に対しては見えない。

座談会

社会開発と公衆衛生

著者: 東田敏夫 ,   乗木秀夫 ,   小林陽太郎 ,   橋本正己 ,   田波幸男 ,   三浦文夫

ページ範囲:P.12 - P.26

 近年,社会開発という言葉が盛んに使われている。この社会開発とは何を意味し,何を目的としていかなることをなそうとしているのか。また社会開発とわれわれのめざす公衆衛生とは,いかなる関連があるのか,その辺の事情を各専門分野の方々に話し合っていただいた。出されたさまざまな問題点を読者諸氏がそれぞれの活動の場で更に追求していかれる一助となれば幸いである。

研究

奄美の国保事業の現状と住民の医療需要の充足状況

著者: 西三郎

ページ範囲:P.37 - P.44

はじめに
 奄美群島は昭和28年日本復帰以来復興計画により産業,文化の復興と公共土木施設の整備充実がなされてきたが,日本全体の経済成長に比し格差の縮少は進まず,かえって経済的低位(第1図),悪交通事情,労働力流失など僻地としての性格がますます強くなり多くの問題を内包している。われわれはそれら僻地の保健医療サービスの改善向上の資料とすることを目的として現地調査を行なったので報告する。本研究は医療施設の恩恵に浴することが困難な地区の住民が,自分達の医療需要をどんな形で満たし,どのような供給を望んでいるかの実態を知る調査と,国保事業の分析などより,僻地の保健医療のあり方について考察した。

3歳児健康診査についての研究(その2)—診査結果の検討

著者: 若林慎一郎 ,   伊東秀子 ,   伊藤忍

ページ範囲:P.45 - P.48

緒言
 3歳児健康診査は3歳児について身体発育と精神発達の両面から診査を行ない,綜合的な判定に基づいて適切な指導を行なうとともに,各種の心身障害を早期に発見し,適切な処置が行なわれるようにすることを目的とするものである。その方法および技術的基準については,厚生省の定めた3歳児健康診査表(以下原案とする)および厚生省児童局母子衛生課監修の「3歳児健康診査の手引き1)」が出されている。検診を実際に施行するに当っては,その方法,判定,またはその処置に関して種々の問題が存する。さきにわれわれはこれらの問題点を指摘し,また原案に対して検討を加え,見解を述べるとともに一つの試案を提示した2)。今回はこの試案により検診を実施した結果を整理し,3歳児健康診査並びに3歳児の問題に検討を加えてみたい。

高血圧学生の自律神経機能検査成績—大学生の健康管理・2

著者: 富田昌三

ページ範囲:P.50 - P.52

 自律神経系が,血圧にたいして大きな意義をもっていることは,論をまたない。不安や精神的緊張による昇圧も,自律神経などを介して,作用していると考えられる。とくに若年者では,血圧測定時に,不安や緊張をみることが多いため,高血圧者の頻度が高くなることも推察される。著者は,高血圧大学生を管理していく上で,高血圧者の自律神経機能検査を行ない,正常圧者のそれと比較検討した。

地域活動

佐土原町における明るい町づくり—特に栄養改善普及を中心にして

著者: 新頭喜一

ページ範囲:P.32 - P.33

はじめに
 「住民の幸福はまず健康」この言葉は住民一人一人にたずねても同じ答えを得るであろう。しかし果たしてそれを中心とした毎日の生活が考えられ進められているといえるであろうか。「佐土原町」では明るい家庭と健康な町づくりを推し進めるため町ぐるみでこの問題と取組んだのである。
 佐土原町は宮崎県の中央部宮崎市に隣接する面積56.8平方キロ,人口19,000人,世帯数4,400の農村地で地理的には割合恵まれており,中小企業の進出もめざましく純農村から脱皮しつつある新興の町でもある。

美瑛町における地区保健活動

著者: 佐藤初吉

ページ範囲:P.34 - P.35

美瑛町の概況
 美瑛町は北海道の中央,上川郡南部に位して,開町以来65有余年を経ている。人口21,000余人,面積672平方粁,香川県の半分に相当する面積を有し,大雪山国立公園十勝岳麓にある。白金温泉を中心とする観光と,2,000有余町歩の美田,そして畑地は豆類,ピート,馬鈴薯を主産とし,ことに近年は傾斜地の果樹,農家林,小規模農家には蔬菜栽培奨励をしているなど,農業を主として栄えてきた農村である。なお現在白金温泉地帯に北海道一箇所の国立青年の家の工事が進められており,文字通りの青年町としてして躍進を続けている町である。

連載講座 公害・6

事前調査

著者: 深谷守平

ページ範囲:P.28 - P.31

まえがき
 近年,工業の急速な進展と人口の都市集中に伴い公害問題が各所に発生し,環境衛生ならびに公衆衛生の分野における重大な課題の一つとなっている。特に四日市の問題は,大気汚染エピソードとして海外にも知られているところであるが,これを契機として公害に対する国民の意識は急激に盛り上り,沼津・三島における石油コンビナート計画に対する地元住民の反対にみられたごとく極めて強力なものとなり,国および地方自治体における体制の充実と相まって,昨今ようやく本格的に公害防止対策を推進しうることとなった。すなわち,既存の公害の問題に対しては,ばい煙規制法,水質保全法,工場排水法などにより規制を行なうとともに,本年度より発足する公害防止事業団にみられるごとく,さらに積極的に具体的な公害追放の実践に入る一方,新規の地域開発にあたっては公害予防のための事前調査を実施し,これを末然に防止することとした。
 この事前調査に関しては,地方自治体はもらろん,最近産業側においてもその必要性を認識する気運をみせており,公害対策上画期的段階に入ったものといえよう。公害対策の原則は予防にあり,この意味において事前調査こそ今後の主題となるもので,厚生省においては,本年度実施する4地区を手はじめに,開発の程度に応じて逐次各地区について行なう計画であり,大いにその成果を期しているところである。

時事内報

中労基審「安全衛生管理などの改善について」を答申

著者:

ページ範囲:P.36 - P.36

 安全管理者および衛生管理者制度などに関して,かねて検討していた中央労働基準審議会(会長石井照久)では40年9月16日要旨次のような答申を行なった。

--------------------

NEWS REFERENCES in November '65

ページ範囲:P.54 - P.55

医療保険で使える薬新たに956品目1日から新規に956品目,除去薬品は798品目で,保険で使える薬品は5,423品目となった。厚生省ではさらに約600品目を12月1日から追加する方針。(1日・朝)
 元気に運動能力テスト健康優良児の中央審査。(1日。朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら