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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生30巻10号

1966年10月発行

雑誌目次

特集 市町村の保健行政を分析する 談話室

市町村と保健衛生

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.534 - P.535

〔I〕
 近代公衆衛生活動が,すぐれて地方自治的な性格のものであることは,欧米諸国の過去1世紀余の歴史が如実にこれを物語っている。すなわち,イギリスは世界的にみて公衆衛生活動の先駆をなした国であるとともに,地方自治の故郷として評価されているが,「その地方自治の発展は保健衛生問題に負うところが少なくない」という地方制度の専門家の評価は,まことに味わうべきものがある。健康は日常生活の諸要因の集約的な反映と考えられ,生活はまず第一次的生活圏である地域社会に深く結びついたものであることを考えるとこれは当然の姿である。このような事情は,欧米諸国を通じて大同小異であるが,イギリスの場合などでは,自治体は住民の保健と福祉のために存在したといっても決して過言ではないほどである。この点日本の近代化の過程においては事情がはなはだしく異なっていた。はじめて市町村制および府県制郡制がつくられたのは,明治維新から20余年を経た時期であった。明治というきわめて特異な時代に形成された日本の地方制度が,種種の経緯があったとはいえ,高度の中央集権的な形態となったことは自然の成りゆきであり,またこのような統治の構造が,衛生行政をも含めてその後の日本の西欧諸国への急速な追いつきにあたって力があったことも否定するわけにはいかない。

主題—市町村の保健行政を分析する

地方自治と住民の保健—市町村行財政を中心として

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.536 - P.548

はじめに
 国民の健康を守る行政活動の具体的実施を,国民の日常生活に直結する第一線地方自治体の業務とすることは,近代政治の通則である。
 とくに,市町村段階は,住民が自らの政治を処理する住民意識をもち,地方政治に直接参加する可能性が大きい"全自治体"への途に近いはずであり,その意味では,住民の福祉と保健に関しては,市町村を第一義的機関とするのは自然の理である。しかし,問題は,今日の日本の中央と地方の行政体制が,それにふさわしい状態にあるかどうかということである。旧憲法下においては,地方行政は独占資本にむすびついた絶体主義官僚制による中央集権の支配下にある出先機関であり,衛生行政もその例外ではなかった。民主憲法下においては,地方行政は,憲法第39条が規定する「地方自治の本旨」にもとづくものでなければならないはずである。「地方自治の本旨The principle of local autonomy」とは,杉村敏正教授によれば,「一般に統治の民主化を確立,実現するために,地方的利害関係のある事務を,地方公共団体の負担と責任のもとに,その機関の固有の意志決定によって遂行するとともに,地方住民の意志によってその機関構成者が選任さるべきことを意味する。」10)

市町村衛生行政と保健所の役割—平場農村の現状分析から

著者: 三沢博人

ページ範囲:P.549 - P.555

はじめに
 昭和28年,市町村合併促進法が施行され合併が進むにつれて,全国的に衛生事務担当者の絶対数は著しく減少し,他面行政機構の合理化は衛生課を他課と合併して厚生課・住民課の1係として所属させ,また市町村財政の逼迫の結果,法令義務費(結核・伝染病予防・予防接種・清掃関係など)以外の健康増進・疾病予防費(成人病予防・寄生虫予防・母子保健・栄養改善・環境衛生など)の予算化を困難にするなど市町村衛生行政は一般行政の片すみにおいやられたかにみえる時期があった。その後,経済開発最重点の行政偏向から保健と福祉に対する積極的なとりくみへと漸次移りかわりつつ現在に至っている。
 この間,地域住民の保健活動も民衆組織を主体としたいわゆる地区衛生組織活動の意欲的な推進がみられたが,時代の変遷とともにその形態と本質をかえつつ今日に至っている。

市政と保健衛生活動—栃木県鹿沼市の環境衛生対策を中心として

著者: 古沢俊一

ページ範囲:P.556 - P.560

 保健衛生活動というものは,非常に広範囲で,手をつけるときりがない仕事でもある。あれもこれもと考えはじめると,市町村としてはまことに頭の痛い仕事の1つである。というのは,この活動そのものは当局だけがいかに一心不乱にやってみたところで,決してその効果を期待できないからである。
 行政活動というものは,なにごとによらず住民の協力なくしては達成できないものであるが,特に保健活動では住民に積極的な活動意欲がなければ,絶対に効果のあがらないものである。

座談会

市町村保健行政の危機の打開のために

著者: 辻正治 ,   青崎憲郎 ,   渋谷修 ,   寺上正人 ,   前川克己

ページ範囲:P.562 - P.570

 公衆衛生活動の基盤は,地方自治体にあり,さらにその尖兵は,地域組織にある,といわれている。今までのわが国の公衆衛生が,国段階での行政指導によって,強力に押し進められてきたことは事実である。ヨーロッパやアメリカ合衆国などと違って,市民意識が発達せず,ボランタリー活動も低調なわが国にあっては,国の指導による推進も,ある時期においてやむをえなかったとはいえるだろう。しかし,すでにある年月を経た今日,改めて地方自治体のとりくみを真剣に考える必要があるように思われる。

地域活動

保健と福祉を結んだ綜合計画の実施—島根県羽須美村の場合

著者: 高橋昇三

ページ範囲:P.572 - P.574

羽須美村の概況
 羽須美村は島根県のほぼ中央広島県境に位置し中国山脈の中心にある山村で,東南は中国一の大河江川が流れて対岸は広島県に接している。画積73.9m2,人口4,528人,世帯数1,170戸である。地勢は急峻なる山が大部分で84.2%を占め,耕地は11%にすぎない。就業人口は第1次産業が66%を占め,そのうち大部分が農業であり,第2次産業9%,第3次産業25%で,第1次産業人口の需要を充たすためのサービス業,製造業が占めている状態である。

総合社会教育を健康村づくりの基盤として—熊本県富合村の場合

著者: 三角了

ページ範囲:P.575 - P.577

 今回は衛生行政については日なお浅く参考になる十分の資料を提供することは困難であるが,現在まで村が行なってきた保健衛生の活動状況についてご紹介したいと思う。幸いに本村では総合社会教育を,村づくり運動の根幹として推進協議会を結成し全村民の理解と協力とによって,山積みしている仕事の中からお金をかけないでお互いの自覚によって実行できるものから着実に実施していく方針である。限られた財源と人員とで,あれもこれもと希求することばかり多くて現実に行なうにはまったく困難であることを痛感する。

へき地の医療と公衆衛生—編集室ルポ

東京のへき地をゆく—桧原村の保健衛生事情

著者: 景山

ページ範囲:P.578 - P.582

美しい自然に囲まれて
 東京都の最西端,東京のチベットといわれるところに桧原村がある。西は秩父多摩国立公園に属し,1,500メートルぐらいの山々を隔てて山梨県に接している。立川市から電車で30分の五日市市からさらに車で20分ほど,尾根づたいにうねうねと走るとようやく桧原村の入口である。周囲は村名のようにひのき,杉の山村に囲まれ緑が美しし。舗装された道路は,奥深い山を切ってどこまでも続くかと見えるが,30〜40分もはいった小岩部落でプツンと切れている。
 珍らしいことだが,桧原村は明治以来一度も町村合併されていない。人口約5,700人,世帯数1,128,総面積は10,491km2という東京都区部の大田,世田谷両区を合わせたほどの広さである。村全体の93%が山林で占められ,田畑はわずかに2.7km2・2.5%だけで,村の経済生活にとって山林の占める役割は非常に大きい。このような広大な土地に人は散家形態をとってすみ,人口密度は54人(1km2あたり)と非常に少ない。東京都平均が5,385人というから100分の1にしかあたらない。人口構成で特徴としてあげられるのは,最近の農山村に共通な現象ではあるが,老年人口の占める割合が高いことである。その数は約540人・9.5%もあり,全国平均の6.2%をはるかに上回っている。

人とことば

人間とは何か—それを知ることが実際上急務であるわけ

著者: アレキシス・カレル

ページ範囲:P.533 - P.533

 物質の科学は生物の科学がまだ幼稚な状態にあるのに,大きな進歩をした。生物学が遅れたのはわれわれの祖先の生活条件や,生命というものの複雑さによるので,また機械のような組立や,数学のような抽象を好むわれわれの精神のためでもあった。科学的ないろいろな発見が採用されたために,われわれの世界は物質的にも,精神的にも変わってしまった。その変化がまたわれわれに非常に深い影響を及ぼしている。それがはなはだ悲しむべき結果を招いたわけは,元来人間を考えに入れずになされたからである。人間が人間を知らないために,力学や,物理学や,化学に人間の伝統的な古い生活様式を好き気ままに改造する権限を与えてしまったからである。
 人間はすべてのものの尺度であるべきだった。しかるに人間は今自分が作った世界では全くの異国人である,人間が真に自分を知らなかったために,この世界を人間自身のために向くように建築することができなかったのである。あらゆる物質の科学が生物の科学をぐっと追抜いて発達したことは,まことに人間の歴史の最も悲惨な出来事の1つである。人間を知らない人間の頭で作り出したこの世界は,人間の体力にも精神にも適しないものであった。これは全くいけない。こんな世界ではわれわれは非常に不幸せである。道徳的にも精神的にも退化する一方である。工業文明が最も発達した国家や社会が必ず定って先ず衰えていくではないか!そして野蛮状態に戻るのも彼らが真先きである!

講座 地区診断—よりよい現場活動の展開のために・5

個別問題に対する調査的アプローチ—農村社会を対象とした地域公衆衛生活動の場合

著者: 釘本完

ページ範囲:P.584 - P.589

 地区診断の講座も本号で5回めになった。公衆衛生活動の基本とでもいうべき地区診断のいっそうの発展を願って,理論と実践の結実を志した本講座はいよいよ佳境にはいってきた。
 今回は長野県で先進的な活動を展開している信州大学医学部公衆衛生学教室の実践活動の中から得られた成果をご紹介することにした。

厚生だより

健康的な居住水準の設定についての中間答申

著者:

ページ範囲:P.561 - P.561

 昨年9月公害審議会(会長和達清夫・国立防災科学センター所長)が発足し,厚生大臣から,「健康的な居住水準の設定について」など10項目の諮問が行なわれたが,8月13日の生活環境部会(部会長山田雄三・社会保障研究所長)で中間答申がまとめられたのでその慨要を紹介する。

ニュースの焦点

食品衛生法など従来の法規の再検討を—ユリア樹脂製食器からホルマリン検出の事件を考える

著者: 村松博雄

ページ範囲:P.590 - P.591

 主婦連ではこの8月17日に研究会を開き,「ユリア樹脂製プラスチック食器の中に熱いものを入れると人体に有害なホルマリンが出てくる」と発表した。同連合会の日用品試験室でテストした結果わかったもので,主婦連では明日,「試験法を改めるとともに,ユリア樹脂食器の製造販売を禁止してほしい」と申入れた。
 問題のユリア樹脂(尿素とホルマリンを合成したもの)食器は,現在かな一般に出回っており,とくに赤ちゃんや子ども用のコップやスプーンに多く使われているという。ユリア樹脂食器類は,零細企業によるものが多い。しかし,
 (1)JIS(日本工業規格)の原料を使う。
 (2)製品をつくる時,熱を十分加えてホルマリンが遊離しないようにする。
 (3)製晶ができたあと加熱して,遊離したホルマリンを除く。
 というような方法をとればいい。ところが業界の競争がはげしく,できるだけ安くつくらなければならないため,熱処理の時間を短くして能率を上げたり,安いJIS規格以外の原料を使うようになってくる。

モニターレポート

第5回精神衛生岐阜県大会開かる

著者:

ページ範囲:P.582 - P.582

 社会生活が複雑化するにつれ,ますます社会のあらゆる分野において精神衛生対策が問題とされるようになってきた。たまたま「夏に青少年を守る運動」が展開されるにあたり,精神衛生協会でもこれに呼応して「明るい社会」をきずくための第5回精神衛生岐阜県大会が7月21日午前10時から岐阜県庁大会議室において行なわれた。会長のあいさつにつづいて,今まで精神衛生に貢献された精神科の先生方や,地域団体に表彰状,感謝状が贈られ,10時30分から公開座談会に移った。
 テーマは"子供と社会"で,岐阜大学教育学部教授・織田正先生の座長のもとに4人の演者によって進行された。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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