icon fsr

文献詳細

雑誌文献

公衆衛生30巻10号

1966年10月発行

文献概要

人とことば

人間とは何か—それを知ることが実際上急務であるわけ

著者: アレキシス・カレル

所属機関:

ページ範囲:P.533 - P.533

文献購入ページに移動
 物質の科学は生物の科学がまだ幼稚な状態にあるのに,大きな進歩をした。生物学が遅れたのはわれわれの祖先の生活条件や,生命というものの複雑さによるので,また機械のような組立や,数学のような抽象を好むわれわれの精神のためでもあった。科学的ないろいろな発見が採用されたために,われわれの世界は物質的にも,精神的にも変わってしまった。その変化がまたわれわれに非常に深い影響を及ぼしている。それがはなはだ悲しむべき結果を招いたわけは,元来人間を考えに入れずになされたからである。人間が人間を知らないために,力学や,物理学や,化学に人間の伝統的な古い生活様式を好き気ままに改造する権限を与えてしまったからである。
 人間はすべてのものの尺度であるべきだった。しかるに人間は今自分が作った世界では全くの異国人である,人間が真に自分を知らなかったために,この世界を人間自身のために向くように建築することができなかったのである。あらゆる物質の科学が生物の科学をぐっと追抜いて発達したことは,まことに人間の歴史の最も悲惨な出来事の1つである。人間を知らない人間の頭で作り出したこの世界は,人間の体力にも精神にも適しないものであった。これは全くいけない。こんな世界ではわれわれは非常に不幸せである。道徳的にも精神的にも退化する一方である。工業文明が最も発達した国家や社会が必ず定って先ず衰えていくではないか!そして野蛮状態に戻るのも彼らが真先きである!

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら