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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生30巻12号

1966年12月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生の新らしい動き 主題—公衆衛生の新らしい動き

サイバネティックスの公衆衛生学領域への応用—(1)サイバネティックス

著者: 秋山房雄 ,   根岸龍雄

ページ範囲:P.654 - P.660

はじめに
 ノバート・ウィーナー(N. Wiener)の名著 "Cybernetics" の副題は「動物と機械における制御と通信」となっている1)。Cyberneticsとは「舵手」を意味するギリシャ語κυβερυητησから作ったと同書で述べている。その理山として,船の操舵機はフィードバックの機構のうち最も古く,しかも最も発達した形式であったからであるといっている。
 N. Wienerらは,通信または入力と,それによる制御の体系をとりまとめ,理論化してサイバネティックスをつくりあげたものといえよう。

サイバネティックスの公衆衛生学領域への応用—(2)電子計算機

著者: 秋山房雄 ,   根岸龍雄

ページ範囲:P.661 - P.669

はじめに
 電子計算機の応用は,すぐれた数学的知識があってはじめて可能である。しかしまた,まったく数学に関して知識のない人にも使用できるものではあるが,それは電子計算機のもつ諸機能の各側面についてみた場合であって,それについてまず述べることにしよう。
 ついで,公衆衛生関係者,または医学ないしは生物学関係者が,これを利用する場合を考慮して,とくに,自由に運用するための自働コーディングについて,主としてFORTRANによって述べ,さらにふだんもっとも利用度の高いと思われる情報処理単位(サブ・ルーチン)について話を進めてみたい。

人間と「もの」の関係の再認識—人間工学の立場から

著者: 倉田正一

ページ範囲:P.670 - P.675

エルゴノミクス
 応用科学は戦争ごとに飛躍的な発展を示しているが,第2次世界大戦によっても過去にみなかったような大幅な進歩をとげ,宇宙開発の基礎を作りあげたのであった。しかし,ここで重大な問題に遭遇することになった。それは,兵器はただ単に精密で性能が高くても役に立たない。これを人間が使いこなせなくてはいくら優秀な兵器を製作したところでむだだということであった。
 戦時中,米国空軍が航空事故を調べたところ,次のようなメーターの読み違いによる近事故例を発見した。その質問調査の内容は次のようなものであった。「非常に暗い夜でした。私はB25に乗っていました。主操縦士に着陸の合図を送った時高度は4,000フィートでした。地上から1,000フィートのところで着陸体勢にはいるとばかり思っていたのですが,彼は私が注意するまで降下をつづけようとしたのです。彼のまちがいは高度計を1,000フィート読違えたことに原因があったのです。このまちがいはひどくばかばかしく思われますが,このようなまちがいを私がみたのは彼がはじめてではないのです。」驚いた当局があらためて調べてみると,熟練した操縦士の約30%がこのような誤りを経験していることが明らかになった。

学会における公衆衛生の進歩—過去一年間の学会の動向から

著者: 原島進

ページ範囲:P.676 - P.680

 表題のサブタイトルにしたがって,公衆衛生の進歩について述べるのであるが,この命題への解答はそんなにやさしいことではない。どうしても,個人的な意見になってしまうからである。実証的な,完全な解答にするには,時間が十分にあるとも思えないし,またそれを試みたとしても,1〜2年くらいの追跡によってはできるわけがないと思う。そこで,これから述べところは,私個人の考えであり,感想といったほうが適切であることを断っておく必要があろう。

展望

胃集検の現状と問題点

著者: 愛川幸平

ページ範囲:P.681 - P.688

はじめに
 胃癌集検の術式に関する研究班は,昭和40年度の胃集検全国集計1)(その総括を第1表に示す)を報告するとともに,その総括報告書2)で次のように述べている。"残された問題は,間接レ線では基本撮影法(立位・臥位充満4枚法)に加える2枚の撮影法をどうするかということと,内視鏡検査法を集団検診の第一次ふるい分け検査に使用するかどうか,レ線との併用をいかにするかということである。この問題は病院外来における集検(外来集検)上に特に重要である。(中略)また間接レ線に対する補助的検査として問診は欠かされないが,この他の生物学的検査にまだ使用しうるものは見当らない。"なおこれらの結論に加えて解像力の優秀なこと,被曝線量の少ないことなどから,間接レ線撮影装置としてミラーカメラの使用が推奨されている。従って,昭和41年度厚生省が各府県に補助金を交付して整備をすすめている胃集検車についても,さきに述べた撮影装置と方式を採用するよう指導している。すなわち,このように胃集検のスクリーニングフィルターと,それを用いる術式に関する限り,大まかなところ現状での標準化に達成されつつあるのではないかと考えられている。さらにこれらの技法を中心とした胃集検成績はしばしば報告され論議されているので,今回は本稿の目的外のものとしておきたい。

赤痢の実態と対策

著者: 春日斉

ページ範囲:P.689 - P.694

赤痢の周期性
 昭和41年の赤痢は,質的にみれば著書が提唱した4指標をみても着実に一定の方向を辿っており,例外的な現象はみられていないが,量的には関西,東北,北陸の一部を除いた全国において,前年比,1.5〜2倍増加していることが注目されている(第1図)。昭和40年以降の赤痢の発生を,昭和35年から40年までの減少傾向を延長することによって単純に期待し,41年に至り反転上昇したことから防疫の過誤と断ずるのが国会やマスコミに代表される論点であった。しかし逆に,35年以降40年に至る着実な減少傾向の原因を,環境衛生の改善,抗生物質の進歩あるいは衛生水準の上昇などに求めてきた一部の学者,行政官の論拠もあまりに近視眼的であるという点では大差がない。そこで最も疫学の原則的な現象,赤痢の周期性から検討してみたい。一般論として伝染病の発生が季節的変化を示しながら,2〜10年の鞄囲で振幅していく,いわゆる周期変化のあることは否定できない。さらに周期変化は20〜30年あるいはそれ以上を単位とする大きな趨勢変動のなかの一断面にすぎないとも考えられる。
 ところで赤痢に周期変化ないしは趨勢変動が果たして存在するか。感受性者の蓄積によってその地域の感受性者密度がいわゆる限界密度を超えることによって流行が惹起され,その結果,感受性者密度が低下して流行閑期をむかえる。そして再び感受性者の蓄積が始まる。

性病の実態と対策

著者: 酒井義昭

ページ範囲:P.695 - P.698

 近時世界各国において性病の患者数の増加が報告されるようになり,1964年のWHOの報告によれば,梅毒は世界の72.4%,りん病は47.7%の国または地域において前年に比べて患者数が増加している。人口10万対比患者数の比率は東南アジア,西大平洋地域,東部地中海地域が他に比して高い。アメリカでは,1959年以降には届出患者数が増加しはじめている。1964年の人口10万対比梅毒患者数は62.9人と1950年以降の最低値を記録しているが,早期顕症梅毒患者数は依然として増加の傾向にある。特に24歳以下の若年層に顕著である。その感染源として,売春婦によるものは10%以下と推定され,同性愛などにより感染するケースもかなり多い。フランスその他ヨーロッパ諸国においても,同様の傾向がWHOの報告により認められる。
 性病まん延の原因を明確に把握することは困難であるが,性病についての知識の不足,若い世代の性についての解放的な考え方などによる感染機会の増大,自家療法などによる不完全な,または誤まった治療,交通機関の発達による伝染範囲の広域化などがその要因となっていると考えられる。

人とことば

人間とは何か—それを知らなければならないわけ

著者: アレキシス・カレル

ページ範囲:P.653 - P.653

 沢山な科学的発見の中からわれわれはいろいろなものを選択したが,この選択が人間の最高の幸福を考えに入れてされたのではない。それは単に自然放任であった。「最大の楽と最小の苦労」という原則や,スピードや,変化の楽しみや,自分を忘れたいという希望などが新らしい発明を成功させたのである。併しどうして人間が迅速な交通機関や,電信,電話,タイプライター,計算器,家庭用の新らしい道具などによって造られる,物凄い生活のテンポを耐えることが出来るかということを考えたものはなかったのである。飛行機,自動車,映画,電話,ラジオ(やがてテレビジョンも)が一般に用いられるようになったのは,その昔の昔,人間がアルコールの飲用を始めたのと同じことなのである。スチーム,電気照明,エレベーター,動物的な道徳,食物の化学的な操作などが採用されたのは総てそれらの改良発明が,ただ便利で愉快だというからであった。そしてそれが人間に及ぼす結果などは考えに入れられていなかったのである。
 工業労働においても工場が労働者の肉体や精神に及ぼす影響は全く考えられなかった。近代工業は個人又は株主等が最大の利益を得るように,「最小の費用,最大の生産」という原則によって営まれる。工業はその機械を使う人間の本当の性質も,工場生活が労働者やその子孫に及ぼす影響をも少しも考えずに発達して来た。又大都市は少しも人間のことはかまわずにどんどん建設された。

講座 地区診断—よりよい現場活動の展開のために・7

地区診断の活用

著者: 山本幹夫

ページ範囲:P.700 - P.706

はじめに
 地区診断の活用を述べるに当って,米国のPublicHealth Reportsの主任編集者として,カナダ公衆衛生協会の第41回年次大会(1953年10月)で行なわれた。Mc Gavran教授の講演を振返ってみたい1)
 彼はその講演で「公衆衛生(活動)は2)コミュニティの科学的診断および治療である」と定義している。

厚生だより

コールドチェンと公衆衛生

著者:

ページ範囲:P.708 - P.708

コールドチェンの背景
 科学技術庁の資源局に属する資源調査会は16の部会に分かれており,そのうちの1つである環境技術特別部会は昭和37年に発足し,食生活環境小委員会と住生活環境小委員会に分れている。資源局の中で環境技術を取扱うことについて奇異の感じを受ける向きもあるが,資源は環境を媒体として国民生活水準の向上に働きかけるわけであり,資源の開発,有効利用ということの中には環境技術の開発ということも1つの科学技術として含まれてくるわけである。食生活環境小委員会で討議された結論が,昭和40年1月に「食生活の体系的改善に資する食料流通体系の近代化に関する勧告」として科学技術庁長官に提出された。この勧告書の勧告事項は次の5項目からなる。
 ①コールドチエン(低温流通機構)の整備,②食品の等級,規格および検査制度の確立,③食料流通に関する情報体系の整備,④生産地,中継地加工体制の確立,⑤食料流通に関する研究開発(許容温度:T. T. T.,加工,包装,等級,規格)

公害審議会の第一次答申

著者:

ページ範囲:P.709 - P.709

 去る10月7日,公害審議会より「公害に関する基本的施策について」第1次答申が発表された。すでに8月4日審議会の公害問題に対する基本的姿勢を示すものとして,中間報告が出されているが,今回はその後ひきつづき政府のとるべき具体的対策について審議を行なった結果を第1次答申として発表したものである。

ニュースの焦点

国際ガン会議の成果

著者: 水野肇

ページ範囲:P.710 - P.711

 「第9回国際ガン会議」は,10月23日から29日までの1週間,東京で開かれた。世界の約65カ国からざっと4,000人のガン学者が集まって,現在ガンの当面する問題について,熱心に討議した。こんどの国際ガン会議では,特効薬の発見とかいうような画期的なニュースこそなかったが全般的にみて,その成果は大きかったといえよう。とくに,
 ①ガンの本体論のなかで,ウイルス,免疫といった面での研究が進んだ。
 ②日本の診断,治療が,とくに胃ガンの面では世界一であることが確認された。
 ③化学療法に大きな進歩のあとがあった。
 ④ガン追及のための国際協力体制がとられることになった。
などの点で,大いに見るべきものがあったといえよう。

モニターレポート

飼い犬に避妊手術を!

著者: M・K

ページ範囲:P.688 - P.688

 岐阜市中央保健所では,野犬の繁殖防止や狂犬病の発生を防ぐ点などから飼い犬に避妊手術をするよう呼びかけている。
 同保健所では10月3日から市内の飼い犬を対象に狂犬病予防注射をして,現在市内の登録犬は約9000頭,野犬はその2割強の約2000頭とみている。そのうち純野犬はほんの少しで,ほとんどは無籍犬,"かわいいから……""家になついたから"などという理由で登録もせず放し飼いし,家に帰ればエサをあたえるといった無責任な飼い方をされている犬が非常に多い。これらの犬が近所に迷惑をかけ,保健所の捕獲員が捕えると,"うちの犬に何をする"と開き直る飼い主もおり,捕獲員を困らせている。

施設紹介 東京都立精神衛生センターの活動を聞く

都民の精神衛生を一身に背負って

著者:

ページ範囲:P.707 - P.707

 昨年の精神衛生法改正に伴って,各都道府県に精神衛生センターが設置されたが,東京都では本年7月1日,台東区下谷に東京都立精神衛生センター(菅又淳所長)を設立した。同センター設立によって,従来の梅ヶ丘精神衛生相淡所は分室になり,この2カ所を合わせて,職員も所長以下医師5(現在3人),心理職2,ケースワーカー7,事務職その他5,計19名という陣容になり,東京都の精神衛生対策に意欲的に取組むことになった。鉄筋3階建の白っぽい,外観は明るい感じがする建物で,1階には臨床検査室・診察室,2階には遊戯室・相談室3・脳波検査室・心理検査室,3階は集団検査室が配置されている。しかし一歩中に入ると殺風景で,冷い寒々とした感じがして,いかにも都衛生局のその場しのぎの対策という感が強くしてくる。とはいえ,東京で唯一の精神衛生センターとしてその活動は展開されており,所長以下職員すべてが,地域の精神衛生活動を先進的に推進させていく意欲と情熱にあふれていた。同センターの小坂英世医師は,昭和36年から39年9月までの間,栃木県の精神衛生相談所長として,栃木方式と呼ばれる精神衛生活動を縦横に推進した先達でもある。この栃木方式の考え方を,改正された精神衛生法に基づいて東京で推し進めようとしている。
 精神衛生に対する考え方は,「精神病と精神薄弱に対する発見治療,社会復帰および予防をはかること」である。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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