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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生30巻5号

1966年05月発行

雑誌目次

特集 地区診断を診断する 巻頭言

公衆衛生用語の変遷に思う

著者: 斎藤潔

ページ範囲:P.237 - P.237

 日本人は何か事物が発達すると,新しい用語をつくり出して用いるくせがあるようである。そこで一度新しい用語が世に出ると,われもわれもと新用語を用いないと,時代におくれるとでも考えているようである。われわれの公衆衛生においても,過去数10年間にさまざまの用語の変遷があった。ここで新しい用語がよいとか,悪いとかいうのではない。言葉の変遷が事物の歴史の一辺を物語ることもあるので,むしろ興味あることであろう。
 ところが,イギリス人は一度用語をきめると,その用語は変えないで用語の示す内容を時代とともに変えていく。従ってここでは古い用語が,そのまま今日までも用いられている。

談話室

公衆衛生診断への提言

著者: 勝沼晴雄

ページ範囲:P.238 - P.240

私どもは公衆衛生のすすめ方を次のように理解したいと考えている。すなわち

主題

地区診断への評価と反省—その妥当性・有効性を考える

著者: 柏熊岬二

ページ範囲:P.241 - P.246

はじめに
 地区診断という言葉が使われ始めてから,かれこれ7〜8年になる。公衆衛生の分野から始まって,社会福祉関係に波及し,さらに社会教育,犯罪・非行対策などにも取り入れられ,現在では地域社会を対象とするあらゆる分野でそれが応用されているようである。
 ただし地区診断をどのように理解し,いかなる形で地域対策,あるいは地区活動の中に組み入れるかについては,人によって若干の違いがある。公衆衛生に限ってみても,私などの考え方と山本幹夫氏のそれとは内容的な差異がある1)。われわれが地区診断を狭義に理解しようとするのに対し,山本氏は広く解釈されようとする。すなわち私たちはコミュニティそのものの診断ではなく,そこに顕在もしくは潜在する問題の診断に限定し,作業の中心を条件分析においているのであるが,山本氏はコミュニティそのものの診断,つまり地域社会の把握から出発し,問題発見,対策,評価に至るプロセスすべてを包括するものと考え,特に問題の発見に重点をおこうとする。また地区診断の理論構成(特に条件分析の論理)についても,私の考えに対して小林治一郎氏から批判が寄せられている。主に唯物弁証法の導入の可否に関する問題であるが,この点は本誌に再三にわたって掲載されているのでここではふれない2)

地区診断とその論理の変遷—公衆衛生学の方法論の推移と活動の展開方式からの考察

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.247 - P.252

 地区診断という用語が公衆衛生関係者の耳目をあつめてから,すでに相当の時日を経過した。しかしその変遷を史的に追究するほどの業績のつみ重ねなり,あるいは討論がなされたりしてきたかを考えると,必ずしも十分とはいえないように思う。したがって,現在の時点ではその史的考察を行なうより,地区診断の意味づけ・解釈をめぐって,いくつかの対立的見解が提唱当初からつづいたまま今日に至っている様相であるので,その整理をする意味合いから,論理の推移を通覧してみたいと思う。

論叢 地区診断の効用と限界

自然科学と社会科学の接点としての活用を

著者: 青井和夫

ページ範囲:P.254 - P.255

 「診断」といわれるものは,問題の発見→原因の究明→対策樹立→処置→結果の評価という5つのステップのうち「問題の発見」から「対策の樹立」に至る3つのステップを総括するものであるが,特に「地区」診断といわれる場合,そのねらいは次の諸点にあると思われる。
1)保健衛生問題には「社会現象」という側面があるという認識。直接的にはビールスと人間の身体との関係としてとらえられる問題にも,両者を媒介する社会的要因を究明しなければならない。

ちみつな診察の上にたって

著者: 水野宏

ページ範囲:P.255 - P.257

 地区診断――わたくしは必ず地区保健診断とよぶことにしているが――がどれだけ効用があり,どの辺に限界があるかは,いうまでもなく診断をする人,あるいはグループの診断能力にかかわる問題である。地区保健診断の方法論の面では研究の歴史が浅い関係で,われわれの蓄積は未だ乏しく,そちらからの制約にすぐにつきあたるのがいつわらざる現状である。
 しかしながら地区保健診断に比べてはるかに長い歴史をもつ臨床の診断でも,常に進歩をつづけているとはいいながら,方法論からいえばどこまでいっても常に限界にあるわけで,その限界を絶えず破ろうとする意欲が臨床医学における研究の進歩の1つの原動力であろうし,現存する限界を補なうためには,常に新しい知識を蓄積し経験を積む努力を重ねつづけることが必要であろう。われわれもまた常に新しく方法論を開発する努力を怠らないだけでなく,常に経験を積み,勘を養うということが,たいへん非科学的な逆行的ないい方に聞えるかも知れないが――現段階においては,誤りの少ない診断をするために必要な条件のように思われる。経験を積むといっても,長年保健所に勤務していればよいというようなことではない。現在の保健所はおかしなところで,保健所が責任を負っているはずの患者--地域社会――についてはアナムネーゼもとらず診察もせず,病理検査もしない前に,とっくに処方が出されていてその処方に従って仕事をすることになっている。

調査技術のみの地区診断では正しい把握は無理

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.257 - P.258

 日本の公衆衛生の分野で,地区診断ということが具体的にとりあげられるようになったのは,ちようど今から10年位まえである。その直接の契機となったのは,埼玉県千代田村(現在の羽生市千代田地区)など一定の地域社会を対象とする公衆衛生の研究者と,社会学,教育学など行動科学の研究者による一連の継続的な共同研究であり,公衆衛生活動の行動科学的技術の積極的な導入という意図から生み相されたものであった。また,当時の時代的背景としては,戦後の新しい保健所活動と,これに呼応する環境衛生分野などにおける地区組織活動が,かなりの成果を収めながらも1952年の講和発効の後,被占領時代から自主独立への過渡的な時期において,単にそれまでの公衆衛生活動合理化のためのいわば量的な管理的アプローチにあき足りず,公衆衛生活動における質の問題へのアプローチの必要性に直面していた事実も重要であろう。さらにその後しだいに顕著になった社会的経済的な変動の中で,前述の継続的な共同研究の結果が着実に積み重ねられ,これが今日いうところの地区診断として実用化されるようになったのは,保健所の型別再編成や国民皆保険の達成を契機として,いわゆる共同保健計画の推進が厚生省によって唱導されるようになった1960年以降のことであるといえる。

真の問題解決のための地区診断に

著者: 小宮山新一

ページ範囲:P.258 - P.259

 地区保健計画を進めるうえに,地区診断の重要性が唱えられて,すでに数年を経過した。地区の実情に即した活動をしなければとは,誰しも考えていたことであるが,この地区診断理論によって,従来のゆきあたりがばったりのやり方が反省されて,分析的なアプローチをするようになった。このことは,わが国の公衆衛生実践に大きな進歩をもたらした。
 私も永い間保健所にあって,そのつもりで努力はしてきたけれど「これが地区診断だ」といえるような仕事をまとめることもできないままに昨年第一線を退いた。そこでこの度は実際に保健所の中で,地区診断が必ずしもうまく有なわれていない原因を考えてみよう。

公衆衛生活動の方法論として広い理解が先決

著者: 橋本秀子

ページ範囲:P.259 - P.260

 私が地区調査あるいは地区診断といえることに始めて遭遇したのは,考えてみると今からちょうど10年前のことであった。当時私は東京大学衛生看護学科の公衆衛生に籍をおいており,勝沼現東大教授のご指導をうけていた。たまたま当学科の地区活動においてトラコーマの管理を行なっており,その一環事業として,その地区にどのような公衆衛生的なアプローチを試みたらよいかが一つの課題として与えられていた。
 私は,わからないままに学童のトラコーマ患者の家庭訪問を行ない,その管理がどのようにすすめられているかを調査して歩いていた。

民衆はいつも他人の地区診断であってはならない

著者: 石原慎子

ページ範囲:P.260 - P.260

 地区診断の効用は医学重点の対策から,地域の実情に即した多角的な公衆衛生対策の強調と民主化と平行して地区住民の問題意識を深めてゆこうという点にありましょう。最近地区診断が,公衆衛生の感覚の上で一般化されるにしたがって,その限界・矛盾も更に表面化してきたのではないかと思う。私が感じている矛盾や限界を記すと,
 1)地区診断に参加する者の,おのおのの立場や,診断の範囲,方針を討議する段階でその役割がきわめて未分化の状態にあると思う。そのため問題発見の重要度の選相や,○○の問題について何とかしなければ,という意見や,公衆衛生の関心度をみようとするのか,実行可能なものの診断にするのかなどの尺度の分析がなされないままに地区診断を行ないがちのようである。そのため,不必要に,問題が多角化され,より不明確で膨大なものにしているという点がある。

事例研究

長野県朝日村における健康村建設活動

著者: 釘本完 ,   佐藤淳夫 ,   丸地信弘 ,   村上秀親

ページ範囲:P.261 - P.269

はじめに
 長野県東筑摩郡朝日村が昭和40年度から5カ年計画で健康村建設活動を推進することになり,管轄の保健所と大学がそれぞれ衛生行政および公衆衛生学の立場から協力することでその活動が開始された。
 活動は三者からなる協議会で作成した5カ年計画に基づき実施されているが,初年度は主に問題発見のための基礎調査に力を注ぐことにし,その一環としてまず全村主婦を対象としたアンケート調査が実施された。そしてこの結果はすでに昨年8月「主婦を対象とした保健衛生に関するアンケート調査報告」としてその第一報が発表された。

乳幼児問題を中心にした地区診断事例—その後の地区組織活動への発展と評価

著者: 小野洋子

ページ範囲:P.270 - P.277

I.はじめに
 昭和35年東京都渋谷保健所管内笹塚上町会地区において,乳幼児の保健問題を中心にした地区診断がおこなわれた。これは地区担当の五味きよみ保健婦(現本所保健所看護係長)が利学的な根拠にもとづいた保健婦活動をしたいという考え方から独自で簡単な調査をおこなったことから始まり,国立公衆衛生院受講生の臨地訓練の一環として行なわれた地区診断である。したがってこの地区診断は個人的熱意に支配されたものであったことが第1の特徴であり,歴代担当保健婦の努力によって診断結果にもとづいて,地区組織活動へと結びつけていったというのが第2の特徴である。
 笹塚地区上町会は,出産率,死産が高いということから,都市として初の試みである町ぐるみ家族計画運動のモデル地区としてとりあげ,家庭生活研究会(家族計画の民間専門団体)の協力を得て,活発に活動を展開していた。従って地区民は保健所に対して,好感をもっていた。そういう状態のうえに地区診断が行なわれたので,地区民の参加が積極的であり,自分達の問題であるという意識のもりあがりにきわめて効果的であった。

研究

大学生の健康管理

著者: 富田昌三

ページ範囲:P.278 - P.283

 学校保健の領域はまだまだ未開拓である。ことに高校,大学などにおける学生の健康管理は,法律の不備もあってか現状は決して満足すべき状態ではないといえる。しかし,公衆衛生がhuman historyをとらえて,その健康管理を目的の一つとするならば,その過程のいずこにも,管理が欠けていてはならないだろう。その意味においてこの種の研究は今後もっと進められる必要があると思われる。

京葉工業地帯地区住民の公害意識調査—第1報 特に新旧地区住民の反応の相異について

著者: 谷修一 ,   水野哲夫 ,   柳沢利喜雄 ,   田波潤一郎 ,   沖山鐐三郎 ,   竹内啓 ,   淵本献司

ページ範囲:P.284 - P.287

 工業地帯に臨む地区における公害問題は,住民の健康阻害という基本的生存権をも脅やかすところから,住民の公害意識は極度に高まってきている。本稿では公害の実情,要望,将来発生を予想される公害など多岐にわたり住民の声を調査し,まとめたものである。

News Letter

法改正後における精神衛生行政の方向

著者:

ページ範囲:P.253 - P.253

地域精神衛生活動の推進
1.保健所における精神衛生活動
 昭和40年6月30日,第48国会における精神衛生法の一部改正に伴い,保健所法の中に「精神衛生に関する事項」が新たに書き加えられた(保健所法第2条9項の2)すなわち,保健所単位に精神障害者に対するクリニックの開設(相談・助言)と在宅精神障害者への訪問指導を行なうことになり,このために,精神科嘱託医と精神衛生相談員が,配置されることになった。その実施体制と実施方法は,先に公衆衛生局長通知「保健所における精神衛生業務運営要領」(衛発第76号昭和41年2月11日)によって示したとおりで,業務の内容は,ア 実態把握,イ 精神衛生相談,ウ 訪問指導,エ 記録などの整備保管,オ 患者クラブ活動などの援助,カ 衛生教育および協力組織の育成,キ 関係機関との連絡協調,ク 医療保護関係平務となっている。精神科嘱託医は,350名が,精神衛生相談員は,183名(U1,U2,U3,UR1,UR2型保健所に各1名宛)が配置されることになった。なお,訪問指導費などの精神衛生対策費は,本年度当初予算に1752万円余計上されている。

モニターレポート

タダの牛乳いりませんかネエ

著者: M・K

ページ範囲:P.252 - P.252

 生活保護世帯や低所得世帯の妊産婦と乳児の健康増進をはかるための"牛乳無償支給制度"は,社会開発の一つとして昨年秋から実施されている。ところがさっぱり牛乳の飲み手が現われず,愛知県ではPRにけんめい,一月末現在の調べでは,名古屋市を除く県下91町村のうち該当の妊産婦,乳児を届け出たのはたった27市町村。支給人員もA階層(生活保護世帯)の妊産婦,乳児は約50人。B階層(市町村民税非課税世帯)は24〜5人どまり。
 飲み手が現われないのは「たかが牛乳1本」と世間ていをはばかって申し出を遠慮したり,牛乳など飲みたくないというケースもある。

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NEWS REFERENCES in March '66

ページ範囲:P.288 - P.289

国民健保の給付率,他健保とは当分格差続く厚生省は今国会で国民健康保険法を改正し,家族療養費の7割給付を法制化する方針だが,同省としては国民健保の給付率の改善はこれで一応打ち切る意向である。この結果,給付内容をめぐる国民健保と他の健保との格差は,更に当分続くことになる。同省はその理由として,財政基盤のもろさと,療養費の一部患者負担は当然との見解をあげ,現行健康保険の10割給付は再検討すべきだとしている。(1日・朝)
環境衛生企業への融資に特別ワクを設定政府は厚生省の要求していた環境衛生金融公庫の新設を見送るかわりに,国民金融公庫の環境衛生関係企業に対する融資を充実する方針を決めたが,1日,融資条件その他が大蔵省から発表された。(2日・朝)

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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